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151 孤児 6

 お話の都合上、ちょい短めです。


 パニックがなかなか治らない子供達を宥めているうちに、人生経験豊富な二人が到着した。


 ぎんごん、とギリギリ体裁を保った錆びつく呼び出しベルが鳴り、俺は子供達を鈴なりにしたまま玄関に向かう。

 玄関ドアを開ければ、困惑した御者が立っていた。

 彼が指し示す方、正面の道に目をやれば小型ながら立派な馬車が。

 馬車からはベンヤミンさんとテオ、そしてマチルダさんの三人が揃って降りて来た。


 ベンヤミンさんに手伝ってもらって降りて来ているテオの目は緊張と混乱でぐるぐる回っている。

 どうやら、ベンヤミンさんがテオから話を聞いて、馬車を用意した上でマチルダさんを拾って来てくれたらしい。

 言葉にしたら単純だけど、そうなるまでが大変だった様だ。

 今テオはソファーの上でひっくり返っている。

 冷たく濡らしたタオルで目元を冷やしているが、しばらくは動けなさそうである。


 テオはまずお城に向かってクラーラ様の執事であるベンヤミンさんに手紙を届けようとしたそうだ。

 お城の門番に俺の名前と手紙を見せたが、そこで止められ、なんと拘留室に入れられてしまったらしい。

 今更だけど、孤児であるテオに貴族のお城まで向かわせたのは失敗だったかもしれない。

 手紙はその場で処分されてもおかしくはなかったが、中身を改めた上で一応ベンヤミンさんに届けられたそうだ。

 手紙を受け取ったベンヤミンさんは急ぎ馬車の用意を指示して、テオを解放に向かった。

 寒くて暗い拘留室の隅で小さくなって泣いているテオに謝罪して、門番をきっちり罰してからお城を発ったそうだ。


「彼はずっと貴方に謝っていましたよ」

「それはテオに悪い事をしました……。反省します」


 ベンヤミンさんに、次からは俺からの遣いだとすぐにわかる何かを持たせる様に、と叱られてしまった。

 確かに何か考えなくてはならないだろう。

 そして馬車の中でテオから事情を聞き、もう一人マチルダさんにも手紙を届けねばならないと分かったところで、先に領事館へ向かうことを決めた。

 マチルダさんは渡された手紙を読むと、すぐにベンヤミンさん達と馬車に乗り込んでここまで来てくれたらしい。

 子供達には暖炉の部屋に居てもらって、二階の部屋に二人を案内する。

 コタツを設置して、席を勧めてお茶を淹れて出すと、俺は堪らなくなり、深く頭を下げた。


「今日は本当にありがとうございます。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。でも、こういう事で頼れる人がお二人しかいなくて……」

「良い良い。こういう時こそアタシを頼って良いんだよキリト。良く知らせてくれたね」

「私も頼られて嬉しいですぞ」


 二人はお礼と謝罪をする俺を優しく受け入れてくれた。

 まだ何も解決していないのに、その優しい声と温かい手のひらに安心して少し泣いてしまった。

 近くに子供達が居なくて良かった。

 最初から起こった事と、考えている事を説明したが、うまくまとめ切れずグダグダの説明になってしまった。

 しかし二人は口を挟まず、辛抱強く俺の話を聞いてくれた。

 説明しているうちに、自分の中で感情が整理されていく。


 俺が一番やりたいのは、彼等が大人になるまで生き延びさせる事だ。

 あんなに小さい子供達が誰の庇護も受ける事ができず、すぐ治せる様な怪我や病気や飢えで死ぬしかないのがどうしても許せない。

 そして出来るなら彼等が大人になった時にキチンと働ける様にしてやりたい。

 生きる為に盗みや暴力を振るわなくて済む様にしてやりたいのだ。

 街で働くにしろ、ハンターになるにしろ、一般の市民程度には“仕事を選べる”様にしてやりたい。

 その為にどうしたら良いか教えてほしい。

 切れ切れで、話の流れがあっちに行ったりこっちに行ったりしたが、纏めるとそういう事だった。


 話を聞き終えた二人はまず俺に幾つかの質問をした。

 この家はどうしたのかや、資金はどの程度まで出せるのか、今後俺はハンターの仕事をするつもりなのかなどを静かに優しく聞いてくれた。

 この二人であれば、この情報を悪用しないだろうし、素直に答えていく。


 相談の結果、ここは俺個人の持ち家なので、お嬢様が後ろ盾になり(まだ未承諾)、俺が金を出し、マチルダさんが金銭などの経営管理、他に人を二人程雇い子供達の世話をする私設孤児院を作るのが一番シンプルで良いだろうということになった。

 ゆくゆくは信用して経営を任せられる院長を置いても良いだろうが、立ち上げはマチルダさんが任せろと請け負ってくれた。

 更に、子供の世話をする為に雇う人は、寡婦が良いのでは無いかと提案が上がった。

 子連れであればなお良いだろうとも。

 それは確かにそうだ。

 そして、どうせなら俺の商会の下請けで子供でも出来る仕事や勉強を教えて、後々の商会員を育てる場所にしてしまえ、とも言われた。


 そうだった。

 俺、会社経営してた。

 俺が雇えば良いじゃん。

 育ててから雇えば能力は把握できるし、増強したい人員を集中的に育てる事だってできるじゃん。

 目から鱗がポロポロ溢れて魚が一匹出来上がりそうだった。


 この冬の間に出来る限り環境を整えて春にはクラーラ様を帝都に連れて行く、その為にやるべき事をピックアップしてくれた。

 とにかく俺は子供達を安心して過ごせる様に心を配れとのことで、依存させすぎず、信頼させて、春には見送り出来る程度に自立させるように、と言われる。

 め、めちゃくちゃ難しくない?ソレ。


 二人がそれぞれ準備の為に帰るというので、玄関先まで見送りに出ると、子供達もぞろぞろと付いてきた。

 皆も二人を見送ってくれるのかと思えば、全員が俺の腕や裾をしっかりと握っていた。

 二人は苦笑いをしながら手を振ると、馬車に乗り込んだ。

 子供達に掴まれたまま深く腰を折る。

 馬車が見えなくなると、家の中に引き摺りこまれた。

 夕食後、俺も帰ろうと思っていたのだが、やはりまだ無理な様だ。


 夕食を摂りながら、一度パーティメンバーに連絡したいと話すと「手紙を届けるから行かないで」とテオが泣きそうな顔で言う。

 その言葉に甘えて、食後に手紙を託し届けてもらった。

 今日拘留されたばかりなのに手紙を届けてくれるというテオはとても強いと思う。


 食事は約束通り、お玉一杯分を増やして取り合いもせず、和やかにおわった。

 返事はもらわないまま帰ってきたテオにお礼を言って、そのまま二泊目の無断外泊に突入した。

 その晩はあらゆる場所を子供達にギュッと掴まれたまま、一晩明かした。

 重くて、苦しくて、考えることがありすぎて、あまりよく眠れなかった。

 いつも俺不運を読んでくださってありがとうございます。

 いいね、感想、ブックマーク、評価いつもありがとうございます。

 励みにさせていただいています。



 ちゃんとした大人はすごい。

 ジジババは霧斗の甘い所をそっと支えてくれる。

 それは甘やかしと取ることも出来ますが、それに救われる人は必ずいるのです。

 ジジババスキーの作者が通りますよっと←


 とりあえず孤児院の目処は立ちました。

 子供だけでなく、霧斗の成長も視界に入れるジジババ二人はすごいと思います。

 身綺麗な子供達に二人は結構驚いていますが、顔には出していません。

 霧斗がパニック寸前な事に気付いたので。

 優しみ。


 手紙を持って行ったテオはオーランドから少し厳しい目で見られて、ビビって手紙だけ渡してダッシュで逃げ帰ってきました。

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― 新着の感想 ―
[一言] テオ達の依存度が怖いなぁ…
[一言] とりあえず良い方向に進みそう 後はパーティメンバーとの和解というか話し合いですかね とはいえ、孤児たちの精神が冬の間に安定してくれないと困るので、そっち方面の試行錯誤は大変そうですが
[良い点] どうにか、目処が付いて良かったです。 人のご縁は有難いものです。 門番は、手紙を届けてくれたのは、一応は仕事しましたね。 キリトさんが、先立って、お嬢様から家紋入りの何かを貰っておくなどし…
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