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ー第十七話ー 繋がり明るい家族の輪 暗がり揺らめく祭りの灯火(中編)

 8月15日、昼ぐらいが過ぎた。


 孝介の兄の純介が、何度と下の兄の洋介にメッセージを送ってた。

 居間には、孝介、兄の純介、妻の美幸、父の祐介、母の紗也子、祖父の英吉と、座卓を囲うようにすわっており、純介の息子の慎介と娘の紗幸が、孝介のベッドから奥の仏間や元祖母の部屋など、家の中を歩き回っていた。

 「純兄、洋兄はいつ来らん?」

 「もうじき着くと。姉さんから返信あった。」

 孝介は、今の玄関との境にある柱によりかかったまま、ふーん、と返事をした。

 「純兄、今年、なんか暑くない?」

 「暑いかもな、街は35度とかあったぞ。こっちは少し涼しいやろ。」

 「涼しい言われてもな。セミ鳴き止むしな。」

 「すまん、こっちのほうが涼しかった。少なくとも、山でセミが鳴いとった。」

 孝介と純介は、テレビに映し出されている番組を眺めながら応えあった。

 かすかに、外で車のエンジン音が聞こえたような気がした。

 慎介が、パタパタと玄関の方にかけていった。

 その気配に気づき、母の紗也子がゆっくり立ち上がった。

 「洋介、着いたみたいやし、行ってくるわ。」

 紗也子が、孝介の左後ろの引き戸を開き、玄関ヘ出た。


 「こんちわ~、今着きました。」

 玄関から、元気のいい子供の声が聞こえた。

 慎介が、兄ちゃん兄ちゃんと駆け寄っていった。

 入ってきたのは、洋介の上の子供の祐だった。

 「祐ちゃん、おつかれさん。」

 「ばあちゃん、おとおとおかあが、外で荷物と拓を下ろしとっさかい、待っとってって。」

 「わぁたよ~」

 紗也子は、祐の肩をぽんと叩き、玄関から外に出た。

 「純兄、なんかにぎやかになってきたね」

 「せやな」

 純介はゆっくり立ち上がり、居間から玄関に降りた。

 「こんにちわ~、お昼回収してきましたで~」

 玄関から、より一層元気な女性の声がした。

 「姉さん、お疲れ様。居間にそれ持っていきますわ。」

 「純介さん、よろしうね~」

 純介は、姉さんと呼ばれた洋介の妻夏菜子から、円盤のプラスチックケースが入った袋を2つ受け取った。夏菜子はそれを渡すと、また外に戻っていった。

 「純兄、なん?それ。」

 「寿司」

 「じぃじゃいつも()うてくるやつ?」

 「今回、洋介に取ってきてもろうてん。」

 幸田家のお盆のお昼は、決まってお寿司とオードブルだった。

 テーブルいっぱいに買ってきた寿司とオードブルを広げて、みんなで食うのだ。

 「何枚あらん?」

 「寿司とオードブル4枚づつやし、今、持って来らんやないが。」

 二人は玄関の方を向くと、人数が増えてにぎやかになってきた。

 「今、みんなのコップ持ってきますね。あとお茶のペットボトルも。」

 「美幸、あんやと。」

 純介の妻の美幸は立ち上がり、台所に向かって歩いていった。

 「ただいま~」

 玄関から、男性の大きな声が響いた。

 「洋介、おつかれさん。」

 「(にい)、疲れたわ。流石に。」

 孝介の下の兄の洋介が、二人目の子供の拓を抱えて玄関に入ってきた。

 「おうおう、みんな、暑かったやろうしね。はよ、居間上がって、涼まりまっしね。」

 祖父の英吉が、中腰に立ち上がり洋介家族を手招きした。

 「じぃじいちゃん、こんにちは~」

 洋介の息子の祐が、最初に居間に上がってきた。

 「おう、祐、暑いがんに、よう来たな。適当に座っときまっしね。」

 祐は、はいと返事をして、孝介をまたいで、孝介の右隣に座った。

 「孝介おじちゃん、ごめんね。あっち人多すぎて通れんかったし。」

 「なぁん、俺、動けんから、気にすんな。」

 孝介は、祐の肩をポンと叩いた。

 「おい純介、テーブル足らんぞいや。奥から持って来っさかい、手伝(てった)えま。」

 「ぉん、わーた。とぉと、ちょっと手ぇ貸して。」

 祐介と純介は、英吉に追加の座卓の場所を聞き、奥の部屋に取りに行った。

 「ぉん?孝介、兄ととぉとは?」

 入れ替わりに、拓を抱えた洋介が居間に入ってきた。

 「奥に、テーブルの追加取りに行ったわ。」

 洋介は、ほぉか、と返事をして今のテレビが有る奥の方へと移動した。

 「孝介くん、体、大丈夫やの?」

 洋介の妻夏菜子が、居間に上がってきた。

 「姉さん、大丈夫です。と言っても、この有様ですけどね。」

 孝介は首を両手を広げ、すくめた。

 「なあに、まだ起き上がれそうやったら、良かったわ。洋介から、虫の息やって聞いてたんやから。」

 「洋兄、それないわ。」

 「いや、カナは、大体、1を1000にする人やし。真に受けたらあかんぞいや。」

 夏菜子は笑いながら、奥の洋介の隣に移動した。

 「洋介さん、姉さん、みんなのグラス出したんで、運ぶの手伝ってもろうてもいいですか?」

 台所から、美幸が声をかけた。

 「じぃじゃ、拓、みとって。」

 洋介は、息子の拓を英吉にわたし、夏菜子と二人で台所に移動した。

 孝介が気がついたら、純介の子供の慎介と紗幸が居間に戻ってきてて、祐と英吉の間に二人並んで座っていた。

 「孝介、そっち、全部、広げられるけ?」

 「洋兄、チョット待って、今、とぉとと純兄がテーブル置くし。」

 祐介と純介が、追加の座卓を持ってきて、今まで置いてある座卓と繋げて置いた。

 「洋介、もうええぞ。」

 「兄、わぁた。そっち寿司とか広げとって。」

 純介が座卓に、洋介が持ってきた寿司やオードブルを4枚づつ、重ならないように広げた。

 それを見て、洋介と夏菜子と美幸が台所からグラスとペットボトルのお茶を運んできた。

 用意したものが全部、座卓に広げられ、英吉、孝介、両親の祐介と紗也子、純介家族と洋介家族が揃って、座卓のまわりにすわった。

 「さあ、食うかいね。」

 英吉は、明るく呼びかけた。


 「でな、孝介、じぃじゃから、ちょっと話は聞いとってんけどな。」

 昼ごはんが半分以上減ったぐらいの時に、洋介が孝介の隣に移動してきて問いかけた。

 「なん?」

 孝介は、鰤の握りを口に突っ込んだまま返事した。

 「いや、寿司食いながらでもいいげんけどな。」

 「ぉん。」

 「お前の松葉杖もしくは車椅子対応で、家をリフォームすっかとか話しとったがいや。そんでな、俺、建築しとるがいや。なんとか出来んがんけ、ってじぃじゃから言われてんや。」

 孝介は、頷いて返事をした。

 「でな、さっき、お前のベッドのある隣の部屋と、お前が動く範囲確認しとってん。」

 「どうやったん。」

 「お前が心配せんでもいいレベルでリフォームできる。」

 孝介は洋介の話に、耳を疑った。

 「畳、剥がさなあかんのじゃないが?」

 「根っこからリフォームするならな。第一そんなリフォームしたら、部屋の基礎から組まなあかんし、他の部屋とのバランスも悪ぅなる。」

 「ほぉなん?」

 「第一、この家、今の家じゃなくて、伝統建築って古い家の作りしとっから、そこはいじらんほうがいいげん。」

 孝介は、へえと息を漏らした。洋介は続けた。

 「だからな、やるんは2つや。」

 「2つ。」

 「この部屋の畳の上に、木のパネルもしくはウッドカーペットを敷いて、フローリングにする。そんで、お前が動きそうな所に柱に手すりをつける。」

 「畳を覆うがん?」

 「ほや。」

 「畳、ワヤにならんがん?」(畳、駄目にならないのか?)

 「ならん。畳が駄目にならんは湿気やし、乾燥の手当と防湿シート敷いて対応する。それでもワヤになるようなら、床や畳の下の床板がふわふわしだすさかい、すぐにわかるわ。」

 「そんなん、すぐにならんが?」

 「いんや、今の状態でも、5年ぐらい先の話や。5年先やったら、じぃじゃ80やし、また別にガンガンリフォーム必要かもしれん。」

 孝介は、アゴに指を添えて考えた。

 「柱は、手すり付けらんに、穴開けても邪魔ないがん?」

 洋介は、孝介の疑問に首を横に振った。

 「邪魔ない。全体的に柱太いし、正直遠慮なく付けられる。大体、今の家は壁が全部板やから、壁に付けとるげん。それと比べたら、すげえ固く付けれる。」

 孝介はへえと息を漏らした。洋介は続けた。

 「やし、お前がどう動くか次第になるげん。それに合わせてリフォームすりゃ、こっから先、問題なくなる。」

 「でも、体動かんくなるって事は、介護必要ってことになるかもしれんげんけど、ケアマネとか入れんでいいがん?」

 洋介は、孝介の疑問に、首と手を横に振った。

 「いらん。あれは、要介護申請する時で、介護保険申請するんに必要なんや。金もろう為やし、手続き遅いげん。それなら、材料費だけでりゃ、俺が1~2日で付けてやるわ。」

 「へえ、すっげえ。」

 「どうすらん、やるがん?」

 孝介は、じっと黙り込んだ。畳のままじゃ、たしかに松葉杖も使えない。第一、自分の事で、祖父の英吉の手を煩わせたくなかった。

 「わぁた。お願いするわ。」

 「じゃあ、後で車から、スケル(巻き尺)持ってきて、寸法測っとくわ。9月までには終わらせとくさかい。」

 「手間かけて、ごめんな。」

 「気にすんな。困りゃ手出せらんが、兄弟やろ。」

 洋介はそう言うと、孝介にニッコリ笑った。



 日が暮れて、浜のある西の方角が、鮮やかに赤く染まった。


 昼ごはんの後、3時ぐらいに家族全員で、集落内の寺に行き、墓参りをしてきた。

 子どもたちは、大きなお堂でかけっこをしてはしゃいでいた。

 寺の住職と母の紗也子が同級生で、近況の世間話をしていた。

 住職の息子は、兄の純介と同い年で、そちらは最近、別の寺の住職になったと聞かされた。

 ただ、将来的には戻って後を継ぐらしい。

 兄の純介は、『知っとるもんが少なくなるわ』っとぼやいていた。

 

 墓参りの後、家に戻ると、子供達が、広い家の中を駆け回ったり、浜まで下りたして遊んでいた。

 夕方、夕日に焼ける水平線が珍しいらしく、子どもたち4人と、それらの母美幸と夏菜子は浜まで降りていた。

 坂を降りる最中に見え隠れする夕日に、子どもたちははしゃいでいた。

 純介の子供の慎介は洋介の子供祐に隣合いながら、純介の娘紗幸は母の美幸に抱えながら、洋介の息子拓は立ったまま母の夏菜子の手を握りながら、真っ赤に染まる水平線と水平線に揺らめきながら沈んでいく夕日を眺めていた。

 6人は、完全に夕日が沈む前に家に戻ってきた。

 純介の子供慎介が夕日の鮮やかさに興奮して、帰ってきてからずっと孝介に、どのくらい鮮やかだったかを拙い言葉で語っていた。

 孝介はそういう慎介をうんうんと頷いて聞いていた。


 夕日が沈んで、明るさだけ残ったぐらいの時に、全員外に行く用意をしだした。

 毎年行われている盆祭に行く予定だった。

 車2台に分かれて行くことになり、英吉と祐介と紗也子は純介家族と一緒に純介の車で、孝介は洋介家族と一緒に洋介の車に分かれることになった。

 純介の車は、洋介の車より先に出た。

 現地で合流する予定になっていたので、特に問題なかった。

 孝介は、洋介家族が全員乗り込んだ後に、洋介の車に乗った。

 後部座席のスライドアから近い位置のシートに座った。

 「用意いいか?」

 「ええよ。」

 洋介は孝介の返事を確認して、後部座席にいる祐と拓を見た後に、助手席の夏菜子を見て、車を出発させた。

 動き出してしばらくすると、拓が孝介のそばに顔を出した。

 「拓、どしたん?」

 孝介が問いかけると、拓はじっと孝介の顔を見た。

 「ねえ、おじちゃん、もうすぐ死ぬん?」

 祐と夏菜子は慌てた。

 「拓、人に死ぬんとか言うたら、あかんがんやぞ。」

 「拓!いくら叔父さんでも、失礼やで!!」

 二人に怒鳴られた拓は、両方をみてキョロキョロした。

 「だって、みーんな、ずっと孝介おじちゃん、死んでまうかもとか、言うとったがいね。」

 「あんな、拓な・・・」

 孝介は、慌てる二人に向いて頷いて、拓の顔を見た。

 「おっちゃんはな、まだ、死なんよ。」

 拓は、孝介の顔を見返した。

 「おっちゃんはな、病気でしんどいだけ。みんなに伝染らん病気やし、一緒に動けれんや。このしんどいんが長く続けば、死ぬかも知れん。でもな、まだまだ、もっと後の話やぞ。」

 「じゃあ、まだ死なんの?」

 「ぉん、死なん。」

 拓はうんうんと頷いて、自分のシートに戻った。

 「ごめんね、孝介くん、拓がとんでもないこと言うて。」

 助手席の夏菜子が、体を孝介に向けて謝った。

 「や、4歳やったら、しゃあないですわ。ウチラも、幸田の祖母(ばあ)ちゃん側の曾祖母(ひいばあ)ちゃんのお通夜とか葬式の時、そんなもんでしたもん。」

 「突然、懐かしい話しだすな。」

 運転中の洋介が、突然笑い出した。

 「あん時、俺が純兄のとこの慎介と同じ4歳で、洋兄が6歳で、純兄が8歳やったわ。ちょうど、夏の時で、暑い中俺は保育園の制服着て、兄ちゃんらは小学校の制服着て、行っとってん。」

 「洋介、あんたにも小学校の頃あったんや。」

 「あるわ。懐かしいな。葬式はずっと参列やったけど、お通夜の時、俺ら飽きて、外、出とってんな。」

 孝介は、洋介の言葉に少しづつ思い出していた。

 「そうそう。お通夜、暇やったし、曾祖母(ひいばあ)ちゃんの家の隣の家にお邪魔して、パソコンさせてもらってな。古いパソコンが置いてあって、ずっとゲームしとってん。ずっと。」

 「懐かしすぎる。MSXが置いてあった。」

 「よう、覚えとるわ。俺、何のパソコンかわからんかったわ。」

 「俺もアレMSXやって気づいたん、もっと後や。でも純兄は友達が持っとったから知っとると思う。」

 「そうなんや。ほんとに、沢山、大人が家に出たり入ったりしとったん、覚えとるわ。」

 洋介は頷きながら、大きくハンドルを切った。

 「俺、一番覚えとらん、あの後、外出たやろ。そん時、家の前に沢山、蛍飛んどってん。」

 「え?あんたの田舎、蛍飛んどるん?」

 「いや、カナ。田舎言うても、そこも能登や。カナの出身地と一緒にしたらあかんぞいね。」

 「祖母(ばあ)ちゃんの実家、曾祖母(ひいばあ)ちゃんの家は、もっと能登の内陸にあってん。四方全部山。そん中の田んぼばっかりの所で。そんなとこの田んぼやから、蛍がまだおってん。」

 孝介は、少しづつ記憶を手繰って行った。

 「だから、あの蛍の光が、ずっと記憶に残っとったんがや。なにかの拍子に、あの風景がパッと思い出すことあってん。だから、」

 孝介は、祐や拓の方をちらっと見た。

 「祐や拓にとって、今日の夕日がそんなんになるかもしれなぁって、思うがんやわ。慎介があんなにハイテンションに言うたんやから、すごかったんやろ。夕日の赤と幸田の家のお盆と、リンクされて、覚え続けるかも知れん。そんな感じやと思う。」

 祐はうんうんと頷き、拓はキョロキョロしていた。

 

 孝介達を乗せた車は、盆祭をしている小学校に到着した。

 孝介は、ゆっくり車から降りて、懐かしい校舎を見上げた。


 校舎は、祭りの明かりを受けて、ぼんやりと、薄茶色に輝いていた。

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