116 ランジェリーレボリューション 7
※ご注意下さい※
「ランジェリーレボリューション」のタイトルの付くお話は、下着が話題になります。
苦手な方は読み飛ばして下さい。
下世話な話や、直接的な表現はほとんどありません。
霧斗にとって、下着の研究は絵のリアリティの為です。
断じてえっちな下心ではありません。(……多分)
読み飛ばす方用に、あとがき部分にあらすじを載せています。
エデルトルート様の来訪から、怒涛の二週間が過ぎた。
ブリギッテが毎日毎晩最低限の休憩だけで働いて、なんとか、仕上がった。
途中、デザインの細かい修正などを挟んだので、俺も睡眠不足である。
実際に仕上げてみたら印象が違い、土台以外作り直しとか、ブリギッテの職人魂がやばかった。
全員でそれぞれ三回ずつ、合計十五回、不備がないか確認して、全てを絹で丁寧に包み、木箱に収めている。
五つの木箱を持たなくてはならないブリギッテには申し訳ないが、店主は荷物を持ってはいけないそうなので、なんとか頑張ってほしい。
ならばクリスタ達に持たせれば、とは思うが、残念ながら見習いは皇宮に上がれないのだとか。
細かいルールが多くてめんどくさいよね。
肝心のデザインだが、全てのデザインにおいて、下着の上下二点にベビードールを足した三つで完成するものになっている。
清楚系は全て真っ白で、シルクの下地を透ける薄い布が包んでいる。
銀糸を使った繊細な刺繍の縁部分と、ゆったりふんわりとドレープを付けた土台は、品よく胸の形を美しく魅せてくれるだろう。
ベビードールは太ももの中ほどまである艶のあるシルクの裾を大きなレースが縁取り、絶妙な透け感を演出している。
雪の精か、砂糖菓子の精に見える事請け合いだ。
可愛い系はローズピンクと、コーラルピンクを重ねて大きなリボンをメインに据え、フリルと細いリボンでフリフリと纏めてある。
背中側は、留金を大きなリボンで隠し、ベビードールの背中部分に被る様になっている。
リボンが妖精の羽根に見えなくも無い。
きっと皇帝には喜んでもらえるだろう。
綺麗系は藍色と白で統一し、夜空や宇宙をイメージして小粒、極小粒の宝石を縫い付けてある。
そしてその上に白の透ける薄い布を重ねた。
ヴェールとか紗とかそんな感じの布で、濃い藍色を柔らかく見せてくれる。
レースは控えめに、肌の白さを際立たせるデザインにした。
あまり肌の露出は無い様に見える。
しかし実は左脇に重ねてあるのでわかりづらいが、深くスリットを入れてある。
身体を捻るとちらりと肌が覗くのがとても罪深い。
その隙間から手を滑り込ませたくなるに違いない。
エロカワ系は、寄せて上げまくるエンジェルマックスな下着を採用しており、更に外側からもリボンの様なデザインで、中央に引っ張る形になっている。
しっかりとした渓谷を作り出してくれるはずだ。
胸を覆う布地が一番少なく、下着も浅履きタイプで、後ろはリボンで調節する様になっている。
リボンを結ぶと、ほんの少しだけ、尾骶骨辺りに穴が空いて、何が見えるわけでも無いが、無駄にドキドキするデザインとなっている。
ベビードールも背中が大胆に開き、肩紐ではなく首に紐を掛けて、背中で結ぶタイプにしている。
ボディ部分は透ける布を丁寧に染めた物を使用して、リボンで編み上げているので、とてもセクシーである。
色は濃いピンクと黒のレースというど定番な組み合わせだ。
間違いなく皇帝の本能が覚醒してしまうだろう。
日常シンプル系は、言葉そのままに、高級コットンを惜しげもなく使用し、シンプルながら装着性、着心地を極限まで考え抜いた逸品になっている。
菫色の優しい上下と、キャミソールの様に柔らかく着心地の良いシンプルなベビードールはスリップと言っても構わないだろう。
シンプルとはいえ、胸元には太めの糸で編まれた素朴ながら美しいレース編みと、着心地を邪魔しないリボンが取り付けられている。
可愛らしさは一切損なわれていない。
普段使いに最適な逸品である。
俺、頑張った。
先に頂いていた他のお客様の注文もあるが、この国で一番貴き女性からの注文だ。
申し訳ないが、最優先で、総員掛りで丁寧に仕上げさせてもらった。
更に、謁見に必要な“最低限”のマナーも、エデルトルート様直々に叩き込まれた。
あくまでも、皇宮に上がって、謁見、退宮までの流れだけだが、注意項目が三桁もあり、指先ひとつひとつにまで注意が飛んだ。
正直、もう遠慮したい気持ちでいっぱいです。
そして迎えた献上の日。
皇妃様のお肌に触れる物なので、店のトップである俺と、実際に試着室で確認できるブリギッテの二人が代表で持ち込む。
直前までは見習い三人組とエレオノーレさんとデイジーも手伝ってくれるが、皇宮に入るのは俺達二人だけだ。
事前に、エデルトルート様に連絡済みなので、中身の改めは女性がやってくれた。
謁見室に連れて来られた俺達は指定された位置で、教えられた通りに跪き、頭を垂れる。
荷物はメイドさんを手配していてくれた様で、俺たちの後ろで一人一つ木箱を持ち跪いていた。
あの姿勢で、震えないなんて、すごい筋力である。
「我らが国母 麗しの皇妃様 御成です」
テレビでしか聞いたことのない台詞を、ここで聞くとは思わなかった、などと現実逃避しながら自分の足の先を見つめる。
しゅっしゅっと衣擦れの音が響き、皇妃様が着席された。
「面を上げてくださいな」
柔らかな声に促されて顔を上げると、そこには傾国の美女がいた。
豪奢な金の髪は複雑なハーフアップに纏められて緩く波打ち、完璧なパーツの配置をされた透明感のある白い顔。
頬は薔薇色、唇は艶やかに紅く、蒼い瞳は潤んでいる。
弓形の眉と、小ぶりな鼻はツンと上向きで、その顔を幼く見せた。
色っぽいと清楚の狭間の、なんとも言えない独特の雰囲気。
少女から女性に変わるその狭間の様な、色気なのか?どうにも目を惹いて離さない空気がある。
所作もゆったりおっとりとしていて、とても優雅だ。
そりゃあ皇帝が溺愛するはずだ、と納得する程に美しい女性だった。
俺としてはここまでくれば、鑑賞用の美人である。
万が一にも恋情など抱けない。
「キリト、と言いましたね。先の鏡、とても気に入っておりましてよ。此度、また、わたくしに献上したい物があると聞いております。是非、見せてくださいな」
(ぎゃ〜っ来たー!)
想定外の流れ!
誰だよ皇妃様から声は掛けられないから安心しろって言った奴ーーーー!
内心悲鳴を上げつつ、顔に出さない様に気を付けるが、頬が引き攣っているのが自分でもわかる。
「ここで広げてもよろしいのでしょうか?」
彼方から求められた献上品で、見せてくれ、と言われているから、ここで開けるのが本来正しい事なのだろうが、いかんせん“下着”である。
後に皇妃様の珠玉の肌を包み、守る物である。
万が一、騎士の目に触れでもしたら大惨事だ。
皇帝にでも知られたら、最悪俺の首が飛ぶだろう。
いや、俺だけでなく、この場にいる男性は全て、かもしれない。
失礼を承知でエデルトルート様を見ながら聞くと、一つ頷き、皇妃様に耳打ちをする。
皇妃様は鷹揚に頷き、ニコリと微笑んだ。
エデルトルート様がぱんぱん、と二回手を打つと繊細で豪奢な衝立を持った侍女二人が現れた。
その衝立は、総レース張りになっていて、御簾の様に向こうはある程度透けて見えるが、細かくはっきりは見えない物になっている。
ブリギッテを見て「献上品を」と伝えて皇妃様の背後に回るエデルトルート様。
やべぇ有能さじゃね?
「シツレイ・イタシ・マス」
緊張でガチガチのブリギッテが立ち上がると、背後のメイドさん達も音を立てずに立ち上がり、滑る様についていく。
どんな筋力してるの?
衝立の向こうに入ると、こちらからはシルエットしか見えない。
姿は制限されても、音は聞こえる。
しゅるり、しゅるり、と良い布が擦れる音が、謁見室中に響き渡る。
「まぁあっ!」「きゃあっ!」「うふふ、素敵ね」など、ひとつ蓋が開けられる度に、皇妃様の可愛らしい声が上がる。
どうにも乙女の買い物か、私室を覗き見している気分になって、とても居心地が悪い。
ビシッと揃って立っていた騎士達も、視線を逸らしたり、戻したりして、ソワソワしている。
仕事としてきちんと見ておかねばならないという気持ちと、男として見てはいけない気持ちの二律背反なのだろう。
あと何より皇帝が怖い。
そして、長い。
きゃっきゃウフフと一つ一つをしっかり吟味していて、ブリギッテに説明を求める為、一つの下着で五分や十分は優に掛かる。
だんだんと足が痺れてきて辛い。
涙目で、チラリと壇上から(自主的に)降りて来ている執事さんらしき人に視線を遣れば、着いている足を交換してもいいよとジェスチャーで教えられた。
有難いが過ぎる。
途中転びそうになったものの、どうにか耐え切った。
ブリギッテは細かい説明を求められているらしく、小声でジェスチャーを交えながら、あれこれ説明している。
体感で、四十分程すると衝立が撤去され、満足気に頬を上気させた皇妃様がこちらを見ている。
ブリギッテが元の位置に戻ってくると、一呼吸の後に話し始めた。
「とても素晴らしい献上品でしたわ。わたくし、貴方がたに、皇室御用達の栄誉を贈ります」
再び蓋をされて並べられた下着達を、嬉しそうに見つめながら爆弾発言をする。
当然周りも知らなかったらしく、ざわついているが、何より乱れて騒いでいるのは俺の心中だろう。
(ちょっとマジで聞いてないよ?!エデルトルート様?!!)
不躾にエデルトルート様を見やれば、彼女もまた驚いて目を丸くして皇妃様を見つめていた。
こうして、大いに周りをざわつかせた俺達は、笑顔の皇妃様に見送られ、退宮した。
用意された馬車で店の前まで送られて、店に入るまで、緊張と、混乱で頭が真っ白になっていた。
緊張の糸が解けたブリギッテは、自分一人では立てないほどで、俺達二人はヨロヨロと支え合いながら店に戻ったのだった。
読み飛ばし用あらすじ
エデルトルートが来て約二週間。
無事五種類の下着セットが完成し、献上する日を迎えた。
全員で品物に不備が無いか何度もチェックして、霧斗とブリギッテのみ皇宮に向かった。
謁見に必要な教育なども詰め込み学習で学んだ二人は傾国の美女(皇妃)に出会う。
豪奢な金髪を複雑なハーフアップに纏め、透き通る白い肌に、薔薇色の頬、紅い唇、蒼い瞳。
色っぽいと清楚の狭間の独特の雰囲気を持つ美女。
所作も美しく、皇帝に溺愛されるのも納得である。
ここまでいけば、霧斗にとっては観賞用の美人になる為、一目惚れなどは皆無。
一言二言言葉を交わした後、献上品の見聞がスタートした。
品物の性質上、レースの衝立が立てられ、緊張しまくったブリギッテが対応する。
中々に苦痛な時間が過ぎ、皇妃の口をついた言葉は「皇室御用達にする」だった。
周りがざわつき、放心と混乱を招いて退宮。
馬車で店まで帰り、二人で支え合いながら店に戻った。
あとがき
いつも俺不運を読んでくださってありがとうございます。
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とっても嬉しいです。
もう少しだけランジェリーレボリューションが続きますが、今しばらくお付き合い下さいませ。




