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52. 猫じゃらし

今日はここまでm(__)m




″ぱたぱたばた……″


『…………』


″ぱたぱた……ひゅんっ、ぱたっ、ぱたっ″


『…………』


「……床に座って なにやってるんですか?サクラさん」


「え?」


サクラは猫じゃらしを握りしめ 振り返る。

イシルが本を小脇に リビングの入り口に立っていた。

サクラの前には 黒猫のランが窓辺で寝ている。

サクラは帰ってきてから機嫌の悪いランを なんとかしようと奮闘中である。


「……ランディアは 猫ではないので、ソ(・)レ(・)で遊んだりはしませんよ?」


「あー」


ナンテコッタイ!

床には ヒモつきオモチャやら、リボンやら、ゼンマイで走るネズミやら、レーザーポインターやらキラキラボールやらが散乱している。


現世(あっち)のペットコーナーで買ったものだ。


「駄目か……」


目の前のランは まるっきりシカトで、相変わらず丸くなって寝ている。


「折角買ってきたのに」


手元をみつめて サクラはつぶやく。

実家の猫も これだけは なにがあっても 機嫌がなおるという賞品


GIAO(ヂャオ)『じゅ~る』


ペット商品を手懸ける大手ヂャオの 大ヒット商品で、スティックパウチの中に 液状のおやつが入っている 猫まっしぐらな商品。


“ガシッ”


「え!?」


ぴっ と 封を切ったら 今まで沈黙を守っていたランが サクラの手をがしっとつかみ、『じゅ~る』をチュウチュウ吸っている。


「かーわーいー」


サクラの顔がニヤケる。


ランがうまく吸えなくて ぺろぺろなめる。


「ごめんごめん」


サクラは 袋を押し、食べやすいよう 出してやる。

ランは 美味しそうにそれを舐める。


食べ終わると もっとちょうだい と おねだりする。


「ダーメ、一日一個ね」


サクラの言葉に ランの目がキラリと光り、サクラの胸に飛び込む。


もふもふのランを受け止めようとして サクラは こてん と 後ろに倒れた。


「え?」


「……くれよ」


サクラは 人化したランに押し倒されていた。

綺麗な 刹那(せつな)く蒼い瞳に 見つめられる。


「……欲しい」


近い!近い!体も、顔も近いっっ!!


「奪(うば)っていい?」


そして言葉が意味深すぎる!

主語を言え――――!『じゅ~る』を(・) って言えよ!


起き上がろうとするサクラの腕を ランが押さえる。


「いいよね」


真剣で危険なカンジの瞳が近づく。


“ヒョイッ”


『にゃ?』


サクラの視界から ランが消えた。


「こんなところでサクラさんの結界で弾かれたら 家具が壊れます」


「イシル、はなせ!」


イシルがランの 首をホールドしていた。

笑顔だけど、目が笑ってないですよ、イシルさん。


「なんだよ、ちょっとじゃれただけだろ!」


大型犬にじゃれられた赤子の気分ですよ。あーびっくりした。

仕方がないので、もう一個だけ じゅ~るをあげた。


ランは受けとると、ぴっ と 封を切り じゅ~るを口に含む。


「美味しい?」


人化しても美味しいのかな?

ランは 返事のかわりにキラキラさせた目をほそめてた 。


「美味しいんだ」


整った顔のせいで 冷たく見えるだけで、ちゃんと嬉しそうだ。


「あ、そうだ、ランにもお土産を買ってきたんだ」


サクラは オモチャの入っている袋に手を入れる。


「あ……」


「なに?」


ランが視線だけをサクラにむける。じゅ~るを咥えたままで。


「……いえ」


失念していた。

ランは 猫……では、ない。

成人男性である。


「なんだよ」


ランがこちらに向き直った。

サクラは 突っ込んだ手を出せないでいる。

何故なら お土産は……


『 首輪 』


赤いベルベットのベルトが ちょっとゴシックなチョーカーみたいで可愛くて、銀の留め具細工の飾りが凝ってる、シルバーブルーの鈴がついた 首輪。


きっと ランの 黒い毛皮に似合うだろうと ウキウキ購入してしまったのだが……


サクラはランをちらりと見る。


首輪をつけたランを想像する。

ありえん!成人男性に 首輪贈ってどうすんだ!?

怪しすぎるだろ!!は、恥ずかしすぎる、こんな失敗!何プレイだよ!?


「なんなんだよ」


ランがしびれを切らし、サクラの手を引っこ抜いた。


「あ!」


“シャラン”


硝子細工のような 涼やかな音が響く。


「なんだコレ」


「いや、あの、これはデスネ……」


「こ(・)ん(・)な(・)の(・)つけらんねーよ!」


「で、デスヨネー」


似合う似合わない以前の問題だ。似合うだろうけど。


「鈴(こんなの)ついてたら敵にバレるだろ!?」


「は?」


問題 そこ?


ランは首輪を奪うと、器用に自分で 手首に巻いた。


“シャラララン”


耳元で手首を振り、鈴の音を聞く。


「まったく、何考えてんだ」


にんまり笑ってる。


これが……俗に言う ツンデレ?


「イシルー、これ、防音してくれよー」


立ち上がり、するり と 本を読んでいるイシルの隣へとすり寄る。


「なー、いいだろ、サイレント、か、け、て」


イシルは 何で僕が……と言いながら、鈴に魔法をかけた。


ごめんよ、ラン。そんなに喜んでくれて嬉しいが……複雑。

次はちゃんと人間用買ってくるから許せ。


ランはサクラの腕を引っ張る。


「トレーニング 行こうぜ」


どうやら 機嫌はなおったらしい。














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