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ー第十三話ー 遠くで日常を続ける便り 近くで変化を続ける動き

 雨の合間に除く晴れ間が少しづつ増えていき、浜から潮をまとったような風が上がるような季節になった。

 

 元々孝介のベッドの位置は、窓に近いとこに置いてあり、置きたら歩かずに引き戸を開けて外の空気を取り込めるようにしていた。だが、季節的に日差しが強く差し込む窓際から部屋の奥の方に移動していた。

 流石に、孝介には朝から差し込む強い日差しが頭や体への刺激が強すぎた。

 前に、祖父の英吉に衝立を出してもらって、日差しを遮ってもらったが、日差しの熱が強すぎて、暑さからは逃れられなかった。結果的に、ベッドの位置をずっと影になる部屋の奥の方に移動した。

 孝介的には、エアコンをつけるかつけないかのギリギリの室温だなと感じてた。

 夜が涼しいので、どうしてもエアコンをつける気になれなかった。


 名残惜しむような、朝の雨の中、まどろみの中にいた孝介は、スマホが振動したのに気づいた。

 メッセージの相手は、引き継ぎをした会社の後輩だった。

 内容は、引き継ぎをした上場企業の案件についてだった。


 『中村さん、引き続きすみません。ご相談したいことがあります。』

 後輩が引き継いだ上場企業が、近く、ネットとリアルの複合キャンペーンをするという内容だった。

 今までは認知の拡充のために、主に広告代理店だけでの展開をしていた。

 それが、ネットとリアルの展開だと、広告代理店一社だけでは対応できないと返事が返ってきて、現在、担当の後輩の所に、相談が回ってきたということだった。

 孝介はスマホを持ちながら、少し悩んだ。

 広告代理店との協力での広告展開・マーケティングは、したことがあるのでわかる。

 今回が認知拡充のためだけじゃない、とすると目的は何か。

 そもそも、広告代理店は、中小の経験値不足の所ではなく、こちらも上場企業で実績も豊富。

 そこを踏まえて、広告代理店側が対応できないと返答したということは、真相は別にあるんじゃないか。

 孝介は、メッセージ返信をした。


 『お疲れさまです。メッセージ確認しました。まず、向こうの会社から広告代理店が個別では対応できないという内容ですが、こちらは、もう一度、向こうの会社にゴールの確認をして下さい。広報部が何をしたくて、どういう事を求めているか、そして、それが数値的に計測できるものなのか、確認することが重要です。』


 孝介は、一度、指を止め、文章を見直した。


 『この前、ニュースで向こうの会社の四半期決算見たけど、俺がいた時よりも売上を落としている様子。単純に目的が売上向上であるなら、何をもって売上向上の方法とするかを決めているか確認することが大事。いた時に散々言ってるけど、WEBでも広告でも、出来ることに限度がある。あくまでも会社のマーケティングを補助する役目しかない。その役に立つためのパーツとして考えているならいいけど、今回の計画を営業の軸に据えて行動すると言うなら、それは筋違いなので、向こうの会社の営業部と相談して出口戦略を決めてから実行したほうがいい。と伝えて欲しい。』


 長文になるなぁ。と孝介は文章を見ながらつぶやいた。


 『なお、広告代理店との協力については、マニュアルの自動車会社でまとめてある中に、似たような事例がある。そこには、ゴールが営業部による売上向上や見込み客リストの確保など、いろいろなゴールに応じた事例がある。向こうの会社の意図を確認して、そのマニュアルの事例集と見比べて今回の計画については考えて欲しい。なお、目標売上規模が100億円単位のものになりそうなら、手に余ると思うので、課長に相談しておくこと。このメールで言ったことも含めて、前もって相談しておくほうが、後々やりやすいと思うので、まず先に課長に相談して欲しい。』


 孝介は、打ち終わった文章をみて、少しじっと考えた。


 『なお、俺はすでに部外者なので、こういう話は気軽にしてこないほうがいいよ。先方も会社も、事情がわかってるから、今はなにも言わないけど、これ自体は他の部署の人からみたら内部情報の流出になってしまうから、罰則を受けるかも知れない。まずは課長に相談すること。問題なく仕事を続けるためにも、ルールは守ろうね。』


 孝介は、蛇足だなぁ、と思いながら、文章を追加して、送信をした。



 昼回ってから、翔太から、孝介の所に行っていいか相談のメールが来た。

 孝介は了解したので、そこから2時間後ぐらいに、翔太が孝介の家にやってきた。

 「よう、ネットの方、調子どうけ?」

 孝介は、翔太のブログとSNSのことが気にかかっていた。

 「なぁん、だんない。まだ一月半や。」

 翔太は、孝介に促されて、持ってきたかばんを置き、居間に座った。

 「とりあえず、記事書くんと、ウィスウィス(SNS)で書き込みながら返事返せばいいがんやな。」

 「あぁん。記事は海と魚と料理のこと、ウィスウィスは、それと有効的な返事な。悪いことは書くなま。」

 翔太のブログとSNSは1ヶ月半で、それなりの伸びを見せていた。

 ブログもSNSも「能登の漁人しょうたん」でアカウントを作り、本人に気恥ずかしさとか完全に振り切って、自撮りや漁の写真をガンガン撮らせて載せていた。

 実際、船の上の写真まで撮らせて、臨場感あふれるブログになってる。

 開始1ヶ月半で、ブログは一日辺りの読者数150人を超える所まで増えてきた。表示回数も大体300回前後だった。

 SNSの方は、フォローされたら必ずフォローし返すこと、そしてリアルタイムで流行ってるトレンドのポジティブなキーワードに必ず飛びついて、それを必ず魚や漁に繋げることを徹底していた。

 SNSも現在、フォロワーが500人を越え、だんだん増えていっていた。

 翔太は孝介から、1万人超えることが目標と聞かされているので、それを目指して毎日書き込みをしていた。

 孝介は、翔太に、ブログやSNSで中間目標などないと、張り合いがなくなると思って、色々数字を決めていた。

 例えば、ブログでは読者数1000人と一日辺りの表示回数が5000回、SNSはフォロワー数が1万人と決めた。

 これは、孝介が実際に顧客と運用をしてきて見つけた、スタートとして最適な数字だった。

 他に色々なレクチャーをしている人のブログ記事やSNSでの書き込みを見ても同じ様なことが書いてあるので、孝介はこれを、初心者が超えるべき最初の目標、と決めた。

 もしこれを翔太が達成したら、次の目標値を決めている。

 ただ、これは次越えそうな時に改めて伝えようと決めていたので、まだ伝えないことにした。


 「で、孝ちゃん、お盆と秋の祭りの件、聞いとる?」

 翔太は、8月のお盆と10月の秋祭りの話を確認した。

 「いんや、どっちにせ、俺こんなんやさけ、見に行くだけになっけどな。」

 「幸田のじぃじゃから、おらぁ準備てったてこいと言われとるさけぇ、行っけど、孝ちゃんなんか詳しいこと聞いとっかと思ってな。」

 (幸田のじいさんから、俺は準備手伝ってこいって言われているから、行ってくるけど、孝ちゃんはなんか詳しく聞いてるかなぁと思ってな)

 翔太はそう言うと、少し悩むように頭をかいた。

 「なぁん、でも、祭りの準備する若いがん、うちらんとこだけじゃねぇんがんやろ?」

 (まあ、でも、祭りの準備する若い奴らは、うちらの集落だけじゃないんだろ?)

 「んぁ、中学の方ですっさけ、そこの校下全部や。」

 翔太は、指をぐるぐる回した。

 「そうすっと、結構多くなるじ。とりあえず、来月のお盆か。」

 孝介がそう言うと、翔太はうなづいた。

 「で、お前んとこの、街からあんから来んが?」(で、お前らの所の街からの兄ちゃん達来るのか?)

 孝介は翔太にうなづいた。

 「ぁん。俺、一人で行けんさけぇ、どっちかん車で連れてってもらわなんがやし。」

 孝介は、兄のうちどちらかに盆祭に連れて行ってもらうつもりでいた。

 「あんからんとこ、子供おんがやろ?邪魔ないがんけ?」

 「子供連れていくがん、翔太んとこでも同じやろ。」

 「あんからんとこの子供、うちぐらいなんけ?」(兄ちゃん達の子供、うちの子供くらいのねんれいなのか?)

 「なん、2歳とか3歳とか、もっとちっちゃい。」

 翔太はへーっと頷いた。

 「じゃあ、うちんとこに面倒見させっか。」

 「邪魔なけりゃ、子供に決めさせりゃ、いいがんやない?」

 「まあ、先にうちのがんに言うとくわ。」

 翔太は、そう言うと、自分の家の方に親指を差した。

 「頼んわ。あんからには、先に言うとくし。いきなりにならんようにしとくわ。あんやと。」

 孝介は、軽く頭を下げた。


 「とりあえず、盆は15日で、10月はじぃじゃに聞けばいいがんやな。」

 孝介は帰るために靴を履こうとしていた翔太にそう聞いた。

 「ぁん。そうや。盆は別にしても、10月は、あんからこんがやろ?明るいうちに俺の車で行こうや。」

 翔太は靴を履くと、孝介の方に振り向いた。

 「世話かけるわ。」

 「なぁん、気にすんな。」

 翔太は、持ってきたかばんを肩に担いだ。

 「能登の獅子舞、長いこと見とらんがやろ?久々に、ちゃんと見ていきまっしね。」

 「んぁ。楽しみやわ。」

 孝介は口角を釣り上げて笑った。

 「台数減ったけど、キリコもでるしな。孝ちゃんにブログとウィスウィスの写真、撮っとってもらわなし。」

 「あ、そうや、忘れとった。これ、重要や。」

 そう言うと、孝介と翔太は笑った。

 「ぅんな、帰るわ。じぃじゃによろしくな。」

 「ぁあ、わぁたわ。」(ああ、わかったわ)

 そう言うと、翔太は玄関の引き戸を開け、外に出ていった。


 気がつけばすっかり夜になってた。

 祖父の英吉は、今日は年寄り同士の集まりに行ってて、遅い帰りの予定だった。

 玄関の引き戸を閉めようと、孝介は玄関に近づいた。

 引き戸を手にとった瞬間、大きく風が家の中に吹き込んできた。

 孝介の髪が一気に後ろになびいた。

 

 梅雨が終わり、暑い夏が、熱のある空気とともに、この集落にもやってきた知らせだった。

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