第六話
「……」
重たい瞼を持ち上げると、それは今朝も見たアンドラの部屋だった。
体を起こすとズキリとお腹が痛んで眉を寄せる。
助かったんだ。
一瞬もうダメかと思った。
「…起きたんですね」
「…ユウ」
また気配なく現れたユウを見て少し安堵した。
「ねぇ、レイランちゃんは?大丈夫?」
「あの方なら今別室にいらっしゃいます。…自分を傷つけた相手なのに心配なさるんですね」
「そりゃ心配するよ。それに、レイランちゃんが怒るのも無理ないよ、話聞いたら」
「でも今のあなたはアンドラ様じゃないでしょう」
棘のある声に口をつぐむ。
…まだ怒ってる。
「…ごめんね、ユウ」
「…なにがですか」
「今朝、学校の前で無責任なこと言って。ユウの気持ちなにも考えないで、立場のことも無神経な話し方しちゃって」
「…本当に、居心地が悪い」
「え?」
「あなたと、あの人と…差がありすぎて、俺はどうしたらいいか分からなくなる」
くしゃりと自分の髪を掴み俯くユウが初めて素で話してくれたように思えて、ユウは困ってるのに少し嬉しくて笑みを落とした。
「なに笑ってるんですか」
「あ、ごめん。ユウが少し力が抜けたみたいに思えて嬉しくて」
「……」
「わたしはね、従者とかいたことないし、立場が上って言ったら先生とかだけど、それでも命令されたら何でも聞くとか、そういう関係じゃなかったの」
「…はい」
「だから正直この世界の立場とかよく分からなくて、やっぱりユウにはユウとして、ユウが一番過ごしやすい態度で察してくれたらいいなって思うの」
「…それは無理です。俺はあなたの従者として、そのためだけに拾われて、俺が生きる理由はそれだけです」
「…そっか。じゃ、そのままでいいよ。でもわたしはユウに命令したりしないし、ユウを従者だとは思わない。ユウのこと友達だと思ってもいい?」
「…本当に、可笑しな人ですね」
「ふふ、褒め言葉だね。よし、じゃあレイランちゃんのところに行こう」
ベッドから降りようとして、肩にユウの手が触れた。
そのままベッドに戻される。
「本来のアンドラ様ならその程度の傷すぐに治せます。ですが今のあなたには無理だ。大人しくしててください」
「あ、そうだ。そのさ、時間の早め方ってどうやるの?わたしも一応アンドラなら、できるよね?魔術ってどう使うの?」
「どうと言われても…」
「ユウはどうやって魔術使ってるの?」
「俺は、魔術をどう使うかを想像して、術式を唱えます」
「なるほど。…ねぇユウ。時間を早める術式ってどういうの?」
驚いた顔をしながらも教えてもらった術式というのは、さっぱり意味が分からなかった。
だけどユウの言う通り、傷が治るのを想像しながらそれを口に出す。
………。
お腹に感じた暖かさ。
服を持ち上げると、ユウは勢いよくそっぽを向いた。
でもわたしの言葉に視線を戻して目を見開く。
「できたよ!ほら!」
「……」
呆気に取られてるユウの視線の先には、綺麗な真っ白いお腹。
すごい、わたしも魔術使えちゃった。
「やった!これでもう学校も怖くない!」
「…信じられない」
「へへ、やっぱアンドラってすごいんだね」
「すごいのはあなたでしょう」
「あ、ホント?そしたら嬉しい」
ニッと笑ってベッドから降りると、ユウに、レイランちゃんのところまで案内してもらった。