547. 女子旅 part2 ㉙ (釜炊きごはん)◎
リコの恋のお相手、パンダの獣人パンディーは、手に何やら持って現れた。
もっているのは、小さなサイズの、、
『昔』←
「パンディー、ソレ、、お釜?」
どうみたって、お釜だ。
「おかまっていうの?イシルさんが、“ムラシ”が終わったら持ってきてって、、」
「イシルさん、ご飯炊いたんですか?」
驚いてサクラがイシルを見る。
「ええ、サクラさんが現世から持ってきたマンナンライス入りのご飯です。手っ取り早くエネルギーになるかと思い、炊きました」
お釜まで使いこなすんですね、イシルさん。
「お釜は、シズエさんが?」
「シズエが釜で炊いた方が美味しいからと、現世から持ってきたんです。シズエの時は麦でしたがね」
“はじめちょろちょろ中ぱっぱ
じゅうじゅう吹いたら火をひいて
ひと握りのワラ燃やし
赤子泣いてもふた取るな”
昔の釜だきごはんの歌。
はじめは弱火で、中頃は火の粉が飛び散るくらいの火力にし、一気に強火にして沸騰させる。
じゅうじゅうと沸騰が続き吹きこぼれてきたら、吹きこぼれない程度に火を弱めて、追い焚きをし、
最後に藁で一気に炎を強めて、釜内の余分な水分を加熱して飛ばします。
炊き上がったら火を止めて蒸らします。
赤子がなこうが、どんなことがあってもふたはとったらダメ!という意味ですよ。
「麦だけでなく、シズエが当番の日はいつもこれを使って煮炊きしてましたよ。薪を使って調理した方が美味しいと言いましてね……」
オヤジ二人、料理は当番制だったんですね。
「釜炊きのご飯…」
ごくり、サクラが喉をならす。
お味噌汁に釜炊きの白いご飯!最高じゃないですか!!
「まだですよ、サクラさん。仕上げが残ってます」
今にも飛びつきそうなサクラにイシルが笑いながら、亜空間ボックスから、何やら食材を取り出した。
「仕上げって、、何かいれるんですか?」
イシルが取り出した食材、
ツヤツヤ、赤いかけらに白い細かい線が入り、ピンク色に見える、マグロのトロの細切れのようなソレは――
「牛肉?」
「はい、リブロースです」
「極上ステーキ肉を、こんなに細かく??」
「……サクラさんのせいですよ」
「ほぇ???」
イシルがサクラの事を色々考えながら、肉に八つ当たりした結果、あのステーキ肉です。
“ふわん、もわっ”
「うわ///」
イシルが土鍋の蓋を取ると、炊きたてご飯の香り、、ではなく、松の葉のような、強い針葉樹の香りが立ち込めた。
濃い、緑の香り。
「何が入ってるんですか?」
「春菊です」
「春菊ごはん!?」
ご飯に、春菊!?
斬新だ。
サクラは今まで食べたことがない。
イシルはそこに、細切れの極上肉をパラリといれると、再び蓋をした。
「生で食べられるイイ肉を、、ご飯に、、」
「10秒ほど、蒸らします」
味が想像できない!!
「ゴクリ……」
サクラが喉をならす。
1……
2……
3……4……5……
何て長い10秒なんだ……
“きゅるきゅるぐぐ~”
サクラのお腹のムシが早くと催促する。
「クスッ」
「……すみません」
6……7……
ああ、真っ白なベッドの上で、極上肉がとろけていく様子が想像され、サクラを誘う……
ああ///8……9……
「そろそろ良いでしょう」
イシルは10数えると釜の蓋をとり、お釜の底の方から ひっくり返すようにしゃもじを差し入れ、米粒を潰さないよう、切るように釜の中をかき混ぜた。
「ふぁ///おこげ、、おこげがみえる///」
んんっ///辛抱、たまらん!!
「……サクラさん」
「はいいっ///」
「そんな物欲しそうな顔、外でしちゃダメです///」
イシルが顔を赤くしてサクラに注意する。
「あ、すみません、食い意地がはってて」
「……そうじゃないですよ」
「へ?」
「……まったく、、食べやすいようにおにぎりにしますから、少し待って」
“コクコク”
アツアツおにぎりを握りながら、イシルがサクラをチラリと見る。
トロンと艶っぽく、物欲しそうにイシル(の手元)を見つめるサクラ。
「……(焦らしたくなってきた)」
二個目のおにぎりをにぎるイシルに、サクラが『早く///』と、目で訴えている。
今日のサクラは 魔力切れ、体力が残っていないせいか、自分のココロに正直だ。
「イシルさん///まだ?」
甘えるようなサクラのタメ口。
「っ///もう、出来ます///」
サクラのおねだり!?クラクラ悩殺!!
これ以上焦らしたら自分の理性が崩壊しちゃいますね、イシルさん。
「どうぞ、サクラさん」
「ありがとうございます///」
イシルに渡された二口サイズの小さなおにぎりは、真ん丸で可愛らしい。
サクラは手に取り、さっそくかぶりついた。
“ぱくっ、はむん”
「んっ///」
口にいれた瞬間、春菊の香りが口いっぱいに広がる。
「んんっ///」
春菊のイメージは『苦い』だ。
スキヤキに入っている意外、食べたことがなかった。
しかし、どうだろう、なんだこの爽やかな香りは!
ミントを思わせるスッキリとした香り……
(なんだこれ!香りが美味しい!!)
東洋のハーブ春菊!
後から混ぜ込まれた牛肉は うっすらと蒸されて脂がとけだし、春菊ご飯に肉の旨味が浸透している。
レア中のレア、、口の中でとける牛肉が口の中でとける!!
クドさは、ない。
春菊が口の中に心地よい春風を送り、さっぱりと拭い去ってくれるから。
「うきゅうぅ///」
震えがくるほど旨いっす!!
「これ、味つけって、、」
「特に何も。ただ、炊く時にほんの少し、、気持ちだけ塩をいれてあります。味覚にはわからないくらいですが、青菜が映えますから」
味がしまってるのはそのせいですね!!
「どれ、パンディーにはワシがにぎってやろう///」
「ありがと、リコ」
「///」
パンディーのためにせっせとおにぎりをにぎるリコに、ヨーコもおねだり。
「妾にも頼む」
「ちっ、しょうがないな……気分がイイからにぎってやる。特別だぞ?いつもはやらんからな!」
「リコは優しいんだね♪」
ココロに一点の曇りもないパンディーの言葉にリコが舞い上がる。
「う///うむ///」
なんだかんだ言って、リコは素直なんだ。
自分の心に忠実なだけなんだ。
パンディーに気持ちが通じるといいね、リコ。
「僕は片付けしてきますから、ゆっくり食べててください」
イシルが空になったお釜を持ち立ち上がる。
「僕も手伝うよ」
「ありがとう、パンディー」
イシルに続いてパンディーも立ち上がる。
リコとサクラと女三人になると、おもむろにヨーコがため息をついた。
「不憫でならんな、イシル殿が……」
「ん?」
ヨーコにジト目で見られてサクラがつけあわせのかぶの浅漬けをポリポリしながらはてなと顔をむける。
「あんなに動揺して……サクラは普段あまり甘えんのだろうな」
「んぐっ///」
あ、あ、あ、あま、あま、あまあま???
「甘えた?私が?いつ……」
「無自覚か……ますます不憫じゃ」
「何じゃ、サクラは両思いじゃないか、もっと甘えてやれ」
リコもヨーコに乗っかってきた。
「いや、あの、、」
「ん?イシルの事がすきなんじゃろ?」
(ストレートに言わないで、リコさんや!)
「いや、だけど、その、、私じゃイシルさんをシアワセに出来ないし……リコなら、わかってくれるよね?私、現世に戻らなくちゃいけないんだもん」
トモヤのために、身をひいたリコなら……
「いや、わからん」
「えっ!?」
「ワシはその時が来たからそう決断したまでじゃ。それまではスリスリ♡はぐはぐ♡はむはむ♡しとったぞ///」
いや、あんたタヌキだったでしょうが。
「せっかく言葉が通じるんじゃ、思いが、通じるんじゃ、、」
リコがサクラに力説する。
「いつくるかわからんその時を怖がるより、今、シアワセな時を共に精一杯過ごした方がいいと思わんか?」
リコがいうと、重みが違う。
「思い出を胸に、生きていけるのだから……」
「怖がるな、サクラ、ワシがついとる」
「リコ……」
「だから……」
がしりとリコがサクラの手を握る。
「ワシにも協力せい♪」
パンディーとの仲を取り持てって事ですね?




