129 緊急クエスト 掃討戦 2
各村を偵察しに行った結果、北の山脈に一番近い村にオークキングと五十頭程の武装したオーク、四十頭程の通常のオークが、それ以外の四つの村に、オークジェネラルが一頭と、十頭程の武装したオーク、二十頭前後の子供を含む通常のオークが散らばっているらしい。
誰だよ残り百頭くらいって言ったやつ!
めっちゃ残ってんじゃん!
しかもオークジェネラルとかオークキングとかボスクラスじゃん!
絶対ヤバい奴でしょ。
各部隊長が話し合った結果、討伐隊の人数が多いので、パーティ毎に数組ずつ組んで、複数の集落を同時に潰す事になったそうだ。
所謂レイドと言うやつだな。
基本的には攻撃力のあるパーティ二組と、回復役のいるパーティ、遠距離攻撃の得意なパーティの四パーティが一セットである。
基本的には。
勿論、少しあぶれてしまったパーティは、戦力が足りなさそうなチームに入れられたりもして、五パーティだったり六パーティだったりするところもある。
でも、問題はそこではない。
ーーー問題はたったひとつだ。
何故か、俺達が、『三本の槍』と、オークキングの、討伐に、向かう事、だ。
『三本の槍』と組むことに問題はない。
オークキングを倒しに行くこともまぁ、仕方ないだろう。
だがしかし。
他のパーティは存在しない事。
それだけが問題である。
ーーー他のパーティは存在しない。
俺達のレイドチームは『三本の槍』『飛竜の庇護』。
以上。
いや。
いやいや。
いやいやいや待って待って待って?
おかしない?
人数おかしない?
俺達六人と、『三本の槍』の六人の十二人だけで、一番強くて数が多い上に、戦闘力がヤバいオークキングを倒しに行くとか無理が過ぎるでしょ?!
無謀にも程がなくない?
ジェネラルやった後に、全員で倒しにいく敵じゃないの?!
混乱する俺に、イェルンさんが笑顔で肩を叩いてきた。
「雑魚は、キリトのアースバレットやおとといの大魔法で一掃出来るだろうから、他のメンバーでオークキングを全力で倒せばイケルイケル」
「勝手に俺の魔法を当てにしないで下さいよ!」
あっけらかんと言うイェルンさんに、泣きながら食って掛かる。
すると、驚いた様に此方を見た。
「え?できないのか?」
「できるできないじゃ無いんですってば。……多分、できますけど」
「勿論私達も戦うよ」
パウルさんが俺の頭をわしわし撫でる。
いや、この人絶対俺の年齢誤解してるだろ?!
「流石にちょっと……」と撫でる手を払いのけると、「ああ、大人ぶりたいんだな、分かる分かる」と言う様な生温かい目で見られる。
いや、もう、まじでいい加減にしてほしい。
ヤンスさんは既にだいぶ抵抗した後だったらしい。
死んだ魚の目をして、目が合うと、ゆっくり横に首を振った。
俺達の秘密を公にしない為の、最大限の譲歩だそうだ。
だとしてもかなり無理がある。
絶望だ。
話し合いが終わり、解散になると、ハンターギルドメンバーが軽食(オーク肉のサンドイッチ)を配っていた。
昼用に待たされた物と同じだから、ヤンスさんは断ろうとしていたが、俺が代わりに受け取っておいた。
アレンジしてから渡してみよう。
それでもいらないのであれば【アイテムボックス】に入れておけば問題ない。
帰り道では、さっきヤンスさんが食べてた物は何か、と結構な人達から質問された。
ヒメッセルトのダンジョン近くにある農村で、販売している携帯食の一つであるシリアルバーだと、実物を見せながら快く教えておく。
他にもフリーズドライなどもある事を言添えておいた。
軽くて、持ち運びしやすく、保存期間が長い、そして美味くて、腹持ちが良いけれど、少しお高めだと説明したが、彼等はこの討伐が終わったらヒメッセルトに向かう計画を立てている様であった。
うむうむ、計算通りだ。
これらが売れたら売れただけ、俺にもお金が入ってくるからな。
解呪のマジックアイテムの為にもドンドン稼がなくては。
ぜひモリモリ買ってくれ。
一晩明けて、まだ暗いうちに朝食をしっかり摂り、野営地を出てまっすぐに進めば昼前には村に着く。
村の近くにある丘の上で水分と休憩を取ってから、探索魔法で残っている人がいないか確認した。
オークしかいない事を確認してから、ギリギリまで近寄り、アースマシンガンを放つ。
俺の前に絶対出ない事を約束してもらっているので、安心して、発射角百五十度の広さで打ち出している。
マシンガンというより散弾銃な気がしないでもないが、細かい事は気にしたら負けだ。
ブヒブキと鳴きながら姿を現すオーク達。
建物毎ハチノスにしていく。
できるだけ苦しまない様に、威力を上げているが、当たりどころによっては、重症レベルで止まってしまうオークもいる。
探索魔法の地図にある赤い点が、ジリジリと減っていく。
俺の攻撃していないエリアを、エレオノーレさんとイェルンさんが矢を放って数を減らしてくれている。
イェルンさんの弓矢は、ヤンスさんやエレオノーレさんよりも重くて威力が高い音がする。
着弾音が全然違うのだ。
二人の矢は素早く正確なのに対し、イェルンさんのは威力重視な感じだ。
多少外したくらい、気にもしていない。
いや、ほとんど外さないんだけどね?
横から近づいて来るオーク達は、オーランドやパウルさん達がどんどん切り捨てていく。
パウルさんの槍も重そうで長く、太くてデカい。
切るというより薙ぎ払う?殴り倒す?そんな感じに近い。
他の『三本の槍』の槍士もすごいけど、パウルさんは素人目に見ても頭一つ分突出している。
今まで俺は、槍の攻撃と言えば突き刺すものだと思っていたけど、これだけ数がいたら切ったり殴ったり払ったりの方が都合が良いっぽい。
よく考えたら、突き刺すと引き抜くのに時間が掛かって、余計に危険だもんね。
ある程度、見える範囲の数が減ったところで、ホーミングサンダーミサイルを放つ。
何度でも言うが、一番緊張するのは適当呪文である。
前回と呪文が違わないか、という事だけが心配だ。
耳をつんざく様な音と、全身の産毛が逆立つ様な空気を残して雷が消える。
後には地に臥したオークが残された。
ほぼほぼ壊滅したオーク達にとどめをさしつつ、【アイテムボックス】に収めていく。
探索魔法を頼りにオークキングの元に向かう。
案の定、倒れてなどいないオークキングは、元気にのしのし歩き回り、雄叫びを上げていた。
俺達が近くにいる事が判るのだろう、鼻をヒクつかせて、こちらを探している。
建物の陰からオークキングを観察する。
めちゃくちゃにでかい。
オークもデカかったけど、オークキングは更に大きく、三メートルは余裕で超えている。
オークは豚って感じだったけど、オークキングは猪みたいに硬くて長い毛で覆われている。
その毛が弓や刃を弾き、上手くダメージが通らないとの事だ。
うっすら煙の様なものが上がっているが、もしかしたらさっきの雷の影響かもしれない。
頭に王冠の様な角?コブ?が生えていて、見た目は少しコミカルだが、その実力は本物。
鋭い牙と、圧倒的な膂力、生まれ持った体格の良さ。
分厚い脂肪に阻まれて決定的なダメージを与えることも難しい。
全てにおいて、此方が圧倒的に不利である。
村に入る前に、「討伐証明がいるからアブソリュートゼロは使わない様に」と皆んなから言われているので、今回はアースマシンガンを使用したのだ。
ここでアブソリュートゼロを使う訳にはいかない。
排除するのには便利なんだけど、ダンジョンでは無いので砕けたらそこで試合終了である。
ただでさえ、緊急クエストは報酬が渋いのだから、魔物の販売報酬くらいは確保しなくてはならないらしい。
あと、確実に倒したって証明が無いと、市民が不安に思うらしい。
確かに、何も無い状態で「俺、ドラゴン倒したぜ!」って言うのと、ドラゴンの首を持って言うのでは説得力が違うよな。
風下を選んで逃げ回っていたけれど、それももう限界だ。
オークキングがこちらを見ている。
場所を特定されてしまったのだろう。
満を持して、対峙するしかない。
膝どころか全身が震えている。
前衛は、オーランド、ジャック、パウルさん、そして槍を持った男女。
それぞれ帯剣していた。
サブはやっぱり剣なのだろう。
中衛がヤンスさん、エレオノーレさん、イェルンさんと魔法使いの男性である。
ヤンスさんは折り畳み式のボウガンが修理出来なかった為、小型の狩猟弓を装備している。
今回は麻痺の魔法がメインで、弓矢は牽制程度の役割らしい。
それすらも効かなそうではあるけれど。
最後に後衛はデイジー、カトライアさん、そしてその護衛に俺だ。
基本は回復役で、俺は万が一の時の防御担当だ。
たまに魔法を指示されたら、言われた通りに放つ予定である。
「行くぞっ!!」
「「「「「おおっ!!」」」」」
パウルさんの号令に皆で応えて、飛び出した。




