551. プレイバック女子旅 ③ (アイリーンの婿取物語 16) ◎
料理写真挿入(2022/7/6)
“パリッ”
「それで?ハリソンとやらと二人でカトレアに行ったんじゃな?」
パリッとかる~いポテトチップス
同じ釜の飯――ではなく、同じ袋から一緒にポテチをつまめば皆仲良し。蟠りなんかどこへやら、ココロの壁もかる~く越えてしまいます。
まるで昔からの知り合いかのように、気軽にアイリーンに続きを促すリコ。
優しい甘さのミニマドレーヌを口にするヒナを見ながらアイリーンが話を続ける。
「ヒナが気を利かせて帰ったあと、私とハリソンはすぐにカトレアに向かったの」
「スターウルフに2人乗り?」
「カレの腰に~腕をまわしてぇ!?」
きゃぁ///と、リズとスノーがはしゃぐ。
「ううん、スターウルフは2人乗りには向かないわよ。狼の魔物にしては小型だし、最大の魅力のスピードをコロしてしまうじゃない」
「そうなんだ……」
「ざんねんん~」
リズとスノーが“パフン、ポフン”と ポップコーンを口にいれる。
残念そうなリズとスノーに、アイリーンが、チッチッチと 人差し指を降って見せた。
「恋は駆け引きよ。急接近するにはまだ早いわ」
「「ふおおぉ///」」
「てか、早く行かないと、お店、閉まっちゃうじゃない(笑)」
「そっか!」
「だねぇ~」
リズとスノーはポップコーンがお気に入り。
口いっぱいに頬張ってもぐもぐ。
「それで?カトレアでは何処に行ったの?」
「何、食べたのぉ~?」
口の中でぱふんと弾けるポップコーンは、恋バナに弾みをつけ、はずむココロを象徴してるみたいで楽しい。
スズランみたいな形もカワイく見える。
リズとスノーは箸がころがっても可笑しいお年頃、なんでもカワイく見えるんです。
“コリ、ポキ、、”
「そう急かすでない、ものには順序がある。ゆっくり聞くのもまた良かろう」
チョコの甘さを口で溶かしながら ゆっくり味わうのは、ポッキーを噛み折っているヨーコ様。
ちょ、、そ、そんなに艶かしいポッキーの食べ方する方に、初めてお会いいたしましたよ///
サクラはというと――
“バキッ、バリ、バリバリ、、”
「……」
「……ん?」
「……なんか、うるさいわね、アンタ。何その黒いの、お菓子?」
「美味しいんだよ、黒ゴマせんべい。アイリーンも食べる?」
一応糖質気にしてます。
ふつうの甘辛煎餅より糖質47%も低い黒ゴマせんべいをバリバリ。
胡麻の香りにほんのり甘い醤油味。
「うは、笑顔ヤメテよサクラ、口の中黒いわよ(笑)」
黒ゴマ60%配合、ほぼゴマですからね。
食べた後は口の中気をつけましょう。
「失礼///ズズ……はぁ~、緑茶と合う」
「なんか、年寄りクサイ(笑)」
アイリーンもお茶で喉を潤すと 続きを話し出した。
「カトレアの街に着いてね、ハリソンが連れてってくれたのは食事処じゃなかったのよ」
「ん?御礼の食事じゃなかったのか?連れ込み宿……“スコーン”あぐぅっ!!」
ヨーコの飛ばしたスコーンがリコの口にスコーンとホールインワン。
「下品じゃ、慎め」
「え?」
「何?」
「どこぉ?」
「「……」」
聞き取れなかったヒナとリズとスノーがきょときょと。
アイリーンはコホンとひとつ咳払いをして皆の視線を自分に戻すと、咳き込むリコを無視して話を続ける。
「服屋よ」
「服屋?なんでまた、、正装が必要な場所に行くの?」←サクラ
「ううん、色々あって私、スカート破いちゃってね、腰にハリソンの上着巻いたままだったから」
「ふむ、素敵な気遣いの出来る男じゃな」←ヨーコ
「上着を貸してくれた上に――」
「服も買ってくれるとかぁ――」
「「サスガですぅ~」」←リズとスノー
「でしょ?コレは逃しちゃイケないと思ったわよ」
アイリーンが目星をつけただけはある。
「でもアイリーン、今腰に上着巻いたままですよね?それ、カトレア隊服でしょう?」
ヒナはアイリーンの腰の青い隊服に目を留めた。
「服は買わなかったの?」
「さっきも言ったけど、恋は駆け引き。この上着を持ってたらハリソンに返すためにまた会えるじゃない?」
「「おおっ///」」
「……と、言いたいところだけど、服屋に着いたらね、店にはいる前に中から店員が出てきたのよ」
アイリーンは少し眉をひそめる。
「出てきたのは女――」
◇
「そんな、服なんていいですよ」
「いや、僕らのために破いたんだから、、」
「私が勝手にやったんです、申し訳ないから……」
「ははは、君は謙虚だね、アイリーン。大丈夫、経費で落とすからさ」
(案外ちゃっかりしてるわね、ハリソン。うんうん、そういうの、大事!いい人なだけじゃ家計に響くわ!)
「でも……」
服屋の前で アイリーンに服を買うというハリソンに、アイリーンが遠慮して、“買う”“買わない”の問答をしていると、中から女の店員が出てきた。
「ハリソン!いらっしゃい!またポーチュラカの町にいるお母様に贈り物――……あら」
年の頃はハリソンと同じくらいの女の店員は、ハリソンを見つけるとウキウキと表に迎えに出て、ハリソンに親しげに声をかけてきた。
そして、ハリソンが一人ではない事に気づき、アイリーンを見てはたと止まる。
「閉店間際にすまない、シエナ」
シエナと呼ばれた店員はアイリーンをまじまじと見る。
訝しげに、明らかに値踏みしている視線でだ。
「彼女に服を買いたいんだ」
「この方は?」
「僕の恩人でね、僕のせいで服を台無しにしてしまって――」
今シエナの頭の中では、目の前にいるアイリーンがどういう存在なのか、グルグルまわっている事だろう。
(……ライバルって訳ね)
これは、事を急いだ方が良さそうだ。
優良物件ハリソン=モテないはずがない。
(駆け引きとか言ってる場合じゃないわね)
「本当に、いいんです」
「しかし、その格好で食事には……」
「食事!?」
シエナがあからさまに驚いている。
シエナの驚き様からして、ハリソンは女性と二人で食事をする事はあまりないのが伺える。
もしかすると、シエナは断られた事があるのかもしれない。
ここでシエナから距離をとり、ハリソンとの親密度を上げておかなくては!
しかし、ライバルを牽制する際、ハリソンにイヤな女の印象を与えてはマズイ。
モテることで優越感を感じる男もいるが、ハリソンはそんなタイプではなさそう。
そこで、アイリーンが出した言葉は――
「それなら、私、何か作りましょうか?」
「「え?」」
突然のアイリーンの提案にハリソンとシエナの声がハモった。
「ハリソンさん、討伐でお疲れでしょうし」
押しつけではなく、提案する。
でしゃばらず、あくまで謙虚に。
ライバルを貶すことなく、
言葉で自分を持ちあげることなく、
行動で示し、ハリソンを、釣り上げる!!
「僕の家に来るってこと……?」
少し恥ずかしそうにはにかみ、肯定を示すアイリーン。
ハリソンは戸惑いを見せ、シエナは声にもならないようだ。
(『お母様』はカトレアの先の『ポーチュラカの町』にいる。ということは、ハリソンは多分、独り暮らし――)
アイリーンの、ここ一発の上目使い!
伺うような、おねだりするような瞳と、ちょと甘えを含んだ声でハリソンに尋ねる。
「ダメ……ですか?」
ちょっとあざといかな?
ハリソンは――
「「///」」
有効!!
アイリーンの必殺技、ハリソンにヒット!
何故かシエナにもヒット!
「散らかってて、恥ずかしいなぁ///」
ハリソンはそう言いながらも、満更でもなさそうだ。
独り暮らしの独身男性、手料理に心惹かれぬわけがない!
(手っ取り早く、胃袋をつかむ!腹黒エルフ作戦よ!)←イシルの事。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな……」
「ハ、ハリソン!?」
我に返ったシエナがひき止めようと言葉を探している。
「あ、ち、丁度夏の新作が入って、、人気の――」
「まあ!新作!素敵ですね!」
アイリーンは目をキラキラ耀かせてみせる。
しかし、次の瞬間、残念そうに瞳をくもらせながら……
「でも、夏物はまだ肌寒いかしら、残念だわ」
シエナの言葉を一度肯定して否定した。
(誉めて、落とす……断るにしても悪い印象は払拭よ!)
「悪かったね、シエナ、また来るよ」
「え、でも、、あの、、」
アイリーンは極上の笑みでシエナに別れを告げる。
「ありがとうございます、シエナさん。またの機会に」
(サヨナラ、シエナ。次来る時は 花嫁衣装買いに来るわよ♡)




