間話 ○視点 デイジー 【はろうぃんとはなにかしら?】
ハロウィンなので季節物の間話を。
ちょっと本編からは外れている気がしますが……。
大目に見てくださいませ。
「ふんふふふーんふっふふーん♪」
キリトさんが鼻歌を歌いながら絵を描いている。
彼は暇があれば、何かしら描いている変わった人だ。
それは人物画だったり、風景画だったり、デッサンだったり、街で見かけた猫であったり、様々である。
とんでもない技術でお風呂を作ってしまう人なのに、絵を描いているその姿はまるで小さな子供の様だ。
カリカリシュッシュとリズミカルにペンを走らせて、可愛い服を描き上げていく。
でも今日の絵はなんだかちょっと変だ。
いつもと違ってつばの広い先のとんがった大きな帽子をかぶって、手に箒を持つ女の子や、魔物?の真似をしてる人達が楽しそうにはしゃいでいる。
カボチャに顔が付いているものや、コウモリのような物までいる。
「キリトさん、これ、なんの絵ですか?」
「『ハロウィン』だよ。俺の世界では、色んな国で一般的に行われる祭りでね、秋の終わりに、収穫祭と『お彼岸』を合わせて、色んな仮装をした子供たちが『お菓子をくれなきゃ悪戯するぞー』って色んな家を回るんだ」
機嫌良く説明してくれるけど、収穫祭とオヒガンと仮装の繋がりがよく分からない。
お姫様みたいにフリフリしてる服と、包帯でぐるぐる巻きになってる怪我人と、ゾンビに獣人。
頭から布を被っただけの人もいる。
「収穫祭……?」
「あー、こっちには『お盆』……もないか、えーっと、先祖の霊が帰ってくる、みたいなのって何かある?」
「万聖節のようなものでしょうか?」
万聖節とは、昔からその日には、私達の先祖がヴァルハラより此方に戻ってくると言われていて、お墓をドライフラワーや松ぼっくりなどで飾り立てて、死者を悼むお祭りだ。
お墓を飾るリースは作ると、一つ銅貨一枚で買ってもらえるので、なかなか良い収入源だった。
山から素材を集めて乾かして、バランスよく作れた時はとても気持ちが良い。
そう説明すると「そうそう、そんな感じのお祭りだよ」と笑って、紙をピラリと持ち上げる。
「要はこの人達は先祖の霊が帰ってくるから嬉しいけど、帰って来るのはいい人ばかりじゃないから“自分達はお化けや怖い存在だぞ”って仮装して、身を守ってるんだよね。それに収穫祭を絡ますのは……俺も意味がわからないけど。まぁ、時期が時期だからついでに混ぜちゃったのかもしんないね。今はただ、仮装して馬鹿騒ぎして、お菓子を食べて楽しんでるだけだけどね」
世界が違うからなのか、私が孤児だからなのか良くはわからないけれど、変なお祭りだと思う。
頭を傾げつつ、続きを聞いていく。
「で、仮装して『トリック・オア・トリート』つまり、お菓子くんなきゃ悪戯するぞーって言って、お菓子を貰いながら街中を練り歩く祭り」
「お菓子!」
なんと素敵なお祭りだろうか!
一言決まった言葉を言うだけでお菓子がもらえるなんて……。
わたしは胸が高鳴るのを止められなかった。
でも、一つだけ心配がある。
「ただでお菓子がもらえるだなんて……それだと普段から悪戯するぞーって言って騒ぐ子が現れるのではないんでしょうか?」
「そこはほら、普段はお菓子あげる必要性がないからさ。お祭り限定なんだよ」
にこにこと笑って説明してくれるキリトさんは、何故か楽しそうである。
それを指摘すれば、「ハロウィンは絵を描くだけでも楽しいからね」と帰ってきた。
わたしは絵を描く事などほとんど無いので、わからないけれど、絵を描くだけで楽しめるなんて、はろうぃんとは不思議なものですね。
「というわけで。はい、お菓子」
「へ?」
絵をマジマジと見ていたら手を取られ、ポンと何かを乗せられた。
視線を送れば、コロンとしたリボンの様なものが幾つか載っている。
よく観察すれば何か丸いものを、綺麗な紙で包んで、端を捻った物の様だ。
バイオレットベリーくらいのサイズのそれを開いてみると、中からはキラキラと透けるピンク色の、宝石の様なものが出て来た。
「『フルーツフレーバー』の『飴ちゃん』だよ。ジャックと試作してみたんだ」
「ふる……ふれー、のあめ、ちゃ?」
キリトさんの言葉は、時々よくわからない単語が多くて、うまく聞き取れない。
こてり、と頭を傾げれば、また言葉を探して説明してくれるので、大人しく待つ。
「んー……果物の果汁で香りをつけた砂糖菓子、かな?噛まずに口の中で転がして、溶かしながら味わうお菓子だよ」
「え?!こんなに綺麗なのに、食べられるんですか?!」
手のひらの中には、包み紙に包まれた同じものがまだいくつもある。
砂糖は高級品だ。
それを惜しげもなく使用して、お菓子を作るキリトさんは、きっとあちらの世界ではお貴族様だったのではないだろうか?
キリトさんは、自分の持っているアメチャンを口に入れるとにっこり笑って、わたしにも食べる様にと促してきます。
恐る恐る指で摘んで口に入れると、ぶわりとイチゴの香りと、爽やかな酸っぱさを含んだ甘みが広がっていく。
「ーーーーーっ!?」
「どう?美味しくできてるかな?」
キリトさんは、にこりと笑いながら味の感想を聞いてくるけれど、口を開けたらこの美味しさが逃げていきそうで、手で口を押さえながら全力で何度も頷いて、肯定の意を伝える。
ジワリと溶けて、口いっぱいに広がる甘酸っぱさがずっと続く。
何と幸せなお菓子だろうか?
「じゃあ、今年のハロウィンはこの飴ちゃんを配ろうかなー」等と、にこにこ笑いながら言っているけれど、この辺りにその文化が無いことをすっかり忘れてしまっているのではないだろうか?
でも、こんなに美味しいものが貰えるのなら、そのはろうぃんという行事を定着させても良いのでは無いか、と、欲深な心が唆してくる。
そろそろ万聖節の時期だし、孤児院ではリースを皆で作り溜めているところだろう。
仮装、というのはよくわからないけれど、「お菓子くれなきゃ悪戯するぞ」と言ってお菓子をもらえるのはわかった。
口の中を転がるアメチャンは、ほんの少し小さくはなったものの、まだまだその存在を主張している。
これだけ長く楽しめる甘味は、きっと子供達に大人気だろう。
わたしもお菓子を沢山作って、孤児院の弟妹達に配ってあげようと心に決めた。
その後、アメチャンの作り方を聞いて使用する砂糖の量に悲鳴をあげ、仮装の衣装を作って持ってこられて、その豪華さに悲鳴を上げたのは、また別の話だ。
はっぴーはろうぃーん!
いつも俺不運を読んでくださってありがとうございます。
いいね、ブックマーク、評価、とても嬉しいです。
お菓子はお芋やかぼちゃを使ったお菓子を考えてみたのですが、霧斗のお料理知識では再現できなさそうだったので、飴ちゃんになりました。
フレーバーは魔法で『味と香りのエッセンス』を絞り出して作りました。
なんていう力業。
かぼちゃのタルトが食べたいです。
因みにデイジーはかぼちゃのクッキーを作って配りました。
デイジーはミニスカニーハイ魔女っ子が良いと思います。
オーランドは吸血鬼、ヤンスは狼男、ジャックはフランケンシュタインかミイラ男かな?
エレオノーレさんはゾンビナースで、霧斗はシーツを被ったおばけで、シーツを踏んで転ぶ所までがセット。
オーランドとヤンスは入れ替えても良いかもしれません。




