3.
マリアによるとどうやらまだ鬼の気配が無いとの事だ。
「私には鬼の気配が分かるからとりあえず来るまではまだ危険はないだろう。とりあえずナルノは寝ておけ。私は……」
「流石にそろそろ帰れ……」
しかしそういったがマリアは一切聞かずどうやら部屋の中を見回している。
「そうか……。そういえばさっき杖の持ち主の側にいなければならないとか言っていたか……」
「私はここで寝る!」
パンッ、と押入れを開け放ち魔法使い様は宣言した。
「お前はネコ型ロボットか!」
「いや私は夢のようにプリティでキューティな可愛いモンスターだからDream Monsterみたいなものだから略してDraemonと呼ばれてもあながち間違いじゃないみたいな?」
「といってもまあベッド一つしかないし」
「無視するな~!」
「よしよし。わかったわかった」
腹部を殴られたが拳をぶつけられたという程度の感触で痛くはなく、別に可愛いという訳ではないが幼女の小さな頭を撫でる。
「なら、ベッドで寝ていいぞ。俺は居間のソファで寝るから」
「イヤ。私はここで寝る! ナルノはベッドで寝ろ!」自分の寝床と俺の寝床を順に指さし、断固として譲る気はないらしい。
「わかった。わかったよ……」
「そ、そうか……。でもベッド一個しかいないし布団も無いけど……。なるほど……」
マリアは俺の腕を見つめながら目で訴えていた。寝具を創造しろ、と。
悟るままに俺は寝具を創造した。こいつ魔法使いだって言ったって人間界では魔法が限られるとの事だったが、いるだけ不便だな。
「ふッ」
「アガッ……! いきなり何するんだよ!?」足を蹴られた。
「なにか悪い事考えてそうな顔だと思って」
「な、なにも考えてないって……!」
「おやすみ……」
彼女も眠りについたので俺もベッドに潜った。午前4時。
※ ※ ※ ※ ※
「ナルノ、起きろ!」
その声で目が覚めた。時計は10時を回っている。
「鬼が現れたのか?」
「いや、まだ鬼の気配はない。けど、ナルノが魔力を与えた人間の気配が移動している。今のうちに魔力を抜き取る事をしておこうと思って」
「ああ、そういえばそうだったな。別に鬼を待つことはないのか。本当にいるのかまだ現実味を感じていないけど。そもそも目の前の幼女は本当に魔法使いなのか――」
「うるさい! 早く行くぞ!」
マリアに腕を引かれるまま玄関まで連れてかれそうになったが、流石に寝巻のままだったので外着に着替えて俺はマリアの案内に従いながら俺とマリアの失態によって魔力を宿してしまった先日会った少女を探しに出た。
「あ、その前におなか減った」
とマリア様が言った。
※ ※ ※ ※ ※
「おい、それはズルいぞ……」
「ズルいって魔法使いは箒に乗って飛ぶって決まってるじゃないか、地上でも」
「魔法界? とかから来たっていうクセにマリア様はやけに地上について詳しいな。本当は――」
「私たちは魔法界から自由に人間界を見ることが出来る。だから何もおかしなことではないぞ。そんなこと関係なく実際に私達魔法使いは魔法界でも箒で飛ぶ。別に地上に合わせてという訳ではない。そんなことよりやっぱりあんまんはおいひぃな~」
マリアはコンビニで買ったあんまんを食べながら黒く精巧につくられた箒にまたがり宙に飛んでいた。
こうして見ると実際にマリアが魔法使いだという事を真に受けざるを得なくなってきている。
「つってもお前、こんなところで飛んで大丈夫なのかよ。普通に人に見られたら」
「それについては心配ない。お前意外の人間には私及びこの箒は見えない。見えるのは杖に触れた人間と魔法界の者達だけだ」
「それはもっと早く言ってくれ……このまま人とすれ違ったら独り言言っている奴になるじゃないか!」
「特に人間の目も気にしないクセに」
「それはどういう事だ?」
「こっちだ」
マリアは俺の問いに対し無視し道を曲がり俺を案内していく。
俺は魔法の杖自体手にしているが俺自身が魔力を感知することが出来るわけではないようで、こうして、マリアの感知能力を頼りに魔力を探す。
俺はマリアがスピードを出したり緩めたりするたびに走ったりマリアを伺いながら歩いたりとしている。滅多に走らないものだから体力が持つか怪しい。先日追い回された時も頑張って走ったが正直後日筋肉痛が厳しかった。
路地を曲がるマリアを追っていると廃墟の横を通り過ぎていく。
「ん?」
「どうした?」
「今……いや、なんでもない」
経った今過ぎた廃墟に人の姿があっただけだ。
しかし、何故かただの人を見たような気にはなれない異様な気配を感じた。しかし、廃墟というだけであまり慣れていないところに人がいれば少しは興味が惹かれたというだけだろう。
俺は特に気にせずそのままマリアを追いかける。
次に工事現場を過ぎて行くところで工事現場の囲いに傷が付いているのに気付いた。3本の線だ。しかし、傷といっても小さく、ネコが引っ搔いたような跡だった。
そのままマリアを追いかけていると商店街の中に辿り着いた。
「ああ、またここで買い物に来ているのかな?」
そう言い俺は買いものに行き交う人々を見回した。
マリアはゆっくりとその中に入って進んでいく。
「いた」
マリアが何かに反応を示すと勢いよく飛んでいく。
「て、待てよ……!」
そのまま走っていく途中だった。
途中の細い路地に嫌な気配を感じた。
マリアが遠ざかっていき俺は一切そちらに気付いておきながらも意識を向けきれずに急いでマリアを追いかけて行った。
そして辿り着いたところで、残酷な景色を目にした。
「おい、なんだよ……これ……」
商店街を通り抜け、先にある路地裏に入り、目の前に現れたのは赤い海。徐々に広がっていく赤い液体を見る限りまだ事態が起こったばかりという事が伺える。
しかし、そこには人の姿は一切なく、強いてあるのは人の髪のような黒い糸が散らばり、人の血液と思える大量の赤い液体。
「きゃぁあああ!!」
近くから悲鳴が聞こえた。
「!? マリア!」
「うん」
悲鳴のあった現場に辿り着くと目の前の光景を目にしてすぐにマリアは悔しい声で次の言葉を漏らした――