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95 新しい特産品 1

 農村に着くまでの間に、限定販売について詳しく説明した。

 流石商人、エーミールさんはすぐに限定の旨味を理解して、俺よりも解り易く皆に説明してくれた。

 早速その方向性で売っていく事になり、大体の原価から卸値、販売額などの金額設定から輸送についての取り決めや、保存期間の短さをいかに伝えるかなど詳しく話している。

 漏れ聞こえる話から、食品の扱いになる為、エーミールさんは村と食品を主に扱う商会から紹介料をもらって仲介してくれるらしい。

 しかも、村が損をしない様に、色々フォローまでしてくれるんだとか。

 その分、村から貰う紹介料は割高らしいんだけど、今後の搾取を未然に防げると考えたら、とても常識的な金額だと思う。

 本当に見た目と違って有能な商人である。

 ついでにアゴヒゲについても失礼にならない範囲で剃った方が良いんじゃない?と言っておいたが、剃る予定は無いそうだ。


 でも、限定にするなら他に売れる物を何か考えなくては、と村長が悩み始めた。

 どうも、農村内の貨幣自体の数を増やしたいらしい。

 何故か聞いてみたら、これからきっと色々入り用になるだろうから、と濁されたから理由はよくわからないけど。

 多分きっとダンジョンフィーバーで大変になるんだろうな。

 宿屋とか、食料品店とか、道具屋とか、鍛冶工房とか、治安の維持とかね。


「あ、ハンターがいっぱい来るなら、マヨを使った料理とかはどう?美味しいものがあって、稼ぐ場所があるなら人は集まらない?あと、マヨだけじゃなく保存食とか作って売るのはどうかな?マジックアイテム狙いの探索ハンター達が買っていってくれたりしない?」


 干し肉とか、と続けようとしたら、村長が俺の両手をしっかりと握っていた。

 いや、おっさんに手を取られても嬉しくないよ?離して?


 マヨを使うレシピは村で俺が書き出すとして、他はどんな保存食にするかの話し合いが始まった。

 チーズも固くて水分の少ないやつとかならすぐに作れるそうだ。

 その話を聞いて、飛龍の庇護(ウチ)のお料理好きな二人組がソワソワし始めた。

 干し肉と堅パン、乾パン、ドライフルーツに、干し野菜、ちょっと贅沢に燻製とか?とデイジーとジャックが盛り上がり始めた。


 でも、それを聞いているエーミールさんは、微妙な表情だ。

 何故なのか話をきいてみると、正直どこでも買えるラインナップだから、できるなら他と差別化できる物が良いと答えが返ってくる。

 うーん……差別化は大事だよな。

 例えば、蜂蜜と雑穀とドライフルーツでシリアルバーが作れるらしいって事は知ってるけど、作り方や分量は知らん!

 多分、混ぜて焼いて固めたらいいんじゃない?

 確か妹が作ってた時は、焼いてた気がする!

 ちゃんと作り方教えてもらっとけば良かった。

 作るならトライアンドエラーしかないかなー。

 そこまで考えて、もう一つの問題に気づいた。


(コレ、お値段……めちゃくちゃ高くならない……?)


 砂糖は論外ってくらいにべらぼうに高いし、蜂蜜も甘味だし、採取の危険性と希少性を合わせれば、推して知るべし、だ。

 でも、前に乳製品買いに行った時に、毛皮を蜂蜜と交換したよね?

 実はあるんじゃない?

 ダメ元で村長に聞いてみたら、なんと現在養蜂にチャレンジしていて、少量ではあるが蜂蜜も採れるようになっているらしい。

 この世界で、養蜂はそもそもされてない。

 村の変わり者と言われているジーモンさんが、蜂を飼うことで蜜を定期的に採ることは出来ないか、と始めたのだそう。

 まだまだ特産品として売れるほどの量は採れないけれど、他の町や村よりかなり安価で手に入るそうだ。

 それ、女性ハンターに物凄く喜ばれそうだよね。

 蜂蜜なんて即エネルギーになるし、甘いってだけで正義だしね。

 瓶に詰めるだけで飛ぶ様に売れると思う。

 プリンの時のエレオノーレさんとデイジーを思い出してクスッと笑いが漏れた。


「実は詳しい分量まではわかんないんだけど、シリアルバーって保存食があって……」


 とりあえず出来そうなので、軽く説明したら全員が食いついた。

 高額にはなるけど、カロリーは高いし、しっかり焼き締めておけば長持ちするはずだから、かなり優秀な保存食になると思う。

 案の定、デイジーは「甘い保存食なんて素敵ですね!」と目をキラキラさせていた。

 シリアルバーは、そのまま手で持ったらベタベタするし、油紙か蝋紙で包んでおいた方がいい。

 村長に聞いてみたけど、それは流石に村では作って無かったらしい。

 エーミールさんは素早く、付いてきていたペーターに手紙を持たせて、油紙を購入して村まで届ける様に、とお使いに出してしまった。

 うーん、素早い。


 シリアルバーには、マシュマロ使うレシピもあるけど、そもそもマシュマロってここに存在する?

 あれ素材がなんなのかすらわかんないよね。

 謎すぎる。

 何使ったらあんなにふわふわになるん?

 砂糖と……白い粉?水あめとか?さっぱりわからん!

 頭に疑問符を飛ばしてる間に、色々作るものが決まっていた。

 めちゃくちゃ硬く焼き締めたビスケットとか、パンとか、ナッツ入りのクッキーとか。

 少しデイジーの趣味が漏れてないかな?と見てみたら、案の定視線を逸らされた。

 まあ、疲れた時のクッキーとか美味いから良いけどね。

 あ、そういえばナッツの蜂蜜漬けとかおしゃれで流行ってたよね。

 お手軽に作れそうだし、お土産とかに喜ばれそうだな。

 デイジーとエレオノーレさんの分も作っておこう。


 他にはなにか無いかな?

 日本で保存食って言ったら、やっぱ王道はカップ麺だよね。

 あれば麺を揚げて乾かしてあるんだっけ?

 ノンフライ麺とかより油っぽいけどあれはあれで美味しいよね。

 ふと、お湯でふやかして食べる繋がりで、フリーズドライとかも便利だよな、と思う。

 作れるかはわからんけど。

 作り方も知らんけど。

 めっちゃ冷やして水分飛ばす?きっとそんな感じだよね?多分凍らせて水分飛ばしてカラッカラにするの。

 あったかいスープがパッと摂れるって幸せじゃない?


「おい、キリト君や。なにか良いこと思いついたんだろ?その顔。お兄さんに聞かせてみな?ん?」

「ぅうぇっ?!」


 頭の中であれこれ考えていたらいつの間にか農村に着いていて、エーミールさんに肩を組まれていた。

 ガッチリ押さえられていて逃げられない。


「いや、出来るかどうかわからないんで無理です」

「またまた〜、オレ、これでも色んな事知ってるんだよ?そんなオレ達が知らない調味料を知っていたキリト君にはとーーっても期待しているんだよね」


 ヘラっと笑って断るが、全く引き下がる気が無い。

 不敵な笑みで、“とっても”に力を込めて見つめてくる。

 その目は絶対に逃さない、と物語っていた。

 観念して、フリーズドライの仕組みや利便性を説明をして、作り方は知らないが、それで保存食作れたらすごいよねと話してみる。

 あ、いや、だから知らんってば。

 目をギラギラさせても無理なもんは無理なの。

 むしろカップ麺の方が上手く作れそうだよね。

 麺を揚げて、スープは魔法で水分飛ばして粉にするとかすればいけそうだよね。

 ……って考えるとカップスープの素とかも出来そう?

 俺、あのコーンスープ好きなんだよなぁ…もったりして、あま〜いし、お腹に溜まるからね。


 とりあえずチャレンジしてみるからどっか行ってとエーミールさんを追い出して、村長の家で色々作ってみる事にする。

 エーミールさんは、村長に武器・防具の店を出す計画を相談しに行った。

 なんだよ!やる事あるんじゃん!

 エーミールさん仕事して!

 いつも俺不運を読んでくださってありがとうございます!

 評価、ブックマーク、大量にいいねを下さった方本当に嬉しいです!ありがとうございます!


 祝!100話!

 なんともキリの良い話数で、キリの悪いお話が……。

 思い付いたら百話記念の間話を投稿しようかと思います。

 なんにも思いつきませんが、頑張ります。


 因みにマシュマロは卵白と砂糖、粉ゼラチンとコーンスターチでできてます。

 卵白と砂糖でメレンゲ作って、溶かしたゼラチンぶっ込んで更に泡立てて、冷やして固めて、コーンスターチ振りかけるだけで作れる意外とお手軽なお菓子です。

 が、泡立て器で作ると腕が死ぬので、ハンドミキサーをお持ちでない方にはおすすめできません。


 次回はクッキング回!

 興味ない方は飛ばしてオッケーな回です←

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― 新着の感想 ―
[一言] エーミールさんのお店はヒメッセルトではなく最初のアルスフィアットの街の方じゃないでしたっけ?支店とか取引であちこち回っていて、今はちょうどこの街に来ていたという理解も出来ますが。
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