間話 ○視点 霧斗 【異世界の年越し】
あけましておめでとうございます。
お正月の間話です。
本編(というかこちらも間話感ありますが……)は一つ前のお話です。
本年も俺不運をどうぞよろしくお願い致します。
そういえば、詳しく触れた事は無かったけれど、この世界には四季もあるし、時間も六十秒で一分、六十分で一時間、二十四時間で一日だし、一週間は七日だし、一月は三十日だし、月の数え方も一月二月、と数字がふられていて、俺としては馴染みがあって理解しやすい。
しかし、ひとつだけ元の世界と大きく異なる事がある。
なんとこちらでは、一年が十六ヶ月あるのだ。
一季節が四ヶ月、冬の三ヶ月目が一月に当たり、年の初めである。
いわゆる正月だ。
俺の初めての異世界での年越しは、農村でする事になった。
なんだかんだでこの村に愛着もあるし、もう第二の故郷と呼んでも良いのかもしれない。
自称貴族の使者(笑)共のおかげで逃げ込んだ農村ではあるが、家は借りられたし、村の人達は温かいし、お金は何故か増えるしで、とても過ごしやすい。
数組のハンター達もこの村で越冬しているが、ダンジョンには潜らず、村の農作業を手伝ったりして、食べ物を分けてもらっているらしい。
いよいよ明日が今年最後の日、十六月三十日大晦日である。
こちらでは特別に年越しそばとか特定の何かを食べたりはしないらしい。
食べ物が少ない時期でもあるし、冬の間はご馳走を食べるなんて事も無いそうだ。
「でもやっぱり年越しそばは食べたいんだよなー。蕎麦粉も買い込んだのがいっぱいあるし蕎麦打ちチャレンジしてみたい」
というわけで、今夜のご飯担当は俺です。
うちのパーティ、クエスト中は基本的に作業固定なんだけど、日常で過ごす時は当番制になっている。
例えば買い出しとか、料理とか、掃除とか。
例外的に洗濯は俺の担当である。
洗浄魔法で一瞬なので、夜寝る前に一人ずつまとめて一気にやってしまう。
とはいえ、あまり得意な作業でない場合は上手な人にヘルプを頼む事も少なくない。
主に俺やオーランド、ヤンスさんが料理の面でよく助けてもらっている。
蕎麦粉はあるが、蕎麦打ちなんてした事ないし、やり方もわからない。
そんな中で十割蕎麦なんて無謀な事はできない。
デイジーに相談したところ、蕎麦粉のガレットの作り方ならわかると言われたのでそれで代用することにした。
細く切って茹でたらなんとかなるでしょ。
蕎麦粉と小麦粉を八対二の割合でふるい混ぜ、塩と卵を入れる、とあるが、卵は蕎麦には入っていないのでそっとよけておく。
水をダマにならない様に少しずつ入れて混ぜ、牛乳を入れる。
……牛乳は同量の水に差し替えようか?
ガレットはそのあと、フライパンで焼く、と書いてあるので、多分クレープ生地みたいに水っぽくなるんだろう。
液体になられると困るし、そこは様子を見ながら少しずつ足していこう。
そう決めて、ふるって混ぜた粉に塩を入れると、少しずつ水を足していく。
ポロポロしていた塊が段々と滑らかになってきたが、多分もう少し捏ねないといけない気がする。
「これ、結構力いるな……」
「代わる」
「うおっ!」
汗を拭きながら捏ねていると、背後からにゅっとジャックのデカい手が現れて、めちゃくちゃ驚いた。
俺が見た事ない料理を作っているのが気になったようで、我慢できずに手伝いに来てくれたらしい。
有難く交代してもらい、手を洗う。
蕎麦打ちをジャックが代わってくれたので汁の方に取り掛かる。
醤油なんて無いので、鶏ガラスープをベースに甘じょっぱく仕上げるしか無いだろう。
【アイテムボックス】の中のスープストックから、鶏ガラスープを取り出し、塩を足して味を整える。
味が薄いので、鳥皮から採った鶏油もどきを少し足して少しだけスープにとろみを付けた。
三日前にジャックと一緒にチャレンジした、川魚のなんちゃってかまぼこと、ネギを切る。
なんちゃってかまぼこは、三枚に下ろした魚の身をすり身にして、塩を足して綺麗に洗った木の板にペタペタ盛って、蒸しただけの物だ。
色んな川魚で作ってみたけど、綺麗な水につけて泥を吐かせたという高級ナマズが一番美味しかった。
打ち上がった蕎麦を細長く切って茹でる。
素人が切っているので、太さがバラバラなのは大目に見てもらいたい。
仕上がったのは、蕎麦とは程遠い、むしろラーメンに近いものだったが、蕎麦粉を利用しているので蕎麦だと言い張ろう。
「というわけで、本日は大晦日なので、晩御飯は年越し蕎麦です」
目の前に置かれた大振りのスープボウルを覗き込み、オーランドがすごい顔をする。
「キリト、麺がスープに沈んでいるんだが……?」
「そういう料理だから。麺の太さがバラバラなのは失敗してごめんだけど、味は保証するよ」
そう言って、俺は自分用に木を削って作った箸で蕎麦を食べ始める。
味は本当に蕎麦というより、クセのあるあっさりラーメンだ。
なんちゃってかまぼこも、かまぼこよりナルト寄りである。
スープに浸かった麺類という珍しい料理に、皆んな目を丸くしてまごまごしていたが、ジャックが見よう見まねでフォークで食べ始めると、恐る恐る手を伸ばし始めた。
はじめは周りを見ながらおずおずと口にしていたが、一口食べたら目の色を変えてモリモリ食べてくれた。
こっちでラーメン作ったら売れそうだな。
まあ、めんどくさいからやらないけど。
因みに俺達が今座っているテーブルはこたつになっている。
勿論電気などは利用できないので、火鉢をテーブルの下に置いて、テーブルに大きな布を掛けただけではある。
椅子の足から熱が逃げてしまうので、椅子の足元には布を別途貼ってある。
あまりの寒さに耐えられず、工夫してみたが、中々に快適だった。
この炬燵もどきを、ヤンスさんとオーランドがめちゃくちゃ気に入って、よっぽどの事がないと出てこなくなってしまったのは予想外だった。
「はぁ、これは最高ね……。めちゃくちゃ美味しいわ……」
「ありがたいですけど、全然蕎麦じゃないんですよね、これ。醤油があればもう少し蕎麦っぽくなると思うんですけどね」
褒められて嬉しいが、正直納得いってないので、ちょっともにょる。
「いや、そんな謙遜しなくていいって。見た目はびっくりするけど、これマジで美味いって!」
おかわりまでしたオーランドがニコニコ此方を見ている。
ジャックもデイジーもヤンスさんまで深く頷いていて、皆んなが喜んでくれたからまぁいいかと結論付けた。
年越しそばを食べ終え、今年あった事を話し合いながらゆっくりと年を越す。
それがこちらの年越しの過ごし方らしい。
国が変われば過ごし方も変わるが、『飛竜の庇護』はこの国流で年を越すのだとか。
お正月(という言葉は此方には無いけど)は日が昇る前に家の前に出て、焚き火を囲みながら、初日の出を待ち、差し込む光に感謝しながら今年の抱負を言い合うらしい。
この寒い中、夜中から外に出るなんて信じられないけど、郷に入っては郷に従えだもんね。
あれこれ話しているうちに、夜が更けていき、そろそろ空が白んできたので厚着して外に出る。
既に幾つかの家の前では焚き火が焚かれ、家族で色々語り合っている様だ。
玄関の前には、昨夜降った雪がそこそこ積もっていて、雪かきも必要そうだった。
「さっむっ!」
「こたつが恋しいわ〜キリト早く」
皆カタカタ震えながら小さく足踏みを繰り返して、腕を摩って待っている。
俺は急いで目の前にある雪を【アイテムボックス】に収納して、焚き火台を取り出した。
直径五十センチくらいの、丸いパラボナアンテナの様な金属のお皿に、折りたたみの足がついた焚き火台には、既に薪が組み上げられ、中には着火剤である杉の葉や紙屑が収まっている。
魔法で火をつけるとすぐに薪に燃え移り、火が大きくなっていく。
火が大きくなるにつれて、ジワジワと染み込む様に、温かさが身体の表面を炙ってくれるが、変わらず背中が寒い。
薄暗い景色がより寒さを助長している気までする。
「寒いですね」
鼻とほっぺを真っ赤にして、白い息を吐きながら笑うデイジー。
可愛いなぁ。
出会った頃と比べて、頬がふっくらして、顔色も良くなった。
髪の毛だって艶々だ。
笑うことも増えて、とても健康的になったと思う。
マフラーでぐるぐる巻きになっているその姿が可愛くて、微笑ましい。
うっかり頭を撫でそうになってしまった。
危ない危ない。
「そうだね。来年は年明けの時に着るダウンジャケットみたいなの作っとかないとね」
【アイテムボックス】から毛糸で編んだストールを取り出してデイジーの肩に掛けてあげる。
恨めしそうに此方を見ているエレオノーレさんに気付いたので、ジャックにも一枚渡すと、バックハグしながら掛けてあげていた。
このリア充めが!
そんなこんなで山の向こうから陽が差し始める。
「あけましておめでとうございます。今年も一年、どうぞよろしくお願いします」
「?どうした急に」
一応言っとかねば、と思って新年の挨拶をすれば案の定きょとんとされる。
「あっちでは新年最初の挨拶なんだよ。やっぱり言わないと、なんか落ち着かなくてさ」
「ふーん。でも、なんかそれ、いいな。今年も一年よろしくな!」
「「「よろしく(お願いします)」」」
皆んなで笑って挨拶しあった。
なんだかんだで今年もよろしくね。
そして春には再び貴族に煩わされて、皇宮に連れて行かれるなんて、この時の俺達は想像もしていなかった。
束の間の、平和な時間だったのだが、間違いなく幸せだった。




