不運な事は日常茶飯事ですけれど
しっかり物語を作り、プロットを組んだのはこの作品が初めてです。見切り発車で途中で挫折しまくった過去がありますので、この作品はきっちり最期まで書き切りたいと思っております。どうか温かい目で見守ってやってください。
この作品で少しでも皆さんが楽しんで頂ける様頑張ります。
俺は不運だ。
勘違いでも、中二病的なアレでもなく、マジな話ね。
外を歩けば鳥の落とし物。
空を気にすれば、足元に犬の落とし物。
犬のは飼い主は、ちゃんと持ち帰ろうぜホント。
普段は折りたたみ傘を持ち歩くのに、傘を忘れた日に限って雨が降る。
店で座れば水入りコップが降ってきて、立ち上がれば背が高いわけでもないのに、どこかにぶつかる。
面倒事のアンラッキークジは、毎度大当たり。
街を歩けば、ヤンキーか酔っ払いに絡まれる。
財布やスマホを失くすのなんて、日常茶飯事。
電車は座れないし、足は踏まれるし、SNSはアカウントを何故かすぐに乗っ取られる。
恋をすれば失恋確実。
彼氏持ちでの失恋なら可愛いもので、デートに誘おうと声を掛けたら、痴漢に間違われたり、当て馬にされたり、美人局だったり、罰ゲームだったり、オタサーの姫に纏わりつかれたり……碌な事が無い。
今回はイケる!と思った相手に恋の相談(俺の友達が好きだから協力してくれ等)をされる事もしばしば。
イベント事は、その度に雨。
最終的に、高校の修学旅行は辞退した。
見事に晴れ渡り、楽しんだ友人達の楽しそうなメッセージと写真を一人教室で自習しながら眺めたよ。
うん。
こちらは稀に見る大雨だったとだけ追記しておこう。
とまぁそんなこんなで不運な俺だけど、家族とも親戚とも仲良く、友達もそこそこいて、ついてない事以外は、大きな事故や病気などもなく二十一歳の今まで五体満足で生きていた。
実は小さい頃一度死にかけた事があるらしいんだけど、じいちゃんが命をかけて御百度参りしてくれたおかげで、無事回復したらしい。
いや、全然憶えてないんだけどね?
でも、じいちゃんはその時に死んでしまったんだ。
雪深い中で、近所の小さな神社で何度も何度も俺の回復と健康を願ってくれたらしい。
夥しい足跡が残っていて、両手を合わせたまま亡くなっていたのだという。
雪がうっすら積もっているのを神主さんが発見して、その時にはすでに事切れていたそうだ。
そのおかげで俺は不運ではあるものの元気に生きていた。
そんなオカルトみたいな〜って馬鹿にする奴もいるけど、関係無い。
実際その時から病状はグングン回復していったのだから。
だから健康には気を遣っているのだ。
じいちゃんに救われた命を俺が粗雑に扱う訳にはいかないじゃん?
適度な運動に暴飲暴食を避ける、徹夜は避けて、早寝早起きを心掛ける。
飯は出来るだけ健康に良さそうなのを選んで、よく噛んで食べる、くらいなもんだけどね。
そんな俺、秋山霧斗二十一歳。
イラスト系の専門学生はなんと。
本日死亡しました。
なんてこった。
え?病気じゃないよ。
同情されこそはすれ、恨まれるようなこともしてないから殺されたわけでもない。
言ったじゃん。
俺ってば不運なの。
事故よ事故。
笑えるくらいツイてない事故。
死んじゃってるからさ、ホントには笑えないんだけどね。
ハハッ。
朝登校する為に電車待ってるじゃん?
後ろにさ、私服の高校生くらいの男の子達が居たわけ。
こう友達とわちゃわちゃくだらない話するのってさ、楽しいじゃん?
ふざけて、ばっかじゃねーの?ってどついたりしてさ、戯れあってるわけ。
そいつらの前に居る俺にぶつかったりとかすんの。
でもその度にペコっと謝るから強くも言えない訳で、ヘラッと笑いながら「あ、うん…」みたいな言葉言って、並ぶしかないんだけどね。
あ、そろそろオチわかっちゃった?
だよね。
とりあえず最後までお付き合いください。
何回かそんなことが続いたからさ、流石に危ないから別の列に並ぼうかなって、列を離れた瞬間にぶつかったんだよね。
ふざけて横に飛んだ1人と。
ほんっとタイミング悪いよ。
彼が飛んだ先に俺は居た。
飛んだ方向は線路側。
ぶつかると思ってなかった俺は衝撃に従って線路に落ちた。
地面に着く前に電車が来ちゃった。
せめてどこかがワンテンポズレてれば起こらなかった事故。
ほらな。
ツイてない。
ふわりと浮く身体。
視界いっぱいに広がる通勤電車。
そこで俺の意識はプツンと切れたんだ。
プラグを引っこ抜いたテレビみたいに。
痛みを憶えてないのは多分幸せ。
だって俺、多分ミンチも真っ青だったと思うんだよね。
ふふ、不幸中の幸いだよな。
もう死んでるけど。
それにしてもここは何処だろう?
死者の国?
地獄っぽくはないね。
天国でもなさそうだけど。
うっすらぼんやり暗いなーんにも無い場所。
向こうの方に白く光ってる場所があるからそこに向かってとりあえず歩いてるんだよね。
結構歩いてるけど中々着かなくてさ、取り留めのないことばっかり考えてる。
そうそう。
俺の名前の「秋山」って姓名判断で調べると凶なんだよね。
苗字が凶とか逃れようのない運の無さだと思わない?
え?関係ない?
ま、いっか。
そんでもって名前の霧斗って字はさ、すごい、こう、ヤンキーネームっぽいじゃん?
喧嘩漫画とかに出てくる強そうな感じの名前。
じいちゃんが付けてくれた名前だから嫌いじゃ無いんだけど、なんていうか自己紹介前に勝手にイメージされてる事が多くて「え?君が秋山君なの?」的な反応されることが多いんだよね。
名は体を表さない!みんな覚えてね!
誰に言ってるんだか、とひたすらに足を動かしているとやっと辿り着いた様で、観音開きの扉が目に入った。
両方とも開かれていて、幅は俺が両手を広げて三人分くらいだ。
扉の向こうは真っ白に光っている。
眩しくてよく見えない。
とりあえず扉の端で目を慣らしつつ声を掛けてみる。
「すみませーん、誰かいませんかー?」
ありきたりというなかれ。
様式美、というものがあるのだよ。
また、使い古されてるってことはそれだけ人に受け入れられやすいって事だからね。
「ようやく来たか、さぁ中に入ってくるのじゃ」
返事があるとは思っていませんでした。
ハイ。
てかさ、ようやく来たかって事は俺が来る事分かってたって事だよな?
迎えに来てくれても良いんじゃね?
ナイワー。
そんなどうでも良い事を考えながら恐る恐る向こうの見えないその扉を踏み越える。
「お、おじゃましまーす」
眩しさで目が眩み、何度もぱちぱちと瞬く。
大分慣れて、ぼんやりと見えるようになってき、た……?
ーーーブッ!
思わず噴き出してしまった。
何故って、視力が回復した俺の目には椅子に座ったじいさんが一人とこちらに土下座をする先程の五人が映ったからだ。
え?何でこの人達いる訳?
目をゴシゴシ擦ってもう一度見てみる。
間違いなくさっきの五人だよな?
真っ白な世界にひとつだけ背もたれの長い豪華な椅子がある。
というか他には何もない。
薄ぼんやり光っていて、全部の輪郭がハッキリしない。
その椅子に偉そうな服を着た威厳たっぷりの爺さんが座っている。
そしてその前に五人の少年がこちらに向かって土下座。
だからなんで?!
真ん中でプルプル震えながら土下座してるのは多分俺にトドメを刺した人。
……だと思う。
顔伏せてるからわかんないんだよな。
でも着てた服から多分そう。
そんな疑問符を飛ばしまくる俺にじいさんが話し始める。
『急に呼び立てて悪かったの。秋山霧斗よ。大体の事は察しとると思うが、其方は死んだのじゃ』
部屋全体に響く様な声だった。
そこに居るのに声はその身体から出ている訳じゃない感じって言ったら良いのかな?
そしてやっぱりそうか。
だよな〜死んだよな〜。
遠い目になる俺にその爺さんは話を進める。
曰く、自分は地球を作りし神様だと。
曰く、目の前の青年達は神様候補者だと。
曰く、世界体験(職場体験みたいな?)中だった。
曰く、初めての世界にはしゃいでしまった。
曰く、俺は本来あそこで死ぬ予定ではなかった。
曰く、肉体はぐしゃぐしゃの即死状態な上、大人数に見られてしまい、復活はできない(そうでなければ出来るらしい。神様ってスゴイネ!)
曰く、異世界へ身体を再構築して転移させるので許してくれ。
曰く、許さなければ、目の前の少年達は存在を分解され、新たな神様候補者を作成する。
曰く、その際俺はそのまま輪廻の輪に戻る事になる。
以上、神様の説明終わり。
びっくりするくらい長たらしくて、専門用語が飛び交って分かり辛かった為、ダイジェストでお送りしました。
つまり、良くも悪くも彼等を許して異世界に行かなければ俺はこれでおしまいの様だ。
仕方ない。
「わかりました。異世界に行きます。貴方達も反省してくださいね。命の大事さ、わかってくれたと思います。きっと良い神様になって下さいね」
『『『『『っっ!』』』』』
そう伝えると土下座していた五人が勢いよく顔を上げて感極まった様に泣き出し、謝罪してきた。
『本当にすまない人の子よ!』
『其方の温情に、感謝する!』
『おかげで分解の罰を逃れる事ができた!』
『そうだ。神として最も不名誉な罰から救ってくれた事一生忘れぬぞ!』
『詫びに出来る事ならば何でもするぞ!』
『大上神様の許可を得られたら我らに出来うる限りの祝福を授けよう!』
『それは良い考えだ!如何でしょうか大上神様!』
神様候補も響く様な声だった。
実に姦しい。
マシンガントークも五人集まれば騒音公害じゃなかろうか?
そして大上神様ってあの座ってる偉そうな神様の事だろうか?
『そうさな、まずは其方の良いと思う世界へと送り届けるのは確定じゃ。そして、その世界で暮らし良い様に計らうのも、感謝と謝意を表すには良かろう。其方達がどれくらいの事が出来るか、試験と含めて許可してやろうぞ』
長い髭を扱きながら、キロリとシワに埋もれた目が少年達を射抜いた。
先程までピーチクパーチク騒いでいた五人は、ピタリと口を閉ざした。
顔色もめっちゃ悪い。
うん。
怖いよな。