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103 ピリつくヤンスさん

 すみません、今回ちょっと長めです。

 ガラス職人のドワーフ達にも、顔の利くドゥーリンさんのおかげで、なんとかドワーフ工房から抜け出せた俺は、ドゥーリンさんに連れられて拠点にやってきた。


 生垣と、全体的なシルエットはほぼほぼ完成している。

 奥の住居スペースや、馬小屋、訓練スペースなどは既に出来上がっており、今は手前の平屋の仕上げに入っている様だ。

 骨組みはほとんど完成している様で、足場が沢山組まれていた。

 一部の壁や、窓なんかも出来始めていた。


 驚いた事に、ガラス窓が既に入っている場所さえあった。

 ドゥーリンさんは驚く俺を見て、ニヤニヤ笑いながら「エイグルに言って先に分けてもらったのよ」とドヤっていた。

 板ガラスを受け取った後に、それに俺が関わっている事を知って、工房まで怒鳴り込んできたらしい。

 流石ドワーフ、行動力が半端ない。


 周囲に植えられた目隠し用の植木や、低木は常緑樹で、青々と茂っている。

 どこかに紅葉する木を植えても良いよね。

 ゾンマーホルンと楓を並べて植えて、オールシーズンメープルシロップを確保するのもありだよな。

 多分、提案したら女性陣が熱烈に同意してくれるだろう。

 今のうちに、どの辺りに植えるか候補地を探しておこう。


 住居スペースはある程度出来上がっているらしいから別として、店舗予定の建物の内装はまだまだ先で、仕上がりまではもうちょっと待たなくてはならないみたいだ。

 室内のドアや、腰板に壁紙、燭台等の取り付けが終わっていないそうだ。

 先に入ってしまってもいいけど、せっかくなら今はまだやめておいた方が良いとドゥーリンさんは言った。

 確かに、どうせなら出来るまでお楽しみは取っておいた方が良いだろう。


「よう、キリト坊、少し気をつけた方が良い。お前さんを探ってる奴らが居る様だぞ」


 建物の説明の合間に、ボソリと忠告された。

 周りからは説明をしている様に見えるが、その実、隙なく辺りを見回していて、その目は真剣そのものだった。

 鏡や板ガラス、地図の販売方法に、方眼紙と、立て続けに高額取引を繰り返した結果、どうやらよろしくない連中に俺は目をつけられてしまったらしい。

 帝都の宿に泊まっている(飛竜の庇護)のところに戻ってその話をすると、彼らもそれは知っていたらしい。


 すでに自称貴族の遣いとやらが複数湧いていて、メンバーそれぞれに何度も声を掛けていた事が発覚した。

 特に弱そうな女性二人は、外を歩く度に必ずと言って良いほど頻繁に声を掛けられていたらしい。

 そいつらは、本物の貴族の使いも居たらしいが、それだけでなく、悪意のある商人や、裏の組織、ただ小金を稼ごうとしている詐欺師など“自称貴族の遣い”は呆れるほどに多く居たそうだ。


 俺自身、知らなかったけれど、俺の所にも来ていたらしい。

 俺の所に来た奴等は、エイグルさんが話も聞かずに端から追い払ってくれていたのだそう。

 そうやって追い払われた人達が、皆の所に流れていたようだ。

 用件も聞かないのはアレだけど、ドワーフすげぇな。

 実にありがたい。

 それもあって、皆は既に住居スペースが仕上がっているにも関わらず、あちこちの宿を渡り歩いていたらしい。


「それはそれとして、そろそろ冬支度を始めたい。明日あたりキリトは買い出しに行ってくれ」

「焼きたてのパンとか、美味しいお菓子とか、大歓迎よ」


 この辺りは冬が厳しい。

 雪に閉じ込められるので、食料や嗜好品、薪に防寒着等はいくらあっても問題ないのだとか。

 翌日、俺とオーランドの二人で買い出しに出た。

 ヤンスさんは野暮用があると夜のうちから出掛けていて、女性陣は拠点の自室用の家具を見に別行動。

 ジャックは二人の護衛だ。


 俺はオーランドに言われるがままに、大量の果物や小麦、卵に野菜、それから加工肉などを購入して【アイテムボックス】へ。


「そこの兄さん方、うちの野菜も新鮮で美味いよ!冬支度の保存食にもぴったりだ!たんと買ってっとくれ!」

「ウチは既に保存食になってるよ!この酢漬けなんかは今そのままでもヴルストと一緒に食べても絶品だよ!買って損はさせないよ!」


 金に糸目をつけず、大量に購入する俺達は市場の人気者になったらしく、呼び込みの声が途切れることは無かった。


 焼き立てのパンは、オーランドおすすめのパン屋さんに、小麦とバターを持ち込んで、焼けるだけたっぷり焼いてくれ、とお願いすると、安価で請け負ってくれた。

 オーランドの爽やかな笑顔で「ここのパンが帝都で一番美味いからな!」と言ったのが決め手だったと思う。

 それを聞いた客が、パンを数点追加でトレイに乗せたのを、店長がイイ笑顔で見ていたからな。

 発酵させたり、焼いたりするのに時間が掛かるそうなので、明日の午前中に取りに来ることになった。

 お支払いは全額前払いである。

 とても喜ばれたとだけ、書き記しておく。

 それとは別に、この店にはシュトレンも置いてあったので、こちらも並んでいる商品の半分を購入した。


 勿論エレオノーレさん希望のお菓子も沢山購入した。

 お菓子は高級品を取り扱うエリアにしか売っておらず、並ぶ客は上流階級感溢れる人ばかりだ。

 ドレスコードが云々って追い出されるかもしれないと、俺達はビクビクしながら列に並んだ。

 が、しかし、俺の妄想の様に周りの人から罵られたりする事は無かった。

 代わりに()()()ジロジロと見られただけだった。


 やっと俺達の番がきて、見本として並べられたお菓子を見ると、ジンジャークッキーなどのスパイスクッキーに、マルチパンと言われる甘いケーキ寄りのパン、それからどっしり重くてこってり甘そうなケーキが数種類。

 ケシの実のケーキなんかもある。

 黒くてずしっとべたっとした見た目だが、味は軽くてそんなに甘くない。

 日本のデコレーションケーキを知っている身としては、どれもが素朴で、飾り気がないが、この国ではこれが高級菓子なのだろう。


「すみません。お菓子が沢山欲しいんですが、お店の販売に影響が出ない程度に、あるだけ買わせて下さい」

「はい?」


 お上品に髪を纏めた売り子さんの顔には、「お前にその金が支払えるのか?」ってありありと書いてあった。

 だろうな、と思いつつ、「金ならある」とアピールする為、無言で金貨を二十枚ほど詰めた袋をカウンターに載せ、口をそっと開けて傾けて見せると、顔色を変えて裏に引っ込み確認に行った。


 再び戻ってきた時には、恐らくここのオーナーだと思われる高そうな服を着た小太り七三の男を連れて現れ、挨拶もそこそこに、今すぐ用意出来るのは、これとこれとこれをこれくらい、と提示された。

 勿論提示された分は全て即金で購入した。

 それでも多分全然足りないので、明後日また買いに来るから、と大量に予約をして店を出る。

 調理師さん達まで全員出てきて、店頭でずらりと並んでお辞儀して見送ってくれた。

 一緒に来ていたオーランドからはすごい目で見られたが、妹と母さんとばあちゃんの、冬の間に消費するお菓子の量を考えたら、これでも全然足りないと思うんだよね。

 どうせ二人だけで食べるわけでもないだろうし。

 同じ様に数店舗回って、お菓子の購入と予約をしてお菓子は一旦終了した。


 オーランドからプリンの要望が入ったので、追加の卵と砂糖、陶器のカップも大量に購入していく。

 店で売られている卵は、悪くなっているものもあるので、一個一個【鑑定】しつつ選んでいった。

 籠の中に土魔法で作った、なんちゃって卵パックを入れ、割らない様に並べていく。

 店のおっちゃんが凄い目で卵パックを覗いていたが、知らんぷりだ、知らんぷり。


 宿に帰り、何をどれくらい購入したかリストを渡すと、ヤンスさんから全然足りないと物言いが出た。

 夏に購入した野菜や、こないだ農村で作った保存食も沢山入っている事も伝えたが、それでも全く足りないと首を振られた。

 結果、翌日普段買い出しにはついてこないヤンスさんが一緒に来て、また市場を巡る。

 昨日大量に購入したのにまた来た、と大騒ぎになった。

 ヤンスさんは、店毎に大量購入するから割引いてくれ、と交渉を重ね、かなりお安く大量に購入していく。


 芋類に豆類、小麦粉に、とうもろこしの粉なんかや生鮮野菜に果物もアホみたいに大量だ。

 動物の飼料の類いまで購入させられた。

 市場中にある物を丸ごと買うのでは?って思うくらいにあちこちのお店で買い占める。

 街の人達に迷惑が掛からない様に、買いすぎない様に、と俺が必死に止める程だった。

 これはどう考えても多すぎるだろ?

 三年分くらい賄える量だぞ?

 調味料はいくらあっても構わないので、止める事はしなかったし、むしろ俺が追加したけど。


 次は灯り用の蝋燭にオイルだ。

 これも昨日大量に買っていたんだが、それも足りない、と低品質から高品質までごっそり購入していく。

 ランタンも中古から新品まで幾つも買っている。

 石鹸、下着、防寒具等の日用品もたっぷりだ。

 卸街に行き、加工済みの毛皮で、敷物になっていたり、毛布になっていたりする物を大量に購入した。

 布も色んな材質で、複数の色、厚みの物を、棒に巻き付けてあるやつを丸々購入したりしていた。

 フェルトに絨毯なんかまでだ。

 糸問屋では、通常の糸と毛糸を、店にある色全て複数購入した。

 目が回りそうな金額になったが、これまで稼いだ金額から考えると微々たる金額である。

 ついでに針やハサミ、編み棒等も二十組も購入している。


 薬問屋や錬金店にも行って、薬や魔法薬(ポーション)も買えるだけ買っていた。

 何だったら【アイテムボックス】に溜め込んでいた、薬や魔法薬の素材を取り出して物々交換する程大量だった。

 新鮮な素材に追加購入まで持ちかけられ、購入と販売でトントンくらいになった。

 どう見ても俺達だけで使う量ではない。

 俺やデイジーが居るから、薬の消費は殆ど無いのだ。

  使うとしたら、魔力回復薬くらいだろう。

 なのに擦り傷・切り傷用の軟膏や、痛み止めの薬、身体回復薬(HPポーション)まで大量である。

 いったい何がしたいんだろうか?


 ついで、と言ってはいけないが、昨日買えなかった俺用の紙やインクなども補充しておいた。

 今回は奮発して、絵の具とイーゼルにキャンバスも購入した。

 厚紙も大量だ。

 これで紙芝居なんか作って、孤児院で読んであげたら喜ぶんじゃないだろうか?

 まずはわかりやすい英雄物とかが良いかな?女の子向けにシンデレラとかも良いかもしれない。

 デイジーに何かいい話がないか聞いてみよう。


 あ、そういえば孤児院繋がりで思い出したんだけど、俺達が孤児院と関わりが深い事を調べた貴族が、高額の寄付を盾に俺達への紹介を要求したらしい。

 しかし、院長先生は「そんな端金で恩人に迷惑を掛ける訳にはいきませんな。貴方の主人の事は、ここの管理貴族(つまり王族)にしっかり報告させていただきます」と脅しを含めて断ったそうだ。


 そんな謎の買い出しだったけど、ヤンスさんは買い出ししている間も、妙にピリピリしていた。

 何度も周りを見回して、その上で、迂回したりちょっと走ったり、無駄に建物に入ったりと、謎の動きをしていた。

 本当にここ最近のヤンスさんは変だ。

 いったい何がどうしたんだろう?

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― 新着の感想 ―
[良い点] >ピリつくヤンスさん そらそうやろなぁ…。オーランドに出会ってからこの回までにやらかした事だけ纏めても、宝石箱を超える「(金になる)知識のパンドラボックスや~!」ですからね(笑) 霧斗自身…
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