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126 緊急クエスト 5


 陣地に戻ると、そこは別の戦場だった。


 まず目に付くのは、大量に引き摺ってこられたオークの山だ。

 百頭以上居るのだから仕方ないとはいえ、かなりショッキングな見た目だ。

 当たり前だが、綺麗な死体はない。

 一部が血みどろぐっちゃな奴や、黒コゲになっている奴、首や手足が欠損している奴、引き摺られて小石や砂がべっとりついた奴など、直視に耐えかねる物ばかりだ。

 強い血の匂いが充満している。

 戦場でバカになっているはずの鼻でもわかる程だ。


 それを死にそうな顔でひたすら解体する、血塗(ちまみ)れの新人ハンター達。

 解体場へ運ぶ者、装備品を剥ぎ取り処分する者、首を落とす者、皮を剥ぐ者、腹を裂いて内臓を抜き取る者、抜き取った内臓や傷みがひどく使えない部分を集めて穴に投げ入れて焼く者、大きく部位ごとに切り分ける者、そこから更に枝肉にする者……。

 骨も需要がある為、粗雑には扱えない。

 あと、金◯も。

 何でも、錬金素材や、何かのポーションの材料になるのだとか。

 お年を召したお貴族様にすげぇ人気らしいんだけど、実物見たらオェーってなるよね。

 後方支援部隊で、水魔法が使用できる者が骨洗いを任されているらしい。

 そして、その中でも手先の器用な男は金◯担当なんだとか。

 うん。

 頑張って……、強く生きろ。

 虚な目で骨をタワシで洗い続ける女の子達と、えずきながらピンポン玉みたいな赤黒い物を延々と袋から取り出して洗い、薬を張った木桶に次々投げ入れる少年達。

 俺はそっと視線を外した。

 

 次に目に入った救護所である天幕の周りもかなり酷かった。

 順番待ちで蹲る怪我人達、怪我の度合いで振り分ける医療知識のある者。

 彼らの指示に従い、走り回る新人ハンター達、転がる包帯、怪我に呻く怪我人達、治療の痛みに暴れる者、回復魔法の使える者はその殆どが地べたにへたり込んでいた。

 彼等の手には、魔力ポーションの空き瓶がある。

 多分、何度も飲んで回復しては、回復魔法を使って、を繰り返したのだろう。


 チラッと見えた天幕の奥の方で、パタパタ走り回るデイジーを見つけた。

 彼女は主に重症患者を担当している様で、服のあちこちに血がついている。

 数人の怪我をあっという間に治療し、残りの手当を他のスタッフに任せる。

 どうやら魔力節減の為、完璧に治し切ることはしない方針らしい。

 骨折した骨を継ぎ、痛みを止めるが、まだ接合は完璧ではないので、添木を当てて包帯を巻いたり、深く抉れた肉を塞ぐが、皮膚までは回復仕切らず、肉が丸出しなので、傷口が治り切るまでの間ガーゼを貼ったりしている。

 魔力を使わない処置をするのは、魔法が使えない後方担当者の仕事の様だ。

 手が空いた瞬間に、調薬エリアに向かい、色んな薬草を薬研でゴリゴリと挽き始めた。


 元気であれば薬草を渡したり、下処理を手伝ったりしたいところだが、魔力切れでふらふらしている今は、寧ろ邪魔になるだろう。

 下手に邪魔しない方が良いけれど、少しでも力になりたいので、近くを通った新人ハンターに、使いそうな薬草を手渡して、調薬エリアに運んでもらう。

 新人ハンターは、まるでコメツキバッタの様に何度も頭を下げて、大切そうに薬草を抱え、走って行った。

 薬草を受け取ったデイジーが、こちらを見て安心した表情を浮かべる。

 どうやら心配を掛けていた様だ。

 笑顔で手を振ってその場を離れた。


 用意された休憩用の天幕の中は、人がごった返していた為、少し離れた場所で自分達の野営セットを取り出して休む。

 本当に申し訳ないが、今日は俺とエレオノーレさんの分はジャックが組み立ててくれた。

 近くに生えている木にもたれて組み上がるのを二人で待つ。

 ありがたやありがたや。

 オーランドが手早く焚き火を起こし、天幕の入り口を開けた状態で火を囲んだ。

 ジワジワと焚き火の熱が染み込んできて、強張った身体と心をほぐしていく。


 今日はタープという屋根と、幕のある簡易テントも開いている。

 町内イベントなどで組立てる骨組みと屋根だけのテントをイメージしてもらえればわかりやすいかと思う。

 もっとカッコいいんだけどね。

 少し斜めになったフラットな天井部分と、三辺にくるりと巻きつけられた幕を下ろす事で、風や暑さ・寒さに、周りの視線などを遮る事が出来る優れ物だ。

 この幕はそれぞれ別に上げたりおろしたり出来るので、用途に合わせて使用できる。

 かなり大型なので、馬車持ちのハンターくらいしか使用しない贅沢品である。

 ウチはほら、俺の【アイテムボックス】があるからね。


 タープは、休む場所と言うよりはリビング的な場所だ。

 修理作業や、素材の加工、食事、話し合いなどをする時に利用する。

 六畳くらいの広さがあり、専用の断熱材とシートが付いている。

 まぁ、今回使用する一番の理由は、プライベートスペースの確保の為なんだけどね。


 人が多いとやっぱり落ち着かないというか、ジロジロ見られるというか……、ねぇ?

 自前の天幕を張った者同士で、領域侵犯だなんだと大小様々な揉め事が起こる。

 それを防ぐのにとても役立つのだ。

 少し中央部から外れている事もあり、充分な広さを確保できている。

 自分達の焚き火をタープと天幕でぐるりと囲むと、それだけでこの辺りは俺達のエリアである。

 ちゃんとデイジーの天幕を張る場所も開けてある。

 今は出入口として使用させてもらっているけどね。


 ある程度プライベートスペースを確保出来た俺達は、休憩に入った。

 ジャックはこってり甘いミルクティーを作り、ヤンスさんは壊れたボウガンの修理を行なっている。

 そんな中、俺とエレオノーレさんは自分の天幕でぐったりと横になっていた。

 初めの頃は集めた葉っぱを布の下に敷いていたけど、今は丈夫な布に綿を詰めたマットを使っているので、寝心地はそんなに悪くない。

 このマットはブリギッテに作ってもらったオーダーメイド品である。

 金とコネはこうやって使うんだ。


 マットの上に布とふわふわの雪うさぎの毛皮を敷いて、毛布に包まる。

 干した豆を詰めて作った枕に頭を乗せて、呻く。


「うぅぅ……ぎぼぢわどぅい……」

「……お黙りなさい。回復するまでの辛抱よ」


 まるで成人式の日に調子に乗ってお酒を飲み過ぎた時の様だ。

 頭がガンガンするし、胸がむかむかして身体が重い。

 ジャックがミルクティーにクッキーを付けて渡してくれる。

 魔力切れの時は、兎に角カロリーを()()()摂取するべし、と言われている。

 しっかり焼きしめられた甘いクッキーを、ちびちび齧りながら、熱々のミルクティーを啜る。

 すると、お腹の中からジワリと熱が広がって、無意識のうちに入っていた力がゆるゆると抜けていく。


 ふと気がつくと、皆が同じ方向を見ていた。

 それに倣い俺もそちらを見ると、弓を持ったむきむきの厳つい男性がこちらに向かって歩いてきているところだった。

 彼の手には二本の小瓶が握られている。

 イェルンさんだ。


「おお、ここに居たか。中々立派な陣だな、お疲れ様。さぁ、二人ともこれを飲んでくれ」


 どうやらエレオノーレさんと俺の為に魔力ポーションを持って来てくれたらしい。

 差し出された小瓶を有難く受け取るが、エレオノーレさんの顔は引き攣っている。


「今回は君達のおかげで大きな被害も出ず、大半のオークを駆除することが出来た。本当にありがとう」


 引き攣ったエレオノーレさんを見てイェルンさんは苦笑し、今回の討伐での俺達の働きを褒めてくれる。

 救護所で呻いている人達には悪いけれど、今回、死者が一人も出ていないのは本当に凄いことなんだとか。

 魔力ポーションは高価な魔法薬だが、気にせず飲んでくれ、と勧められた。

 受け取った魔力ポーションは、ガラスの容器に入っていて、なんだか栄養ドリンクを思い起こさせるサイズ感だ。

 因みに、体力を回復させるポーションはカクカクした多面体の小瓶に、魔力を回復させるポーションは円筒形の小瓶に入っているのでパッと見るだけで何のポーションなのかすぐにわかる様になっている。

 キュポンと蓋を取ると、とんでもない刺激臭が鼻を刺した。

 反射的に蓋を閉め直す。


「ゔぇっ、これ、本当に飲める薬なの?」


 残り香だけでもヤバい。

 反射的にえずいてしまう。


「分かるわ。でもね、ちゃんとした飲み薬(ポーション)よ。効果も保証するわ。すっっっっっっごく苦いけどね。これはね、味わう前に胃に流し込むのが大事なのよ」


 そう言うと、青い顔をしたエレオノーレさんは、鼻を摘んで一気に流し込んだ。

 途端に凄い顔になって、ジャックが用意した水をガブガブ飲んでいる。

 さっき渡されたミルクティーを一気飲みして、クッキーまで頬張っている。

 あっ、それはハロウィンの時に大切に取っておくと言っていた飴ちゃん……。

 なんか、ガリゴリ音が聞こえるんですけど……。


「…………」


 再び蓋を開け、瓶を口元に近づける。

 昔ばあちゃんに無理矢理飲まされた南天茶を思い起こさせる苦い臭いだ。

 あれと同じならば、絶対に躊躇してはいけない。

 エレオノーレさんの真似をして、鼻を摘んで一気に流し込む。


「んぐぅッ!」


 舌の根本にほんのちょっと掛かった液体から、口の中全体に苦味が(ほとばし)る。

 思わず吐き出してしまいたい程の苦味だ。

 身体が拒否をして、反射的に涙が滲む。

 南天茶やセンブリ茶を飲んだ事がある人はわかってくれると思う。

 耐え難い苦味に、ミルクティーを一気飲みして、【アイテムボックス】から貴重な蜂蜜を取り出した。

 急いでスプーンでたっぷり掬い取り舌の上に塗り付ける。

 舌をチリチリと焼く様な濃厚な蜂蜜の甘さに、魔力ポーションの風味が混じる。

 喉奥から苦味が上がってくるのを意思の力で無理矢理押さえつけた。


 涙目で苦味を堪えていると、にゅっと差し出された二本の手が視界に入った。

 その手を辿ると、エレオノーレさんとデイジーが凄みの利いた笑顔で此方を見ている。

 二人とも顔色がとても悪い。

 俺は新しいスプーンを二本取り出して、どちらにもたっぷり蜂蜜を乗せて渡した。

 というかデイジーはいつの間に来たの?

 え?休憩に出てこいって魔力ポーション渡されて追い出された?

 それは働きすぎと言うものだよ。

 言われた通りちゃんと休みなさい。

 いつも俺不運を読んでくださってありがとうございます。

 いいね、ブックマーク、感想、評価、大変励みにさせていただいています。


 一話2000〜3000字を目標に書いているつもりなのですが、どうにも最近長くなりがちです。

 正直3500〜4000字ぐらいでも良いかなぁと考えていますが、いかがでしょうか?

 長くて疲れる、などご意見をいただければ短く切るなどして調整を掛けていきたいと思っています。

 良かったら感想やメッセージなどでお知らせ下さい。


 また、3月22日に新しいお話『捨てられた猫好き聖女はもふもふな聖獣の獣医さん』を投稿しました。

 良かったらチラッと覗いてください。

 毎日朝8時更新予定です。

 一週間くらいで完結します。


 全く関係ない話ですが、龍が如く8が面白すぎてヤバいです。

 今までのアクションとは違うのでゲームが苦手な人にも扱いやすく、やり込み要素満載です。

 ドンドコ島のガチャムクがキモカワすぎてやめ時がわかりません←

 やっと趙天佑が仲間になってダンジョンで必死に育てています。

 新規加入メンバーは本当に弱くて困ります……。

 更新祭りはきちんとやりますので、龍さんのプレイはお許しくださいm(._.)m

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― 新着の感想 ―
長すぎは躊躇するけど、2000〜3000字も3500〜4000字もどちらもサクッと読める範囲かと。 1日割ったときの字数が変わらないなら、どっちでもいいと思います~。 減っちゃうとちょっと寂しいけどね…
[気になる点] 読み直してて気になったのですが、アルスフィアットに戻りたいの話でMPポーションをデイジーからもらってるんですが、今回の魔力ポーションとは違う物なんでしょうか?
[気になる点] 「舌をチリチリと焼く様な濃厚な蜂蜜の甘さ」 舌が痛いほどの甘さとは?はちみつを食べて甘すぎる体験はあるものの、痛いほどの甘さとは?
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