127 緊急クエスト 6
キリが悪く、長めです。
デイジー達と話をしている間にも、自分の呼気が苦い。
これ、良薬口に苦しとかのレベル超えてるから!
苦過ぎてダメージがやばい。
ジュースみたいに美味しいポーションを、とは言わないけど、せめてもう少し苦味がマシなモノ作る事出来なかったのか?
「まさか!君も……君も、『飛竜の庇護』のメンバーだったのか……!」
人生初の魔力ポーションにのたうち回っていて忘れていたが、イェルンさんはまだここに居た。
何か他に話でもあるのだろうか?
デイジーを見て驚いている様だが、今の俺達にはそれに付き合う心の余裕がない。
オーランドやヤンスさんが、機嫌が悪くないから大丈夫だろう。
俺は去年農村で作った蜂蜜ゆず茶(本当は柚子に似た別の果物)を淹れ、イェルンさんを含め皆に渡す。
お湯の温度は低めで作ったので、飲みやすいだろう。
イェルンさんは驚きながらも受け取って、恐る恐る一口飲むと、目の色を変えて飲み始めた。
エレオノーレさんとデイジーは一気飲みをしてお代わりを要求してきたが、それは既に予想済みである。
先に作っておいた物を【アイテムボックス】から取り出して追加で渡した。
今度のは熱々のお湯で作っているので、一気飲みは出来ないだろう。
口の中でお茶を転がす様にしてゆっくり飲み込むと、蓮華の様な花の香りと柑橘系の爽やかな香りが広がる。
蜂蜜の甘みと、果物の酸味と、果実の皮のほんの少しの苦味が舌を撫ぜ、だんだんとあの耐え難い苦味が和らいできた。
「っあーーーー……死ぬかと思った」
「苦過ぎにも程がありますよね?」
「お父さんが作ったのはもう少しマシな味だったと思うんですけど……」
蜂蜜ゆず茶のおかげで何とか回復した。
いつの間にか、魔力切れの気持ち悪さや怠さはどこかに行っていたが、身体へのダメージが酷い。
三人で一通りポーションの味に愚痴を言い合う。
「ーーーすまん、そろそろ良いだろうか……?」
遠慮がちに掛けられた野太い声に顔をあげると、いつの間にか更に一人、人が増えていた。
イェルンさんと並んで立つ、明らかに前衛職な、むきむきの男性。
イェルンさんだってゴツくてデカいけど、この人は更に一回り大きい。
こう、筋骨隆々って言葉が似合う感じの男臭い男性だ。
短く刈り上げた焦茶色の髪に、オレンジ色の瞳。
ガチガチのボディビルダーの筋肉とは違う、むっちりと柔らかそうな良質の筋肉。
スポーツ選手とかが羨む、実利的な筋肉だ。
ジャックと並んでも見劣りしないデカさである。
「落ち着いたか?」
「少し話をしたいのだが、大丈夫だろうか?」
喋ると、見た目よりも大分柔らかい印象を受ける。
ちらり、オーランドを見ると小さく頷き、前に出てきた。
「ああ、良いだろう。Bランク上位パーティ『三本の槍』のリーダーと、サブリーダーが、しがないCランクパーティ『飛竜の庇護』に何の用だ?」
そう言ってむきむきさんをタープの中に案内する。
勿論椅子など余分には無いので、地面に座ってもらう事になる。
地面とは言え、一応防水布と専用シートにカーペットは敷いてある。
防水布は解体の時に使用しているあのペタペタしたあれだ。
勿論、別の防水布だけど。
まあ、そんな事はどうでも良くて、今のオーランドの言葉には少し棘があった。
基本的に朗らかで、おおらかなコミュ力お化けのオーランドとしては珍しい態度だ。
さっきまでそんなに機嫌が悪そうな感じはしなかったのに何故だろう?
何かを警戒しているのだろうか?
「そこまで警戒しないでくれ。引き抜きなどではない。いや、来てくれるなら歓迎するが、君達にはそのつもりはないだろう?」
むきむきさん(オーランドが言うには『三本の槍』のリーダー)が、苦笑いしながら答える。
誰だろうとまじまじ見ていた俺とデイジーに気付き、手を振ってきた。
こう、なんと言うか、不本意ながら子供扱いされている気がする。
明らかに俺達を見る時、目尻が下がってるし。
「そこの新メンバーの少年少女は、私達を知らないようなので、改めて自己紹介しよう。『三本の槍』リーダーのパウルだ。パーティランク、個人ランクはB、メインで槍を、サブで剣を使う。前衛部隊の指揮を執っている」
むきむきさん、もとい、パウルさんはにっかりといささか暑苦しく笑いながら自己紹介をする。
背中には本人が言う通り、大きな槍を担いでいた。
今は穂先にカバーが掛けてあるが、膨らみ方やその長さから見て、穂先だけで三十センチくらいはあるんじゃなかろうか?
腰にはショートソードが下がっている。
あの体格ならロングソードやツーハンデッドソードなんかでもイケると思うけど、槍の取り回しを考えてのショートソードなんだろうな。
前衛部隊に居た、オーランドとジャックだけでなく、何故かヤンスさんやエレオノーレさんも彼を知っているらしかった。
パウルさんが終わると次がイェルンさんだ。
主にデイジーに向かって話し始めた。
「おれがサブリーダーのイェルンだ。さっき少しだけ挨拶したが、メインが弓で、サポートにナイフと剣だ。魔法は使えない。後衛部隊の指揮を執っている」
最後にウィンクと共に「キリトは知っているよな」と付け加えられたので一つ頷いておく。
デイジーとも少し面識があるらしい。
チラリと視線を送れば「救護所で紹介されました」と小声で返ってくる。
さて、本題に入るのだろう、と身構えたところで、予想外の声がした。
「そして、あたしはカトライアよ。回復担当。魔法と薬を半分半分くらいで使うわ。後方支援部隊を指揮してるの」
「「えっ?!!」」
見回すと、パウルさんとイェルンさんの影にもう一人いた。
座っているパウルさんよりも小さいらしく、全く見えなかった。
吊り目気味の大きな緑色の目、黒髪ショートで、コケティッシュな感じで、人懐っこい気まぐれな猫のような印象を受ける。
クリクリとよく動く綺麗な緑色の瞳が、実家の猫にそっくりである。
ハチワレの女の子で、抱っこが大好きで、下ろそうとすると爪を立てて背中に逃げ出す様な、可愛い奴だった。
……っじゃなくて!
カトライアさんは、デイジーと同じ様に神官服を着ている。
回復魔法を使用できる、という目印であるからおかしくはないのだけど、着る人でここまで印象が変わるのか、と思ったのは秘密である。
主に胸部装甲辺りで。
おっと、デイジーが睨んでいる気がする。
何も口に出していない筈なのに、何故だ?
「新メンバーの二人は知らないと思うけど、あたし達『飛竜の庇護』が駆け出しの時からの知り合いなのよ」
ぱちりとウィンクをして、カトライアさんが今回ここに来た理由を教えてくれた。
そもそも『三本の槍』のメンバーは、『飛竜の庇護』は知っていたそうだ。
新設パーティはギルドの研修で先輩パーティと組んで一通りのクエストを受けさせられるのだそう。
その“先輩パーティ”というのが当時Cランクパーティだった『三本の槍』である。
移動中に採取して、カバンに吊るして干すスタイルは、彼等から受け継いだ物らしい。
それ以降も彼等は『飛竜の庇護』をなにくれとなく気にしてくれつつ、見守ってくれていた。
しかし彼等も、Bランクパーティになったのを機に、帝都に進出したのだとか。
俺達が入る前の『飛竜の庇護』は、正統派のパーティで、『三本の槍』が帝都に行く前にはCランクパーティになっていたし、そこそこの結果を出していた。
バランスもよく、仕事の態度や、プライベートでの生活態度も良く、アルスフィアットではなかなか名前の知れた優良パーティだったらしい。
更に最近では、ダンジョンの異変の件や、マッピング用紙などの件で帝都でも有名になっている。
それで結構気にかけてくれていたのだとか。
そして、今回の討伐ではそれぞれの部隊で、各自目覚ましい活躍であった。
三人それぞれが、部隊長としてそれぞれにお礼とお話があってここに来たらしい。
所謂、戦場で活躍した人を労うのも指揮者のお仕事なのだそうだ。
良くも悪くも「Cランクパーティらしい」パーティであった『飛竜の庇護』が、これだけ活躍したことに疑問を覚えたのだそう。
「いや、オーランドは魔剣を手に入れたからだろう、という事はわかっている。技術も私の知っているレベルから今までしっかり訓練してきたのだな、とわかる成長範囲なのでそこまで問題はないんだ」
どこでそれを手に入れたのかは皆知りたがると思うけどな、と続く。
だんだん鋭くなっていくオーランド達の目を見て、パウルさんが慌ててフォローを入れる。
「今回、しっかり斬り込んでくれて、前衛の士気を上げてくれた事は、本当に感謝をしてもしきれない程だ。だが、ヤンス、君は違うだろう?あの魔法は何だ?何かマジックアイテムでも使用したのか?」
「使用したと言えばしたけど、アレは魔法だ。詳しくはパーティ機密」
オーランドに感謝の目を向けていたパウルさんが、問い詰める様にヤンスさんを見る。
麻痺の魔法の事を言っているらしい。
ヤンスさんも、今回の討伐で、虎の子の麻痺魔法を使わざるを得なかったのだろう。
それに対して煙に巻く様な応えをするヤンスさん。
まぁ、嘘は言ってないんだけどね。
マジックアイテムとして出た回復の魔導書を読んで、俺の説明を聞いた事で使用できる様になったヤンスさんのオリジナル魔法だから。
“マジックアイテムを使った”は嘘にはならないし、“魔法を使っている”も本当である。
「もう少し、詳しく話しては……くれないか?」
今回色々な面で助けられたから、あまり問い詰めたくは無いが、突撃しそうな他のメンバーを押し留める為には、ある程度の情報が欲しい。
そして出来ればその方法を教えてほしい、と懇願される。
「マジックアイテムの魔導書、とだけ」
パウルさんに拝み倒されたヤンスさんが苦虫を噛み潰したような顔で応える。
これ以上は何を聞かれても答える気はない、と言う様に、そっぽを向いてしまった。
それを見て苦い笑顔でお礼を言ったパウルさんは大人だと思う。
「じゃあ、次はおれだな。言える範囲で構わない。頼む」
そう言うと、俺とエレオノーレさんが神官でもないのに回復魔法を使える事、俺の高速発動される環境魔法と無詠唱魔法、そして最後の信じられない高位魔法について等矢継ぎ早に質問された。
回復魔法についてはヤンスさんと同じ様に二人とも魔導書のおかげだと説明し、環境魔法については原理だけ説明した。
「つまり、自分の魔力ではなく、周りにある魔素を使用したから連発できた、と言うわけかい?いや、信じない訳ではないが、……それは本当に、可能な事……なの、か……?」
「使い方は勿論秘密です。お金を積まれてもまだ教えるつもりはありませんし、教えられるとは思いません。俺もまだ試行錯誤の最中ですから」
狼狽えるイェルンさんに、きっちりと拒絶をしておく。
下手したら拠点まで詰め掛けてくる人もいるかもしれないからな。
ここまで言っておけばきっとイェルンさんがきっちり防波堤になってくれるだろう。
最後のホーミングサンダーミサイルについては、自分で作った上位オリジナル魔法だ、とだけ説明した。
そもそもアブソリュートゼロで度肝を抜いていたので、そちらもすんなりと受け入れてもらえた。
念の為、教えてもらうとしたら幾らかと聞かれると、俺が答える前にヤンスさんが「一人大金貨十枚、全額一括前払い。使えなくても、返金不可」と冷たく言い放つ。
これには全員が苦笑いであった。
「じゃあ、デイジーさんのあり得ない回復量の回復魔法も、他の三人と同じく魔導書が理由かしら?」
「……そうですね」
カトライアさんが確定的に聞いた質問にデイジーが笑顔で答えた。
どうやらデイジーも中々にやらかしてしまったらしい。
それぞれの回復の力を確認する為に、一人ずつカトライアさんの前で治療をさせたそうなのだ。
初っ端に打撲、骨折、裂傷を一度で完全に回復させてしまったのを見たカトライアさんが、すぐにオハナシアイをしてくれたそうだ。
幸い、個別で治療したので、目撃したのはカトライアさんだけだった事、怪我人は痛みに耐え切れず意識を失っていた事、などいくつか幸運が重なって、周りには知られていない。
しかし、他のハンターや、貴族連中に知られてしまえば、狙われたり誘拐されたりしかねない。
大変な目に遭いたくなければ、傷を完全に治してしまわないようにしなさい、と教えてくれたそうだ。
さっきのアレはカトライアさんの指示の賜物だったらしい。
それに関しては全員でカトライアさんにお礼を言った。
「正直、皆が急激に能力が向上している事に、驚きを隠し切れないよ」
「前はもっと普通だったじゃん」という副音声が聞こえそうな程に、驚愕した三人が此方を見ていた。
「原因は何?」とも聞こえる。
そして何故俺を見るのだ、三人とも。
「まぁ、ほとんどはキリトのせいね。この子、迷い人だから」
「オレの魔剣はダンジョンのマジックアイテムだけど、これを見つけたのはキリトだしな」
「回復魔法の効果の向上は、キリトさんから教わった医学知識のおかげでもあります」
「「確かに」」
エレオノーレさんの言葉に、魔剣を自慢したいオーランドが乗っかり、俺のせいだと言う。
ついでにデイジーも、医学書の解説を俺がしたおかげだとかき混ぜ、それにヤンスさん達が、真顔で乗っかる。
なんか「迷い人」が都合よく利用されている気がする。
だけど、微妙に否定し切れない感じに、本当の事を言っているので、俺は唸る事しかできない。
此方の話にタジタジの『三本の槍』のメンバー達。
何だか俺を異物を見る目で見ている気がする。
違うよ?俺はきっかけを作っただけ。
この結果は、皆の努力のおかげです。
これ以上、情報を引き出せないと分かったのだろう。
彼等はお礼を言って去っていった。
その後、遅れて斥候部隊の指揮を執っていた別のパーティの人も現れる。
ヤンスさんが褒められるのを皆で温かく見守っていると、それに気づいてすごく嫌そうな顔をしていた。
でも、耳が赤いから照れているだけだろうと思う。
此方は特に何もなく、ヤンスさんが労われて終了した。
斥候担当は、個人的な事や、技術などを深く突っ込まない事がマナーなのだそう。
いつも俺不運を読んでくださってありがとうございます。
いいね、感想、ブックマーク、評価本当に嬉しいです。
毎度励みにさせていただいています、ありがとうございます。
だいぶ前の方の話ですが、エピソード6「出来ることと出来ないこと」を修正いたしました。
私の勉強不足で「お湯を掛けて毛皮を剥ぐ」とありましたが、それは間違いだとご指摘いただきました。
再度調べ直して、なろうお馴染みのアイテムボックスを使用した解体に変更いたしました。
話の大筋は変わってはいませんが、ご興味がありましたらチラ見してみて下さい。




