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12 レジーナ現る


 エレオノーレさんに連れられて彼らの常宿へ。

 大きな柳が庭にあり、小川が流れている。

 この小川は下流であれば洗濯物などに使用して良いとのこと。

 お風呂があるかと期待したのだが、この価格帯のお宿はタライとお湯を有料で用意するだけとの事。

 泣く泣くタライだけ借りて自分でお湯を作って、全身を拭った。

 ちなみにそれを聞いたエレオノーレさんが俺の残り湯を使わせてくれと言ってきたので、お湯を捨てて綺麗にしたタライをお部屋にお持ちし、新しくお湯を注いできた。

 借りたタライを宿泊グループ内で使い回すのはセーフらしい。

 どんどんお金がなくなっていく。

 いや、アイテムボックスにまだあるよ?

 あるけどね?

 収入の予定が無いのに支出ばっかり増えるのはちょっと……。

 ハァ……。


 そうして三人で食堂で飲み物を注文してオーランド達を待っていると、入口が大きな音を立てて開いた。

 何事かと見るとオーランドがこちらを見つけて駆け寄ってくるのが見えた。

 その顔は不自然に強張っている。


「何かあったみたいね」


 エレオノーレさんはそう言うと、給仕の女の子に三人分の飲み物代を多めに渡して席を立つ。

 俺とジャックも後に続いた。


「とりあえず三人とも何も言わずについて来てくれ」


 俺の腕をガッチリ握ったオーランドはグングン街を進んでいく。

 エレオノーレさんならまだしも何故俺の腕?と疑問を抱きつつ、鍛治工房や、薬草店などが並ぶ通りに着いた。

 迷わずある防具屋の裏に周り、そこにある小ぢんまりとした家のドアを叩く。

 薄く開いたドアからヤンスさんの顔が覗き、やっと来たか!と笑顔を見せる。

 俺達は出来るだけ静かに家の中に入った。


「あなたが!」


 ドンっと誰かが飛びついてくる。

 小さくて、軽い何かが俺の首にぶら下がっている。

 それは赤い髪をした女の子だった。

 大きな丸眼鏡をかけて、ショートボブにカットした赤い髪。クルクルとよく動く明るい緑の瞳。

 ピタッとした黒いシャツとレギンスにショートパンツ。

 分厚い皮の手袋をしていて、腰には色んな道具がジャラジャラ下がっている。


「え?誰……?!」

「アタシはレジーナ!防具屋オリハルコンの店主で、看板娘で、防具職人だよ!」


 目を白黒させる俺から離れて快活に言う少女、レジーナ。

 歳は十五。

 話を聞くと、『飛竜の庇護』に依頼をしてきた防具職人らしい。

 今回の無理難題の原因はなんと貴族のお嬢さん方。

 お茶会の席で思いついた試みらしい。

 自分と同じ歳の娘にこの冬のコートを作らせて誰が一番美しく、可愛らしく、最先端のデザインを身につけるか、といった札束で頬を殴り合う様な勝負だ。

 いつも頼んでいる仕立て屋以外を使用すること、となったらしく、ここの領主の娘からいきなり呼びつけられ、「わたくしの身に付けるものを作製するのだから最低でも店主でなくては」と、急に店長にさせられ、この冬の頭にグリーンフライフォックスの新しくて可愛くて美しい魔法のコートを用意する様に、と言われたそう。

 なんだそりゃ!

 完全にお嬢様達に振り回されているじゃないか。


 そこから急いで工房に帰り、手当たり次第に依頼を出したけれど、納品期限が短い上に捕まえにくいグリーンフライフォックスの依頼を受けてくれる人なんて居なかった。

 そして泣きついたのが馴染み客である『飛竜の庇護』のオーランドだった。

 いくらCランクパーティとはいえ、相性が悪く、捕まえにくいグリーンフライフォックスを最低限の数も納品は厳しいのではないかと思っていたそう。


 そんな状況の中の、今日だ。

 立派な体躯の艶やかな毛並み。

 魔力含有量も申し分ない。

 まさに最上の毛皮。

 しかも皮も綺麗に剥いである。

 香りの良い獣脂オイルまで出来ている。

 その獣脂オイルを毛皮に使用すると艶々のサラサラに仕上がるだろうとすぐにわかる出来である。

 グリーンフライフォックスの獣脂オイルなど、見たことも聞いた事もない。


 不可能を可能にした原因を聞いたら、なんと“迷い人”のおかげだと言うではないか。

 本来は既に決まっていないとならないデザインに行き詰まっていた事もあり、別の世界のデザインがあれば何か掴めるかもしれない。

 是が非にも呼んでほしい!となったそうだ。

 協力すれば、この家に泊めてくれる上に、追加料金も支払われるとの事。


 なるほど。

 そりゃあ、俺の腕を握るわけだわ。

 いや、別に協力するのはやぶさかではないけれど。

 説明も何もなく連れて来られてもなぁ……。

 せっかくお宿取ったのに……。

 そう思っていると、エレオノーレさんがポツリと言った。


「キリトはお風呂に入りたがっているわ」

「うちお風呂あるよ!お湯を自分で沸かすなら入り放題!」

「やります!」


 攻めどころを見つけたレジーナから提案が上がり、即決。

 自分で沸かすならって辺りがとても商売人らしい。

 でも良いのだ!

 俺には魔法がある。

 お湯なら一度単位で自由に湧かせるからな!


 とりあえず借りていた部屋をチェックアウトするのはエレオノーレさんとジャックがやってくれるとの事でレジーナの依頼を片付ける事にする。

 ついでに領事館にも伝えてくれる様にお願いしておく。

 二人は了承すると、無駄のない動きであっという間に出て行ってしまった。


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― 新着の感想 ―
[一言] >いや、別に協力するのはやぶさかではないけれど。 >説明も何もなく連れて来られてもなぁ……。 全くだよ。普通事情を話して会いたがってる人がいるが、 どうする?て聞くところだろ 忙しい人や、…
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