16 お買い物はお財布と相談しようね
防具屋オリハルコンに向かう途中の工房で、自分の旅装を整えていく。
一人用天幕に、フード付きマント、毛布にナイフ、ロープに、食器類、石鹸に紙石鹸、下着の替えが数枚。
あとは中に入れるくらいの大きめのタライ(購入次第すぐに【アイテムボックス】へ。エレオノーレさんがキラキラした目で見ていた)、洗濯板や塩、干し肉やチーズ、ドライフルーツなどの保存食。
簡単な薬と包帯、ハンカチに使える布切れを数枚。
あとは全部が入るバックパックに、腰につけられるポーチも。
ナイフを下げられる太めのベルトなんかも購入した。
ピクルスやソーセージなどの嗜好品も多めに購入した。
料理用の包丁やまな板、野草やキノコ用の採集籠も。
この辺は【アイテムボックス】行きだ。
そして全員がピッケルとザイルに、ノミが三種各三本、ハケや筆に、大きめの麻袋も購入した。
途中、スリに三度遭い、懐に入れていた偽物の小袋(中身は小石)を取られたり、街のチンピラに二回絡まれたりしたけれど、スリはヤンスさんが、チンピラはジャックとオーランドがノシて助けてくれた。
「お前隙だらけだもんなー。カモられるのは当然だよな」
「隙だらけ……」
「ぽやっとしてるしな、キリトちゃん」
「ぽやっ……?」
ちゃんと警戒しろよ?と頭をぽんぽん撫でられる。
子供じゃ無いんですが!
振り払えば皆がケタケタ笑って次の店に案内してくれた。
流石に少し無防備過ぎたかもしれない。
気をつけよう。
で、どう気を付けたらいいの?
旅装とは別に俺の趣味用に、紙の束とコンテに布を巻いただけのデッサンペンと、携帯用付けペン、ベルトに吊るして使えるインクを購入した。
紙の束は、製紙業で作成中に出た失敗作をただ纏めて投げ売った、的な奴だ。
端の方が破れてて製品として出せない、みたいな奴。
厚みやサイズがまちまちで、とてもスケッチブックとは言い難い。
それでも結構購入してる人はいた。
マッピングするのに良いらしい。
出来るかはわかんないけど、すごい良い風景とかに会った時にザザッとでも記録を残しておきたいじゃないか。
正直たったこんだけで旅装とほぼ同価格っていう高級品だけどね。
流石に絵の具類は諦めた。
その高級品達は大切に【アイテムボックス】にしまって、最後に武器屋だ。
魔法の杖的なものを“偽装の為に”持たなくてはいけないそうだ。
たしかに鑑定ポーター要員ですなんて言えないもんな。
明らかに非力そうだし、戦闘なんて出来ないし。
弓矢なんて以ての外ですよ。
重くなさそうで、リアルに杖にできるサイズの杖を購入した。
杖というか錫杖?
しっかりした金属製で百七十センチ位の長さがある。
鉄程重くなく、それでいて上と下にしっかりと重量があるからこれで殴ればそこそこダメージが入ると思う。
石突きが幾らか装飾的ではあるものの、中間の持つ部分はシンプルに滑り止めのみ。
頭部が装飾的な輪になっていて、小さな六つの輪が掛かっていて、持って歩くとシャラシャラ音がする。
先端部には青い石が嵌め込まれていて、ビビッときた。これを買うべきだ、と。
値札も説明も読まずにこれを下さいとまで口にしていた自分にびっくりだ。
なんと小金貨が一枚と大銀貨が五枚も飛んでった。
なんて事だ!
お財布がピンチだよ!
鑑定したら総オリハルコンの杖と出た。
高いはずだよ!
でもなんでだか後悔はない。
たまにこういう事があるんだよな。
こういう買い方した物は後々本当に買って良かったって思うことが多い。
コレで大上神様からもらったお金はほとんど消えた。
今回の、グリーンフライフォックスの報酬プラスお小遣い分くらいだ。
パーティのみんなは信じられないものを見る目で俺を見ている。
「ちょっとしか持ってないって言ってたくせに……」
「金銭感覚がおかしい」
「武器に金掛けすぎるとか、初心者あるある。即死ぬフラグじゃ〜ん?」
「心配」
みんなでヒソヒソやるけど全部聞こえてるからな!
それでも魔法が効率よく使えるのは良い事なんだから!
ソーイングセットとかバスタオルとかランプとかその他の細々した物はこれでも後回しにしたんだからな?
言い訳がましくボヤいて、武器屋から出る。




