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ー第二十三話ー 黄金に揺らめくカーテン 秋を輝かせる夕焼け

 孝介は、今日は朝早くから起きて、居間の座椅子に座り、座卓にノートパソコンを置いて、パソコンを触っていた。


 スマホで撮っていた写真は、全てクラウドサービスに同期していた。

 スマホの方も合わせて、残したい写真と、そうでない写真の選別をしていた。

 と言っても、なぜ残すんだろうか、なんて時々手を止めながら考えていた。


 『今の俺が写真を残す意味とは。』


 孝介は、今まで撮ってきた写真をじっと見た。

 『とりあえず、前の会社に、あげるか。』

 孝介は、メッセージを送った。

 返事はすぐに返ってきた。


 『ありがとうございます。写真はどうしますか?アカウント同期ですか?』


 孝介は少し考えた。


 『アカウントを落とされる可能性を考えて、そっちのクラウドにコピーするわ。コピー用のアカウントください。』


 少し経って、クラウドアップ用のアカウントが届いた。

 孝介は、自分の画像用クラウドサービスと、会社のクラウドサービスとの連携を行った。


 『連携しましたんで、全部ZIPファイルで入ります。いつ終わるかわかりませんが。あとは好きにしてください。こっちで終わりが確認したら、またメッセージします。』


 孝介は、座椅子の背もたれに深く倒れ込んだ。

 

 少し、うたた寝をしていたかもしれない。


 孝介は、地響きのようなエンジン音で目が覚めた。

 玄関から外に出てみると、ちょうど、納屋から稲刈りのコンバインがバックで出てくる最中だった。


 この集落では、一部の家の農業機械を了解を得てみんなで使っていた。

 そもそもが一台ごとの値段が高いので、金を持っている家でない限り一式そろえていることが少ない。

 そこで、水田作業のシーズン前に、誰が、どこのを、どのタイミングで使うか決めるのである。

 体の自由が効かない老人夫婦の家は、まだ年齢の若い人たちが変わりに田んぼの管理をする。

 なので、集落の若い衆(と言っても60代までは若い衆、下手したら70代で体が元気なら若い衆に入れられる)は、集落の住民が所有する水田を、手入れに回ることになっている。

 孝介のいる幸田家は、コンバインを所有しており、このシーズンは祖父の英吉が代わりに稲刈りをしたり、集落の住民が借りたりし、持ち出すことが多かった。

 「お~、孝ちゃん、おはよう!!」

 「なぁん?翔太、今から稲刈りか?」

 「おうね、ほうや。幸田のじぃじゃに、さっきそこで()うて、言うといたしな。」

 翔太は、コンバインを完全に納屋から出して、止めた。

 「今から、孝ちゃんも手伝(てったい)いに()んけ?」

 「さぁ、無理やわ。」

 「なぁん、冗談や。どうせ、やっとらんに時間かかっさけぇ、見に来まっしま。」

 「ほうけ、遠かったけ?」

 「いんや、近くや。すぐそこやさかい。」

 翔太は、自分の水田がある方向に指を差した。

 「稲掛けらんやったら、見に行くわ。写真撮っときたいし。」

 「このコンバイン、脱穀できんさけぇ、強制的にハザかけるわいね。」

 「せやったなぁ」

 孝介と翔太は笑い合いながら、コンバインのボディをバンバン平手で叩いた。

 「じゃぁ。家閉まってから、追っかけっし、先行っときまっし。」

 「ぁん、わぁた。ゆっくりで無理せんで来まっし。」

 翔太はそう言うと、納屋の鍵を閉めて孝介に渡し、コンバインにを動かした。

 翔太を乗せたコンバインは、ゆっくりと国道へ続く集落の路地を進んでいった。

 

 『よく考えたら、稲刈りの写真って撮ったことなかったな。』

 写真点検で、ゴールデン・ウィークの時の、田植えすぐ後の写真を撮っていたことに気づいた。

 「さあ、どんな写真が撮れるやろう。」

 孝介は、家の中に入った。


 孝介はスマホをポケットに入れて、家に鍵をかけた。

 右半身を松葉杖に預けながら、翔太の水田に向けて歩いて行った。

 太陽が南中から少し西に傾き、翔太の稲刈りも1/3ぐらい終わっていた。

 稲刈りのために水が抜かれ、表面がすっかり乾いた水田には、コンバインに乗った翔太の他に、翔太の奥さん、そして翔太の父親も出ていた。

 孝介は、遠くから手を振ると、翔太が反応して手を振った。

 それに気づいた翔太の奥さんが、孝介の方を向き頭を下げた。

 翔太の父親は、数秒思い出すような仕草を見せて、はっとして孝介を見た。

 「なぁん、幸田んとこの、孝介かいや。こんなに大きなって。」

 「おじさん、ご無沙汰で。」

 「いつからこっちおるがいね。」

 「3月ぐらいから。」

 「また、なんで戻ってきたがいね。仕事かいね。」

 「とぉと、孝ちゃん病気なんやし、あんま聞いてやるなや。」

 孝介が歩いてきた国道から畦道に入り、水田の縁に到着した時に、同時に翔太のコンバインも同じ縁に到着した。

 土がむき出しの水田には、稲がもう4割程度残すばかりになっていた。

 「なんや、孝介、病気やったがんか?幸田のじぃじゃ、な~ん言わんさけえ。」

 「とぉと、人にそんなとこ言うわけねえがいや。幸田のじぃじゃだって、わしらんに、いらん心配かけさせとぉ、ねえがんやわ。」

 「ほうけ?」

 翔太の父は、コンバインで駆られた稲を束にしながら、首をかしげた。

 「翔ちゃん、先、稲を終わらせんがんかいね。」

 翔太の妻が離れた所で、稲の束を作りながら、大声で呼びかけた。

 「あ~、わりぃ、続きすっさかい。」 

 「翔太、まだ帰らんさけえ、ちゃんと終わらせまいや。」

 「あ~、孝ちゃん、わぁた。ちょい待っといてや。」

 翔太はコンバインをターンさせ、稲刈りを再開した。

 

 翔太が乗ったコンバインの後には、刈られた稲が残る。その稲を翔太の妻と父が束ねて、また土むき出しの地面に置いていった。

 そういう束が、ずっとたくさん、地面に置かれている。

 孝介は、作業の様子をスマホで撮り続けた。

 広角で全体像を、そしてズームで稲を束ねる翔太の父の姿や、翔太の妻の手元など沢山撮った。

 その合間に、回りの水田も撮っていた。

 まだ稲刈りが済んでいない水田が多く、風と夕焼けに近い太陽に照らされた稲穂の波が、金色に輝きながら揺れていた。

 風でなびく様子を、動画にも撮っていった。

 孝介は、まるで、その世界を丸ごと残すように、写真や動画を撮っていった。

 コンバインで稲を刈り終えると、束ねていない稲が2割ぐらいになるまで、翔太も稲を束ねた。

 いい頃合いになった時に、翔太は翔太の父親に声をかけて、木組みを組み始めた。

 三角形の丸太を組み合わせ、道路に平行に横長に木組みを組んだ。

 孝介は撮り続けた。

 木組みを組み合わせる二人の姿を、可能な限り多く撮った。


 翔太の背よりもずっと高い、3組木組みを組み上げると、翔太は、翔太の妻にも声をかけて、木組みに稲を掛け始めた。

 2段の木組みに、最初は下の段から干していき、わらで黄色のスカートがつけられたようになった。

 そのあと、脚立を持ってきて、上の段に稲を掛け始めた。 

 一部分かけると、横に移動して、そこもかけると次に、次に、次に、と翔太達は稲を掛け続けた。

 そして、ひとつ目の木組みに稲がかけ終わると、上から下まで稲の壁のように水田の真ん中にそびえ立っていた。

 翔太は、次次、と声をかけ、残る2組の木組みにも稲を掛けていった。

 太陽が西に大きく傾き、日のあかりが朱に染まる頃、全ての稲が木組みに掛け終わった。

 孝介の位置である水田の畦側の縁から見ると、3つの木組みは平行に並んでいる様に見えた。

 「孝ちゃん、こっちから撮ってま。すげえいいし。」

 翔太はニコニコしながら、国道側の水田の角に孝介を誘導した。

 

 孝介は息を飲んだ。


 3組の平行に作られた稲のかかった木組みが、国道側から見ると、一つの木組みのように見えた。

 長い長い稲のカーテンが、風になびいているように見えた。

 長い長い稲のカーテンは、夕日の光を含んで、燃え上がってるように見えた。

 「孝ちゃん、毎年しとっけど、こうするんが、面白いと思わん?」

 翔太はニコニコしながら、孝介に木組みにかかった稲、ハサを指し示した。

 「すげえな。いや、ハサ掛けしとらん、久々に見たし。」

 孝介は、そのまま、一つにつながったようなハサを、スマホで撮った。

 ふと思い、同時に翔太の方にスマホを向けた。


 翔太は土で軽く汚れた顔で満面の笑みを浮かべ、ハサと翔太の笑顔が夕日に照らされ、燃え上がるように、全てを照らし出すように、鮮やかな黄金色に輝いていた。

 孝介は、思わず笑いだして、シャッターを切った。


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