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11 領事館にてマチルダさんと


「『お邪魔するよ』」


 しわがれた声がして、部屋に杖をついたおばあちゃんが入ってきた。

 真っ白な髪と細い手足がまるで仙人のようだ。

 ドアを閉めようと、振り返るおばあちゃんがよろめく。


「『大丈夫ですか?!』」


 ジジババと触れ合って育った俺は思わずドアに駆け寄っておばあちゃんを支えた。

 まるで枯れ木のように軽く、物凄く心配になった。

 こんなおばあちゃんを働かせるなんてここは大丈夫なのか?


「ふむ、“迷い人”で間違いないようだの」

「は?」


 そう心配していたら急にシャンと背筋を伸ばして立ち上がった。

 おばあちゃんを支えていた俺の腕は行き場を失くす。

 すい、杖で顎を持ち上げられた。


「見覚えのない人相じゃがお主何処から来た?」

「え?!へ??」


 あまりの急変に頭がついていかない。

 しどろもどろしているとさっさと答えんさい!と足を杖で叩かれた。

 強く叩かれた訳ではないが、地味に痛い。


「に、日本です」

「ニホンとな?聞き覚えはないが、アタシがこっちに来てから出来た国じゃろうか?」


 足を押さえつつ答える。

 当たりどころが良くなかったのかまだ痛い。

 おばあちゃんは唸りつつ考え出す。

 でも、なんとなくわかってきた。


「もしかして、迷い人詐欺が多かったりするんですか?」


 そう。

 なんかやらかした人間が迷い人のふりをして国に養ってもらおうとするのを疑われているのでは?と思ったのだ。

 俺の言葉におばあちゃんはニヤリと笑い、俺の背中を叩いた。


「なんじゃ、中々頭の回転が速いのぅ!そうじゃ此方にはクズが多くての!お主は間違いなく彼方の人間のようじゃ。向こうの言葉を喋っておったからの」

「え?」


 話を聞けばおばあちゃんのお名前はマチルダさん。

 あえて入室時に彼方の言葉を喋って俺の反応を確かめていたそうだ。

 恐らくスキルの【言語対応】のおかげだと思うんだけど、全く意識してなかった。


 あえて躓いて為人(ひととなり)も確認し、間違いなく悪い人間ではなく、この世界の人間でもないと確認したそうだ。

 マチルダさんは彼方では貴族の娘さんだったらしい。

 十六歳のある日気が付いたら森の中で倒れていたんだとか。

 言葉もわからず、とても苦労したそうだ。

 その時もマチルダさんより先にこちらの世界に来ていた先輩の迷い人に今日の俺と同じ様に確かめられた。

 その人に助けてもらいつつ言葉を覚えて、こちらで手に職を付けて生きてきたそうだ。

 現在では今日の様な迷い人判定や、貴族と平民との折衝を行ったりするなど、一目置かれる存在となっている。

 不思議な事に迷い人は同じ箇所には同じ国の人間が来ることが多いそうだ。

 こちらの言葉が通じなくても、あちらに国毎に言語が違ってもほとんど問題なくなんとかなるのだそう。

 すげぇな。


 俺は言葉が通じるからずるい、とバシバシ叩かれつつ、アレコレ世話を焼いてくれた。

 食事は出来ているか?口に合うか?良い人達に会えて良かった。

 着る物はあるのか?住む場所はどうだ?など細やかに気を回してくれた。

 なんだか田舎のばあちゃんを思い出す世話の焼きっぷりである。

 服は今着ている分しか無いと言えば、こちらの物を用意してくれたし、お金も無いのであれば安く貸してくれるそう。

 俺は大上神様がお金くれたから大丈夫だ。

 住む場所については一旦宿を借りるつもりだと話す。

 泊まる場所が決まったら連絡する様にと言われた。

 宿の人に言えば伝言してくれるらしい。


 俺の出身地がマチルダさんとは違うことを少し気にしていた。

 そもそも世界が違うから当然なんだけど、その辺はふわっと誤魔化しておいた。

 なんとなく。

 だって、マチルダさんの方が、迷子の様な目をしていたから。 

 恐らくとても不安だったのだろう。

 少しでも向こうの世界に繋がるものに縋り付きたい様に見えた。

 姉神様の名前を出すと、とても喜んでいた。


 一通り世話を焼いてもらい、迷い人証明書みたいな銀色のカードに血を垂らして登録した。

 発行日と、登録した領事館の名前、俺の名前と歳、性別なども表示されている。

 コレで五年は身分証明をできるそうだ。

 普通はこの五年の間に、言葉やその国の常識や仕事を覚えていくのだとか。

 今回俺は、オーランド達ともう少し一緒に行動して、彼らに色々話を聞くつもりである。

 護衛代のお支払いも終わってないしね。


 ハンター登録もしたい、と話すとそのまま待つ様に言われ、マチルダさんが部屋から出て行く。

 次に現れた時には真っ黒に日焼けしたムキムキマッチョなおっさんをその小さな体で引きずってきた。

 登録料は補償に含まれるそうでタダだった。

 ラッキー。

 ハンター登録もスムーズに終わり(こちらも銀色のカードに一滴血を落とすだけだった)マチルダさんにはお礼を言って、平和的に領事館を後にする。


 ちなみにハンター登録は「この人はハンターという仕事をしてますよ、強さはこんなもん」くらいのもので、特に剣士だとか、魔法使いだとかは聞かれなかった。

 ラノベでありがちなスキルの表示もなかった。

 まぁ、そうだよな。

 鑑定の魔術具が高額であちこちで取り扱えないっていうのにハンターカードに搭載されてるわけないね。

 そのかわり、何か悪い事をしたら即カードを没収されるそう。

 魔法的に登録する事になるので、一度取り上げられると再度登録する時に弾かれてしまうらしい。

 中々システマチックである。

 一応【アイテムボックス】持ちなのでポーターをするつもりであるとは話している。

 その辺はかなり臨機応変な様だ。

 ただ、レベル一というところに驚かれた。

 この歳であれば最低でも十はいっているのが当たり前の様だ。

 因みに、歳の話になった時に二十一だと言ったら、やっぱり驚かれてしまった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >姉神様の名前を出すと、とても喜んでいた。  ◇ ◇ ◇  あれ?妹神様の世界を選んで無かった?
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