128 緊急クエスト 掃討戦 1
夜は生き延びた事と、無事大多数のオークを殲滅出来たことに感謝と喜びを交わして、オーク肉の焼肉で盛り上がった。
新人達が残っていたオークを、必死で運んで来てくれたらしい。
陣地の隅の方には、山積みのオークがまだまだある。
アレは明日以降も解体していくのだとか。
新人ハンター達の目が虚で、とても心配だ。
あとでお菓子でも差し入れておこう。
肉が足りなくなれば、解体して追加できるので、いくらでも食べて良いそうだ。
解体はご自由にどうぞ、との事である。
因みに野菜はちょっぴりしかなく、お酒はまだだめだそうだ。
みんなで水で乾杯した。
オークの肉自体は普通の豚肉だった。
ラノベで良くある「ブランド肉っぽい」とか「筋張っていて臭い」とかいうのはなく、至って普通の現代の豚肉の味である。
まあ、品種改良しまくった現代の肉と同等ってだけですごいと思うけどね。
十代の駆け出しハンター達は目の色を変えてがっついていた。
冷凍したお肉ではないので、焼き肉と言っても薄めのステーキに近い。
鉄板の上でナイフを使って切り分ける。
配布された塩にちょっと付けて食べると、モチモチぎゅむぎゅむと噛みごたえが抜群で、噛むたびにジューシーな甘い脂が溢れてくる。
脂が乗っているので、塩だけでも充分に美味いのだが、流石に沢山食べると味に飽きてくる。
しかし、俺達はデイジーとジャックが冬の間に作った焼肉のタレ(俺監修)があるので、色んな味で堪能した。
定番の焼肉のタレに、唐辛子っぽい辛味パウダー、塩レモン(レミツィトローネ)、数種類のスパイスミックス。
ヤダーお箸が止まりませんわよー?(笑)
周りのハンター達が焼肉のタレを物欲しそうに見つめてきたけど、これスパイスがたっぷり入ってるから、たっかいよー?
ヤンスさんがほんの少しのタレの入った皿を見せて、「一皿小銀貨八枚だ」と伝えると、青い顔で蜘蛛の子を散らす様に離れて行った。
一部、裕福そうなハンター数名と、『三本の槍』のメンバーがお金を払って買って行ったくらいだ。
まあ、そうだよね、そうなるよね。
案の定大絶賛だったが、材料名を並べていくと徐々に顔色が悪くなっていった。
ぼったくり価格な訳ではないのを理解してもらえたかな?
はぐはぐ肉を食べていると、前線で戦ってたメンバーが、代わる代わるお礼を言いに来た。
俺達が治療した人達らしいけど、全く覚えてない。
なんせ必死だったからね。
でも、それだけの人を助けられたって事は、素直に嬉しかった。
彼等が生きていてくれて、とても嬉しい。
胸の奥がぽわぽわと温かく、くすぐったい。
俺だけでなく、エレオノーレさんもヤンスさんも戦場で回復魔法を使用していたらしい。
二人も照れながらも感謝の言葉を受け取っていた。
それとは別に、治療の依頼に来る者もいた。
軽傷で、救護所からポーションだけ渡されて後回しにされている奴らが、俺たちが回復魔法を使えるのを何処かで知って、やって来たらしい。
明日以降もオークとの戦闘は続くし、治すのに否やはない。
傷もそこまでひどく無いからすぐに綺麗に治せるだろう。
今回に関してだけは緊急クエストである為、格安の一箇所につき中銅貨一枚で受ける事にした。
しかし、彼らの中には、妙にジャックの首の模様を気にしたり、居丈高に接してくる奴らが多くてエレオノーレさんの機嫌が急降下している。
攻撃魔法を発動させそうなエレオノーレさんをジャックが必死で抑えている。
ここで相手を傷つけてしまえば悪いのはこちらになってしまう。
攻撃魔法を放つのだけは我慢してもらうしかなかった。
勿論俺だって、デイジーだって気分は良くない。
なので、そういう奴らには、治療拒否をした。
なんといっても、この回復に関しては俺たちの善意の行動なのだ。
所謂営業時間外労働である。
やる、やらない、の選択権はこちらにある。
そいつらはそれが気に入らなくて、文句を言う。
オーランドがそいつらをしばき倒そうとしたのを目で制し、俺はそいつらを睨みつけた。
「こちらは善意で治してやっているのに、あまり文句を言うのであれば」と近くの木に雷(物理)を落としてやると、蜘蛛の子を散らすかの様に、一目散に逃げ去って行った。
全く、こっちの身になれって言うんだ。
あいつらお願いする立場だってわかっているのかな?
治療の代わりに強めの電流でも流してやればよかった。
ジャックは申し訳なさそうに、大きな身体を縮こめて、俺達に謝るし、エレオノーレさんは機嫌が最悪になるし、デイジーは怯えている。
せっかくの焼肉が台無しだよ。
本当にもうっ!
気分が悪くなったので、皆で早々に天幕に戻っていった。
後方で何やら大きく騒ついたが、振り返る気もしない。
翌日は森に入って、昨日戦場に出て来なかったオーク達を狩る。
今日からはパーティ単位での行動だ。
但し、ヤンスさんだけは別行動である。
斥候部隊は、先行して森の先にある村の偵察に出ている。
朝イチで森を強行軍で進んで行った。
昨日、大半を倒したとはいえ、それでも最初に確認した総数を考えれば、まだ百頭以上は残っているはずである。
非戦闘員、と言う呼び方がオークにも通用するかはわからないけれど、子供やメス、あまり力の無い若いオス達だ。
オーク達は、森の中で食料を集めていた。
つまり、村の中に居た人達は既に……。
口の中に苦い物が走った。
丸一日掛けて、森の中に居たオーク達を根絶やしにする。
探索魔法で、ハンターと対峙していないオークを見つけ次第殲滅していく。
道中打ち捨てられているオークも回収しつつ、片っ端から倒していった。
だんだんと心が荒み、作業の様にオークを倒す。
ある程度の幅で広がり、ローラー作戦を行ったので、万が一残っていても、多分十頭にも満たないだろう。
正直、北のオークだけでなく、この辺に生息していたオークも狩り尽くしてしまった気がする。
生態系、大丈夫だろうか?
今日は、森を超えた所で野営をする。
各自普段使用している天幕を張るが、持っていない者達は毛布に包まって休むだけだ。
意外と毛布だけのパーティも多い様だ。
秋だから毛布だけは寒いと思うんだけど、天幕はお値段もあるし、嵩張るからね。
仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。
あちこちで焚き火が焚かれている。
森を通り抜ける時に枯れ枝や薪を集めたのだろう。
ウチは面倒なので拾っていない。
着火用の枯葉や枯れ枝は【アイテムボックス】にいっぱい入っているし、薪もふた冬分くらいある。
薪やタープを使うのはウチくらいだろうな。
ちょっと視線がうるさい。
食事は朝まとめて支給された物だ。
昨日の焼肉の残りをパンに挟んだサンドイッチである。
あとはチーズとドライフルーツと水。
ぶっちゃけ昼に食べた物と同じだ。
エレオノーレさんが不満そうな顔をするので、肉を簡単に温め直して、いくつかの野菜を取り出して、サンドイッチに挟んだ。
塩レモンソースを肉に掛けることも忘れない。
追加でフリーズドライのスープを手袋をつけて取り出して、ジャックに開けてもらう。
カエルの皮の袋なんて触りたくもないし、見たくもないのだ俺は。
ジャックがマグカップにフリーズドライのスープを入れて渡してくれたので、水魔法で熱いお湯を注いで皆に渡す。
そうして、パーティ全員分の味変とバージョンアップを終わらせると食事である。
齧り付くと、少し酸味のある固い黒パンとレタスに似た葉野菜、トマト、そして温かい塩レモン味のオーク肉が口いっぱいに広がる。
ザクザクじゅわりと広がる葉野菜の苦味とトマトの旨味がオーク肉を彩る。
黒パンのおかげで少しワイルドな味わいになるハンバーガー風サンドイッチはなかなかに美味い。
途中で蕩けさせたチーズを上から掛けてチーズバーガーに変身させてみると、皆がスッとチーズを差し出してくるのはお約束である。
目隠しで幕を下ろしているとは言え、ふわりと広がる肉やチーズ、スープの香りに周りのハンター達がざわめく。
わざわざ覗きに来る者まで現れる始末である。
オーランドがルール違反だろ?と睨むと飛んで逃げて行った。
しかし、各所でチーズの焼ける匂いが漂いはじめたのは偶然ではないだろう。
夕食が終われば見張りを残して天幕で休む。
ウチの見張りは、タープの中でお茶を入れたり、ナッツ類を摘んだりできるが、他のパーティは凍えながら焚き火に当たっているだけだ。
少し可哀想だが、隣を助ければ、その隣、更にその隣と、他のパーティまでも助けなくてはならず、流石にそこまでは面倒を見切れないので、結果何もしないという事になる。
なんか、ごめんね。
夜、だいぶ遅くなった頃、別働だった斥候部隊の人達が、帰ってきた。
各パーティは見張り番か、別のメンバー一人を出す様に、と通達があった。
ちょうど俺が見張りのタイミングだったので、少し早いがデイジーに起きてもらう。
引き継ぎをしながら熱いお茶とぬるいお茶を大量に作って【アイテムボックス】に収納する。
ハンターギルドの天幕は大型の物で、一目でわかる。
とはいえ、全員が中に入れる訳ではないので、集合するのは天幕の前である。
焚き火一つでは足りない様で、あちこちで新しく焚かれ始めていた。
俺も薪を使って焚き火を作る。
何故か小枝を数本持った比較的年齢のいったハンター達が寄ってきて火を大きくした。
寒かったのだろうか?
天幕の中から、各部隊の隊長と斥候部隊が苦い顔をして出てきた。
皆寒さに震えて、顔色が悪い。
唇が紫色である。
ヤンスさんの元に走り、用意しておいたカップを手渡した。
「お帰りなさい、ヤンスさん。寒かったでしょう?お茶を用意しています」
「おお、流石キリトちゃん!助かる」
ヤンスさんが持つカップにぬるいお茶をたっぷり注いだ。
湯気が立つお茶に恐る恐る口をつけると、あまり熱くない事に気付いて、一気に飲み干した。
「熱いのもありますけど、要ります?」
「マジか。何?良妻賢母?」
「妻でも母でもありません」
軽口を叩き合いつつ、今度は熱いお茶を入れた。
それに息を吹きかけながら飲むヤンスさん。
ほはぁ……と吐かれる息が、白く浮かび上がった。
周りの視線が突き刺さる。
まぁ、そうなるだろうとは思っていた。
「斥候部隊の方々、お疲れ様でした。コップがあるなら温かいお茶お注ぎしま「「頼むっ!!」」
言い切る前にコップが突き出された。
ぬるいお茶をそれぞれのコップに注ぎながら、新しい薬缶にお茶を作り始める。
茶葉を放り込んで、魔法でお湯を注ぐだけの簡単なお仕事である。
ぬるいお茶を飲み終わったメンバーが、チラリチラリと視線を投げてくるので、無言で今度は熱い方を取り出した。
笑顔でコップを出してくる人達に、お代わりを注いでいく。
ヤンスさんにお代わりを聞くと、お茶はいらないけど、何か食べる物が欲しいとの事だった。
シリアルバーを三種類取り出して見せると、ナッツがたっぷり入ったものを選んで食べ始めた。
コリコリと美味しそうに食べるヤンスさんを見て、あちこちで喉を鳴らす音が聞こえた。
他のハンター達からチラチラとした視線を感じるが、全員分は無いので此方は無視である。
しばらくして、俺が何も言わない事に落胆のため息を吐いた彼等は、気を取り直して当初の目的通り、調査結果を話し始めた。
いつも俺不運を読んでくださってありがとうございます。
皆さんから「レジーナどうなった?」「コートの結果が知りたい」とお声を頂いたので、ランジェリーレボリューション 1 にて一言触れさせていただきました。
結果から言えば、「無事納品できて、最高評価を頂いた」との事です。
詳しいお話や、その後の話はまた、追々。




