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第二話




 恐る恐る扉を開けると、彼が目を向ける。


「…早く着替えてください」

「あ、いや、誰が制服かわからなくて…」

「…はい?」

「だ、だってどれもドレスみたいで!わたしの知ってる制服とは違くて…」


 おずおずと声が小さくなってくるわたしを見下ろした彼は、また小さくため息を吐いて部屋の中に来ると、クローゼットから一着、全体的に白と黒でできたワンピースを取り出した。


 ジャケットは胸の少し下までの短さで、あとはワンピース。

 裾には黒のラインが二本。

 ジャケットの袖にも同じく二本の黒のライン。



「こちらが制服です」

「あーありがとうー!助かった」

「……」

「あっ、ごめんなさい。助かりました」



 慌てて敬語にすると、彼はふいっと目を逸らす。



「あなたはアンドラ様じゃないのでしょう。そもそもわたしとあなたではあなたの方が身分が上です。敬語など使わなくて結構です」

「あ、ホント?そしたらタメ口で」

「…タメ口?」

「あ、うん。わたしのところでは敬語じゃない話し方をタメ口っていうの。ここではなんて言うの?」

「…敬語以外の話し方に名前があるとは聞いたことがありません」

「そうなんだ。ここってなんて国なの?」

「あの、とりあえず先に着替えてください。朝食を終えてから詳しく話します」

「あ、了解です」

「リョウカイ…?」

「了解っていうのは分かったっていう、」

「結構です。早く着替えを」



 部屋に押し込まれて渋々服を眺める。

 …これ、どうやって着るの?


 どうにか勘で着替えを済ませて部屋を出ると、待ちくたびれた様子の彼につられて廊下を歩いた。


 こんな立派な家見たことないってくらい豪華な家で、もはやお屋敷。

 至る所に扉があって、廊下に敷かれてるカーペットはワイン色で高級感がある。


 螺旋状の階段を降りた先に食堂があって、そこに入ると随分と渋い顔をした男性が腕を組んでわたしに視線を移した。



「遅いぞアンドラ。いつまで待たせる」

「あちらはアンドラ様のお父様、レベット様です」

「ありがと」



 耳打ちしてくれた彼にお礼を言って、謝りながら男性の横の席に座った。

 刹那、部屋の中にいた彼以外のメイドさんらしき人たちがざわついた。



「お嬢様!その席は、」

「え?」



 あ、もしかしてここはお父さん専用なのかな。


 この人の横にも一つ席があったから思わずそこに座っちゃったけど、娘は別の席って決まってたりして。



「ごめんなさい、わたしいつもどこ座ってたっけ?」



 またざわりとメイドさんたちがざわつく。

 男性までも目を見開いていて、やらかしたと悟り彼を見ると、氷点下並みに冷たい目をわたしに向けていた。






「なにを考えてるんですか」

「うっ…ごめんなさい。つい普段の感じで…」

「もし本当にあなたが別の国の方だとしても、あの場面であの席には座らないでしょう」

「はい…」



 変な空気で食事を終えたあと、わたしは彼と共に車に乗り込み、かと思えば説教を受けていた。


 オカンっぽいなぁこの人。

 ていうかまだ名前教えてくれないし。



「これからあなたが行くのは魔術学校です。アンドラ様は大変優秀な魔術の成績を持っていますので、くれぐれも他の生徒の方々に悟られないように過ごしてください」

「魔術!?わたし魔術なんて使えな、」



 ギロリと睨まれてはっとする。

 そうだ、今運転手さんも乗ってるんだった。


 にしても車があるのも車から見える景色もそこまで見慣れた景色と違いはない。

 でも魔術…それ、もう完全に異世界じゃん。



「ね、ねぇ、ところでそろそろあなたの名前教えてほしいなーなんて…」

「…名前はありません」

「え?」

「私はアンドラ様の従者でしかありません。レベット様に拾われたあの日から、私はアンドラ様の従者です」

「…そしたら、拾われる前の名前は?」

「それまでは五百二番と呼ばれていました」



 ずくりと、謎に胸が痛んだ。

 そんなの、人として扱われてないじゃない。



「…じゃあ、ユウって呼んでもいい?」

「ユウ、ですか」

「あのね、わたしの世界ではこういう字があって」



 あれ、そういえばわたし、魔術なんてある異世界なのにどうしてこんな問題なく言葉交わせてるんだろう。


 それに、至る所にある文字も読める。


 ふと疑問に思いながらもカバンにあるノートとペンを取り出して、優、という字を書いた。


 ノートとペンもよく見慣れたものだった。



「この字ね、優しいって意味の字なの」

「……」

「わたしに色々教えてくれて優しいから、ユウ、はどう?」

「……私はあなたの従者です。あなたがそうお呼びになりたいなら構いません」

「ふふ、やった。ありがとう」



 相変わらず素っ気ないし冷たい目だけど、嬉しく笑みを落とせば、彼、もといユウはくっと眉を寄せた。



「…居心地が悪い」

「え!?なんで!?」

「私の知ってるアンドラ様との差が大きすぎて、戸惑います」

「…アンドラって、どんな人なの?」



 運転手さんに聞こえない声で言葉を交わす。



「非常に気が強くて、傲慢な方です。自分以外の人に興味を持たない」

「へぇ…」

「そのくせ、心の奥底では誰よりも臆病です」

「そうなんだ」



 確かに最初に鏡で見たアンドラの顔はどことなく自信なさ気だった。

 こんなに綺麗な顔をしてるんだから、もっと自信を持てばいいのに。



「アンドラ、綺麗だよね」

「本来のあなたは、どんな人なんですか」

「わたし?わたしはね、美少女で世渡り上手」

「随分自信がおありなようで」

「当たり前でしょ。だってわたし、実際イケてるし」



 わたしはわたしが大好き。

 ニッと笑ってみせれば、ユウは少し目を見開き、そして髪色と同じ藍色の瞳を細めて初めて笑みを見せてくれた。



 ズッキューン。


 もうホント、一瞬で恋に落ちた?ってくらいキュンとした。

 だってなにその笑顔、反則。

 超カッコいい。




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