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545. 女子旅 part2 ㉗ (しあわせのかけら 4)

 



「もしかして、、神、、か?」


リコは光の中の人物に呼びかける。

それは、リコを現世世界に送り込んだ、神だった。


【合格だよ、リコ。君は心から人のしあわせを願うことができた。約束通り、もとの世界に戻してあげよう】


「えっ!!」


リコは戸惑う。

そうだ、リコが現世に来た目的は、人を幸せにし、閉じこめられた(かめ)の封印を解いて、外に出る事だった。


剣と魔法と魔物の織り成す、もとの世界に戻り、自由に生きるために。


だけど……


「神よ、ワシはここにいては、いかんのか?」


封印された(かめ)の中は別段不自由はなかった。

それでもリコが外に出たかったのは、寂しさからだった。

一人がどんなに辛いか、思い知ったからだった。


その孤独から救ってくれたのは 倫也だった。

手を差し伸べてくれたのは、この世界の、、この街の住人だった。


【ここに、いたいの?】


神の問いに、リコは切なる思いで頷く。


【リコ、君の気持ちはわかるよ、人に対するその愛は素晴らしい】


「じゃあ!」


【だけど、、だけどね】


喜びかけたリコに、神がブレーキをかける。


【人の世で、タヌキは長くても10年しか生きられない】


「構わぬ!10年でも構わぬ!」


たとえ10年であろうと、倫也のそばにいたい。

何千年と倫也のいない月日を過ごすことは、苦しみしかない。

そんな哀しみをいだいて永き時を生きるくらいなら、短くても、満ち足りた人生を送りたい。


 倫也の隣で――


好きな人の腕の中で最後を迎えられるなら、それは幸せな事ではないか?


しかし、すがりつくリコに対し、神は首を横に振った。


【君の願いは叶えてあげたい。だけど、神は命を奪うような事は出来ないんだよ】


「そんな……」


何千年と残っている命を10年とすることは、命を奪うことになると神は言う。


はじめて見つけた居場所なのに、それはリコの現実ではなかった。


交わることのなかった世界。

知るはずもなかった景色。


倫也の声も、息づかい、温もりも、

確かに存在するのに、リコの手には届かない。

それは、リコにとって、幻でしかなかったのだ。


【ごめんね、リコ】


「うっ、、ううっ、、」


リコの目から涙が溢れる。


恋しくて、切なくて、苦しくて、、

いっそ死んでしまった方がマシだと思えた。


しかし、神はそれを良しとはしないのだ。


【帰ろう、リコ、君の世界へ】


突然現れた別れの瞬間。


リコはベッドに眠るトモヤを覗き込む。


「トモヤ……」


 ありがとう

 ありがとう

 ありがとう


その唇に そっと口づける。


 さようなら、大好きな人。


次はきっと、普通の女の子になって 逢いに来るからね。


その時は、ずっと、一緒にいてね。


 さようなら

 さようなら

 さようなら


リコのココロを動かした 初めての恋……







「うっ、、ぐすっ」


「なんじゃ、サクラ、泣いとるのか」


「うっ、、ううっ、、」


「おかしなヤツじゃな」


「気持ちは、、止まらない、、うぐっ、別れることがわかっていても、とめられないよ」


「サクラ、お前――」


「ううっ、、」


「お前もこの世界に別れたくないヤツがおるんじゃな……」


サクラの様子から、リコはサクラもこの世界に大事な人がいるのだと察する。


「ワシは 最後に、神にお別れの時間をもらったんじゃ。トモヤの懐にもぐりこみ、トモヤの胸に すりっ、とすがりついた」


目を閉じて――


 トモヤ温もり

 トモヤの鼓動

 トモヤの匂い

 トモヤの安らかな息づかい


「ワシはトモヤの面影を記憶に刻みこんだ。忘れたくない、、忘れない、、」


リコの瞳からも 涙がこぼれる。

サクラとリコは、二人で泣いた。

お互いの気持ちがリンクして、気持ちを吐き出すように、おいおい、声を出して泣いた。


「人魚の姫が海の泡になったように、自分も塵となり、風にしてくれたらいいのに。


そうすれば、トモヤの姿は見えずとも、その姿を見ることは出来るのに。

トモヤの髪をなで、耳にささやくことが出来る。


だから――」


リコが空を見上げる。


「だからワシは、風になることにした」


「へ?」


リコがサクラを見て笑う。

嫌な、予感……


「リコさんが暴れてた理由って、風になるため?」


「そうじゃ」


「もしかして、わざと暴れてた?討伐してもらうために?」


「そうじゃ」


「それって……」


リコは、死ぬ気だ。


自ら命を絶つことはこの世界でも禁忌。

そんなことをしては神の怒りに触れてしまう。

だから、リコは、人の怒りをあおり、討伐してもらおうとしたのだ。


サクラは慌てて止めにはいる。


「だっ、ダメだよ、リコさん!早まっちゃダメ!」


「なんで?」


「へ?」


「何故死んではイカンのじゃ?生きているのに死んでいるも同然なのに、何故楽になってはイカンのじゃ?どうせいつかは死ぬ。なのに、どうして今死んではイカンのじゃ?」


「それは――」


何故だろう?

命は尊いから?

地獄に落ちるから?

生きることに意味があるから?


何で死んじゃダメかなんて、そんなのわからん。

私はお釈迦様でも神様でもないからね!


「ワシのために泣いてくれたお前ならわかるだろう、サクラ、ワシの気持ちが。お前もこの世界に想い人がいるのだろう?もし、今、突然引き離されたら死にたくならんか?」


イシルと今引き離されたら……


それも、わからならい。

どうなるかなんて。


死についてなんて、おこがましくて語れない。

人生について人に諭す程知っているわけでもない。


でも、目の前に死に向かって走っている人がいたら、止めるだろう!?

自然と体が、心がそう動くよ。


なんとかリコに思い止まってほしくて、サクラはこう答える。


「……私は、死なない」


「何故じゃ!こんなに辛いのに!」


死にたくなる程の深い悲しみ、虚しさ、からっぽの心……

どんな言葉でも言いつくせない心の傷。


イシルとの別れが来た時に、きっと、サクラも大泣きする。

わかる、わかるよ、リコの気持ち。

だけど、わかるよ、と言いたくはない。

わかる、けど、今は言わない。

二人で堕ちてしまっては、リコを引き留めることなんて出来なくなってしまう。

生きていればきっと良いことあるなんて、無責任な言葉も言えない。


サクラは自分の思いを伝えるのみ。


「私は、死を選んだりしないと思う。死にたくなる程辛いかもしれない。でも、私は、生きて、その人を想っていたい。その人と過ごした日を思い返し、幸せを願いたい。それに……」


「それに?」


「死んでしまったら、きっとその人は悲しむから。自分の事より、悲しむから」


「……」


「トモヤさんも、きっと悲しむよ」


「うぐ、、」


リコの表情が曇る。


お願いだ、トモヤさん、リコさんを止めて……


サクラは祈るような気持ちで更に言葉を続ける。


「トモヤさんも、リコさんと同じように、リコさんの幸せを願っている」


「そんなこと、なんでわかる」


リコの心が揺れている。


とどまって……

思い直して……


「トモヤさんも、町の人も、リコさんを『犬』だと言ってたでしょう?」


「……タヌキを見たことがないんじゃろ」


リコの言葉にサクラは首を横にふる。


「そうじゃないよ、リコさん。現世でもタヌキは珍しい生き物じゃない。ただね、現世では決まりがあってね、タヌキは――」


「タヌキは?」


「タヌキは飼っちゃいけないんだよ」


「へ?」


「タヌキだと言ってしまったら、引き離されてしまうの」


 “鳥獣保護管理法”


 今の日本では、法律で定められていて、狸を家で飼うことはできない。


 倫也はわかった上でおトキを丸め込み、おトキの()()という見えない圧力をもって、街の人を抱き込んだのだ。


「それじゃ、トモヤも、町の奴らも、ワシがタヌキとわかった上で、『犬』と?」


「うん。そうだね」


「なんで、、」


「一緒に、いたかったからだと、私は思うよ」


「///」


「リコさんが、リコさんらしく生きることを、きっと、願っている。トモヤさんも、町の人達も」


生きようよ、リコ。

貴女はこんなにも想われている。


「あっ、思い出した!」


「こっ、今度はなんじゃ、サクラ」


「トモヤさん、卯月倫也!」


「ん?んん?」


「『流れ星』~しあわせのかけら~の作者だ!」


「何じゃ、それは」


「トモヤさんの小説だよ!私、冴えない男と、星降る夜に現れた、ちょとおかしな犬との物語。私、今読んでる!あの本のモデルの犬は、リコさんなんだね」


何気ない日常の中に起こるささやかな出来事の綴られた物語は、読む人の心を少しだけ幸せにしてくれる。


その小さなかけらは 回を重ねる毎に 読み手の心に蓄積され、癒しとなった。


「本当か?サクラ、トモヤは、夢が叶ったのか!?」


「うん、すごいよ、ベストセラーになったんだもん、だから、買っておいたんだ」


「そうか、トモヤは凄いのか///シアワセになれたんじゃな」


「うん。そうだね」


リコに笑みが戻り、和やかな空気が漂いだした。


だけど――


「さて、ワシはそろそろ行くとしよう」


リコがスクリと立ち上がる。


「え?え?」


そして、少し寂しそうな顔でサクラに笑いかける。


「サクラ、最後に会えて、良かった」


「最後って――」


今ので思いとどまってくれたんじゃなかったの!?


「抜いた刀は納めねばならんじゃろ」


「いや、待って、リコさ……」


引き止めようと立ち上がるサクラの視界がぐらりと揺れ、サクラは再びヘタりこんだ。


「もうじきここにヨーコがやってくるじゃろ。サクラはここにいろ。魔力切れで動けんじゃろうから、結界を張っといてやろう」


リコは森の危険からサクラが守られるように、サクラに結界を張り、サクラに背を向けた。


「行かないで、リコ!何故死んじゃいけないかなんて、私は答えを持ってない、それは、リコが探すことだから。一緒に、一緒に探そう、リコ、今、いきる意味を、一緒に、、」


リコの姿が離れて行く。

サクラはその背に向かって叫ぶ。


「誰かがとかじゃなく、私が、、」


心からの願い――


「私が、死んで欲しくないんだよ!リコ――――!!!」


最後の力をふりしぼり、銀色魔法を放出させ、リコに、ぶつける。

思いのたけを、ぶつける。


ふつり。


しかしそこで、サクラの意識は、途絶えた。








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― 新着の感想 ―
[良い点] こんなにせつない事情だったなんて…… なんとか方法を見つけてあげたい!! ヨーコさん頼む――!!(´;ω;`)ブワッ
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