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第七話




 広いお家なだけあって、客間専用の部屋があった。

一応ノックはするものの、返事が来る前に扉を開けて中に飛び込む。



「レイランちゃん!」

「っ、アンドラさん…」

「怪我してない?あの男の人どうなった?」



 ソファーに座り俯いていたレイランちゃんに駆け寄ると、レイランちゃんはひどく悲しげな顔でわたしを見る。



「ごめんなさい、ごめんなさい…!」



 すぐに震えた声でそう続けて、今度はわたしが悲しくなった。

 そりゃ結果的に怪我はしたけど、元はと言えばアンドラのやり方が間違ってたんだしレイランちゃんがここまで落ち込むこと無いと思う。



「わたしもごめんね」

「な、なんでアンドラさんが謝るの…!?」

「レイランちゃんがアンドラのこと嫌いなんだろうなって思ってたのに、上手くいけば仲良くしてもらえるかもと思ってついて行ったの。だから、わたしもひどいことしたよ。おあいこ」



 ね?と笑えば、背後でため息が聞こえた。

 振り返ると、心底呆れた顔してわたしを見下ろしてるユウの姿がある。


 でも、何を言うでもなくただわたしたちの様子を見守ってくれているようだった。



「…記憶をなくしたって、本当なんでしょう…?」

「…本当はね、わたしは三橋蘭って言って、こことは違う世界で暮らしてたの。でもそれが、昨日起きたらアンドラの姿になってて…」

「…そうなんだ。じゃあ、あなたはアンドラさんとは別人なのね」



 ふ、と目を伏せるレイランちゃんの手を取ると、レイランちゃんは二重の大きな目を見開き、ビー玉のように綺麗な栗色の瞳を揺らした。



「今は、アンドラだよ。わたしがアンドラ」



 そう言えば心なしかレイランちゃんの表情が柔らかくなったような気がして、わたしも自然と笑みが落ちる。



「ねぇ、レイランちゃん」

「…」

「わたしと、お友達になってくれないかな。魔術学校にいるときは話さなくても構わないから、またこうやってお喋りしてほしいの」

「…でもわたしは、アンドラさんのこと殺そうとしたのに…」

「それは、レイランちゃんを傷つけることをアンドラが先にしたからだよ。あ、それにわたしも魔術使えたの。だから傷も治ったし、問題なし」



 ぐー、と親指をたてれば、レイランちゃんは少しキョトンととしたあと、花が咲いたように可愛らしい笑顔を見せた。


 かっ、可愛い。

 気弱そうな雰囲気だったのは俯いてたからで、笑うとこんなにも美少女なんだ、レイランちゃん。



「学校でも、話したい」

「え、いいの?わたしと話したら周りが、」

「ううん、話したい。周りの目なんて気にしないでもっと堂々としたい。…アンドラさんみたいに」



 それは、本来のアンドラのことなのか、それとも今のわたしのことなのか。

 もしわたしのことだったなら、嬉しいなと思う。



「ありがとう、レイランちゃん」

「…わたしこそ、ありがとう」



 そして、最後にもう一度、ごめんなさい、と呟くレイランちゃんに小さく笑みを落とした。



 また明日、と手を降りレイランちゃんを見送り、自分の部屋へ戻ろうとする。

 ふとユウを見ると、やっぱりじいっとわたしのことを見ている。

 でも、最初ほどわかりやすい憎悪を感じ取れなくて、何を考えてるのかわからなかった。



「わたしのことをここまで運んでくれたのって、ユウ?」

「はい。病院から連絡を受けて」

「ありがとう。もうホント、ユウがいなかったらどうなってたか」



 昨日の時点でユウと会ってなければ、ユウがわたしの話を聞いてくれなければ、今こんなに落ち着いて過ごせていなかったはず。


 こんなに優しいこの人に、わたしもいつか、何かを返せたら。



「アンドラ様なら、彼女を許したりはしません」

「え?」



 部屋に戻るために階段を登ってる途中で、不意にユウがそんなことを口にする。

 振り返ると、今度はハッキリと憎悪が伝わってきた。



「弱みを握って、永遠と下僕のように扱って、また別の恨みを買います」

「…」

「…アンドラ様は、そういう人だ。なのになんであなたは…」



 ふ、と目の前にユウが来る。

 わたしを見下ろす瞳はあまりにも悲し気な色に見えた。



「わたしは、わたしだよ」

「…」

「見た目はアンドラだけど中身はわたしなんだから、今のアンドラはわたし。わたしがアンドラでいる間は人に酷いことしたりしないし、今までやってきた酷いこと謝って、悪いイメージを消したいなって思う」

「あなたがそんなに頑張る必要はないでしょう」

「頑張るよ。だって、」



 だって、人生は一度きりでしょ。

 どうせなら悪人として生涯を終えるより、少しでも好きになった自分で終わった方がずっといい。



「後悔したくないもん」



 三橋蘭としてのわたしは、もういない。

 確かに、毎日いつ死んでもいいと思うくらい順調な毎日を送ってた。

 だけど、実際三橋蘭として生きれなくなった今、もっとやりたいことはあったし、完全に未練がないとは言えない。



 だからせめて、アンドラとしてでも生きてる間は精一杯生きるのだ。

 わたしのモットー。

 自分が自分を好きじゃないのに、誰かが好きになってくれるわけない。



「ユウは、辛い?」

「なにがですか」

「アンドラの側にいるの」

「…辛いと思ったことはありません。わたしは従者です。そういった感情は必要ない」

「そっか」

「でも、やっぱりあなたといると居心地が悪い」

「そっか…うう、頑張るぞわたし」



 ユウと友達になる日はまだまだ先みたい。




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