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514. ところにより一時 嵐 (アイリーンの婿取物語10)




「ヒナ!」


雨が止み、雨に囚われていたバーガーウルフのカウンターへ駆け寄ったアイリーンは ヒナに呼びかけた。


「あ、お帰りなさい、アイリーン」


バーガーを包む作業をしていたヒナが アイリーンを見て笑顔をみせる。

テンコの心配は杞憂におわったのか?

しかし、ミディーもロージーもテアもいないから、何かあったのだろう。


「良かった、無事なのね」


アイリーンは変わりないヒナの様子にひとまず安堵した。

客の忘れ物なのか、カウンターにはウサギの縫いぐるみが置いてある。


「ところで、何なの、コイツら」


ヒナの隣に並んで フライヤーと鉄板の前で慣れた手つきで調理しているのはうさぎの獣人。

今までこのあたりで見たことがない。


接客している 派手な帽子をかぶった ちょっと顔のイイ男がアイリーンににこやかにほほえみかける。

こいつも 知らない。

こんなのいたら村の女子がざわついていたはずだ。


「オレはジョーカー」


「きゃっ!」


カウンターに置いてあったぬいぐるみが突然喋りだしてアイリーンが小さな悲鳴を上げる。


「ヒナの従魔だ。よろしくな」


魔導師風のローブを纏い、手に本を持ったウサギのぬいぐるみジョーカーは、熊のぬいぐるみアールと同じく 精霊が宿った付喪神のようだ。


驚くアイリーンにヒナが補足する。


「この二人は 料理人の三月ウサギのマーチさんと 帽子屋のマッドさん。ロージーが辞めてしまったので、仕事の手伝いにジョーカーが本の中から召喚してくれたんです」


ジョーカーは召喚士で、本の中から調理の出来るマーチと 計算、接客の出来るマッドを呼び出してくれたという。


ロージーは結局辞めたのか。

テアは様子を見に行ってくれている、と。


三月ウサギのマーチが よろしく~と手をふる。


「ごめんね、ヒナ、一人にして。こんなことならすぐに帰ってくれば良かった。何があったの?」


「それは……」


言いよどむヒナの代わりにジョーカーが答えた。


「猫の王子が解決したから問題ないよ」


「猫の、、おうじ~?」


アイリーンは思わずちょっと嫌そうな顔をかえした。

『猫』で『王子』とくれば 心当たりは一人しかいない。


「バカ猫ランのこと~?」


″ヒック///″


ヒナからしゃっくりがでた。

顔を赤らめ、きょときょとと落ち着きのない様子を見せる。

何があったんだ?


ヒナを問い詰めようとしたところで アイリーンは 接客を終えたマッドに するりと手をとられた。


「初めましてアイリーン。嬉しいな。ジョーカーのおかげで可愛い主人(ヒナ)を得ただけでなく 君みたいな素敵なレディーに出会えるなんて」


軽やかでさりげないソフトタッチ。

女の子の触り方に慣れている。

こいつも 女好きか、要注意人物だな。


離そうとするアイリーンの手を 器用にからめとり さらに引き寄せる。


離そうとすればするほどマッドは手遊びでもするかのようにアイリーンの手を弄び、優しく撫でていく。


「ちょっと///」




『ぐるるるる……』


アイリーンは 後ろで唸る獣の唸り声を耳にし、ハッとした。


(テンコ!!)


振り返るとテンコが目を赤く光らせて、牙を剥いている。


「アイリーンの獣魔?噛む??」


マッドがアイリーンの手をパッと離した。


テンコの形相がみるみる凶悪になってゆく。

口は裂け、鼻がのびて狐本来の顔を表し、牙を剥く。

内側からどす黒い瘴気のようなものを滲ませ纏う。


アイリーンは慌ててテンコに駆け寄った。


「テンコ!?テンコ!!」


しかし、テンコが見ていたのは アイリーンではなかった。

視線の先をたどれば、マッドでもない。


テンコが見ていたのは ヒナの隣にいた三月うさぎのマーチだった。


「テンコ?どうしたの!?」


アイリーンの声も聞こえない様子で 瞳はマーチをとらえたまま、低く唸るような声で呟いた。


『……ウマソウダナ』


「ヒッ!」


マーチはテンコに見据えられて硬直する。


『旨ソウナ ウサギ、ダ』


「ひいいっ!!」


固まって逃げられないマーチの前に 庇うようにヒナが立った。


『退ケ、ヒナ』


「退きません」


『邪魔 スルナ、、其ノ ウサギ ハ ワレノ チカラトナルノダ」


あきらかに様子がおかしい。

いつものテンコじゃい。


「其ノ ウサギ ノ、生皮ヲ 剥イデ 肉ヲ 食ミ、空腹ヲ 満タス。 其ノ 血ヲ 啜、リ、渇キ、ヲ 潤、ス。 !!』


「テンコ!駄目!やめて!どうしたの!?」


アイリーンがテンコにしがみつき止めに入った。

テンコはアイリーンを見て にしゃりと嗤う。


『オ主シ ニハ アタタカイ エリ巻キ、ヲ ヤロウ、ウサギ ノ 脚モ ヨイ、ナ』


ペロリと舌舐めずりをする。


「いらない、いらないよ!いらないから元に戻って、テンコ!」


「我ハ イツモ通リ、、ジャ。ムシロ、キブン ガ ヨイ」


テンコはアイリーンが止めるのも聞かずに アイリーンを引きずりながらカウンターに近づいて行った。


側にいた客達が 異様な空気に散らばり逃げて行く。




″シャララン……″


『グッ、、』


涼やかな鈴の音が 響き、テンコが怯む。

見ると、マーチの前に立つヒナが神楽鈴を手にしていた。


「力を使いすぎたのですね」


ヒナは手にした神楽鈴を ジャン、シャン、と一定のリズムでゆっくりと振る。


『ヤメロ、ヒナ』


「″蒼天″は本来、テンコ(天弧)ゲッカ(地狐)セイヤ(空狐)の三匹で行わねばならない技です。何故(なにゆえ)一匹で執り行ったのですか!」


『ソ、其レハ オ主シノタメニ……』


「嘘おっしゃい!」


『ウッ、、』


「アイリーンに良いとこ見せたかったのでしょう!!」


『ウグッ、、』(←図星)


シャンシャンとヒナが神楽鈴を振るリズムを上げて行く。


『ヒナ、ヤメ、、ウウッ、、』


その鈴の音にテンコが苦しそうに頭を抱えて地に伏した。


「テンコ!」


アイリーンはテンコの横にひざまづき、頭を抱えるテンコの背をさする。


どうすれば――


()()ではなく、ヨーコ様の元に帰り 精気を分けてもらいなさい!テンコ」


ヒナの言葉にアイリーンは考える。


精気、、精気を与えれば元にもどるの?

だったら――


「アタシの精気をあげるわ、テンコ」


アイリーンは 俯き頭を抱えるテンコの下顎に手を差し入れ、上を向かせた。


苦しそうで虚ろな瞳。

恐ろしい化け物の姿をしたテンコ。


アイリーンは かたわずその口にくちづける。


″ちゅっ″


「!!」


テンコが驚き、目を見開いた。

目の焦点が合い、その赤い目が アイリーンを見た。


「アイ、リーン、、」


「アタシの精気を吸って、テンコ」


アイリーンは もう一度 テンコの口にキスをする。


「アイリーン」


「っ///」


アイリーンから与えられた精気に、重く纏わっていた障気が晴れ、テンコが人の姿を成してゆく。


「んっ///アイリーン」


「あうっ///」


吸い上げたアイリーンの精気は温かくテンコに流れ込み、アイリーンの存在がテンコを満たしてゆく。


甘い、、美酒のようで、テンコは 渇きを潤すように アイリーンの唇を貪った。


「ふっ///アイリーン」


「やっ///」


柔らかな唇に テンコの心がとろけてゆく。

放したくない。

放せない。


「はっ、あっ、アイリーン///」


「っ///」


テンコはアイリーンの体をかき抱き、欲望のままにアイリーンの唇を求める。


テンコに激しく求められ、アイリーンの体から 力が抜ける。

くったりと、その身を テンコにあずけて。





その 甘やかな存在に


テンコは 自分を 止めることが出来なかった。










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