10 最初の街 アルスフィアット
ここから『飛竜の庇護』の皆が向かう予定の街、アルスフィアットまでは歩いて大体一日くらいだそうだ。
今出たら夕方店が閉まる前には着きそうだとの事。
無茶振りな依頼なのは防具屋さん側も承知の上なので、閉まっていても住居の方に来てくれって言われたそうだ。
「おっちゃんもレジーナもびっくりするだろうな」
「だろうな!それもこれもキリトちゃんのおかげだぜ。愛してるよ!」
ニコニコしながら乾いた毛皮を重ねて紐で括るオーランドと、ニヤニヤしながら肩組んでくるヤンスさん。
「愛してるよ」と言いつつほっぺにキスしてこようとするその顔を押しやりながら出立の手伝いをする。
ほんとそういうの良いですから。
折り畳んだ天幕であったり、毛布であったりを丁寧にザックの中にしまい、朝方採取した野草、香草、キノコの類であったりを紐で括り付けていく。
干しながら歩くのだそう。
成程効率的だ。
……見た目はどうであれ。
ちなみに俺に荷物はない。
そもそもの荷物が無いのもあるけど、一応依頼主扱いで、彼らの荷物を持つ訳にはいかないそう。
ついでにまだ信用がないのもあるっぽい?
【アイテムボックス】に入れようかって聞いたら即答でダメって言われたし……。
依頼料は、街に着いたら一人に小銀貨一枚(大体一万円くらい?)ずつ渡す事になっている。
本来なら全然足りないらしい。
今回はついでだし、グリーンフライフォックスの件もあったのでそれでオッケーらしい。
護衛依頼を出した扱いなのだそうだ。
『飛竜の庇護』はCランクらしいのでかなり良いお値段になってしまうはずなのに、優しさが目に沁みる。
ハンターはFランクからスタートとしてE→D→C→B→Aと上がり、最高ランクのSランクまである。
一概には言い切れないものの、Fが一般人、E、Dが街の頼れる何でも屋さん、Cがその道のプロフェッショナル、Bはプロフェッショナルの中でも上位の仕事を請け負う人達。
国からのクエストはBランクから受けられるそうだ。
Aは国からの依頼すら断れるくらいの権威と力を保持しているらしいし、Sに至っては伝説と言われる人達だそう。
つまり俺は所謂SPを一人当たり一万円という格安で雇っている様なものなのだ。
どれだけ破格かわかってもらえるだろうか?
移動は特に問題なく終わり、夕方、閉門には余裕で間に合い、店が閉まるちょっと前といった時間に街に着いた。
道中特に問題はなかった。
空から鳥の落し物が降ってきて三度ほど直撃したり、俺の体力が足りずちょっと休憩が多かったことくらいだ。
街に入るのに大銅貨五枚(五千円程)取られてしまったけれど、まぁ必要経費だろう。
異世界あるあるの、ハンター登録したら無料らしいので是非登録したい。
「キリトはまず領事館に行って迷い人登録しないとだな」
「りょう、じかん?」
「エレオノーレ、ジャック。悪いけど連れてってくれるか?」
オーランドが切ない顔で小銭入れを見ている俺の背中を慰めるように叩いた。
どうやら“迷い人”は登録をしなければならないそうだ。
こちらではなんの後ろ盾もなく、下手すれば言葉も通じないけれど異世界の知識を持つ迷い人を国が保護して、生活のサポートをしてくれるらしい。
確かに、俺は言語対応があるから言葉は通じるけど、身分なんて無いし、サポートしてもらえるのは助かる。
よくわからないのでエレオノーレさんの言う通りにする。
でっかい建物に向かい、警備に立っている厳めしい顔のおじさんに事情を説明。
しばらく待合室で待たされ、とある小部屋に案内された。
そこでエレオノーレさん達と別れて一人になる。
不安で仕方ないが、通された部屋で大人しく椅子に座って待つ。
三十分くらい待った気がする。
コンコンッと扉がノックされ、慌てて立ち上り返事をする。
「はい、どうぞ」




