121 解呪のマジックアイテム
長々とランジェリーレボリューションにお付き合いくださいましてありがとうございます。
今週からは通常のお話に戻ります。
読み飛ばし用あらすじは無くなりますので、あらかじめご了承の程よろしくお願いします。
今回は二話分を無理矢理一話に収め込んだので長めです。
二件の店舗経営の結果、商人ギルドに頻繁に出入りするようになった。
季節は既に秋の初めである。
春は貴族と皇宮関連、夏は店関係のドタバタがひどすぎてあっという間に過ぎてしまった。
八ヶ月があっという間とか、本気で信じられない。
ギルドで流れていたブリギッテとの仲は、ヤーコプが周りに説明してとっくに下火になっている。
出産後の女性の雇用のおかげで、そちらに話題がシフトした事もあるし、ぶっちゃけ飽きたのだと思う。
それよりも、癖者でギルドでも中々御せなかったカールハインツを手中に収めた上にうまく手懐けている事、経営する二店舗ともを瞬く間に皇室御用達にした事など、ありもしない経営手腕を認められ始めた。
商品カタログに関しては大絶賛の嵐であった。
各服飾品店がこぞって真似を始め、画家は引っ張りだこである。
製本業者も、写本業者もフル稼働で、嬉しい悲鳴が上がっていると褒められた。
正直、カールハインツは変態なだけだし、皇室に関しては完全に皇帝から皇妃様への愛の結果である。
自分から営業を掛けたりはしていない。
精々チラシを入れたくらいだ。
カタログに関してはまあ、知識チートみたいなものだし、すけべ心からの大受けだったわけで。
そんな偶然の産物の結果「コイツは役に立ちそうだぞ、どっかで利用してやるか」と見られる様になってきていて、周りの商人達の獲物を狙う目が恐ろしい。
ちょいちょいお食事に誘われたり、娘を勧められたりしているが、日本人の曖昧な微笑みで全てスルーして逃げ回っている。
どこかでうっかりハメられない様に気を付けたい。
油断したら借金まみれにされてしまい、干からびるまで利益を吸い取られそうだ。
ブリギッテ達への嫌がらせも落ち着いてきた。
嫌がらせをするよりは売り込んで、共に利益を享受した方が得だと思われたらしい。
ブリギッテは平然と受け入れているけれど、俺は商人達のその手のひら返しが大変に恐ろしい。
以前とは別の意味でビクビクしながら売上金の確認をしていると、隣のブースに誰かが入った。
ブースとは言ったものの、この場は横に衝立があって横から覗けない様になっているだけである。
声はダダ漏れだ。
「これのオークション出品依頼を頼む」
「かしこまりました」
手早く確認を終わらせて、必要な処理を終えると、席を立つ。
依頼者と商業ギルドスタッフが話しているのが見えた。
依頼者のハンターらしき男が、箱に入った黒い球と書類をギルド員に見せている。
「これが鑑定証書だ。ハンターギルドで鑑定してもらった。『解呪の宝珠』というそうだ。効果は軽度の呪いの解除。解呪出来るのは一回限り。最低限大金貨十五枚でオークションにかけてほしい」
『解呪』と聞こえて、動きを止めた。
周りを見るふりをしながら少しだけ歩くスピードを落とす。
「……はい、確かに。金額もこの効果であれば妥当なところですね。それではこちらの条件で承ります。お品物はこちらで預かる形でよろしいでしょうか?金庫使用料で大銀貨三枚いただきますが」
「無論、頼む」
ジャラリとカウンターに置かれた大銀貨二枚と小銀貨十枚。
ダンジョン産のマジックアイテムだろう。
それにしても、『解呪の宝珠』か。
俺の呪いも解いてくれたりしないかな……。
何処のダンジョンで出たんだろう。
この近くならヒメッセルトのダンジョンかな?
他にも色々あるらしいし、そちらかもしれない。
「では、お預かりいたします。その間にこちらをご記入ください。代筆も承っております」
「では、代筆を頼む」
ハンターの言葉に、職員は手を上げる。
それを見た、少しよれた貴族服の少年が駆け寄ってきて代筆を始めた。
カウンターの奥には、並んだ椅子にお行儀良く座った貴族服の少年達が見えた。
服装はどの子もよれたりくたびれたりしていて、ひどいものはサイズが合っていないものまである。
他の商人達に話を聞くと、彼等は貧乏貴族の三男以下の子供達らしい。
代筆や、書類の複製などを行う事で給金を得るのだそう。
完全出来高制で、能力によりお給料が違う。
基本は椅子の左側に居る者から順に仕事を受けるが、指名があったらそちらが優先される。
仕事を受け終わった子は一番右側に着席するのだとか。
子供達は名前を覚えてもらうために、日々努力をしているらしい。
ギルド員は少年が対応したのを確認すると、品物を受け取り、金庫に仕舞いに行く。
あんなに小さい頃から働くなんて貴族の子供も大変だな。
俺もその内何か依頼してみよう。
程なくして、情報掲示板に先程のオークション出品情報が貼り出された。
いそいそと見に行った俺は悪くない。
幾つか既に貼り出されていて、どこそこの家に代々伝わる宝石だとか、何処かのダンジョンで出たマジックアイテムだとかが沢山並んでいた。
その一番端に、目的の解呪の宝玉の情報もあった。
どうやら半年後のオークションで競りに出されるらしい。
大金貨十五枚からという事は、多分三十枚くらい……いや、六十枚くらいは最低限用意してないと落とせないだろう。
それでも不安な額だな。
大金貨は約一千万円くらいの感覚だ。
つまり、スタートが一億五千万円って事だよな?
ドチャクソ高い。
でもアレがあれば俺の呪いも解呪出来るかもしれない。
(そうすれば幸運が約束されているから、試してみる価値は、あるーーー)
ダメだったら暫くは浮上できないと思うけど、それでもこの不運になる呪いをできたら解呪したいのである。
ぶっちゃけあんまり口にしてはいないが、転んだり、何かが飛んできてぶつかったり、何かのアレを踏んだり、鳥がアレを落としてきたり、スリに狙われたり、なんていう事は日常的に起こっている。
オーランドやエレオノーレさんも初めのうちこそ笑っていたが、最近では可哀想なものを見る目で俺を見てくるのだ。
……ヤンスさんはいまだに爆笑するけど。
不運だから不幸だとはちっとも思わないけど、幸運になれるならなりたいとは当たり前に思う。
今あるお金は商品開発や、今後の生活費(主に税金等)にも使うから確実に競り落とそうと思えば少し心許ない。
……よし、ハンターのお仕事して真っ当にお金貯めよう。
マジックアイテムが出るダンジョンに潜ってアイテムを根こそぎ掻っ攫えばきっと充分な額が貯まると思う。
下着屋も一段落ついて、店の人に任せられる状態になっている。
そろそろ長期間離れても問題ない。
なんてったって俺には【アイテムボックス】がある。
ダンジョンに潜った時、他のハンターパーティのように、取捨選択をしなくていいというアドバンテージはデカいはずだ。
何だったら貴族にカールハインツの店の特別な下着を販売に行けば良い。
やらないと言ってはいたけど、売り込みに行くのは別だよな。
うん。
あと、限定カタログとか作ってみるか?
きっと喜んで購入してくれるだろう。
そうしてダンジョンの為に、本格的に戦闘訓練を頑張る事にした。
毎日続けていた、外部の魔素を使用する環境魔法も、最近なんとか形になってきた。
色々試してみたけど、エレオノーレさんに今まで通りに魔法を撃ってもらうのが一番効果的だった。
零れ落ちた魔素の感覚を追いかけて、希薄になった目に見えない環境魔素を感じ取れる様になってきている。
ここ最近はエレオノーレさんの補助なしで環境魔素を感じとれるようになってきたので、後の問題は発動だけだ。
まだ、環境魔素だけで魔法を発動させるのは、正直言ってかなり難しい。
今は自分の魔力を呼水に使い、環境魔素を取り込んで魔法を発動させている。
ベースの魔法を手元に置いておけば、環境魔素を吸い取り自動で何発も同じ魔法が撃てるようになった。
単発式の拳銃と、機関銃くらいの発動差がある。
「発動スピードが上がって、威力はそのまま、消費魔力は減少って、それは反則だと思うわ」
などとエレオノーレさんにだいぶ文句を言われてしまった。
「環境魔素を感じ取るなんて変態技術だわ!」と訳の分からない暴言を吐きながら必死で環境魔素を感じ取ろうと努力するエレオノーレさん、プライスレス。
顔を真っ赤にしながら魔素に集中しているのだが、両手を前に突き出し、アンテナの様にしてフラフラ動かしている。
その姿を、ニヨニヨと眺めていたら背後から何か危険なものを感じた。
慌てて振り返ると、表情が抜け落ちたジャックがジッと俺を見ている。
目のハイライトが無くなって、何も写さない真っ暗な瞳が俺を見ている。
ただ、こちらを見ているだけなのに、全身からぶわっと嫌な汗が湧き出して、慌てて別の訓練に入った。
しばらくはジャックの視線を感じていたが、真剣に訓練に打ち込んでいるうちに無くなった。
な、なんだろう……、い、命拾いした気がする……っ。
魔法はかなり進歩したが、武術に関しての進歩は亀の如くである。
一応、ナイフの練習は無事組み手に入ることが出来た。
ヤンスさんやエレオノーレさんがメインだが、時にはオーランドやジャックが相手になることもある。
勝敗に関して言えば、俺は全敗だ。
刃を潰してるとはいえ、切り付けられたらめちゃくちゃ痛いし、アザになる。
突きに関しては寸止めだけど、毎回死を覚悟している。
それぞれ攻撃スタイルが違い、エレオノーレさんはヒット アンド アウェイタイプだ。
鋭い突きと、ステップでこちらの隙と急所を確実に突いてくる。
あまり力が無いので、目や首など、急所を狙われる事が多く、生きた心地がしない。
目がマジなのだ。
「環境魔素の鬱憤、晴らしてません?」
「気のせいよ。真剣にやらないと意味ないでしょ」
組み手が終わった後に聞くとそっぽを向いてそう答えられた。
なんでこちらを見てくれないのかな?
オーランドは技が上手い。
押したり引いたりの駆け引きとフェイントがほとんどで、あまり力技は使わない。
普段の剣はどちらかといえば素直なパワータイプなのに何故?と聞けば、力技で行けば一発で俺が吹っ飛ばされて練習にはならないのだそうだ。
圧倒的に弱い俺なので、オーランドが駆け引きを練習するのには丁度良いと言われた時には膝から崩れ落ちた。
そろそろフェイントに引っかからない様になってくれないとオーランドの練習にならないんだとか。
ごめんよ、まだまだ振り回されてます。
だって見分けがつかないんだもんよ。
逆にジャックは体格と腕力を活かしたイメージ通りの攻撃スタイルである。
覆い被さる様に上や背後から繰り出されるナイフは、刃を潰してるとは言え、やはり恐ろしい。
一応力加減はしてくれているようだが、一撃一撃がとても重く、真正面から受けてしまえば、腕が痺れてまともにナイフが振れなくなる。
受け流し、避けがメインになるが、敵にジャックの様な体型の人がいないわけが無い。
最近はごく稀にパリィできる事も増えてきた。
この経験が自分を助けると思って頑張ろう。
でも、ジャックも目がマジなんですが、なぜ?
めちゃくちゃ怖いよ。
そして、ヤンスさんはいろんな戦闘スタイルが出来る。
スピードタイプ、技タイプ、そして、小柄ながらパワータイプも。
それに合わせて、受け方や隙の見つけ方が異なり、毎度青痣だらけになる。
しかも途中でタイプ変更したりもするし、駆け引きもオーランドの比ではなく上手い。
視線だけでフェイントを掛けてきたり、ナイフで攻撃すると見せかけて足払いしてきたりと、もうぼっこぼこにされる。
ゲームのキャラクターみたいに空中で体を捻って、コマみたいに回転しながらナイフや蹴りを繰り出してこられたら、逃げたり受けたりする前に「スゲー」と感心してしまう。
組み手で一番辛いのも、勉強になるのも、ヤンスさんだった。
因みに、俺が商業関係でドタバタしてる間にも、皆んなは幾つかのクエストを受注していた。
パーティ皆では受けず、三、四人でローテーションを組んで出る。
帝都周辺で、日帰りできる物を選んで行い、無理をしない。
生活が落ち着いた俺も、そのローテーションに組み込んでもらって参加している。
薬草の採取や、食肉の納品、ゴブリンやイノシシ系の駆除等、余裕を持って当たれる内容が多い。
ゴブリンは初めての人型の魔物で、倒す……いや、討伐する事にはかなりの抵抗があった。
ナイフで斬りつける事がどうしても出来ず、魔法で遠くから撃って倒した。
それにオーランドはすぐ気づいたらしい。
拠点に帰ってすぐに説教された。
魔法が使えないエリアなどもあるから、すぐにとは言わないが、きちんとナイフでも倒せるようになれ、との事だった。
俺がナイフで倒さず、魔法で倒そうとする事で、周りのパーティメンバーを危険に晒してしまう事もあるのだから、と。
改めて言われて、ハンターの仕事は命懸けなんだ、と再認識してしまった。
そんな日々の中で環境魔法を進化させていく。
周りの魔素を指先に集めて、指先からアースバレットの弾を鏃型にして連射してみたり、気圧を調整して雨雲を呼び、雷の雨を降らせてみたり、辺り一面を凍らせてみたりできるようになった。
どうやら、それは周りから見ると、無限の魔力があるように見えるらしい。
でも実際の俺の魔力量は上の下くらいだとエレオノーレさんが言っていた。
何だったら中の上レベルだと俺は思っている。
とにかく練習あるのみだ。
いつも俺不運を読んで下さってありがとうございます。
いいね、ブックマーク、評価、感想とても嬉しく、励みにさせていただいています。
誤字報告もとても助かっています。
誠にありがとうございます。
皆さんのおかげでローファンタジー日間ランキングのみならず、週間ランキング、月間ランキング、総合日間ランキングにも入ることが出来ました。
深く御礼申し上げます。
ちょっと前と比べると驚く程に数字の回転がめちゃくちゃ早く、正直、理解が追いつかないレベルです。
こう、キリ番での間話を書く暇もない速さで、ありがたく、恐れ多く、小心者の私には少し怖くもあります。
来週からは、予告通り春の更新祭りを行います。
しばらくはバトル回になりますので、お楽しみいただければ幸いです。




