表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/30

ー第六話ー 真新しい季節の到来 経る時間と再開

 「新年度なので、新しく予算が付きました。6月までにこの企画について、WEB対策できますか?」


 孝介はそう言われると、取引先担当者から、進行中の企画書を渡された。

 30ページぐらいある企画書をペラペラをめくって、WEB対策に書いてあるページに目を通した。

 「わかりました。今回の企画について、WEB側の目標は、人数ですか?金額ですか?」

 「中村さんには、人数でお願いしたいと思います。PVと問い合わせと契約と。契約数はこちらの問題でもありますので、中村さんの必達ではありません。」

 取引先担当者は、そう言うと、孝介の手元をじっと見た。

 孝介はその視線を感じ、企画書を一度閉じた。

 「わかりました。詳細については、今週末までにメッセージを送ります。これから先は制作設定と同時進行になりますから、チャットで完了までやり取りしましょう。」

 そう言うと、孝介は握手するための手を差し伸べた。

 「今年も、引き続きよろしくおねがいします。」

 取引先担当者は、にっこり答え、孝介に手を差し伸べた。



 孝介は右手を天井に差し伸べたまま、目を覚めた。

 「あれ?いつの話だったけ?」

 なんとなく記憶にあるやり取りが、いつだったか思い出しながら、差し伸べた右手をベッドに降ろした。


 頭のあたりで、何か振動がなった。

 スマホに、メッセージが届いてたようだった。

 

 仕事を引き継いだ後輩からだった。


 『中村さん、引き継いだ案件について教えて下さい』

 それから、長いメッセージが続いていた。

 内容は、取引先担当者から受け取った、今年度の企画の進行についての相談だった。

 WEB制作と一緒にWEBマーケティングの役目も担っていたため、引き継ぎ資料の確認と合わせてアドバイスが欲しいようだった。


 「この内容なら、課長に相談したほうが早いような・・・、まあいいか」

 

 孝介は、その会社の今までの取引内容と今回の内容についての案と、そしてその話なら課長に直接聞いたほうが早いと打って返信した。

 少し間を置いてから、もう一通送信した。

 『取引先の企画については、マーケティング手法を課長と相談しながら、細かい数字の打ち合わせを、先方とチャットしてリアルタイムでやりとし続けたほうが、ミスが少なくすみます。』

 

 「マーケティングは、相手がいて初めて成立するものだから」


 孝介はそうつぶやき、スマホから手を離した。


 

 朝、珍しくすんなりと起き上がれたので、孝介は国道沿いの商店に買い物に行くために外に出た。

 集落の小学生が登校の時間だった。

 学校が統廃合で遠くなり、町営のスクールバス、もしくはその児童の親の車で送るようになってた。

 どうやら、今日は児童がスクールバスに乗り遅れたらしく、親の車で送ってもらうようだった。


 児童たちが車に乗り込む時に、親が孝介の方をみて、声を上げた。

 「あれ?孝ちゃんやないが?」(あれ?孝ちゃんだよな?)

 聞き覚えのある声だった。

 「あ~、翔太やったんか~」

 「うっわ、ひっさいぶり~」(うわ、ひさしぶり~)

 馬場翔太は、孝介の小学校の同級生だった。

 能登で暮らさなくなった後でも、毎年盆には必ず会っていた。

 家が同じ集落ということもあり、孝介から尋ねたり、翔太から孝介に会いに来たりと高校卒業するまで交流が続いた。

 顔を合わせるのは約10年ぶりだった。


 翔太が、駆け足で孝介の所に駆け寄ってきた。

 「なんや、孝ちゃん、こっち帰っとたんが。」(なんや、孝ちゃん、こっちに帰ってたのか)

 「をん、春前から。ってそこ、じぃじゃに聞いとったがやろ。」(うん、春前から、ってそこ、じいちゃんに聞いてただろ)

 「ちょっこな。体、たいそないんけ。」(少しな。体、しんどくないのか)

 「今ぁ、だんない。今だけ。」(今は大丈夫。今だけ。)

 

 後ろで、子供が車からひょっこり顔を出した。

 「とぉと、学校、遅れるぅ。」(お父さん、学校、遅れるよ)

 「おらぁ、今、行っから。」

 翔太は後ろを向き、子供に返事すると、孝介の方を向いた。

 「ちった、送ってくっさけえ。またな。」(ちょっと送ってくるから、またな。)

 翔太は車に戻って、子供を送りに車を出した。


 10年も経てば、子供も出来るよな。

 孝介は、変わってないように見えた集落が、実は少しづつ変わっているのに改めて気付かされた。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ