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152 孤児 7


 翌朝、錆びた呼び鈴が再び鳴らされ、扉を開けるとデイジーに連れられたオーランドが立っていた。


「おはようございます」

「あ、えっと……おは、よう……」

「……よぉ」


 お互いにきまりが悪く、しばし微妙な空気が流れる。

 顔を見ればお互い謝りたい事も、仲直りをしたい事もわかるが、いまいち最初の一歩が踏み出しきれない。

 あ、とか、その、とかモニョモニョ口ごもり、話すキッカケが掴めない。


「ふぅ、お二人とも?まずはごめんなさいからですよ」

「「は、はいっ!ごめんなさいっ」」


 男二人がもじもじしているとデイジーお姉さんが間を取り持ってくれる。

 溜息を吐いた後にニコリと笑う顔には、なんともいえない圧があった。

 慌てて謝りあう。

 子供達が不安定になるので、いつまでも玄関に立っている訳にはいかない。

 とりあえず二階の部屋に案内して、お茶を淹れた。

 オーランドが好きだと言っていたちょっとお高めの緑茶の様な水色の茶葉を使う。

 決して賄賂とか、そういう物では、無い、よ。

 うん。

 最初に謝ってしまえば、あとはいくらでも言葉が出てきた。


「ごめんオーランド。折角暴走を止めて助言してくれてたのに、話を聞かなくて。無責任だったよな。あの時もっとちゃんと話を聞くべきだった、本当にごめん」

「いや、オレももっと詳しく説明するべきだった。すまない。こことは違う所で育ったんだからあの言い方じゃ伝わらなかったよな」


 オーランドは叱られた大型犬の様にしゅーんと萎れていて、なんだか面白かった。

 俺が悪いのはよく分かっているのに、その姿にどうしても笑いが誤魔化せず、睨まれてしまった。

 でも、それもまた潤滑油になった。

 謝罪合戦が次第に雑談に変わっていく。


「ここは買ったのか?」

「うん買ったよ。オーランドが『借家に連れて行くのは貸主に迷惑が掛かる』って言ってたから」


 この数日で、後悔は山程した。

 それを言葉にすれば、自然に反省と謝罪が出てくる。

 お互いに言いたかった事が言えて、心のつかえが取れていった。

 笑顔で話し合い、謝りあう。


「ふふふ、二人ともその辺にしておきましょ。子供達が心配してますよ」


 それまでは一歩引いて、静かに成り行きを見守っていてくれたデイジーが俺達に声を掛けた。

 指差す方を見れば確かに扉の向こうに子供達が鈴生りになっている。

 「大丈夫、仲直り出来たよ」と微笑み掛けると、子達はにぱっと笑顔になって部屋に入ってきた。

 年長の子達は逆に心配事が増えた様にも見えるが、他の子達と共に部屋に足を踏み入れる。

 デイジーはその子供達を受け止め、自己紹介するとこちらに聞こえないくらい小さな声で何かを囁いた。

 途端に、子供達はデイジーの方にばっと視線を送った。

 もう一度何かを囁き、にっこり笑って一つ頷くと、子供達は目を丸くした後にデイジーに抱きついた。


 一瞬で子供達を懐かせたその手腕と、俺達の仲を取り持ったデイジーには感謝してもしきれない。

 いや、マジで。

 もし、デイジーが年上の色っぽいお姉さんだったら俺、今ベタ惚れしていたかもしれない。

 俺は兄弟で一番上だったから、あまり甘える事がなかった。

 物心ついた頃にはすでに妹が居たし、親は「優しくしなさい」「譲りなさい」と言ってあまり甘えた記憶がない。

 だからなのかはわからないけど、包容力のある年上の女性に甘やかされたい願望がある。

 正直、今日のデイジーの懐の広さというか、器の大きさにはぐらりときた。

 でもそれは内緒である。

 男としては絶対に年下の女の子に甘やかされる訳にはいかない。

 頭を一つ振って、子供達のお茶も淹れた。


 子供達を含め皆でティータイムを終えた後、オーランド達は背負っていた袋を渡してきた。

 袋を開けると、なんと靴が入っているではないか。 それも、二十足以上も買ってきてくれていた。

 手紙に書いた『靴を買いにも出られない』という一文だけでここまで動けるのは、本当にすごいと思う。

 多めに買ってきてくれていたので、余剰分はここの倉庫に保管しておく。

 テオとリーゼ、その他の数人は履いているが、ほとんどの子は裸足である。

 少し余裕のある木靴なのは許して欲しい。

 子供の足のサイズはすぐに大きくなるのだ。

 その度に買い替えするほど余裕は無い。

 いや、無いことはないけど、そこに使うくらいなら食べ物に使った方が喜ばれると思うんだ。

 うん。

 二人に礼を言って、靴のお金を出す。

 薄々わかっていたけど、やっぱり受け取ってはもらえなかった。

 怒られたけど、それが嬉しかった。

 やっぱりウチのパーティ(俺の仲間)は最高だ!


「なるほどなぁ。ここを孤児院にして、ついでに未来の商会員を育てるならキリトが金を出しても問題はないだろうな。人も雇うならここに住まなくても大丈夫だし、領事館の人(マチルダさん)が金を管理してくれるなら使い込みとか悪用とかも無いだろうし……。ちゃんと考えてるみたいで安心したわ!」

「ちゃんと話聞かなくてごめん。オーランドの言ってた通りだった。俺一人じゃどうにもならなくて、マチルダさん達に助けてもらって……。でも春までにはなんとかなりそうだから」


 事情とこれからの予定を説明して、オーランドとお互いに微笑み合う。

 やっぱりまだ時々少しだけ気まずい。

 でもそのうち無くなるだろうことはわかる。

 デイジーは言葉は少ないが、ずっと笑顔だ。


「孤児達を助けてくれてありがとうございます」

「いや、俺が考え無しに動いたからパーティの皆に迷惑かけちゃって……」

「それでも、そうやって動いてくれる人は本当に少ないんですよ」


 そう言葉を返されてハッとした。

 そうだ。

 デイジーも孤児院出身だったのだ。

 ニコッと笑い返されて納得した。

 これからは二人もこの家を整える手伝いをしてくれると言う。


 言葉通り、翌日から中古の家具を買って来てくれたり、カーペットを敷いたり、子供達と遊んでくれたり。

 デイジーは子供達の髪を切り揃えてくれた。

 丁寧に櫛削り、傷んだ箇所が目立たない様、工夫して切っていく。

 そうしてこざっぱりした子供達はもう普通の街の子にしか見えず、少し痩せているかな?程度の違いしか無かった。

 それはこれから食事を沢山摂って、しっかり休めば回復するだろう。


 それから苦言を少し。

 今回は悪い子は居なさそうだが、良い子ばかりでは無い。

 建物の規模的にも個人の出す金額としても、これ以上は厳しいだろうから、他の孤児が気になるだろうけれど、運営がきちんと回るまでは一旦ここで子供を増やすのはやめにするべきだ。

 確かに一応ちゃんと最初に声を掛けているのだからやれることはやっているし、その通りかもしれない。

 あと、何かの理由で追加で増える時は受け入れる前にクラーラ様やベンヤミンさんとも相談した方が良いとも言われた。

 人の善意に付け込む悪人は掃いて捨てるほどいる、甘い言葉で擦り寄ってくる奴には注意しろとオーランド。

 オーランドも過去何か孤児関連であったのかもしれないが、聞いても曖昧な返事しか返ってこなかった。

 二人の苦言はしっかりと覚えた。

 とりあえずお世話する人の連れてくる子供で一旦打ち止めにしておこう。

 無制限に増やして、全員を共倒れさせても意味がない。



 そうやって毎日少しずつこの家が過ごしやすくなっていく。

 その事に何故だか胸がギュッとなる。

 俺一人では出来なかった事、気付かなかった事がたくさんあった。

 色んな人達がパズルのピースを持ち寄ってきて、どんどんと具体的な形になっていく。

 言葉に言い表せない感情が湧き上がり、今なら何でも出来そうな気がする。

 緩みそうになる顔をどうにか引き締めようと頑張るも、やはり緩んでしまう。

 それを見た子供達も嬉しそうに抱きついてきた。

 受け止めて頭を撫でると、他の子達も我も我もと頭を差し出してきて、あっという間に囲まれてしまう。

 

 子供達は最近やっと固形のものを食べられるようになったので、柔らかく煮たポトフを全員で昼食に食べた。

 何日も経っているのに、いまだに俺はこの家を出る事が出来ないでいる。

 仕方ないのでオーランド達が食べる幾つかの食料や調味料などは二人に持って帰ってもらったりもした。

 ずっしりとした荷物を持つ二人が「最近【アイテムボックス()】に頼りすぎてた」とプルプルしながら言っているのを見て、大笑いしながら見送った。

 アイテムボックスのルビが俺だった気がするけど、まあきっと気のせいだろう。

 またも見送り時、俺には子供達が鈴なりであったとだけ記しておこう。

 いい加減コレをどうにかしたい。


 デイジーに頼んでレジーナにも連絡してもらい、何かあればこちらの家に連絡してもらう様にした。

 鋭意製作中である店の図面も、ベンヤミンさんが気を遣ってこちらに持ってきてくれた為、子供達にまとわりつかれながらも何とか話を詰める事ができた。

 レジーナはコート自体は服飾店に依頼して、最後の魔法加工だけを自分がやる事にしたらしく、差し入れを持ってちょいちょい遊びに来てくれた。

 帳簿付けや経営の勉強ももう一度やり直していて大変らしいが、息抜きにちょうど良いから、と言っていた。


 クラーラ様は快く後ろ盾を引き受けてくれたそうだ。

 迷惑をかけて申し訳ないと謝れば首を横に振るベンヤミンさん。

 え?お嬢様の為?

 あ、融通する下着の枚数を増やせって事?

 そんな事でいいなら喜んで。

 あとできたらここの孤児院に関しては聖女の様なご令嬢のお心に感心した商人(俺)がお金を出した(てい)でよろしくどうぞ。

 功績を奪う?いえいえ、その方が子供達を守れますから、百パーセント下心です。

 はい。


 そうやって着々と孤児院兼育成所化計画は進んでいった。

 いつも俺不運を読んでくださってありがとうございます。

 いいね、感想、誤字報告、ブックマーク、評価ありがとうございます。

 日々励みにさせていただいています。


 一応の和解をみせました。

 あとは教育と親(霧斗)離れですね。


 現在急に決まった転勤でバタバタしており、感想のお返事が滞ってしまいがちです。

 忙しすぎて疲労が半端なく、夜も確認している途中で寝落ちしてしまうくらいです。

 後程時間ができ次第必ずお返事しますのでどうか見捨てないで続きを読んでやって下さいませ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] パーティー仲間にデイジーが居て、仲裁してくれたのは、有り難いことでした。 この世界の常識を弁えていて、キリトさんの各種規格外も承知していて、孤児出身。 加えて善性と母性と言うね。 ----…
[一言] 和解するの早すぎ。主人公は一生雛鳥としてオーランド達に面倒見てもらうのが基本路線になるってことですね。自立出来ない成人男性=こどおじ系主人公爆誕٩( ᐛ )و
[一言] 精神的なキリト離れ、難しそうですよね 何か子供たちが「絶対にキリト兄ちゃんから見捨てられない」と思えるような物や事があれば良いんですけど それはそれとして、デイジー気付いていないけれどキリ…
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