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107 どうしてこうなった 前編

 相談という名の愚痴をぶちまけて一月程すると、「皇宮から呼び出しが来てます」と商業ギルドとハンターギルドの受付嬢二人から召喚状を渡された。

 何をどうしてどうなったのか、今回の一件が皇族に伝わり、他では絶対に作れない壁一面鏡張りのお部屋を皇妃様に献上することで後ろ盾になってもらう算段が付いたそうだ。


「は?なんで?なんでそういう結果になるの?厄介ごとの匂いしかしないんだけど」


 頭を抱える俺に、オーランドとエレオノーレさんが説明してくれた。


「もうこの状況では後ろ盾を得るくらいしか身を守ることは出来ないもの。最大級の後ろ盾が出来たことを喜ぶべきね」

「下手に中途半端な貴族に捕まったら余計な仕事が増えるし、国ならまだマシだろうな。まぁ、この国から出るのは難しくなるけど」


 二人は比較的好意的に受け取っている様だった。

 ジャックは苦い顔で頷き、肯定している。

 デイジーは半泣きどころかほぼパニック状態で、エレオノーレさんに宥められていた。

 渋い思いでヤンスさんを見れば、物凄く嫌そうな顔をしていた。


「権力なんてくだらないものを持った人間とは関わりたくないんだよ、ヤンスお兄さんは」


 ぐったりと疲れを隠しもせず机に臥したヤンスさんは、本当に渋々、渋々了承して、手紙に返事を出した。

 それでもぶつぶつと「ヤダよー、権力なんで嫌いだー」「行きたくなーい」「あーやだ。ヤダヤダ。いーやーだー」等とずっとボヤいていた。

 こうしなくてはならないのはわかっていても、嫌で仕方がないのがすごくよくわかる。

 デイジーから胃薬をもらって飲んでいた。


 返事を返して一月程すると、皇宮からの使者が仰々しくお高そうな馬車を引き連れてやって来た。

 使者は、最初、俺だけを連れて行こうとしたが、ヤンスさんとエレオノーレさんが強固に反対した。

 下手したら、お城から帰してもらえなくなるらしい。

 こっわ!


 ついでに村人全員からも反対にあった。

 子供達からは「行かないで紙芝居のお兄ちゃん!」と泣いて足にしがみつかれたりもして、物凄く離れがたかったよ。

 使者も連れて行き辛そうにしていたが、やはりそこはお仕事、子供達に説明して親達が俺から引き剥がしていく。

 ハンターギルド、商業ギルドからも意見具申が入り、使者が折れる形で、パーティ全員で行く事になった。


 四頭立ての黒塗りの馬車が一台で、六人が乗るとかなりぎゅうぎゅうだ。

 結局、ジャックとオーランドは「歩いて行く」と言って降りて行った。

 ヤンスさんは心底嫌そうなので、無理に付き合わずに待っていたらどうかと提案したが、留守番は性に合わないから、と力無く笑って目を瞑ってしまった。


「ヤンスは貴方を守ろうとしてるのよ。権力に口で対抗できるのはヤンスくらいだからね」

「何となくわかります」


 苦く笑いながらエレオノーレさんが言うと、フンッと鼻息で答えて壁を向いてしまうが、少し見える頬が赤らんでいるので恐らく的を射ていたのだろう。

 高級な馬車はクッションが利いていて、揺れも少ないため、約半月の移動でも俺の尻はダメージをそれほど受けずに済んだ。



 皇宮に着くと、会議室の様な部屋に案内された。

 広さは教室二つ分くらいで、多分皇宮としては小さい部類の部屋だと思う。

 建物については、もう“高そう”とか“どんだけ手間掛かってるんだろう”とかそんな事しか思い浮かばない程に、繊細で高級そうな装飾だらけだった。

 天井も柱も壁もゴリゴリに装飾されていて、壁紙も細かい柄がみっちりだ。

 使者も高そうな服を着ていたが、より高級そうで装飾過多な服を着た小太りのおじさんが現れ、皇帝の側近のナンタラカンタラと長い役職名と、更に長い名前を名乗られた。

 ちょっとどっかのオッペケ男爵のせいで、貴族に対して心の拒否感が強かったみたいで、右耳から入って左耳へと溢れていってしまった。


 彼は挨拶もそこそこに、この様な部屋を作れ、と一枚の設計図を見せてきた。

 それはなんと言うか、ダンス教室?

 だだっ広い部屋の一面の壁が鏡張りなだけで、何をする部屋なのかもわからない感じであった。

 その壁一面の鏡以外は、とても芸術的で美しく、装飾も素晴らしい精緻なデザイン画が付いていて、思わずじっくりと見てしまった。


「皇帝は、他の誰よりも素晴らしい鏡を、皇妃様に贈られたいのだ。其方の力の及ぶ限り、最高の物を作る様に」


 夢中でデザイン画を眺めている俺を満足そうに見ると、漫画でしか見たことのない様な、立派なカイゼル髭を弄りながら側近だと自称する小太りの貴族はそう言った。

 「力の及ぶ限り最高の物を」と言われたら、だだっ広い部屋で壁一面を鏡張りってだけだとなんかつまんない気がする。

 いっその事、衣装部屋みたいにして、着替えてファッションショーとかできる様にしない?

 モデルさんのウォークインクローゼット的なやつ。


 紙とペンとインクといくつかの定規を取り出して、俺もイメージイラストを描いてみる。

 いきなり絵を描き始めた俺に、皇宮の人達はギョッとしていたが、飛竜の庇護(ウチ)のメンバーはまたか、と溜息を吐く。

 なんだかその対比が少し面白かった。


 入り口からすぐに中が見えない様に衝立を用意して、部屋の左側全体がクローゼットになる様にする。

 大量のドレスや、宝飾品、帽子や手袋等の小物も置けるように、大小様々な棚を沢山描いていく。

 着替える為のスペースと、細かい調整をする裁縫部屋を部屋の隅に用意しておく。

 右側の壁全体に鏡を貼り、縁を金属っぽい装飾を入れて、乙女チックに仕上げる。

 ここはちょっと自信がないから、さっきのデザイン画を描いた人にデザインし直してもらいたいところだ。

 そっとメモを書き添える。

 そして、どうも皇妃様を溺愛してそうな皇帝の為に、大きなソファーを用意して、皇妃様を愛でる事が出来る様にしておく。

 お着替えに疲れた皇妃様がお休みも出来るしね。


「こんな感じはどうですか?先程のお部屋は素晴らしかったのですが、何にご使用になるのか少し不明でしたので、皇妃様の私的なファッションショールーム風にしてみたいな、と思うのですが」


 拠点の設計で鍛えられた俺には、一部屋だけを描き上げるなんてちょろいちょろい。

 図面と、全体のイメージ画、小物などの細かいパーツ画など合計五枚に渡る力作である。

 あまり装飾デザインに自信はないけれど、イメージが伝われば良いのだ。

 デザインし直してもらって、その通りに作れば良いし、なんだったら装飾は建築家さんに丸投げでも良いだろう。

 それに今だったら、ウチの拠点を工事してるドゥーリンさん都合できるよ、とも言い添える。

 ウチの工期を少し延ばして、此方を優先してもらっても良いと話すと、周りの人(部屋にいるメイドさんとか小太り側近さんの小間使いとか)が目を丸くしていた。


 小太り側近さんはすぐに小間使いを走らせて、皇妃様のお付きの侍女さんを呼び出した。

 彼女に鏡の間がどの様になるのか、もっと詳しく説明する様にと言う。

 憮然とした表情の侍女さんだったが、イメージイラストを見た途端、目がキラキラと輝きはじめる。

 そりゃあね、乙女の夢だろうしね。

 最初にもらったイメージイラストと合わせて、どこをどういう風に変更して、何故そうするかを説明していく。


「ただし、本物のバックヤードを皇妃様にお見せするわけにはいかないので、この部屋にはその季節のものだけ、とか、パーティ用の物だけ、とかを見目良く飾ることになると思います。お付きの侍女さん達には大変かもしれませんg「そんな事全く問題ではありません!この絵はお借りしても?」

「え、ええ、大丈夫です」


 被せる様に答えて、ぐいぐいと迫ってくる侍女さんに圧倒され、了承すれば、奪い取る様にして絵を持って足早に消え去る侍女さん。

 その動きは優雅であるのに、あまりにも素早かった。

 小太り側近さんも目をまんまるにして、口をポカンと開けて侍女さんを見送っていた。


 ーーーガシッ。


 侍女さんの姿が見えなくなった途端、肩をエレオノーレさんに掴まれる。


「ねえ、キリト?」


 優しい甘い声で名前を呼ばれる。

 顔を見なくても判る。

 こっっわい笑顔だ。

 絶対そう。


「エ、エレオノーレさんのウォークインクローゼットにも……鏡、取り付けますか?」

「ええ!壁一面にお願いね!」

「わっかりましたー!お任せ下さいっ」


 流石に小太り側近に聞かれてはならない案件なので、お互い全て小声での会話である。

 すぐに希望を察したおかげで、俺の命は救われた。

 紙一重だった。

 ただ、エレオノーレさんばかりだと不公平なので、デイジーにも可愛らしい姿見をプレゼントしよう。

 なんか花で囲まれた楕円形の壁掛けタイプとかどうだろうか?

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