13 久しぶりのお絵描き、楽しい……
さて、コートのデザインの協力という事で、席についているわけですが。
ネックは斬新に思えるデザインと機能性。
グリーンフライフォックスを使用するって事は決定事項なのだけど、グリーンフライフォックスは風の属性が強い素材だそう。
魔法のコートという事で防具屋に依頼されたものの、どういう方向性で作って欲しいかなど聞いても「とにかくハイセンスで可愛く。貴女に任せるわ」としか言われない。
完全にぶん投げだ。
そういう奴に限ってデザイン画を見せたら気に入らないって言うんだぜ。
無駄に時間を掛けさせて、何回もリテイク出した上で、ほぼほぼ初期のデザインでゴーサイン出したりするんだ。
俺、知ってる。
デザイン画を見せてもらったが、ショートコートか、ロングコートか、くらいの違いしかない。
お貴族様だから毛皮を全面に利用しなければケチケチしていると見られるんだってさ。
貴族としての体面が云々って。
お貴族様面倒だな。
見せてもらったデザインは全部メリハリの無い似通ったものだ。
襟はあるけどなんていうかこう、もこっ!って感じで、野暮ったくて、すごく太って見えるのだが……俺だけ?
例えばフードを付けてムートンと合わせる。
内側にもっこもこにグリーンフライフォックスの毛皮を使えば何年か前に流行ったコートみたいになるよな。
あとは風の属性が強いのであれば、内側に薄いコートをいれて、外側で足元を閉じないデザインにして、風が出続けてコートがふんわり翻り続ける様なやつとか?
紙をもらいカリカリとイメージを描き付けていく。
領主んとこのお嬢さんがどんな顔でどんな体型かは知らないけど一般的な素体を描いてイメージを乗せていく。
普段は四頭身を描く事が多いけど、流石に八頭身で描くよ。
ムートンファーなコートと、裏はグリーンフライフォックスと書き付け、内側イメージをサイドに描く。
ふわりと翻るコートを描いて魔法のなんかしらで浮かせ続けることができたら、とも書いておく。
コートのデザインはかなり俺の好みで太もも丸出し状態だ。
このコートの合わせから覗く肌色が男を狂わすんだよ!
いやーエロいエロい。
総毛皮のコートって言うとハリウッドセレブなイメージか、マフィアのボスが素肌に着てる様な両極端なイメージしかない知識が貧弱な俺。
カリカリカリとそのイメージは紙の隅の方に落書きする。
襟と袖の折り返しを大きく取ってそこにファーを付けて細見せ、小顔効果ってやつもあったよな……。
三体目の素体に着せて横に注釈で細見せ、小顔効果と入れる。
コートといえばダッフルコート!
あのストンとしたシルエットの中に隠されてる女の子のボディって見ちゃうとスペシャル感があるよな!
ほんとどうして隠されると見たくなるんだろうね。
あー…冬のコーデって言ったらマフラーとイヤーマフとか着けてる女の子って可愛いよなー。
ロシアのもふもふの帽子なんかもあったかそうだ。
カリカリカリカリ カリカリカリカリ
久しぶりのお絵描きで没頭してしまった様だ。
B4くらいの用紙いっぱいに四体の素体とその他雑多な落書きがぎゅうぎゅうになっている。
所謂キツネマフラーの絵なんかもある。
コレ結構汗かきそうだよなぁ、乾燥機能あるとあったかくて快適に過ごせそうだ。
書いとこ書いとこ。
夢と、煩悩と、妄想がぎっちり詰まっている。
もうこれ以上は描く場所がない。
なんで俺は最初にこんなに大きく描き始めたんだろう……。
しょんぼりとしながら顔を上げると皆んなが俺を見ていた。
「はっ!」
しまった。
今はお嬢様のコートのデザインの話し合いの途中だった……。
「す……すみっ……すみませんんんんっ!つい夢中になって……っ」
「すっごいじゃない!何このデザインの山!斬新で!可愛い!今まで見た事ないわ!」
俺が頭を下げるのと、レジーナが紙を取り上げるのは同時だった。
「話し合いの途中で黙り込むからどうしたのかと思えば急にガリガリ描き始めるし、何回呼んでも返事しないし、途中でぶつぶつわけわかんない言葉喋り出すし、新手の嫌がらせかと思ったけど!こんなに素敵なデザインを出してくれてたのね!わかるわ!思い付いたら書きつけないと二度と生まれてくれないものね!」
「え?あ、いや……」
紙を胸に抱いてクルクル回りながらレジーナが語り出す。
ニヤニヤしたヤンスさんがそっと近寄ってきて「コートから覗く脚、エロいエロい」と囁いてきた。
焦って顔を上げると妄想と性癖が漏れ出てたぜ、と大変“イイ顔”で俺を見ていた。
めっちゃ恥ずかしい!
顔が真っ赤になるのがわかる。
耳まで熱い。
いつの間にかエレオノーレさんとジャックも帰ってきてる。
全然気が付かなかった……っ!
「にしてもちょい変わった感じだけどキリトって絵上手いな」
「そうね、目が大きすぎる気がするけど描き慣れてる感じよね」
「上手」
「……っ!」
なんていうか褒められ慣れていないからものすごく恥ずかし嬉しい。
照れてしまうじゃないか。
テレテレ。
そんな俺の肩にポンッと誰かが手を置いた。
「ありがとう!アタシもイメージめっちゃ湧いてきたわ!コレで勝てる!本当にありがとう!後でギルドにお金渡しとくね!」
キラキラを通り越して、目をギラギラにしたレジーナはそう言うや否やくるりと向きを変え、自室と思しき部屋に入り、バンっ!と扉を閉めた。
親父さんが申し訳なさそうに晩飯の用意と客室、風呂場、トイレの場所を教えてくれた。
ありがたく食事をして、言われた通り自分でお湯を張ってお風呂に入った。
湯船がとても汚れていて、気持ち悪かったので高圧洗浄で綺麗になるイメージと、お風呂の洗剤のCMと、光除菌をイメージして、クリーン魔法まで生み出せた。
水と風で湯垢や皮脂汚れを浮かせて落とし、分解消去、その後、消毒、除菌できるっぽい光魔法的なやつ。
結構魔力を持っていかれ、お風呂から上がったら程よい疲労感と風呂上りの心地良さから、ベッドに倒れ込む様にして眠ってしまった。
翌朝寝ている所を風呂場を見て大喜びしたレジーナに飛びつかれて目が覚めた。




