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ー第二十一話ー 悩み晴れ 走る星 輝く月影

 室生から、talkWorkが来る頻度が最近増えた。


 ←

 『この前の写真役に立ちました。』

  →

 『それは良かったです。まだあれから撮ってますか?』

 ←

 『まだ撮ってます。それと合わせて、WEBデザインそのものの勉強もしたいのですが、なにかご存知ですか?』

  →

 『このサイトがいいです。WEBデザインを集めたサイトです。』

 

 孝介は、3サイト検索して、アドレスを貼り付けた。


  →

 『今がこういうのが流行りです、とか言うのは簡単かもしれませんが、サイトの作りというものを念頭に考えたほうが、スムーズに進みます。』

 ←

 『それは、ディレクターにも言われました。自分でコーディングもしてみないかと。』

  →

 『コーディングも将来仕事内容として捉えているならいいと思いますが、そうでないならデザインに集中したほうがいいでしょう。』

 ←

 『それはなぜですか。』

  →

 『コーディングをし始めると、会社からの要求がただの組み上げだけで終わらなくなるからです。』

 ←

 『いろんなことが業務になるってことですか。』

  →

 『ほとんどの会社は、デザイナーだったら、サイト構成の勉強と言ってHTML/CSSを覚えさせて、次は仕組みを覚えてと言ってPHPを覚えさせ、その後サイト全体を構築する人の気持ちになってといいサーバーかの仕組みまで覚えさせようとします。』

 ←

 『・・・多いですね。』

  →

 『気がつけば、全部一人でできるようになるという寸法です。』

 ←

 『ディレクションできれば、ディレクター要らないですよね。』

  →

 『実際に、ディレクションを覚えて、そこでフリーランスのWEBクリエイターになる人が多いです。』

 ←

 『会社にとって、特にならないですよね。』

  →

 『そうです。なので会社に残るのは、なにかしか出来ない人、が残ります。』

 ←

 『まだ、入社浅い私が聞いたら駄目な話でしたね。』

  →

 『会社の待遇がいいなら、全部できるようになってもいるという選択肢もあります。大体の会社は、全部覚えるようになっても待遇改善されないので、個人で受けたほうがお金がいいので辞めます。大体は会社のせいです。』

 ←

 『w』

  →

 『それはおいおい考えていけばいいということで。』

 ←

 『ただ、サイトの構造は勉強しておきたいです。』

  →

 『わかりました。本とかサイトとか紹介できますがどうしますか。』

 ←

 『一度、直接教えてもらえれば、ありがたいです。』

  →

 『わかりました。そしたら、都合のいい日を教えて下さい。僕は大体うちにいますけどね。』


 室生が孝介のいる幸田の家に来る予定を決めると、接続を切った。



 室生が来る日、孝介はいつもよりも少し早く起きた。

 少し天井を眺めながら、今日するべきことを、反芻した。

 松葉杖に体を預けながら、近くに置いてある、ノートパソコンとスマホを右手に持ち、居間に移動し、座椅子に座った。

 漁から帰ってきて、午前のうちに外に出る用事のある祖父の英吉が、居間で外に出る準備をしていた。

 孝介は、持ってきたノートパソコンを開き、電源を立ち上げた。

 「じぃじゃ、今日、人来るし。」

 「ぉん?わぁたがいね。」

 祖父の英吉は、そう言うと、用意を完了させ、今から玄関に降りた。

 「まあ、外行ってくっし。」

 「わぁた。」

 英吉は、玄関の引き戸を開くと、そこに女性が立ってた。

 女性・室生は、突然開かれた引き戸に驚き、立ち尽くした。

 「孝介に、お客さんか?」

 「・・・あ、はい。中村さんに用事がありまして。」

 英吉は、室生を上から下までさっと見ると、首だけ後ろを向いた。

 「孝介、お客さん、来とるぞ。」

 「わぁた。室生さん、すみません、そのまま、上がってください。」

 孝介は座椅子に座ったまま、玄関に声をかけた。

 「なんもないとこやけど、ゆっくりしっててな。」

 「はい、ありがとうございます。」

 英吉は、室生に笑顔で声をかけて、横を通り過ぎ、外に出た。

 室生は車の方に行く英吉を見送った後、中に入り、玄関の引き戸を閉めた。

 「突然、ジジイの面がでてきて、びっくりさせてすみませんね。」

 「中村さんの、お祖父さんですか?」

 室生は、今から玄関に上がり、座卓の横に座った。

 「ええ、母方の祖父で、この家も母の実家なんですよ。」

 「なるほど、それで。中村さんなのに、表札が幸田さんでしたから。」

 室生はそう言うと、持ってきたかばんから、自分のノートパソコンを取り出した。

 「じゃあ、室生さんのパソコンを、ここのWi-Fiにつなげてからしますか。」


 孝介は、室生に孝介が幸田家に設定したWi-Fiの設定を教えながら、室生に自身のパソコンの設定をさせた。

 「サイトのデザインを考える時に、色目とか画像とかもひつようなんだけど、まずは枠が必要なんだ。」

 孝介はそう言うと、サイトの枠について説明しているサイトを検索して室生に見せた。

 「サイトの枠、ですか。」

 「そうそう。一般的には、サイトのデザインは枠で考えます。」

 孝介は、指で座卓に四角い枠を書くような仕草を見せた。

 室生には、いまいち伝わらなかった。

 孝介は、自分のノートパソコンの画面を自分の所に戻し、説明したいページを見つけ、再度、室生に見せた。

 「ヘッダー部分、メイン部分、フッター部分。」

 室生は、表示に指を当てて、なぞるようにつぶやいた。

 「この3つの部分が大枠としてあって、メイン部分にコンテンツが細かくが入ります。今は・・・」

 孝介は、メイン部分のコンテンツ部分に関する説明ページを探して再び表示した。

 「正直、このメインのコンテンツは、デザインというよりも、内容が決めるもので、そのためには、ディレクターからサイトマップが必要なんです。」

 「サイトマップ・・・」

 「そう、サイトマップ。」

 孝介は、ブラウザの別タブを開き、サイトマップの例を検索して見せた。

 「初めてみますね。」

 「サイト制作をする時は、必ず作るので、ディレクターは持ってます。というか、持ってないと仕事にならないので。」

 室生は、サイトマップのページを興味深そうに覗き込んだ。

 「つまり、いつももらってるワイヤーフレームとサイトマップがあれば、もうちょっとデザインとしてわかりやすいものができやすくなる、ということですか?」

 「そうです。正直、最初にディレクターからもらえて、打ち合わせを聞ければいいんですが、そうでないとき、こちらから相談もできますし。」

 「なるほど、でも、そこまでするディレクターさんっているんでしょうか。」

 孝介は、室生からの質問に少し視線をそらした。

 「ほぼ、いないと思います。」

 「いないんですか。」

 「まず、ワイヤーフレームにテキストも書き込んで渡す人がほとんどなのと、ディレクターはデザイナーがそこまで知識を持ってると思ってないんです。」

 「そう思ってるんですか。」

 室生は、唖然とした。

 「そもそも、ワイヤーフレームとサイトマップを作る前提で、本来ならディレクターには、見に来た人がどういう風に流入して、どう見ていって、どう問い合わせなどするかという流れを意識します。最悪そのままサイトから抜けるにしても、どこら辺からかという想定を付けます。」

 「そこまで考えるものなんですかね。」

 「サイトから集客をすると考えると、最低限そのことを考えないと、ただの書きなぐりの紙と同じになっちゃうんです。作っただけ。何の意味もないんです。」

 室生は、少し考え込んだ。

 「そもそも、WEBサイトってなんで作るんですか?」

 「店に行かなくても情報を得るため、お客がその会社が存在するか確認するため、そして会社が自分の存在をアピールするため。」

 「情報を乗せる、だけじゃ足りないんですね。」

 「WEBサイトそのものは、自分でアピールしてくれないので、調べている人に届けることがWEBサイトの役目です。だから、店舗名や会社名、それに住所が合わさってる時に、的確に検索されないといけないし、住んでる人が特定のキーワードで検索した時に、そのサービスを持ってることが、わかってもらわないといけません。」

 「難しいですね。」

 「普段は、そこまで考えて、WEBサイトって作って、公開や運営をするんですよ。」

 室生は、孝介の話を感心して聞いていた。

 「でも、うちの会社のディレクターって、そこまで求めてるんでしょうか。」

 「多分ないと思いますし、そもそも、そこまで考えてないと思います。」

 室生は拍子抜けを食らった。

 「なら、そこまでデザイナーも考える必要もないと・・・」

 「そこは、デザイナーが知っててもいいんですよ。むしろ知っていれば、先回りできるし、第一、北陸だけじゃなくて、全国的に通用するデザイナーになれます。」

 室生は、なるほど、とうなづいた。

 「まあ、生活のためだけか、それともそこから先を目指すかは、室生さん次第ですけどね。」

 孝介は、笑いながら小首をかしげた。

 「なるほど。」

 室生は、少し眼を伏せた。そして、孝介の方に向き直した。

 「私は、前に進みたいので、その先、お願いします。」

 孝介は軽くうなづいた。

 「わかりました。続きの話をしましょう。」



 孝介が室生に話をしだして、数時間たった。

 夕方になり、空も少し赤く焼け始めていた。

 最初は、うんうんと、うなりながら聞いていた室生だが、最後には、ある程度理解が追いついて、実際の作業まで落とし込むことが出来るようになっていた。

 「・・・・とういうことで。今日話したことは、室生さんの知識として収めておいて、ディレクターは知識レベルに合わせて、小出しに対応してくださいね。」

 「わかりました。またわからないことがあったら、教えて下さい。」

 「了解です。」

 室生は、ノートパソコンを閉じ、その上に両手を置いた。

 「中村さん。」

 「なんですか?」

 「この後、外に、ご一緒してくれませんか?」

 室生は、孝介の顔を見直した。

 「見たい映画があるんですが、一緒に行きたいんです。」

 「僕の体の自由が効かない状態ですけど、大丈夫なんですか?」

 室生は、力強くうなづいた。

 「じゃあ、車取ってきますね。家の前で待っててください。」

 室生はそう言うと、急いでパソコンをしまい、駆け足で家に戻っていった。

 孝介は、飛んで帰る室生の背中を。ぽかんと見送った。

 「映画か、久しく見てねえな。」

 孝介は、頭をかきながらゆっくりと立ち上がった。

 右手で、松葉杖に全体重を乗せ立ち上がった。体をすこし左に傾斜させて、左手で柱の手すりに捕まった。そのまま、左手で体を柱に引き寄せ、左足を前に出した。

 左半身で体を支えながら、右腕の松葉杖を前方に振った。居間と玄関の境目の手前で一度止まり、体を起こし直すと右腕の松葉杖を、玄関の方に置いた。

 右腕に体重をかけながら、左手を手すりに捕まったまま、左足を前に出した。

 体が広い玄関に出たことを確認すると、左手を離した。

 左腕で体のバランスを取りながら、左足と右腕で体を移動させていった。

 玄関の引き戸に左手を置いて、右に引くと、ちょうど、フォグランプを点けた室生の車が到着したところだった。

 「中村さん、こっちに来れますか?」

 「大丈夫だと思うんで、ちょっと待っててください。」

 孝介は全身を使って歩きながら、車の後方を回って助手席の方に行った。

 孝介の到着を確認して、室生は運転席に座ったまま、助手席の扉を開けた。

 「閉めるので、先に乗っててください。」

 室生は、運転席から助手席側に身を乗り出しながらそう言うと、運転席側ドアから出て、車前方を回り、助手席のドアの所に立った。

 孝介は左手で手すりにつかまり、社内に体をねじ込んだ。

 室生は、孝介の体が入るのを確認して、助手席のドアをして、再び車の前方を回って運転席に戻った。

 室生の車は、軽自動車のクーペだった。

 ただ、軽自動車にしては狭さを感じなかった。

 「さあ、行きましょうか。」

 室生はサイドブレーキを下ろし、ギアをドライブに入れて、アクセルを踏んだ。


 「おかしいでしょ?私がこんな車に乗ってるなんて。」

 室生は、車を南のシネコンに向けて走らせていた。

 「いや、クーペってかっこいいと思いますよ。」

 「これ、一人になった時に、思い切って買ったんですよ。」

 「へえ。」

 「もう、好きな時にドライブできるなら、とにかく軽く走れる車が欲しいって。」

 「なるほど。」

 室生は、嬉しそうに車を買った時の話をしだした。

 孝介は、鮮やかな橙色に染まる夕日で影になっている室生の嬉しそうに話す横顔を見ながら、うんうんと返事をしながら聞いていた。

 そして40分ぐらいで目的地のシネコンに着いた。

 孝介は、ドアを開け、左足を外に出し、左手と右手の松葉杖を使ってゆっくりと体を押しだした。

 右足を外に出し、松葉杖を外に出そうとしたとき、体が揺らめいた。

 「危ない!!」

 運転先から先に降りていた室生がとっさに、孝介の体を支えた。

 「大丈夫ですか。」

 「あ・・・ありがとうございます。」

 孝介は体勢を整え、体を車の外に出した。

 「ありがとうございます。」

 「いや、中村さんが怪我しなくてよかったです。」

 孝介は気恥ずかしくなった。

 「そのまま歩けますか?」

 「多分、大丈夫。」

 車のドアを室生に閉めてもらって、孝介はゆっくり体を揺らしながら、シネコンに向かって歩いていった。

 「やっぱり、ちょっと不安定じゃないですか。」

 室生は、孝介の左腕を取って支えた。

 「いや、大丈夫ですって。」

 「そこは、体を預けてくれて大丈夫なんですよ。出来る人が出来ることをする。」

 室生は、孝介の顔をみてうなづいた。

 孝介は気恥ずかしく笑いながら、室生と一緒にシネコンに入っていた。

 二人はチケットを買い、シアターに入り、書いてあるシートに座った。

 「私、この映画、ずっとみたいなと思ってたんです。」

 室生は、嬉しそうに孝介の耳元で囁いた。

 「僕は、映画見に行くのが久々です。」

 孝介も小声で応えた。

 室生は嬉しそうに笑い、スクリーンの方を見た。

 孝介は、シートに体を預けながら、スクリーンの少し上見た。

 そして、シアターは暗がりに落ち、スクリーンに光が灯った。


 映画を見終わって、二人はシネコンを出て車に戻ってきた。

 室生は、映画を見終わって、熱っぽく映画の感想を孝介に話し続けてた。

 孝介は、そんな楽しそうな室生の笑顔を見ながら、うんうんと頷いていた。

 帰りも同じ道を走っていた。

 信号もない、街灯だけの自動車道だった。

 帰りは孝介側が海側になっていた。

 車内は、タイヤの音と、時々室生の話声がで満ちていた。

 空はキレイに晴れ渡り、月明かりが海面にユラユラと揺らぎ煌めいていた。

 「今日、中秋の名月だったんですね。」

 孝介はバックミラーから見える月に目が行った。

 「なら、屋根、開けましょうか。」

 室生はそう言うと、スピードを落とし、可動式の屋根を開けた。

 まるで鳥が羽を広げるように屋根は開き、月の光が車内をくっきりと浮き上がらせた。

 さっきまで見えにくかった手元がはっきり見え、運転席の室生も鮮やかに照らし出した。

 「中村さん、私ね。」

 「はい。」

 「夜に、こうやってドライブするんですよ。屋根を開けて。」

 「いいですね。」

 「屋根開けて、すぅっと走ってると、まるで前まで悩んでたことが、全部飛んでいくような、そんな気分になるんです。」

 孝介は、室生を見て、黙った。

 「今日みたいな、月が出てて、星のきれいな日なんて、空飛んでるみたいになれるんですよ。この車。」

 室生は、満面の笑みで前を見つめていた。

 「私、本当に、一人に戻ってよかったな、ってそう思うんです。」

 室生はそう言うと、ぐっとアクセルを踏み込んだ。

 

 孝介は、月あかりを含んでキラキラとひらめく室生の髪と横顔を無心で眺めていた。

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