第九話
「アンドラ様は挨拶などしないし、感謝もしない。なので、今のあなたの行動は天変地異でも起きたかのような衝撃を与えるんです」
車の中でユウがため息混じりに説明してくれる。
「そっかー。アンドラはどうしてそんなに人に対して冷たく察してたんだろう」
もちろん運転手さんがいるから小声での会話。
そのせいでユウとの距離が近くて、ユウから漂う優しい香りにドキドキしている。
何度見ても綺麗な顔をしているし、優しいし、笑った顔は本当にきゅんきゅんしたし。
ドキドキしない方が無理だ。
だけど、だからと言ってユウに見惚れてばかりいるのも、頼り切ってしまうのも良くないわけで。
だってユウは、以前のアンドラの話題になった瞬間、瞳に陰りが出る。
それでも、わたしを〝今のアンドラ〟として接してくれてるのだからユウは本当に優しい。
わたしの呟きへの反応に困ってる様子を見て、話題を変えた。
「昨日の感覚通りにやれば、今日の授業で魔術使えるかな」
「はい」
「すごい。ユウに言われると大丈夫って感じがする。ありがとう!」
そう口に出すと、ユウはまたもや反応に困っていた。
ユウと、ちょっとでも仲良くなれますように。
なんて願ってるうちに学校の前につき、車から降りる。
「行ってらっしゃいませ」
「うん!行ってきます!」
不安な時は、口角を上げて声を出す。
わたしがずっとやってきたこと。
にっと笑えば、ユウは微かに目を細めた。
この学園では外履き内履きの概念がないらしく、みんな靴のまま校内を歩いている。
字を読むことも書くこともできる。
会話をすることもできる。
だけど、まだ慣れないことがたくさんだなぁ。
「っ、アンドラさん!」
教室に入る寸前、レイランちゃんの声がした。
震えた声から、よっぽど勇気を出して話しかけてくれたのだと分かって頬が緩む。嬉しい。
「レイランちゃん!おはよう」
駆け寄ると、レイランちゃんはぷはーっと大きく息を吐き出した。
それからふわりと花が咲いたように笑う。
「お、おはよう、アンドラさん」
「…ありがとう。すごい嬉しい」
「が、頑張るって決めたから、何度も練習してきたの」
「っ…可愛い…」
なんて可愛いの…!
あまりの可愛さに耐えきれず抱き締めようとした瞬間、硬い何かが体に巻きついた。
一瞬のことで、それが何かを認識する前にぐっと体を締め付けられる。
「っ、」
声にならない呻き声を出すと、レイランちゃんが「アンドラさん!」と心配そうに駆け寄ってきてくれた。
「…鎖?」
わたしの体に巻き付いていたのは鎖だった。
身動きを取ろうとすると、シャラ、と音を鳴らす。




