112 拠点での日常
あけましておめでとうございます。
今年も霧斗達の冒険をよろしくお願いします。
今年も毎週月曜日零時で更新して参ります。
流れはおかしいですが、お正月に下着の話もなんなので、ちょこっと日常を噛ませます。
ここ最近、(ほぼ、巻き込まれ事故感溢れる)商売の話ばかりなので、ダラダラ日常を過ごしているように思われるかもしれないが、実際は俺達は、本格的に戦闘訓練を頑張っている。
俺はあちこちに連れて行かれて殆ど参加できないけれど、他の皆はハンターの仕事も受けている。
デイジーやエレオノーレさんが取ってきていた薬草なんかは、乾燥を終わらせた物を【アイテムボックス】に保管している。
毎朝、朝日と共に起きたら、ベッドメイキングと身だしなみを整えて、訓練場でランニングを行う。
これはパーティ全員が行なっている事だ。
起きる時間に多少のズレはあるけれど、ハンターはやっぱり体力ありきになるので、しっかりと走る。
まぁ、前日が忙しかったり、徹夜で書類を書き上げていたりする人はたまにサボったりもする。
ウチのパーティで一番体力があるから一日くらいはサボっても平気だろう。
息が上がって、しっかり汗をかくまで走ったら、それぞれが自分に合わせたトレーニングを始める。
俺は、孤児院でもやっていた、ヤンスさんに習ったナイフの素振りをする。
順手での突きと斬り下ろしに横なぎ、逆手に持っての切り上げと横なぎ。
一つ一つの型をなぞる様にして振っていく。
訓練をはじめたばかりの頃はゆっくりだったが、最近では大分スピードを乗せられるようになってきた。
ナイフを構える事も覚束なかったのに、人間の成長ってすごい。
ヤンスさんからはまだまだだと笑われるけどね。
「じゃあ実際にやって見せて下さいよ」と文句を言ったところ、教えられた型を素晴らしく美しく、素早く行なってくれた。
まるで舞踊か何かの様で、更に攻撃力も充分に乗っているのがよくわかった。
確かに俺、まだまだだったわ。
調子に乗らず頑張ろう。
ナイフの素振りが終わったら今度は杖術の練習だ。
オーランドに教えられた構え、突き、はらい、殴打、受けを確認しながら丁寧に行う。
上段、中段、下段と動かしながら、ひとつひとつ動きの意味を意識しながら動かしていく。
無心で振っていると、型が段々と身に染み付いていくのがわかる。
正しく振ると、杖自体の重さがスピードに乗って、自分でも驚くくらいに速く動けることもある。
中々奥深い。
そういえば、デイジーも一緒に、ナイフと新たに購入した杖を使ってトレーニングしている。
思う様に振れないらしく、首を捻りながら素振りを繰り返していた。
はじめの頃の自分を思い出して、懐かしくなる。
拠点に住み始めてから、ほぼ毎日繰り返しているおかげで、ナイフや杖の扱いもかなりマシになった。
刃物を鞘から取り出す際に、指を切る事も無くなった。
たまに追加で、ヤンスさんに体術を習うこともあるが、そっちはまだまだへっぴり腰だ。
面白いくらいに、コロッコロ転がされている。
「まだまだだな。コレが形になって来たら、刃を潰したナイフも使って組み手するんだから、もっと頑張らないとダメだぜキリトちゃん」
転がって荒い息を吐く俺に、ニヤリと悪い顔で言うと、「お疲れちゃーん」と去っていく。
相変わらず、すごい人だ。
俺が怪我しない様に、手加減しつつ、問題点に気付かせて、尚且つその修正した動きを見せてくれる。
なのに全く息が弾んでいない。
どれだけ頑張ったらあの域に行けるのだろうか?
訓練場の土の上に大の字になってぜいぜい言っている自分との差が途轍もなく広いということしかわからない。
クールダウンが終わったら、水球とクリーン魔法でざっと汚れと汗を流して、調理係と清掃係に分かれて家事を済ませ、朝食だ。
それが終わったら買い出しや、拠点の調整、個人的な作業などを行う。
俺はブリギッテ達との商品開発や店舗計画の話し合いが殆どだ。
しかも、エイグルさんやウッツ達に声を掛けられて、なんだかんだ新商品の開発や、仕事の手伝いに駆り出される事もしばしば。
デイジーは孤児院に手伝いに行ったり、ジャックと一緒に畑仕事したり、保存食を作ったりしている。
オーランドやエレオノーレさんは追加でトレーニングしたり、汎用簡易魔法シリーズ用魔石の再現を研究をしたりしていた。
ヤンスさんは拠点のあちこちにトラップを仕掛けているらしい。
個人的な用事がない場合は、日帰り出来るクエストを受けているのだとか。
そんな生活の中で、俺はふと外部の魔素を使用した魔法を思い付いた。
色んなラノベで出てくる“自分の周りにある魔素”を使った魔法。
それが出来れば間違いなく魔法使いは強くなれるし、継戦能力と需要が上がるだろう。
思い付いたからといって、すぐに使えるわけではない。
何故ならばこの世界には無い技術だからだ。
ぶっちゃけ、この世界で魔法使いは、かなり地位が低い。
ごく稀に持て囃される者がいても、それは生まれ持った才能が理由の殆どを占めている。
保有魔力量の多さが強さ、と言い換えても良いレベルだ。
魔法だけでは戦い抜けないので、弓や、ナイフ、短剣で身を守りつつ、隙を見て魔法を発動して大打撃を与える役割である。
もしくは、飲み水が使える場合は、ほぼ水樽扱いである。
それ以外は、余程戦闘の才能が無ければ、厄介者扱いになる事も多いし、なんだったら足手纏いと言われるほどである。
なので、レベルが低いパーティでは、魔法使いは嫌厭される。
そうすると、魔法使い達は中々成長できない。
金のある家の子は、勉強して、練習出来るだろうが、市井の子供は飲み水の魔法か着火の魔法が使えたら御の字だし、それで生活することが出来る。
生きていく事には役にたつけれど、ハンターとしては二流三流。
ほんの一部の人間だけが持て囃され、その他は淘汰される。
それが、この世界の「魔法使い」だ。
でも違うだろ?
『魔法使い』って言ったら打たれ弱くてもダメージディーラーってのが王道じゃん。
今みたいに、魔力を無駄使いしながら、生まれ持った魔力量だけで、すげー人はすげーけど、ほとんどの人は中途半端で、足引っ張るから、あんまり歓迎されない、みたいなのは本当に嫌なのだ。
個人的な我儘だろうと言われようとも、嫌なものは嫌だ。
だから、三百年前の魔法の使い方を広めつつ、外部の魔力を利用した新しい魔法で、魔法使いをなりたい職業ナンバーワンにしてやりたい。
現在は、エレオノーレさんとデイジーに必要魔力量の調整にチャレンジしてもらっている。
ヤンスさんもたまに参加して、何だったら三人の中でヤンスさんが一番上手かったりもする。
そしてドヤ顔で去っていく。
それを見て二人が憤りながら奮起する姿はとても微笑ましい。
ヤンスさんが皆が見てない所で練習しているのを俺は知っているけど、それは内緒である。
というわけで、外部の魔力を使用するためには、まず最初に外部にある魔力を感知して、自在に動かせる様になる事だ。
それができなければお話にならない。
俺は毎朝のトレーニングの最後に、瞑想と、過度に魔力を込めた魔法を使う訓練をはじめた。
瞑想で自分の中の魔力の動きの確認と、魔力を注ぎ込みすぎた魔法を発動した後に溢れる魔素の観察をするためだ。
奇行を繰り返す俺を、パーティの皆は止めたり気味悪がったりはせず、遠巻きに見守りながらそれぞれのトレーニングを行なってくれる。
とてもありがたい。
さて、今日も全く収穫はなかった。
明日も、頑張ろう。
あけましておめでとうございます。
昨年は沢山読んでくださってありがとうございます。
どうぞ本年もよろしくおねがいします。
さて、『俺不運』二度目のお正月です。
後ほど間話を投稿させていただきます。
霧斗もアルマハルトで一年過ごしましたので季節のお話が投稿できますね。
本人は忙しくて気づいてないみたいですけれど。
では、今年も霧斗のドタバタな異世界生活を温かい目で見守ってあげてください。
 




