96 新しい特産品2
ちょっとめちゃくちゃ長くなりましたが、『保存食いっぱい作ったよ。お金めちゃくちゃ稼げるじゃんひゃっほー』だと思っていただければ読み飛ばして大丈夫です。
新しい特産品作りの為に、まずは、すぐに出来そうな干し肉に取り掛かる。
お肉は使ってくれ、と村から提供された牛の肉だ。
乳牛の廃牛を潰した肉なので、筋張っていて、少し乳臭い。
適度なサイズに肉をカットして脂身を取払い、筋切りをしてから塩やハーブをしっかり擦り込み、風通しの良い日陰に干す。
以上!
此方の作り方はとてもシンプルだ。
ジャック達はハーブや塩の比率を変えて二、三種類作っている。
前に妹と親父が作ってたのは、醤油とかの調味液に結構長い時間漬けてたんだよな。
酒好きな親父に、父の日のプレゼントとして一緒に酒のつまみを作っていた。
うろ覚えの記憶から、酒と塩、そして幾つかのハーブで適当に調味液を拵えてみた。
漬け込みの時間があるから、布巾をかけて、冷暗所で一旦放置。
干し肉を放置してる間に、デイジーとジャックは次の保存食の準備を始めた。
俺はその横でマヨネーズを使った料理のレシピをいくつか書き出していく作業だ。
玉ねぎとピクルスとゆで卵を刻んで混ぜたタルタルソース。
揚げ物に掛けると美味い、っと。
フライに関しては妹に手伝わされたので作り方くらいはなんとなくわかる。
粉とか水とかの量や、油の温度は微妙だけど、小麦粉付けて、溶き卵つけてパン粉、もう一周して油にそっと入れるってのは分かってる。
蒸した芋と混ぜ合わせたポテサラに、かぼちゃを使ったものもあると書いておこう。
正式に何を入れたらポテサラになるかは分からないけど、きゅうりとかにんじんとかベーコンとかコーンとか入れて美味いのは間違いない。
あと玉ねぎとかも入ってたっけ?
他には、卵焼きに混ぜると旨みが出る。
卵焼きは専用のフライパンの絵も添えて書いておいた。
鶏肉のマヨネーズ焼きも美味しいと思うが、作り方が分からない。
肉を焼くときに塗りつけると美味いとだけ書いておこう。
刻んだ葉野菜や、とうもろこしと混ぜ合わせたコールスローサラダ。
エビマヨとかも好きなんだけど、作り方はわからない!
なんか炒め物にも合うと思う、頑張って!
「うん、よく分からない事ばっかりだな。もっと真面目に妹の話聞いとけば良かったな」
分量がちっとも書かれていないレシピを眺めて、溜息を一つ。
俺は早々にレシピを作るのを諦めた。
次にシリアルバーに挑戦する。
デイジー達が用意してくれた材料がキッチンテーブルの上にずらりと並んでいる。
大麦に小麦の押麦や、麬、コーンフロストに豆類、その他色々な雑穀に、幾つかのドライフルーツと、ナッツ類。
そしてたっぷりの蜂蜜。
押麦にコーンフロストなどの雑穀を比率を変えてブレンドしていく。
ドライフルーツは、干し葡萄が一番量があるとの事で、それもミックス。
他のドライフルーツはいい比率が見つかってから試してみる事にする。
それぞれのブレンドを三つに分けて、蜂蜜の量を変えてみる。
それを綺麗に洗ってバターを塗りつけた天板に入れて、マッシャーでぎゅうぎゅうに押し詰める。
「空気を全部抜くつもりで押し潰すのがコツって妹が言ってた」
「キリトさん、妹さんが居たんですね」
「お調子者で、要領の良い小憎らしい妹だけどね。料理はめちゃくちゃ美味かったんだよ。なんか料理について色々言ってたんだけど、聞き流してたからほとんど覚えてないなぁ」
デイジーと話しながらぎゅうぎゅう押し潰して、合計十二種類の試作品ができた。
それをオーブンで焼く。
蜂蜜が少なかった奴はポロポロ崩れて、“バー”にはならなかった。
でも、見た目がまんまオートミールだったので、試しに牛乳を掛けてデイジーと子供達に味見を頼むと、大喜びで食べてくれた。
カーチャンのオートミールと違ってめっちゃうまい!と騒いだ少年は母親らしき女性から拳骨をもらっていた。
彼女のオートミールに対しては絶対に言及すまい。
蜂蜜が多すぎた物はベタベタして歯にくっつき大変に食べ辛かったが、味はとても良かった。
蜂蜜は二番目に少なく入れた物が丁度ザクザク食べられて良い、と満場一致で決まった。
そして、穀物のブレンドについては大いに揉めた。
俺は麬が少なく、コーンフロストが多いブレンドが一番うまいと思ったが、子供達はレーズン多めが人気があり、男性は歯応えのある押麦多めと好みが結構分かれてしまった。
それならナッツとか入れても人気が出るかもしれないな。
揉めに揉めて、全く収拾が付かなかった為、とりあえず一番票が集まったやつをプレーンにして、男性に人気があった物を『押麦プラス』、ドライフルーツ多めを『甘口』として、三種類販売してみる事になった。
あとは季節のシリアルバーとして、その時期良く採れるナッツやフルーツを混ぜて、飽きさせない作りにしてもいいと思う。
その辺は村の皆で研究して頂きたい。
いちごやりんごもオススメだと書き添えておこう。
フリーズドライは失敗の連続だった。
凍らせて水分を飛ばすだけじゃただ凍っただけで、俺の知ってるフリーズドライにはならなかった。
あれこれ悩んで試行錯誤してみたがどうにもうまくいかない。
でも、天啓は唐突に訪れた。
広場でぼんやりと休んでいる時、村の子供達が、皆で水汲みをしていた。
滑車を使ってバケツで汲み上げる井戸だ。
(そういえば、異世界転生とか異世界転移のテンプレでポンプなんかもあったよな。仕組みは簡単なんだから、鍛冶屋のオッサンに依頼してみようかな……)
呼水を入れて真空になりさえすれば、あの歳くらいの子でも簡単に水が汲める、とそこまで考えた時に大事なことを思い出したのだ。
フリーズドライは真空にして、水分を昇華させて作る物だと。
それに気づいてからの完成は早かった。
作ってもらったシチューをフリーズドライにしてみた。
料理として合う合わないはあったものの、魔法自体はほぼ完成と見て間違いなかった。
完成した物を、カエルの皮から作った密閉袋に一つずつ詰めていく。
それはうっすら緑がかった透明のビニールっぽい物で、カエルの皮っていうのがなんとも不快だ。
でも、密閉するならこれが一番!と皆が言うのだから仕方ない。
俺、爬虫類は割と好きなんだけど、両生類は生理的に受け付けない。
あのヌメっぺたっとした感じがどうにもダメだ。
触りたくない!とごねる俺を、ダメな子を見る目でデイジーが見ていた。
そんな目をされても嫌な物は嫌なんだよ。
ほら見て、サブイボ立ってる。
【鑑定】すると、村長が梱包した物は三年程、他の人が梱包した物でも半年は保つ、と出た。
え?これ、完璧じゃない?
頑張って作ったら、飢饉の時の備えになったりしない?
そうデイジーに相談したら、青い顔で絶対それヤンスさんが来るまで誰にも言っちゃダメですよ!と言われて、絶対に言わないと約束させられた。
デイジーに耳打ちされたジャックが、慌てて実物を持ってヒメッセルトまでヤンスさんを迎えに行った。
ヤンスさんを待つ間に、調味液に漬けてた肉を干して、デイジーにフリーズドライの魔法を説明する。
色々説明してみたけど、上手く飲み込めない様だった。
その後、何度チャレンジするも、上手くいかない。
「めちゃくちゃ寒くなる、が上手くイメージ出来ないからかもしれません……」
「うーん……じゃあ、体験してみる?」
水が一瞬で凍る氷点下の空気を五十センチ四方で用意する。
中に手を入れてみてもらう。
「きゃあっ!」
何気なく突っ込んで思いの外冷たかったのだろう、慌てて手を引っ込めるデイジー。
次に恐る恐る手を入れて、数秒。
「寒いを通り越して痛いくらいです…ッ」
「どう?なんとなくイメージ出来そう?」
「やってみます!」
冷え切った手に息を吹きかけて温めると、改めてチャレンジすると、今度は上手くいった様で、フリーズドライが出来上がった。
お湯を掛けると、きちんと元に戻る。
成功だ。
他人に教えるとして考えると、まずは仕組みを教えて、次に温度の実感。そして、相手の手を通して魔法を発動してから、実践が一番実現的だろうという事になった。
今のところ他人の手を通して魔法を発動出来るのも、氷点下の空気箱を作れるのも、俺しか居ないから、この魔法を簡単に広げる事はできないだろう。
急いでやって来たヤンスさんに、かくかくしかじか説明すると、ニヤリと笑って村長と交渉を始めた。
結果、魔法を覚える人間一人につき小金貨一枚を支払う事、勝手に情報を漏らさないように神殿契約を結ぶ事、マヨネーズと俺たちが提案した新しい保存食の利益の二割を俺達三人に振り込む事が決まった。(マヨネーズを使った料理に関してはレシピ代だけで済んだ)
ギルドを通せば簡単に出来るし、ダンジョン攻略が始まるのであれば、この村にもハンターギルドも商人ギルドも支部が出来るはずだ。
というか、小金貨って農村にとっては高過ぎないか?
村長が血の涙流して手渡してきたんだけど。
因みにこの儲けから一割を、俺達からヤンスさんに振り込まされる事になっている。
なんかおかしくないか?!
交渉の謝礼金渡すのはわかるけど、永続振込みって……(百倍くらいにして言い返された)くぅっ口では勝てない……振り込ませていただきます……。
ギルドで申請すれば計算から振り込みまで自動でやってくれるらしいよ。
ウワァギルドハヤサシイナァ (棒読み)
それとは別に、自分達の分の夏野菜や卵、肉類、マヨネーズを始め、色んな食材を買って、料理を作って、出来上がったら【アイテムボックス】へ。
フレッシュチーズとかめっちゃ美味いし!幾らでも食べられそう!
モッツァレラ〜カチョカヴァロ〜チーズさーいこー!
売ってもいいよって言われた分は根こそぎ購入させてもらった。
他にも、燻製小屋を借りて、ジャックと一緒に沢山燻製を作った。
チーズにソーセージ、ベーコン、塩、茹で卵に各種肉類、贅沢にあれこれいっぱい作った!
本来こちらの作り方としてはスパイスなんかは使わないらしいのだが、デイジーとジャックにお願いして、買い溜めしてたスパイスを大量放出して色々作ってもらった。
味見したヤンスさんは、無言でガタリと席を立つと荷物を持って森へ直行。
大量の野鳥と、でっかい猪を穫ってきて、もっと作るように、と言い含めて行った。
ついでにいくつかのスパイス入り燻製を持っていった。
「ヤンスお兄さんに任せとけ」とニヤリと笑って出ていった後に、村長達が大量のコインを持って走り込んできた。
一体何をどう言ったのだろうか?
スパイス入り燻製の味見をしたジャックとデイジーは、真剣に拠点に燻製小屋を作る事を検討していた。
また土地切り拓くんですね?わかりました。




