541. 女子旅 part2 ㉓ (狸妓―リコ―) ★
挿絵挿入(2022/1/22)
(イタタタタ……)
サクラは転移先の森の中でへたりこむ。
(力が、、入らん)
広範囲に魔法を展開させ、発動したことによる魔力消費とニュクテレテウスに噛みつかれ、ひっかかれた痛み。
死を感じたニュクテレテウスに精気も食べられたようで、疲労困憊、動けません。
火から逃れたニュクテレテウスは、地べたに座り込むサクラを取り囲んだ。
(このままニュクテレテウスに食べつくされちゃうのかな……)
しかし、襲ってくる気配はない。
味方だって、わかってくれたのかな?
“とりあえず礼を言う”
(ニュクテレテウスが喋った!)
しかし、どのニュクテレテウスも人化はしていない。
サクラがキョロキョロしていると、目の前の緑が風にざわめき、すうっ と 人の姿が浮かび、現れた。
「コイツらを火から救ってくれて感謝する」
狸耳をした タレ目、たぬき顔、ふんわりボブの可愛らしい女の子だ。
もしかして――
「狸妓さん?」
「儂の名を知っとるのか、、お前、ヨーコの仲間じゃな」
見た目可愛いのにお婆ちゃんみたいな喋り方がギャップ萌えです、リコさんや。
しかし、何ゆえその出で立ち!?
体にフィットするボディースーツに、ヒラヒラ、ふわふわスカート、リボンたっぷり。
魔法少女じゃないですか!?
タヌキの肉球ステッキ可愛すぎです。
「お前、その服――」
リコの服にツッコミを入れたかったのに、逆にリコがサクラの羽織る上着を指差した。
「パーカーじゃろ」
「えっ!?」
「ジッパー付きなんてこの世界にはない」
リコが この世界の者が知るはずのない名称を口にする。
「お前、現世から来たんじゃな」
「何で、それを……」
ニヤリ、リコが得意気に嗤った。
「何でって、儂は現世に行っとったからじゃ」
何だって!!?
「じゃあ、その、リコさんが着ているコスチュームは、もしや――」
「うむ。『盛りっと森キュア、緑担当 たぬきっ娘“今井舞”じゃ』」
「やっぱり!!」
盛りっと森キュアは 日曜朝8:30分からの人気アニメ。
ウサミミピンクの“森野うさぎ”を主人公に、悪と戦う五人の美少女戦士達。
その、中の一人、
上から読んでもイマイマイ、
下から読んでもイマイマイ、
癒しの魔術師、今井☆舞!!
「うはぁ///超似合ってる!!」
「じゃろう?」
リコは嬉しそうにどや顔をしてみせた。
サクラさん、聞くとこ間違ってますよ?
リコは現世と異世界を渡り歩けるのかもしれないのに……
リコは話のわかる相手を見つけたとばかりに、饒舌に喋りだす。
「不思議な世界じゃった、、魔力の源が僅かしかない世界なんて」
えっ?僅かにあるの?
逆にそれがびっくり。
「初めて『てれび』を見た時には死ぬ程驚いたわい。箱の中に人が入ってて喋りだしたんじゃから」
人は入っていませんよ?
「映像ですけどね」
「うむ、あれは良いな、家にいながら世界の事がわかる、娯楽や物語が楽しめるのだから」
千里眼じゃな!と、リコがはしゃぐ。
「『盛りっと森キュア』は 日曜になると トモヤにせがんでみせてもらってたんじゃ』
リコが 懐かしそうに目を細めた。
(トモヤ、、男の人の名前だよね?)
サクラは突っ込んで聞いてみる。
リコが暴れている理由が分かるかもしれない。
「パーカーも、トモヤさんが着てた、とか?」
「そうじゃ。出掛けるときはいつも羽織って行きよった。懐かしいなぁ……」
嬉しそうに話をしていたリコの瞳が寂しそうに曇った。
「お前、名は?」
「サクラです」
「サクラ、いい名じゃな」
名字ですが。
「では、サクラ、ワシの話を聞いてくれるか?現世で 何があったのか、現世を知るお前に 聞いてほしい」
リコは少し寂しそうに微笑んで、昔話を聞かせるように サクラに話し出した。
「昔々の異世界に 100年を生きた狸がおりました。
100年を生きた狸は妖魔となり、1000年の時を経て知恵をつけ、人々に悪さをしていました。
狸の名は狸妓
人を驚かすのが大好きな、ちょっぴりお茶目な女の子」
「お茶目、ですか」
「可愛いじゃろ」
「自分で言います?」
「誰も言うてくれんもん」
「……すみません」
「謝るな、余計悲しくなる」
「すみま、、あっ」
「……」
リコはコホンと咳払いをして先を続ける。
「その日、リコは失敗を犯した。
山姥に化けて、楽しく人を脅かしていたが、
自分の力を過信したために、魔法使いによって 甕の中に封印されてしまったのです」
(あ!アイリーンが話してくれた『魔法使いと弟子と三つの玉』の続きだ、コレ)
◇
薄暗い甕の中でリコは思い出す。
“反省して人の幸せを願うようになれば封印は自然と解かれますよ”
魔法使いはそう言っていた。
(反省なんかするもんか)
リコは術を使い、先ずは明かりを灯した。
甕の中は 自分が小さくなってしまえば特別窮屈でもなかったし、狸妓は得意の妖術を使って家を出し、野原を、森を、山を作り、快適に過ごしていた。
(魔法使いめ、ここから出たら仕返ししてやる)
イザとなったら甕をぶち破って出ればイイ。
狸妓は甕の中で悪巧みをしながら、100年の時を過ごした。
そろそろ外に出ようかなと暴れてみた。
暴れて暴れて100年暴れ尽くしたが、封印は一向に破れない。
(力をつけねば)
狸妓は力を得るために修行する事にした。
滝に打たれ、座禅を組み、写経をして、苦手な火の前で 護摩行をし、意外と楽しくて、気がつけば1000年の時が経っていた。
奇しくも修行の効果で心が洗われ、清々しい気分だった。
だけど、自分を見つめ直し、ふと、心に芽生えたものは――
(……寂しい)
寂しさだった。
孤独だった。
人恋しかった。
人を脅かすのが大好きだった。
即ち、、
自分は人が好きだったのだ。
ポロリ、、
狸妓の目から涙がこぼれた。
ポロリ、ポロ、ポロ
後から後から涙がこぼれる。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
狸妓は泣きながら謝った。
「これからは人の幸せを願います。だから、ここから出しておくれ!一人は嫌じゃ!寂しくて寂しくて死にそうじゃ!!」
すると、それに答える声があった。
“ん~、じゃあ、やってみる?”
「へ?」
“人を幸せに出来たら もとの世界に帰してあげる”
「だ、誰じゃ!?」
“神、、かな?”
「神様?」
“あ、向こうで妖術は使えないからね”
「まって!まってよぅ!!そんな低スペックで儂にどうしろと!?」
“では、いってらっしゃ~い”
狸妓は光につつまれた。
◇
「あれっ?」
「どうしたのじゃ、サクラ」
「いえ、、」
なんか、激しくデジャヴ……




