535. 女子旅 part2 ⑰ (ニュクテレテウス討伐:北) ★★
挿絵挿入(2022/1/4)
ニュクテレテウス討伐:ヒナの場合です。
『青』と『緑』の発煙筒の上がった山の北側。
バトルと回復の要請に、早速援軍が到着した。
のはいいが――
(((えっ!?)))
その中にウサギの縫いぐるみを抱えた女の子が一人混ざっている。
(可愛い)
(かわいすぎる)
(モロ好み)
(冒険者か?)
(戦闘員、じゃないよな?)
(何でこんなところに、、)
「あの、お怪我をされた方はこちらへ……」
(((回復要員!!)))
どうやら冒険者のようだ。
可愛い女の子に癒してもらえるチャンス!
「はい!オレ!怪我人!」
「俺!俺も!」
「俺の方がヒドイから!」
我先にと 隊員たちが女の子めがけて走ってゆく。
ゆらり、女の子の持つウサギの縫いぐるみが浮遊し、駆け寄る男達の前に立ち塞がった。
「ヒナに近寄るんじゃねぇ」
可愛い縫いぐるみなのに、不遜で偉そうな物言い。
しかし、かわいいコの前ではどうでもいい。
(ヒナちゃんって言うのか)
(名前もかわいい)
(ヒナたん///)
〝ピシッ〟
「ひっ!」
ヒナの従魔、ウサギの縫いぐるみのジョーカーが それでも近寄ってくる隊員達の足元にプラズマを落とした。
「ジョーカー、やめて、彼らは怪我人だから……」
(心優しきヒナたん///)
(ありがとう///)
(マジ天使///)
しかし、天使の前に悪魔がいる。
「元気に走って来れるヤツを怪我人とは言わない」
ウサギの縫いぐるみジョーカーの形相がみるみるうちにかわってゆく。
″JACK″の仮面から″JOKER″の素顔へ。
口が大きく裂け、目は爛々と狂気に輝き、どす黒いオーラが渦巻く。
なんとも凶悪な顔!
ニュクテレテウスなんかよりよっぽど怖い!!
「でも、私、そのために来たのよ?ジョーカー」
「動けなくなったら治療してやればいい」
つまり、意識があるうちは ヒナに近寄れない、ということだ。
「それとも、オレが意識を飛ばしてやろうか?」
ジョーカーはサディスティックな笑みを浮かべ、嗤う。
〝ビシイイィッ〟
「うわっ!」
「ぎゃーっ!」
追いたてるように 隊員達に向かってプラズマを放つジョーカー。
「とっとと戦ってきやがれ」
えっと、味方、、ですよね?
隊員達はジョーカーに追いたてられ、否応なしに前へと進む。
追加の回復要員からの支援を受けて、必死に走り、戦う。
〝ピシッ〟
〝バリッ〟
「ほれほれ、走れ!ははははは♪」
(((ひいぃぃぃ!!)))
最後尾、ヒナのそばまで後退すれば、ジョーカーの放つプラズマが降ってくるから。
幸か不幸か、必死になったおかげで戦況は好転した。
かなり、疲れるが。
魔獣には『属性』というものがある。
火、水、地、風、光、闇の六属性。
火は水で消えてしまうので、火属性は水に弱く、
水は地に吸い取られるので地属性に弱い。
地は緑に力を奪われるから風属性に弱く、
緑(風属性)は火で燃えてしまう。
まったく効かないというわけではないが、効果が半減してしまうのだ。
光と闇は相対。
火<水<地<風<火、光⇔闇
ニュクテレテウスは風属性の魔物だから、火が有効である。
森の中なので、 剣士、戦士が中心だが、火魔法の得意な者と、森を守るための水魔法の得意な者を選んで、アザミ野、カトレアの警備隊+雇われ冒険者で隊を組んでいた。
普段おとなしいニュクテレテウスは簡単に討伐できそうだが、そうはいかない。
化けるからだ。
同じ風属性の魔物に化けているなら火が有効で、問題なく討伐できる。
しかし、森にはアクア・アラーネア(蜘蛛)、アーヴィング(ビーバー的な魔物)、ニュンペー(精霊)などの水属性の魔物もいる。
ニュクテレテウスが化けている偽者ならどんなものに化けようが火魔法で簡単に倒せる。
本物が混ざっているから厄介なのだ。
水属性ならまだいい。
火魔法で効果は半減だが、頑張れば倒せる。
しかし、これが火属性だった場合――
″ガルルルル……″
「火熊!?」
「この辺りで火熊は確認されてない!きっとニュクテレテウスだ!」
雇われ冒険者の男がそう決めつけ、攻撃を仕掛ける。
ヒナたんにいいとこ見せなければ!
「ファイアーボール!!」
「あっ!バカ!先ずは剣隊にまかせろよ!」
「え?」
見た目火熊、中身は……
″ボウッ!!″
「わっ!」
「本物!?」
「ヤバい!」
先走った冒険者が 火属性の火熊に火魔法を使い、火に油を注いだ状態に!!
「わーっ!鎮火!鎮火しろ!」
「山火事になるぞ!!」
「水魔法を!!」
「「ヒィィィ!!」」
ジョーカーに続き、火熊にも追いたてられる討伐隊員達。
なまじ冒険者を雇ったせいで 統率もとれにくい。
鎮火と火熊とのバトルで、場が騒然となった。
「大丈夫ですか!?」
炎の中をヒナが負傷者に駆け寄り、抱き起こした。
「酷い火傷、、すぐに回復しますね」
優しく手を当て、負傷者の火傷を癒すヒナ。
男達は、戦いながらも羨ましく、ヒナの方を見た。
「これで、よし」
ヒナに癒してもらっている幸運の第一号は――
″キュキュ~″
(((えっ!?)))
隊員ではなく、冒険者でもなく、ニュクテレテウスだった。
(ヒナたん!?)
(それ、敵!!)
(今、倒してるヤツ~)
炎に弱いニュクテレテウスを次々と治療していくヒナ。
「あの、、ヒナ、さん?」
味方は僕達、、ですよね?
「はい?」
何でしょうかとあげたヒナの顔は純粋そのもの。
一生懸命な姿も可愛い!!
ツッコミたいが、ツッコめない!!
「うわ!マズイ!」
「囲まれた!!」
火熊を囲い込んだ討伐隊を 回復したニュクテレテウスがぐるりと取り囲む。
″ポン、ポン、ポン、ポン″
ニュクテレテウスはサークルを作ると、腹鼓を打ち始めた。
何か、する気だ。
″ポンポンポンポン、ポンポンポンポン″
全員が同じリズムを刻み徐々に早くなってゆく。
サークル内を音が共鳴合い、空間が震え、風が起こってきた。
″ポポポポ、ポポポポ、ポポポポ、ポポポポ″
風は木の葉や木の枝、小石を巻き込みサークル内に小さな渦を成してゆく。
″ポポポポポポポポポポポポポポポポ″
″″ムッキューッ!!!″″
ニュクテレテウスが一斉に鳴き声をあげる。
ニュクテレテウスの連帯攻撃!!
前には火熊、後ろにはニュクテレテウスで、万事休す!!
しかし、竜巻は 隊員達を通り越し、火熊に直撃する。
周りに飛び火していた炎が風により上へと吹き飛んでゆく。
「今です!この子達が炎を抑えている間に!!」
ヒナの叫びに隊員達はハッとし、火熊に、一斉に攻撃をしかけた。
″″ムキュキュ~!!″″
「「うおりゃあぁぁ!!」」
ニュクテレテウスの援護射撃と支援!
風に乗って討伐隊員達のスピードが上がり、剣が軽くなり、威力が増す!
痛烈な一斉攻撃が火熊に炸裂!!
″グアアァァァ――″
断末魔の叫びをあげ、火熊が地に伏した。
YOU☆WIN
格ゲーならそう出るだろう。
「「やったー!!」」
″ウキュキュ~!!″
隊員達とニュクテレテウス達が歓びの声をあげる。
「凄い、凄いです///皆さん、凄いです!」
いや、ニュクテレテウスを仲間にしてしまったヒナたんのが凄いって。
パチパチと手を叩いて喜ぶヒナに、隊員達もニュクテレテウス達もデレデレです。
ニュクテレテウス討伐:北側――
ヒナを取り巻いて、ニュクテレテウスと討伐隊は ハイドンのいる南の拠点を目指し、和やかに、仲良く南下した。




