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5.

  ディープフォレスト 山


 鬼里離れたところに山がある。木々が生い茂って木の実がなっている。

 しかし、今日は師匠の手伝いと修業が休みのジョシュは収穫とは別の用事でこんな山奥まで来ていた。


 そして、ジョシュは一切自分がなぜこんなところに来ているのか、寝ていたのか思い出せなかった。



  数時間前


 朝目覚めてぼんやりと朝食のリンゴの果実が入った特製のスープを食べながら師匠から借りた本を読んでいた。ディープフォレストの本は見開き半面に絵ともう片方に横書きの文章が書いてある形式だ。

 その物語に描かれているのはディープフォレストの歴史に通ずるようで鬼族なりにファンタジーに思える要素が盛り込まれた物語。

 主人公が子供の頃を回想するような語りから始まり、5章まであり、その内の3章が3冊の日記について語られている。

 たったその物語の1章を読み始めたばかりだった。


 『私は誉ある鬼生を送って来た。』


 その章はその書き出しから始まる。


 ――――――

 ――――

 ――


 ワタシがそれを見たのは親に黙って町の離れにある山へ、ただの興味本位で行った時でした。

 その山は「子供は行っちゃだめだ」と言われている山でした。どうしてかというと子供には敵わない魔獣が潜んでいるからだという事でした。それから、ワタシの住む町からかなり離れたところにある街に住む魔法使いが潜んでとって襲われるかもしれない、という事が理由でした。

 ワタシたち鬼族は、彼ら魔法使いとは共存の出来ない生き物なのだ。

 鬼族と魔法使いはお互いにお互いの体内に流れる魔力を求めているから共存しようとすればお互いに命を奪い合おうとしてしまう。

 そんな状況でまだ未熟で鍛えられていないワタシが一人で魔法使いに見つかってしまえば一瞬で殺されてしまう。

 けれど、幼げの至りで山がどんな風になっているのか知りたかったから夜になってから黙って山へ行った。


 山は簡単に登っていくことは出来て、奥へ進んでいくと大きな水しぶきの音が聞こえてきました。

 耳を立てて音のする方へ行くとそこにはワタシがこれまで見たことのない光景を目にしました。

 山の崖がありその端の方から水があふれ出すように流れていたのです。流れてくる先からには川がありました。

 その音の正体を目にしたときは知らなかったのですが、後で本で調べてみると滝と呼ぶと知りました。

 ワタシはその光景に感動して、毎日のように夜の同じ時間に通うようになりました。

 ある日、ついに親にバレてしまいました。

 ただ、夜中に出かけていたという事だけがバレて、どこに行っていたかまではバレませんでした。好きな子が出来たからその子のおうちまで行っていたと嘘ついたのです。

 バレた翌日、私は今日で滝を見に行くのは最後にしようと思って見に行くとそこにはこれまた初めて見た光景が広がっていました。

 滝の水しぶきとは違い、まったく生き物とさえ思えるような綺麗な白い綿のような、しかし、光り輝く、以前に本で読んだ事のあるいわゆるこの世のモノではない妖精というそれのようでした。


 それから気付いたらワタシは意識を失ってそこに倒れていたところを鬼族のとあるおじさんに拾ってもらいました。

 早朝、家に帰されたのですが、親からは「朝いなかったから心配した」とこっぴどく叱られました。拾ってくれたおじさんはワタシと「夜中に一緒に話をしていた」と話して誤魔化してくれましたが、納得したふりをして親はワタシの事を怒り続けました。


 数日後、ワタシは家出しました。

 ワタシが本を読んだり真面目にしていても親は一切信用しなくなったからです。

 確かにワタシが悪い事は承知しておりましたが、幼いワタシには怒り続けるという事についての意味が到底見当も付きませんでした。

 

 また山に行きました。

 それまで偶然出くわす事のなかった魔獣に出くわしてしまったのです。魔獣は背から角のような骨が内側に弧を描いて左右3本ずつ生え、4足歩行に丸く長い胴体に長く突き出た鼻は穴が大きいのが特徴的で本で読んだモッズという魔獣のようでした。料理のされていない茶色く毛むくじゃらのそれを目にしたのは初めてでした。

 後で調べたら魔獣は夜中は別の場所ところに巣があるようで、夜中は運よく会わなかったという事だったようです。


 ワタシは身体が強張り何もできませんでした。しかし、魔獣は容赦なく威嚇し、こちらの様子を伺っていました。

 次の瞬間、モッズはワタシに向かって突進してきました。当然ワタシは力に自身はありません。

 しかし、モッズは気付けば、ワタシ自身を守るようにしていた、腕に突進して重傷を負って目の前でひるんでいたのでした。

 ワタシは今の内にと思いそこを去ろうとしました。

 しかし、そこに先日会った、白く光る妖精が目の前に振る様に何百匹と天より降りてきたのでした。

 そして、その妖精には顔さえありませんでしたが、言ったのです。


〈あなたは、先日こちらに来ましたね〉


 ワタシはその問いに戸惑いはしましたが、不思議な落ち着きを取り戻し、「はい」と応えていました。


〈先日あなたがいらっしゃった時、力を授けました〉


 それを聞き、ワタシはたった今モッズがひるんだ理由が妖精から授かった力によるものだと悟りました。


〈あなたなら幸せになれることでしょう〉


 そう言うと妖精は滝の中に溶けていくように姿を消していったのです。


 ――――――

 ――――

 ――


 ジョシュはそこまで読み思い立ったが吉日と言わんばかりに朝食を食べ終え、山奥へと走っていきました。


 そして現在。

 ジョシュは本を手に、描かれている地図を頼りにその滝の在処を探していた。


 しばらく、木々を避けて進んでいくと水しぶきのような音が聞こえ始め、そのまま進み続けると、音が大きくなってきた。

 しかし、まったく大きな音にはならない。

 あきらめず進んでみると、そこには崖があったが滝は流れていなかった。流れていないというより、水がわずかしか流れておらず滝と呼ぶには微量だった。どうやら水の流れる上のところで大きな岩が塞いでしまって通りが悪くなっているようだった。

 ジョシュはどかそうと岩のところまで移動し、流れる川の横で力づくで押し始めた。

 しかし、まるでビクともせず到底自分だけでは動かせる気がしなかった。


 バキッ


 そんな音が背後からした。

 音の方へ向くと、魔獣が1匹、2匹、3匹4匹5、6、789……――気付けばジョシュの周りには魔獣が集まっていた。

 ジョシュは忘れていた。日中には魔獣が活動するという事を。

 魔獣はさっきまで呼んでいた本とは違い、ザックという2足歩行で指が4本ずつ生えた2本の腕に前進毛むくじゃらで顔面には悪魔のような大きな1つ目。以前にフルシアンテから聞いた事がある。ザックの木を簡単に片腕で引っこ抜くことも出来るという腕力の持ち主だと。大人の鬼ならまだしも押して倒すことがやっとのジョシュは到底ザックに適うという自信などなかった。しかし、逃げようと思ったところで一切逃げられる余地が無くザックは恐る恐る近づいてきていた。ザックは警戒心が強いものの自分より小柄な獲物への警戒心は薄いらしい。


 なぜザックがジョシューー鬼に向かって来ているのかというと、鬼同様に魔獣も魔力を求めているからだ。


 すると一匹のザックがこちらへ走ってきた。

 しかし、ザックは胴体が重く、下半身は筋肉が上半身の分厚い筋肉に比べて弱い為おもったよりゆっくりだった。若干拍子抜けするがそれどころではない。一匹だけではなく、10匹はいるのだから。

 せめて木刀を持ってくるべきだった。

 ジョシュの腰には修行にいつも使っている木刀が無かった。

 警戒しながら岩に追いやられていくばかり。すると、足元に逃げれる程度の木が落ちていてすかさず手にする。

 目の前に迫って来ていたザックが剛腕を振るった。ザックは瞬時にしゃがんで避ける。一切手が出せるような瞬間が無かった。腕を振る助走は無く構えて迫って来ていたそのまま――腕を振るというより、突き出すのが正しかった。そして背中の岩が豪快にはじける破片が崖下に粉々に落下していく。頭身が自分の倍以上あるザックの股下をくぐって逃げる。

 そして手にしている木に魔力を宿して力強く叩きつけた。

 しかし気はあっさりと石のように頑丈なザックの鼻骨で容易く折れてしまった。

 何もできない。

 対策してこなかった自分に問題があるが、そもそもこの山は物語の山同様に現在も子供は立ち入り禁止と注意されている。帰ればフルシアンテに怒られる。――いや、そもそも帰れるのだろうか。

 そんな事を考えている余裕もなくジョシュが襲いかかってきたザックへ微力ながら攻撃をしたのをきっかけに周りの魔獣の仲間たちが走ってきた。しかし、やはり遅かった。目の前のザック以外は。

 攻撃を受けたザックは振り向きジョシュを一瞬にして掴み上げてしまった。

 イタい。

 ザックの腕力は計り知れないほどに強力だった。すぐにでも身体が破裂しそうなほどにジョシュの胴体を圧縮していく。

 ジョシュは使える魔力を身体中の細胞にフル動員し、どうにか逃れようとザックの腕をこじ開けていき、自分を掴んでいるザックの腕に噛じり付く。鬼は普段魔獣の骨を食べているから顎が強い。これは子供大人関係なく遺伝されている。しかし、先頭に使うという事はあまりない。

 ザックはジョシュの牙が腕に刺さり腕の力を緩める。ジョシュはそのまま地面に落ちる。

 掴まれていた身体を休める暇もなく周りにはザックが迫って来ており、2匹が襲いかかってきた。ジョシュはまたザックの下を潜り避けていく。彼らは上半身の動きは素早いが下半身の反射神経は悪い。


 しかし、避けて進んだ先にはまた何匹ものザックがいてジョシュを見つけるや否や――気付けばジョシュは宙に浮いていた。身体は新たな激痛を感じていた。ザックに殴り飛ばされたのだろう。


 ――!

 

「?」

 ジョシュが空中に飛ばされている間、ザックの鳴き声が聞こえた。

 遠吠えか、仲間との会話か、何かの合図か、ジョシュには知識が無かったが叫ぶような鳴き声が聞こえた。

 空中では何も受け身が取れないジョシュは気付くと先ほどザックが岩を割った影響で防いでいた川の水が大量に流れ出した滝に沿って落下していることに気付いた。そんなこともおぼろげな意識で理解していたが、このまま落ちれば意識を取り戻す間もなく幼いながらに最悪の事態を覚悟をしていた。

 その最中、ジョシュの薄く開いた目に光が差し込んだ。


 しかし、――それは光と呼ぶにはまるで自我がある様に移動した。

 ――それは、光と呼ぶには形が明確にあり、ゆえに形が明確には無かった。

 ――それは、自我と呼ぶには常軌を逸した存在感と莫大な魔力を感じた。

 ――それは、まるで水しぶきの中から溢れた光のようだった。


 ――それは、まるで物語で呼んだ、所謂――妖精のそれだった。


 

 気付くとジョシュは崖の下で眠っていた。

 耳につんざくような滝の音が激しく聞こえ、意識を取り戻していく。

 背中には砂利が転がる。

「あれ? ボクは……。……うっ……!」

 後頭部に激痛が走る。


  現在


「なんでボクは……こんなところに……?」

 そうしてジョシュは何も思い出すことも出来ず頭痛に苦しみながら山からでる道を探した。

 崖の下に倒れていたけれど頭以外は痛みはなかった。

 崖から落ちた事も何かに襲われたという事など一切覚えていない。

 

 歩いて、町に着き、家に帰った。

 途中すれ違う住民たちには挨拶されたけれど特に変に思われるような反応はなくいつも通りで自分が山奥にまで行った事など悟る者はいなかった。


 翌日、ジョシュは耳の奥の耳を塞いだ時に聞こえてくる動脈の音ようなのが脳髄に聞こえ目が覚めた。

 次にその音が耳の奥からではなく別のどこかから発せられていると気付いた。

 そして、それが自分が魔力を発生させる時に走る完食に似ていると気付いて、それが魔力だという事を確信した。

 位置が分かる……!?

 これまでは感覚が分散し明確な位置を探知する事が出来ていなかったのが分かるようになりジョシュは心より戸惑っている反面、喜びを感じた。

 師匠は生活していて感覚で探知感覚を覚えたって言っていたけれど、突然感覚を覚えるという事もあるとシドから聞いた事がある。

 自分はそっちのタイプの鬼だと信じた。

 様々なところに魔力があるのを感じる。町の鬼、木の実、魔獣……。きっとそれぞれがどれかなのだろう。その差が何かまではまだジョシュにはまだ分からなかったが、たった今、認識している魔力の中の一つに不思議と惹かれていた。微力な魔力だが自分でも捕獲が出来るんじゃないだろうかと。その魔力は明らかに生き物の肉体に宿っていて木の実ではなく、木の実より強く、魔獣ではなく魔獣より弱い――しかし、これは何という生き物だ? 不思議なことにその魔力の周りには別の魔力が存在しなかった。それなら邪魔されず安心してボク一人でも捕獲できるかもしれない……!

 自分で捕獲できれば褒めてもわらえるかもしれないという不思議な確信と期待を抱いて一切そんな疑問など気にならなかった。

 もしかしたら新しい生き物を捕獲できれば実験の分野の仕事をしている鬼に協力が出来るかもしれない……!

  ただただ新鮮に感じ取れるその魔力にジョシュはただ、理性を失っていた。


 次々と期待が溢れだし、まだ未熟な鬼はその魔力の元へ向かうことにした。

 その求めている場所がディープフォレストでも、魔法界でもなく、実は魔法界では地獄と呼ばれているセカイだと知らずに。

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