第三話
目の前にそびえ立つ立派な建物、神殿のような建物に息を呑む。
隣にいるユウが説明をしてくれるけど、余計に不安になる。
「ここがアンドラ様が通われてる魔術学校です。基本的に午前は座学、午後は実技の授業を行っているようです」
「は、はは…随分立派なところだね…」
「この国で最も優秀な魔術学校なので。多くの貴族のご子息、ご令嬢が通われてますし、皆さま魔術の実力もトップレベルです。アンドラ様もそのトップの中に入ってます」
「ねえホントにわたし使えない!魔術なんてどうやって使うの!?」
ユウに縋り付くと、べりっと剥がされる。
次々と同じ服を着た生徒が中に入ってくけど、誰一人わたしたちには目を向けない。
でもユウは周りの目を気にしてるようだった。
「引っ付かないでください。あなたは従者とそのように関わる方ではない」
「ええええ無理、ユウいないとか無理。ねぇユウはここに通ってないの?」
「たかが従者が魔術学校になんて通うわけないでしょう」
「…そういう決まりなの?」
「そういう決まりがあるわけではありません。でも一般的に、」
「ユウは魔術使えるの?」
「…使えることは使えますが」
「ね、アンドラの家って貴族なんだよね?そしたらその従者のユウがここに入れるようにお願いしたら入れるよね?」
「おやめください。そんなこと前代未聞です」
話は以上、というように顔を逸らすユウの腕を引くと、ユウは微かに目を見開き、そして睨むようにわたしを見下ろした。
「ユウは、通いたい?通いたくない?」
「……」
「前代未聞だとしても、ユウが通いたいと思うなら通おうよ。わたしもユウがいてくれたら心強いし楽しいと思う」
じっと瞳を見上げる。
ユウもしばらくわたしを見下ろした後、目を細めた。
「私は従者です。お嬢様のご命令とあらば、全て従います」
その言葉ははっきりとわたしを突き放していて寂しくなった。
同時に、ユウを傷つけたのだとも分かって、調子に乗りすぎたなと反省する。
「そっか、ごめんね。でも、わたしがアンドラである限りユウに命令したりしないから」
「……」
「じゃあありがと!どうにかやってくるね!」
ユウの腕を離せば、ユウは恭しく礼をした。
そんなユウに見送られて建物へと一歩、一歩、近づく。
はぁぁあこっわい、こっわい。
誰もわたしを見ないっていうのが余計に怖い。
もーうどうするのさ。
わたし本当に魔術なんて使えないし、ユウの言う通りならよっぽどの性悪女としてみんなからは嫌われてるらしいから友達もいないだろうし。
ユウに教えてもらった、魔術科Aクラスの教室を探し当て、中に入る。
やっぱり誰とも目が合わないけど自分の席が分からなくてどうにもならず、とりあえず前に座る女の子に声をかけると、悲鳴と共に逃げられた。
「……」
ほろり、ほろり。
心で泣く三橋蘭であった。
「……リューイヒ」
「は、はい!」
途方に暮れてると背後から声をかけられて嬉々として振り向く。
だがしかし、振り返った先には鋭い目があってまた凹む。
「貴様、何度言えば分かる。クラスメイトに恐怖を与えるなと言っているだろう」
燃えるような真っ赤な髪に、同じく真っ赤な瞳。
肌は少し焼けていて健康的な男子だった。
「あ、ごめんなさい。自分の席ど忘れしちゃって」
「……ふざけているのか」
「えっ、いや違、」
「これ以上この学園に危害を加えるようなら例えリューイヒ家の令嬢だとしても容赦はしない」
それだけ言い残して自分の席に腰を下ろす彼を見送って、アンドラの嫌われっぷりを痛感した。
こんなに嫌われるって、どんな生活してたのアンドラ。
仕方なく全員が席に着くのを待って、ポツンと空いた席に腰を下ろした。
悲しいことに前後左右誰一人としてわたしを見ることも話しかけてくることもなく、落ち込む。
三橋蘭としてのわたしなら絶対こんなことありえないのに。
…仕方ない。
どうしてアンドラになったのか、一生なのか一時的なのかは分からないけど、とにかくわたしがアンドラである時だけでも平穏に過ごして、みんなに植え付けられた性悪女としてのイメージを払拭しよう。