519. 女子旅 part2 ③ (大街道)
挿絵挿入(2021/12/7)
→挿絵528話に移動しました(2021/12/15)
オーガの村からスターウルフに乗って カトレアの町を目指すサクラ、アイリーン、ヒナ、ヨーコの女子旅四人組。
五月の爽やかな風を切って まずはオーガの村からアザミ野への馬車道を走る。
「獣の背に乗り 風を受けながら旅をするのも良いものじゃな」
ポニーテールにした長い髪をなびかせながら ヨーコが嬉しそうに微笑んだ。
優雅に横乗りヨーコ様。
ケモノに乗る姿も美しい。
すらりと組んだ 長いおみ足、ごちそうさまです!
(私、結構必死なんですけど?)
スターウルフの上で余裕綽々ヨーコ様とは対照的に、サクラはスターウルフにしがみついて 落ちないように頑張っている。
先頭を走っていたアイリーンが 後ろを振り向き、口をパクパクさせ、森の中を指差した。
しんがりを走るサクラには声は聞こえないが、その口がこう言っている。
『ち、か、み、ち』
アイリーンはふいっ、と 横道に入り、森の中へと進入した。
後ろに続くヒナ、ヨーコ、サクラを乗せたスターウルフ達も、リーダーのナイツが森へ入ったので後を続く。
イシルとの約束は速攻で破られた。
ヨーコが一緒だから 心配は要らないんだろうけど、、
(ひいぃっ)
平坦な道じゃないから さらに揺れるんです。
(酔い止め、飲ませてもらっといて良かった~)
「サクラ!」
サクラの前を走るヨーコが、心配してサクラを振り向き声をかけた。
「森の中は上下があって危ない、重力魔法を使うのじゃ」
「重力、ま、ほ、う?」
喋ると舌噛みそうですよ。
「お主、使えるであろう?スターウルフを包むように重力魔法をかけ、自身の体を少し浮かせるのじゃ。スターウルフとの間に 弾力性の空気をはさむイメージじゃな。さすれば振り落とされることもなく、揺れも軽減されよう」
あれだね?振動軽減クッション、みたいな?
「わ、わかった」
イメージの沸いたサクラは スターウルフを包み込む重力魔法をかけ、自分が座る下に ふよんふよんの空気のクッションを作ってみた。
「わわっ、、」
ふよんふよんしすぎて逆に跳ねてしまい、クッションの固さと薄さを調節する。
衝撃を跳ね返すのではなく、一旦吸収して、付加分を外へと受け流し、再び元に戻るというイメージで。
(おっ、いい感じ)
体が上下しなくなった。
腰への負担も軽減。
スターウルフまでもを包み込む重力魔法のおかげで サクラ自体が魔法補助で軽くなり(←体重が減ったわけではない)スターウルフの足取りも軽くなる。
「うむ、サクラは魔法の使い方が上手いな。ちと変わっておるが、カンがよい。上出来じゃ」
「えへへ///」
お褒めの言葉をいただきました♪
イメージさえ掴めればなんとかなる。
この世界の魔法とは ちょっと違うみたいだけれども。
おかげで景色を楽しむこともでき、乗りながら会話することも容易になった。
◇
アザミ野とカトレアは距離にしたら近い。
が、間に小さいが山があるため、山の下をぐるりと回り、山の反対側に行く大街道が作られている。
荷物を運ぶなら平坦な道の方いいからね。
大きな町が隣接していることもあり、大街道は行商人や荷馬車が行き交い、交通量が多い。
途中に村はないが、無人の小屋が中間地点に儲けてあり、休息所が作られている。
サクラ達女子旅四名は アザミ野を通り越して、予定よりだいぶ早くにこの大街道へと出た。
「あれ?」
街道に出たアイリーンが 首を捻る。
それもそのはず、街道には ほとんど人がいなかったからだ。
いつもは渋滞している街道だが、今日はがらんとしていて、商人、旅人、荷馬車の姿が見えない。
いるのは警備隊らしき制服の男達と、冒険者風の男達。
「おかしいわね、何かあったのかしら」
ちょっと、物々しい雰囲気だ。
「おーい!君たちー、ダメダメ、この道は今日は通行止めだよ!」
警備服の男がサクラ達に駆け寄ってくる。
胸にカトレアの花をモチーフにしたエンブレムを掲げているから カトレアの警備兵なのだろう。
サクラよりちょい年下の、落ち着いた感じのちょっとしたイケメンだ。
冒険者の集まりのドワーフ村の警備隊員とは違い、パリッとしていて、現世の″お巡りさん″を思わせる。
公務員、最高!って、アイリーン言ってたから、カトレアの警察みたいなものかな。
カトレアの兵士はアイリーンの顔を見て驚いた。
「あれ?君は、、アイリーンじゃないか」
アイリーンも 顔見知りのようで、男に笑顔を見せた。
「お久しぶりです、サイラスさん。手紙ありがとうございました。お土産、奥さんお気に召したようで良かったです」
「あん時は助かったよ。やっぱり、可愛い子はいいもの知ってるね」
会話にさらりと可愛いとか言えちゃうのに、誘ってる感じがしないのは既婚者だからか、爽やかなサイラスさん。
「君は、ヒナちゃんだったよね?」
サイラスはヒナにも声をかけた。
「ご無沙汰しております、サイラスさん。その節はお世話になりました」
ヒナも顔見知りのようだ。
「今日はまた可愛い格好してるね、うん、お人形さんみたいだ。似合ってる」
「ありがとう///ございます」
カトレアの兵士で、ヒナが知っているということは、前回の女子旅で アイリーン達がアザミ野を案内し、奥さんへのお土産を買うのを付き合い、お礼に食事をご馳走になったという、例の健全な合コン相手だろう。
カトレアの兵士サイラスは、アイリーン、ヒナを見たあと、サクラとヨーコを見て、はっ、と 合点のいった顔をした。
「あっ、そうか、今日だったか!あいつらとの食事は」
「はい、これからカトレアに――」
サイラスはアイリーンの言葉の途中で、パン、と手を合わせて『すまん!』と、謝ってきた。
「悪い、アイリーン。紹介しといてなんだが、今日はダメになったんだ。それに、今は街道封鎖で、一般人は通れないから、カトレアには行けないよ」
「何かあったんですか?」
「ニュクテレウテスが出たんだよ」
ヨクテレルンデス?(←全然違う)
「山ならまだしも、最近は街道でも結構被害が出ててな、苦情が増えていて、急遽 カトレアとアザミ野合同で山狩りしようってことになったんだ。あいつらも休日返上で、反対方向から山に入るんだよ。多分便りは出したと思うんだが、何せ急だったからな……」
「そうだったんですね」
女子旅一行はカトレアには入れず、目的も失ってしまった。
サクラはアイリーンを ちょいちょい、と、つつく。
「ニュクテレウテスって、何?」
「何って、、タヌキよ」
「狸?」
「そう、狸」




