99. 結託
ドワーフの村は 村を上げての大宴会の真っ最中。
村人、旅人入り乱れての 大にぎわい。
ランディアはいろんなところで酒を飲みわたってるようだ。
サクラはリズリアとスノートラの家族と一緒にいた。少し緊張気味のようだが、アイリーンが前に出ていたから大丈夫だろう。
男の割合が多いのが気になるが。
イシルは 二人の居場所を確認し、ギルロスと二人で ひっそりと飲んでいた。
「で?サクラは何者なんだよ」
やはりきたかとイシルは思う。
サクラが狙われていたのは ギルロスも感じただろうから。
「依頼主には 言わないと約束できますか?」
「あ?ああ」
「約束を破れば 国が滅びますよ?」
「なんだ、サクラが滅ぼすってのか?」
ギルロスが笑って茶化す。
「いえ、僕が」
「洒落になんねーな」
「本気です」
「……約束する」
イシルはギルロスから言質をとると、ようやく答えた。
「サクラさんは 異世界人です」
「は?」
ギルロスは耳を疑う。
「別の世界から来たってことか?」
「はい」
聞いたことがない。
今まで 悪魔召喚や神獣召喚の文献は残っているが、人を召喚したなんて 前例がない。
「何で言い切れるんだ」
「7年前にも サクラさんと同じ所から来た人がいたからです。シズエといいます。二人とも、僕が始めに出逢いましたから」
それが本当なら大事件だ。
「サクラさんは、この世界の理から外れているんです。あちらの世界の文明は物事の摂理を理解しています。大魔法を、いとも簡単に起動させます。魔力量が低くて 発動はできませんが」
だから 狙われてるのか。
イシルが隠したがったのもわかる。
どの国も欲しがるだろう。
魔法は発動できなくても、理を紐解くことができるのだから。
今ギルロスは国に雇われているわけではない。
国に報告の義務はないが……
「もしかして、オレの怪我を治したのは、サクラ、か?」
「ええ」
「あの少ない魔力量で どうやって……」
「応援しただけだと言っていましたよ」
サクラは誘導尋問に弱い。すぐに聞き出せた。
イシルだったから、だろうが。
「応援?」
「はい。血がとまるよう、血をつくる元を応援し、肉体に呼びかけ 応援しただけだと」
「無茶苦茶だな」
「体の理を知っているから出来た事です」
「だから、魔法もなしに、オレの体が反応して 肉体が狂戦士になったのか」
シャモアに襲われた時、サクラは魔法は使わなかった。
『がんばって』そう言っただけだ。
ギルロスの体がそれを憶えていて 勝手に応援されたのだ。
「狂戦士化の後は腹が減るわけだ」
体がブーストし、一気に栄養を消費するようだ。
「ええ。だから、あなたがサクラさんに惹かれるのも そのせいです」
真面目な話をしてるかと思えば、イシルが急にぶっこんできた。
「それは、恋ではありません」
「体が反応しているだけだと?」
「そうです」
例えそうだとしても ギルロスに引く気はない。
「体から始まる恋だってあるだろう?」
シャボンにかこまれたサクラを見たとき 動いたのは 体ではなく 心だった。
「お前だって、サクラが始めに出逢った刷り込みだけで 恋愛だと錯覚させてるだけじゃねーのか」
刷り込み……
初めての異世界で サクラが一番始めに見たものがイシルだったから。
イシルに頼るしかなかったから。
「言いますね……」
あながち間違いでもないので イシルは苦笑する。
はじまりは そうだった。
「お前が先に仕掛けたんだぜ?」
部が悪くなったと悟ったのか、あっさりイシルが話を元に戻す。
「とにかく、知ったからには協力してもらいます」
そう言ってイシルは 昼間の考察を伝え、シャナが怪しいことを伝えた。
―――― 一年。
サクラが帰るまで 無事にここで過ごせれば それでいい。
狙われていることをサクラに伝えるつもりはない。
魔物の襲来が自分のせいだとわかればサクラはここからいなくなるだろう。
自分のために 他人が危険に晒されるのを嫌がるはず。
きっと現世に帰ってしまう。
「おっ!イシル、み~っけ」
話が一旦落ち着いたところで ランがイシルとギルロスに絡んできた。
「大分飲んでんな」
「エールごとき、余裕」
ギルロスの言葉に ランがVサインで返す。
気分は上々、だが、まだ猫耳は生えていないので 正気のようだ。
「イシルさん、ギルロスさん、こんなところにいたんですね、探しましたよ~」
サクラもやってきた。
「オレもいるし」
ランがサクラの肩に手をまわしながらエールをあおる。
おいおい、さりげなさすぎ、手慣れすぎ、日常茶飯事ですかその行為!
どんだけキャバクラ飲み歩いたんですかオニーサン。
「てか、誰?ソレ」
ランがサクラの後ろの男を睨む。
サクラが連れていたのは 先程サクラから 辛味噌鍋を貰った癒しワンコ系男子だった。
「なんか、ギルロスさん探してたから」
連れて探してた、と サクラが言う。
「なんだ、ハロルドじゃねーか、もう着いたのか。早いな」
どうやら ギルロスが呼んだという仲間のようだ。
「ハロルド?」
ランが何かを探るようにハロルドを見る。
「あ、あ、、」
見られたハロルドは 驚愕の瞳でランを凝視する。
食い入るように、ランから目がはなせないでいる。
「お前……ハルか?」
ランが尋ねる。
その瞬間、ボタボタっ と、ハロルドの瞳から大粒の涙があふれ、涙の川が氾濫した。
可愛い顔が ぐしゃぐしゃに濡れる。
ワンコ大泣き。
「おっ、おう、おう(じ)~むぐっ」
ギルロスが、ぎょっとして、慌ててハロルドの口を押さえた。
「よく来たな!ハロルド、まってたぜ!な、ラン」
「お、おう」
ギルロスがランに同意を求める。
「お前が警備隊に入ってくれて、オレもランも大歓迎だよ!」
ハロルドは 泣いてるのに 口を押さえられ、むが、むが、と 苦しそうだ。
息、出来てる?
「サクラさん」
イシルが察して サクラを連れ出す。
「どうやら感動の再会のようです。先に帰りましょう」
ギルロスが目で 悪いなと、訴える。
イシルはそれに、約束、守ってくださいね と、瞳で返した。




