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144 手紙 9


 というわけでやって来ましたお貴族様のお屋敷。

 というかお城。

 アルスフィアットは外壁に囲まれた街で、その中心にお城がある。

 そこは、この土地を管理する領主と、その配下の人達が住んでいて、公共施設がまとまっている様な状態だ。

 因みに領事館もここに引っ付いている。


 先にお手紙で俺とエレオノーレさん、ジャックが一緒に行くと連絡済みではあるが、やはり緊張する。

 帝都のお城に比べればそこまで大きくも無いのだけれど、呼び出された訳ではなく、自分から乗り込んでいくこの状況がやばい。

 胃の辺りがシクシクする。

 時間に合わせてお城に行くと、とある部屋に案内された。

 部屋に入ると、ほぼノータイムでお嬢様が部屋に飛び込んで来る。


「よく来てくれたわね!」


 どうやら店についての報告に、大変期待されている様子。

 元気でお転婆な感じはするが、育ちの良さも感じさせる、まさに「ザ・お嬢様」といった感じの女の子だった。

 レジーナと同い年という事なので十六か十七歳のはずだが、精神的にはもっと幼く感じる。

 ふわふわの明るい金髪に大きな丸いグリーンの瞳。

 快活で素直そうな表情で、キレイというよりは可愛い感じだ。

 異世界で地方領地の可愛い男爵令嬢って聞くと乙女ゲーの主人公っぽいな、と思ってしまうね。


 まずは初対面のご挨拶。

 エレオノーレさんの挨拶に続き、俺、ジャックと名乗っていく。

 お嬢様はクラーラ様と言うそうだ。

 念の為、車椅子には乗っていない。

 ここの領主の一人娘で、大切にされているのがすぐにわかる。

 良くも悪くも、周りの人間はなんでも自分の言う事を聞いてくれると思っている様な、自信というか、言葉を選ばなければ傲慢さ?の様な感じ。

 そこに悪意はないんだけど、無意識に命令し慣れてる?そんな感じ。

 釘系っていうのかな?


 背後には渋いロマンスグレーの執事さんと、二十歳くらいのメイドさんが控えていた。

 そしてご挨拶の品として、【アイテムボックス】に眠っていたお高めの布をいくつか。

 城門で一度預けて危険物が無いかチェック済みである。

 メイドさんが受け取り、部屋の奥にあるテーブルに並べていった。


 席を勧められて、恐る恐る腰掛けると、別のメイドさんが紅茶を運んできて、俺達の前に並べていく。

 良い香りが部屋いっぱいに広がった。

 エレオノーレさんが俺達は「貴族様との会話が不慣れで、失礼な事を言うかもしれませんが許して下さい」と丁寧に話し、クラーラ様に許しを得た。

 おかげで俺達は安心して話ができる様になった。

 まあ、それでも罵倒したり蔑ろにする様な事を言えば勿論アウトだ。

 絶対にそんな事するつもりはないが。


 紅茶をお互いに一口含むと、雑談が始まる。

 紅茶は甘い香りの割に味はさっぱりとしていて、とても飲み易かった。

 ミルクや砂糖は入れずストレートで頂く。

 まずは会見のお願いを聞き入れてくれたことのお礼だ。

 俺の仕事の事や、時間を頂くための条件は、手紙にも書いていたので、挨拶とお礼が終わると即下着の話を持ち掛けられる。


「何か画期的で新しいデザインの衣服が帝都では流行っているらしいわね」

「そうですね。身に付ける方と側仕えの者の目にしか入りませんが、多くの貴い方々からご好評をいただいています。デザインした者としてはありがたい限りです。最近は他の者も育って来ておりますので、私のデザインだけではありませんが……」


 お嬢様の言葉を認めて、少し話にのる。

 挨拶と雑談は大事だとエレオノーレさんに口酸っぱく言われていたので、いきなり本題に入ったりはしない。

 そして具体的な説明も俺はしない。

 実際どこがどう違うのかと聞かれたら、図案を取り出し、エレオノーレさんに渡す。

 ちなみに、コレは【アイテムボックス】からではなく、前日に購入しておいたお高めの書類ケースからである。

 ジャックが手荷物として持っていてくれた。

 エレオノーレさんが着用感を含め、具体的に説明していく。

 一部わからないところはこちらに振ってくるが、俺は図面を見ずに出来るだけソフトな表現で説明するだけだ。


「そんなに素晴らしい物なのね。わたくしも欲しくなってしまうわ!」

「具体的なお話は帝都の店の方へ足をお運びください。私が貴族のご令嬢の詳細なデータを伺う訳にはいきませんので」


 散々帝都で使用したセリフを返すと、クラーラ様は納得した様に頷いた。

 よし、最初の難関乗り越えたぞ!

 クラーラ様が新しく淹れた紅茶を一口飲み、口火を切った。


「さて、では本日の本題に入りましょうか」

「「「はい」」」


 三人で気を引き締めて返事をする。

 そう、今までは前座だ。

 本題(メイン)はオシャレ魔法服屋(仮)の打ち合わせである。


「以前にも話しましたが、立ち上げ資金はわたくしが用意いたしますわ。必要な額を書類に(したた)めて、執事のベンヤミンにお出しなさいな。土地は我が家の所有する物件を自由に使用すると良いわ。改装や改築等も行ってよろしくてよ」


 予想通り、土地や店を建てるお金はクラーラ様がやってくれるみたいだな。

 彼女がチラリとメイドさんの方に視線をやれば、幾つかの物件が記された羊皮紙が丁寧に机に並べられる。


「お心配り頂き、ありがたく存じます。ただ、デザイナーであるキリトは帝都に住居がございます為、可能ならば帝都の方に店を構えたいと愚考しております。いかがでしょうか?」

「あら、それは都合が良いわね。では、帝都に店を作るということで話を進めましょうか」


 エレオノーレさんが丁寧に意見を言うと、想像以上にさらりと了承された。

 詳しく話を聞けば、やはりアルスフィアットで店を大きくしたら帝都に進出させる予定だったのだとか。

 俺が帝都にいるなら都合が良いし、下着屋も紹介無しで店に行けるなんて最高じゃない!と熱烈な大歓迎を受けた。


「そして、店の立ち上げ期間はご注文を受けられません」

「そうね……確かに、それは当然だわ。でもどうしようかしら……。そうなるとわたくし、少し困ってしまうわ」


 ちらりちらりと俺の方を見ながら、頬に手を当てて困ったわのポーズをとるクラーラ様。

 ガチでやる人いるんだなぁ……と心の中で感動しながら、ひとつ頷き笑顔で答える。


「そうですね、私が経営する店の商品を幾つか融通させましょう。一部例外がございますが、本来なら高位貴族であっても、受付順で処理をさせて頂いている店です。しかし、今回に限り、クラーラ様と男爵夫人の物を優先的にご用意いたしましょう。勿論彼女の店が立ち上がるまで、の期間限定とはなりますが」


 にこりと営業スマイルで予定していた台詞を言うが、長いしややこしいしで舌を噛みそうだ。

 でも頑張って言い切っただけあり、クラーラ様は「それならよろしくてよ」と満面の笑顔で了承した。

 これで、今日予定していた内容はなんとかクリアした。

 後はご機嫌を損ねない様に乗り切って帰るだけである。


「それにしてもわたくしが目を掛けていた魔法服をデザインしたのが、帝都で噂のデザイナーだったなんて……皆様とても驚くでしょうね」


 にこりと悪い笑顔で漏らしたクラーラ様に、背中から嫌な汗が噴き出てくる。

 その後もお貴族のお嬢様らしく丁寧な言葉を使って、色々話してくるが、内容を要約すれば「帝都で噂の俺がデザインしていると周りが知ったらめちゃくちゃ優位に立てるわ」という事ばかりであった。

 後、「元々私が目を付けてたのよって威張れるじゃない」とも。

 それに表情を固くしたエレオノーレさんが丁寧な言葉遣いで「あ、うちの後ろ楯は皇族なので下手なこと言わない方が良いですよ。無理難題押し付けてくるなら皇族に泣きつきますから、常識の範囲でお願いします」と返していた。

 ネチネチと綺麗で優しげな言葉を使って釘を刺し合う二人にかなりウンザリしたが、なんとか表情を取り繕う。

 ……取り繕えてるよね?

 頑張れ、俺の表情筋。

 まぁ、皇帝達にクラーラ様をご紹介とかは出来ませんが、何かの折に、俺が手を貸している商会です、アルスフィアット男爵家のお嬢様が出資してるらしいです、くらいなら言えるよ。

 それくらいでどうにか満足しといて。


 クラーラ様とエレオノーレさんの口撃合戦はエレオノーレさんの圧勝で終わり、今後の話にまた戻ってきた。

 帝都に店を出すのは良いけど、クラーラ様も移動するの?という話題だ。


「そんなの帝都の邸宅(タウンハウス)に移動すれば良いだけの事ですわ。どうせ今年から婚活をせねばなりませんし」

「え?婚活、ですか?以前婚約者がい……いらっしゃる?と、きき……じゃなくて、う、伺った気が、しますが」


 むっつりと紅茶を飲みながらボヤいたクラーラ様にレジーナが辿々しく問い掛ける。

 「そうなのよ!」と被せる様に答えて、カップをがちゃんと荒々しくテーブルに置いたクラーラ様は、此方が口を挟む隙もないほど一気に捲し立てだした。

 元婚約者の家がこの春失態を犯したらしく、時流を読んで婚約破棄をしたそうだ。


「そりゃあね、元々いけすかない男ではありましたけれども、失態の原因を我が家に押し付けようとなさるとは思わないではありませんか!しかもっ!自分達が原因での婚約破棄だというのに!厚顔無恥にも我が家に違約金を請求してきやがりましたのよ?!」


 怒りのあまり、顔を真っ赤にしてプルプル震えている。

 背後に立つ執事さんとメイドさんもうんうんと深く首肯いていて、よっぽどとんでもない対応を受けたのだな、と容易に想像がついた。

 あまりの態度に、寄親と呼ばれる高位貴族が間に入り、無事、事なきを得たそうだ。

 そして、やっぱりというか、なんというか。

 いやーな予感がして、それとなく相手の事を聞けばオッペンハイム男爵家の三男だと言う。

 マクシミリアン・フォン・オッペンハイム男爵の息子かー!

 やっぱりねー!

 それ、俺達のせいだわ、ごめんね。

 あ、いや、あの迷惑貴族と縁が切れたなら逆に良い事なのかも?

 心で思っても口にはせず。

 エレオノーレさんと視線で素早く会話して、頷き合う。

 レジーナはよくわかっていない様子だった。


「というわけで、早速帝都に向かうわよ!荷物をまとめておいでなさい」

「「ええっ?!」」

「「!!」」


 最後に特大の爆弾が落ちて来た。

 いつも俺不運を読んでいただきありがとうございます。

 いいね、感想、ブックマーク、評価、誤字報告大変嬉しく、感謝しております。


 やっとクラーラ様出てきました。

 お嬢様にありがちな悪意なくわがままをわがままだと思っていないけど、根は悪い子ではなく、きちんと理由を説明されたら理解して修正出来る子ってなんて表現するのが正解なんでしょうか?

 やっぱりお嬢様が一番的確な気がするのですが……。


※丘一さんに教えていただき、〈釘系〉追加しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 ヤンスさんだけでなくエレオノーレさんにも助けられてますなぁ改めて…。この二人と出会ってなかったら、今頃霧斗は骨の髄までしゃぶられる勢いで利用されてる→パンツ一丁で藁を…
[気になる点] 無意識に我儘だけど悪意はなく、きちんと説明されれば修正できるお嬢様…… 「箱入り」「純粋培養」「世間知らず」「良くも悪くも貴族らしい」「命令し慣れてる」「根は純粋」「根は悪い子ではな…
[一言] いや、お嬢様、世間知らず過ぎでは? 冬の最中に長距離移動とか本気ですか?
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