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58. 揺れる思い




女って()()だろう?()()()()()()されると喜ぶだろ?


サクラはきょとんとした顔をしている。


違うのか?


娼館の女達はそうだった。

ちょっとくすぐってやれば 喜んだ。

なんだって喋ってくれたし、飯にも寝床にもありつけた。


街の中でもそうだった。

旦那がいようが 恋人がいようが 関係なかった。

この顔も、体も、最大限利用して情報を集めた。

簡単だし、お互いキモチイイし、それでいいと思った。


貴族はもっとひどい。

金と暇をもて余している奴らは、元々、権力のための結婚だ。

ほっといても向こうから誘ってきやがる。

面白くなくても笑ってやる。欲しい言葉をくれてやる。


好きなふり、嫌いなふり、か弱いふり、楽しんでるふり――

押して、引いて、駆け引きして……嫌がってはいても、本心はそうじゃないのが()()()


()()()顔……初めて見た。

どんな女の表情(かお)とも違う。


はっきり言って、欲情した。

今まで感じたことのないほどに。

なのに

手が出せなかった。

どうしたらいいか わからなくなった。


「そういうことは 好きな人とやるもんだよ」


「……サクラはオレのこと好きじゃないの?」


「好きだよ、友達だし」


「なんだよそれ」


前にイシルが言っていた言葉を思い出す。

イシルの結界部屋から出る時に言われた言葉を。


『その欲しいものは 本当に力で手に入るものですか?』


説教くさいジジイの戯言(たわごと)


『それは、力ずくで得られるものですか?』


でも、力では 手に入れられなかった。

したくなかった。


『どうしたらいいのか、考えてみた方がいいですよ』


そんなこと、わからない。

あの時は サクラの役にたてばいいんだろうくらいにしか思ってなかった。だから、体の動かし方を教えた。


「ハグなら、いいか?」


「……」


「何もしないから……」


ランはそっとサクラを抱きしめる。

ただ抱きしめているだけなのに 今までのどんなことよりも気持ちよかった。

体ではなく、()()()が。


ランの中に よくわからない じんわりとしたものがうまれた。

体が熱くなり、ドキドキした。

もどかしくて、切なくて、苦しいのに、()()を手放したくはなかった。


「サクラとだったら 体ももっとキモチイイはず……」


「え?」


だって、抱きしめているだけでふわふわする。


「……()() 友達でもいいよ」


ランはニンマリと笑う。

いつものランだ。


「乗れよ、帰ろうぜ」


ランは黒い豹に姿を変えると、サクラを背中に乗せ 森の中を()けた。


「ラン、早いよ!落ちるうぅぅ!!」


サクラはもふもふのランの首にしがみついた。

もっとしがみついてほしくて ランは更にスピードをあげた。


遠回りして帰ろう……






◇◆◇◆◇






「逃がしたんですか?」


珍しくイシルとランがリビングで顔を付き合わしている。

今日のサクラの事だ。

サクラはイシルに言うなと言ったが、今後のこともあるし、なにより村人も危険かもしれない、と、ランに説得された。


「あんなとこで殺してみろよ、村中大騒ぎだぜ?魔獣が出たって。だから深追いしなかったんだよ。誰かに見られたら大変だろ?」


オレだって考えてるんだ、と、ランが小威張って言う。


「殺さずとも 捕まえられたでしょう?何故人化しなかったんですか?」


「獣が一番早いんだよ。スピード。サクラが殺られちまうかもしんねーだろ」


「そうですが……これでは何故サクラさんが狙われたのかわかりませんね」


「警戒心が無いから、狙いやすかったんだよ。チョロそうだし」


「……面目ない」


サクラがリビングの入り口に立っていた。

お風呂から出てきたところだ。

人買いから逃げ回って汚れたというよりは、ランの背中に乗って色んなところをくぐり抜けたから汚れたのだけど。


「サクラさんは悪くないですよ。明日村に行ってモルガンと相談しますね」


イシルが気遣ってくれる。


「すみません」


「アレだな、サクラ、穴があったら()れたいって感じだな」


「は・い・り・た・い!」


サクラは慌ててランの言葉を訂正する。

まったく、何を言い出すんだ セクハラ大魔王。


「外からやって来る人が増えていますからね。治安は悪くなるでしょう」


村が賑わうのは いいことばかりじゃない。

役に立ててるのが嬉しくて調子にのってたのかもしれない。


「なんて顔してるんですか、サクラさん」


「私が余計なことしなければ、平和な村のままだったのに……」


現世(あっち)のものを持ち込んだから。

コロッケのことだけじゃなく、口紅のことを聞きに来る商人もいるようだ。

目新しいシステムを導入し、これから新しい店をつくろうとしている。


「サクラさん、村の発展は悪いことではありません。皆喜んでいます。それに、見くびってもらっては困りますよ」


「え?」


「ドワーフは戦士です」


あの村は戦士の村ですよ と。


そう言えば、ミディーに『ぷるぷるオレンジ』の口紅をぬられた時、意図も簡単に押さえつけられたな。


「村人の心配は要りません。心配なのは貴女です。サクラさんが村に行く時は僕が送り迎えします」


「あ、オレも行く。イシルと交代で行けばいいだろ?」


「え?」


「なんだよ」


「……いや」


恋に恋するリズにランを会わせるのは危険すぎる……

穴があったら挿れたいなんて言う男など、言語道断!断固お断り!

かわいいリズを毒牙にかけるわけにはいかん!!


「ランは召喚するから大丈夫!」


「間に合わなかったらどうすんだよ、サクラ ギリギリにならないと召喚()ばねーし」


いや、召喚の仕方よくわかんなくて


「じゃあ……ランは、猫の姿で来てくれない?」


「なんで?」


「いや~」


サクラの目が泳ぐ


「かわいいから?」


「なんでハテナがつくんだよ」


「相手に人化の姿を見られていないならそのほうがいいでしょう」


イシルが助け船を出す。


「ふ~ん、ま、いいけどさ」


「さて、晩御飯の支度をしましょう」


イシルが話を切り上げる。


「オレ、肉がいい!」


ランが待ちきれないとばかりに声をあげる。


「その前に……」


イシルは がしっ、と、ランをつかむ。


()()はお風呂です」


ズルズルとランを風呂場まで引きずっていく。


「わっ、はなせよ、この……クソジジィ―――!!」


仲良き事は美しきかな

by武者小路実篤


この二人、更に仲よくなった気がする サクラであった。




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