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542. 女子旅 part2 ㉔ (しあわせのかけら)★★

挿絵挿入(2022/1/25)





流れ星に乗って 地上に到着したリコ。

落とされたのは現世だった。


その星に 願いをかけた男がいた。


卯月(うづき)倫也(ともや)(30)

売れない小説家。

コンビニでバイトしながら、を小説を書いている。

初めて書いた小説が新人賞をとり、編集者もついているが、その後あまりパッとせず、短編がたまにアンソロジーにのったり、他の小説家が開けた穴埋めに呼ばれたりする程度の、泣かず飛ばずの状態だ。


一応この町から出た著名人ということで 近所の人からは“先生”と呼ばれていたりする。


(腹減ったな……なんか食いたいけど、買いに行くのは面倒だな……)


『お安いご用!その願い、ワシが叶えてやろう!!』


地上に降りたリコは、倫也の願いをキャッチして、早速術を使い、食べ物を――


(あれ?)


食べ物を出せない。


()()で妖術は使えないからね”


そうだった!

この世界で魔法は使えないと神が言っていたではないか!


そういえばこの辺りには魔力の源の流れが感じられない。

魔力事態が存在しないのだ。


(これではただ、ちょっと器用な可愛い狸でしかないではないか!!)


人化もできなければ 食べ物すら出せやしない。

自分が生きるのもままならなそうなのに、どうやって人を幸せにしろと!?

無茶振りが過ぎやしませんか、神様よ。


リコは仕方なく食材を探す。




うろうろと辺りを探していると、畑を発見したリコ。


地上を這うほふく性の茎に、切れ込みのある西洋盾のような形の葉が 単体でいくつも繁っている。


(サツマイモじゃ!)


リコは前肢をつかい、サツマイモをほりほり。


しかし、ひとつ掘り出したところで、ひゅんっ、と、リコの目の前を石が通りすぎた。


「お前か!この間もうちの畑を荒らしたのは!!この、泥棒め!!」


ひゅんっ、ひゅんっ、と、石を投げながら、男が走ってこちらにやってくる。


(ひいいっ!)


リコはサツマイモを抱えると、急いで畑から逃げ出した。





(まったく、芋ひとつであんなに怒らんでもよかろうに、世知辛い世界じゃな、こんなので泥棒よばわりとは)


いや、異世界でも畑荒らしは犯罪、芋とったら泥棒ですよ?リコさんや。


畑から逃げたリコは、サツマイモを調理するために 場所を探した。


(ここが良さげじゃな、水もある)


たどり着いたのは 小さな池のある公園だった。


枝を集め、枯れ葉を盛る。


(ふんぬ――っ!!)


木の板の凹みの上に垂直に立てた木の棒を両手で挟み、下に押しつけながら手をこするようにして回転させ、摩擦方式で火を起こす。

木が削れ、木の繊維が細かい粉末状になり、それが溜まったところに摩擦熱が加わって火種が起こる。

藁状の燃えやすいものをくべて火を起こし、薪にくべた。


(火を起こすのも大変じゃ。術が使えれば一瞬で済むのに)


術は使えないが、身体的能力はそのままのようで、火起こし成功。

1000年の修行で体はかなり鍛えられていた。


池で芋を洗っていると、紙の束がおちているのが目に入った。

新聞紙だ。


(おっ、これは使えそうじゃな)


リコは 洗った芋を濡れた新聞紙で包み、メラメラと燃える焚き火に放り込んだ。

濡れた新聞紙を多めに巻くことで、焼きイモのコゲを防ぎ、芋と火の間の層を厚くし、熱をじっくり伝えるようにするのだ。


(採れたての芋は旨いぞぅ///ほっくり、ほわほわで、まったり、甘~いのじゃ。これを食ったらあやつの頬も落ちるじゃろ、拾ってくっつけてやらねばな♪くくく……)


リコが面白くもない冗談を言い、独り愉しげに笑っているうちに 少し炭が出来てきた。

焚き火の端で芋全体に炭を被せるようにし、じっくりと焼いていると、けたたましい音を鳴らしながら赤い鉄の塊が物凄い勢いでやって来た。


(鉄の魔物!?)


消防車です。


(あちち、、)


敵、襲来に、リコは焚き火の中から焼き芋を取り出すと、慌ててその場から離れる。


「誰だよ!こんなとこで焚き火なんてしやがるのは!」


赤い鉄の塊(消防車)から人が降りてきて、長い管を使って水を操り(放水)、火は消されてしまった。


(焚き火もイカンのか)


この世界の人間は一体どうやって生活しているんだ?


(この世界に魔力はないが、人は鉄の魔物を使いこなすのだな)





何とか食べ物をゲットんしたリコは、願いをかけた倫也の家にやって来た。


(この世界は家も鉄のようじゃな)


カンカンカン、と、階段を上がり、二階の倫也の部屋の前にたどり着く。

笹の葉に包み直した焼き芋をドアの前に置くと、ドアをノックした。


 “コンコン”


ガチャリ、ドアが開き、倫也が顔を出した。


(ふむ、うだつのあがらなそうな男じゃな)←失礼


髪はボサボサで伸ばし放題、おかげで顔がよく見えない。

倫也はドアの外に置いてある笹の葉を見つけた。


(喜べ!食いもんじゃ)


「……」


倫也はドアの外に置かれたものを手に取りもせずに 頭をかしげて笹の葉の中を確認しているようだ。

何だか(いぶか)しげな様子。


(サツマイモじゃ!温かいうちに食すがよい)


「……」


(あれっ?)


倫也はそのままドアを出ると サツマイモを無視し、ドアに施錠し、カンカンカン、と、階段を降りていってしまった。


(何故じゃ!?何故食わぬ!お前の願いではなかったのか!?)


これでは少なかったか?

傘コ地蔵のように山盛りの海の幸山の幸でなければイカンかったか!?


(きっと、気づかなかったんじゃな)


リコは思い直し(←意外と前向き)トモヤの後を追う。


(夜道は危ない。ワシが見守っててやろう)


電柱やブロック塀に隠れながら、倫也を見守るリコ。


 “トコ、トコ、トコ”

 “サッ、ササッ”


 “タッタッタッ”

 “サカサカ”


「……」


 “ピタッ”


鋭い視線で辺りを監視し、倫也が走ればリコも走り、止まれば、ぴたり、リコも止まる。

倫也は何か気になるのか、チラチラ後ろを振り向く。


(お前の後ろはワシが守る!案ぜず進むがよい!)


「……なんか、視線を感じる……気味悪いな」


(ガ――ンΣ(OωO;))


不審者は手前(リコ)でした。




リコは見守るのを諦めて(←怖がらせるだけだから)次なる手を考える。


(独り身では生活も大変じゃろ、帰ってくるまでに掃除でもしといてやるか)


リコは倫也の家まで帰ると、玄関に置いた焼き芋を回収し、裏に回り、窓から倫也の部屋に入り込んだ。

修行の成果で二階のベランダなどひとっ跳び。

なんなら三階まで行けちゃいます。


不用心にもベランダの鍵はかかっておらず、リコはすんなりと部屋に入る事が出来た。


(何じゃ、意外と片づいとるな)


というか、物があまりない。


書き物机にベッド、あとはよく分からない四角い鉄の箱が色々置いてある。

本棚には本がびっしり。


リコは焼きイモを皿に盛りつけようと、一歩踏み出した。


 “ピッ”


足元にある何かを踏んだ。

すると、箱が光だし、中に人が現れ、いきなり怒鳴りだした。


『ファイトー!』

『一発!!』


「ぴぎっ!!?」


テレビだ。

テレビを知らないリコは、その音に驚き、飛び上がり、更にリモコンを踏む。


 “ピッ”


『あっははははは』

『わ――っはははは』


今度は群衆が現れて、リコを見て大声で笑いだした。


(あわわわわわ)


リコは部屋の中を逃げ惑い、灰皿をひっくり返し、本棚にぶち当たり、芋を踏みつけ――

結果、片づけに来たはずが、盛大に散らかすという大失態を犯してしまったのだ。


 “チャリ、カチャッ”


鍵を開けて倫也が帰ってきた。

部屋を見て絶句している。


「……泥棒?」


(ワシ、お前を幸せに……)


全てが裏目に出ているようだ。

魔法が使えないこの世界で、リコは役立たずでしかなかった。

 

倫也は 部屋の惨状をみまわして、怯えるリコの姿を見つけた。


(ひっ!!見つかった!)


リコはズリズリと後退り、ベッドの下に潜り込む。


(ワシは何も出来ん!幸せにするどころか、迷惑しかかけとらんではないか!!?このまま、またあの甕の中に一人寂しく戻るのじゃろうか)


イヤじゃ、イヤじゃ、一人はイヤじゃ!!


「怒らないから、出ておいで」


悶絶するリコの耳に 意外にも優しい言葉がかけられた。


(へっ?)


()()()拾ったの?ダメだよ、落ちてるもの食べちゃ」


(倫也の、声?)


顔をあげると、倫也がベッドの下を覗いていた。





挿絵(By みてみん)





ボサボサ頭から覗く目は、とても優しいものだった。


「これ、食うか?」


倫也が手を伸ばし、リコの鼻先に白っぽいふんにゃりしたものを差し出してきた。


スンスン、と 匂いを嗅ぐと、チーズの匂いがする。


 “パクリ”


ひとくちかぶりつく。


 “ぶりん、もちっ”


白くツルツルとした生地は弾力があり、ほんのり甘い。

魚のすり身のようだ。

その魚のすり身の間に、チーズがまぶしてあり、まったり、のったりと舌にからみつく。


(うまっ///)


もうひとくち――


 “ズルズル、、ズズ、、”


リコは食べ物に誘われ、ベッドの下から這い出す。


「あはは、チーかまで釣れた」


リコは倫也を見上げる。


「食いしん坊なヤツだなぁ」


(怒って、ない?)


トモヤがリコに笑いかける。


(///)


「よしよし、大丈夫だよ、もっと食うか?」


倫也はリコを膝の上に乗せると、チーかまをもうひとつむいてくれた。


そして――


 “ふわん”


大きな手がリコの頭に添えられる。


 “ふわん、ふわふわ”


やさしく頭を撫でる倫也の手。


(あ――)


リコの心にあったかな光が宿る。


(こんな、、こんな些細なことで、人は幸せを感じるのか)


倫也を幸せにするために来たのに、リコは逆に倫也から“幸せのかけら”を もらってしまった。





挿絵(By みてみん)









「トモヤさんイイ人すね、、行動がイケメン」


「じゃろ?惚れるなよ?」


「危ないすね」


「うはは、正直じゃな、サクラは」


リコは倫也が誉められてまんざらでもなさそうだ。


(ん?ウヅキ・トモヤ?どこかで聞いたような――)


どこだっけ?


















同じ話しの出だしで外伝として『流れ星』~しあわせのかけら~を書き始めています。

リコの現世での話をちょい長く紹介予定。

4、5話で完結予定です。

本日分はまったく同じ(最後のサクラの呟きがないだけです。)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 必死に焼き芋をつくるちっちゃいたぬきちゃんの姿を想像すると……もう全部許しちゃえます。 そしてトモヤさんがとんでもなくイケメン……!! ビジュアルも行動もワタクシにブッささりました。 二人…
[良い点] 現世の様子と頑張る狸ちゃんを想像すると、スゴイ大変そうなのに、前向きな彼女の魅力が見えて、これも新たな良さ発見ですね(^^) 優しい人との出逢い、とっても素敵です! [一言] 番外編が!…
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