表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
493/557

493. 異世界で朝食を (ハムサンド) ◎

料理写真挿入(2021/9/22)





朝が来た。

イシルは森のサクラとの待ち合わせ場所で ソワソワとサクラの帰りを待っていた。


サクラがいつも神に呼ばれるのは朝の八時半。

ということは、薬屋が開くのも八時半。


(大丈夫、帰ってくる)


サクラが帰ってきた時に、心配かけたと罪悪感を持たせないためにも、普通でいなければ……


イシルは不安な思いと戦いながら、その時を待った。






(あ、、来る)


すぐにその時は来た。

風もないのに、ざわりとした揺るぎを感じ、

グニャリと空間が歪むのを感じたかと思うと、その場所に金色の光の粒が終結しだした。


(帰って来た……)


イシルは光の中に、サクラの気配を感じとった。


(帰って来た、僕のもとへ)


嬉しさがこみ上げ、涙がでそうになるのを堪える。


いつまでも、何時間でも帰ってくるまで待つ心づもりでいたのに、こんなに早く帰ってきてくれるなんて――


光は人の姿をかたちどると、霧散し消えてゆき、そこにサクラの姿が現れた。


「イシルさん!!」


愛しいサクラの声がはっきりと聞こえた。


「サクラさん……」


イシルの心が(はや)り、サクラを求めて鼓動が激しく波打つ。


普通に、普通に振る舞わなければ――

イシルは嬉しさを押し留める。


サクラはイシルの姿をみとめると、大慌てで駆け寄ってきた。


「すみません!すみません!!すみませんんっ!!!」


サクラは手に大きな箱を抱えていて、そのために首だけををブンブンと上下に振りながら、泣きそうな顔をして本当にすまなそうにイシルに謝って来た。


「大丈夫ですよ」


イシルはサクラから箱を受け取ると、何事もなかったかのように 笑みを作った。

そして、大したことないよと、サクラを安心させる材料を渡す。


「薬屋が閉まればこちらに来れないことは知ってましたから、、ああ、そんなに首を振ったら痛めます」


サクラがきょとんとイシルを見上げた。


「シズエはいつも次の日に帰ってきてましたよ。だから気にしないで」


「そうなんですか……」


サクラが少し落ち着いた。

成功のようだ。


「でもでも、心配かけましたよね?待ちましたよね?すみませんでした。ちゃんと帰るつもりだったのに、私――」


「良いんです、何も言わなくても。こうして帰ってきてくれたじゃないですか。無事ならいいんです。しかも、薬屋が開いてすぐですよね?」


「はい、心配してると思って」


「ありがとう、サクラさんの気持ちは十分に伝わってますよ」


昨日帰れなかったことが サクラにとって不本意だったことがイシルにもわかる。


イシルは段ボールとサクラのリュックを亜空間ボックスにしまうと、改めて サクラを抱きしめた。


「おかえりなさい、サクラさん」


「ただいま、イシルさん」


サクラもイシルに応えて抱きしめかえす。

イシルの存在を確かめるように サクラが自らイシルを求めてすり寄り放さない。


″会いたかった″


言葉では言わずとも、腕の中のサクラは、態度でイシルにそう示してくれていた。


久しぶりに自宅で過ごしたサクラからは 柑橘系の爽やかな香りがした。

サクラが自宅で使っている石鹸の香りなのだろう。

それがまた、出会った頃を思い出させ、イシルは愛しさを募らせる。


(ん?)


しかしそこに、イシルは別の香りを感じ取った。


ひんやりとしたイメージの、爽やかな、少し甘い香り。

この匂いはたしか、、練り香水の『雪』。

以前サクラが如月に(かんざし)を差してもらった時の匂いだ。


如月の匂い。


ということは、サクラは如月と一緒にいたということだ。


「イシルさん?」


くうっ、如月め、、

練り香水『雪』の香りは サクラのお気に入りのパーカーから香ってきている。


「どうかしましたか?」


イシルはサクラから離れると、サクラのパーカーを脱がせる。


「え?何?何?」


「今日は暑いですからね、脱いで、これも洗濯しましょう」


「そうですね」


さらば、如月。


イシルはサクラのパーカーも亜空間ボックスにしまうと、サクラの肩を抱いて歩きだした(←ライバルの気配撤去+自分の匂いをマーキング)


「サクラさんは朝ごはん、食べたんですか?」


「いえ、急いでいたし、一緒に食べたかったので まだです。あ、イシルさんは食べましたか?」


「僕も///まだです」


″急いでいた″

″一緒に食べたかった″


この 何気ない会話に、サクラの言葉のひとつひとつにイシル心が反応し、高鳴る。


大げさかもしれない。

意味の過大誇張と言われるかもしれないが、そこに意味を見出だしたいのが恋愛だ。


サクラも同じ気持ちでいてくれた。

その事に 心が満たされ、(うるお)ってゆく。


(如月ではなく、僕と///)


だめだ、頑張っても顔がニヤけてしまう(←でもイケメン)


「こっ///これから作りますから、少しかかりますよ?」


「はい、一緒に作りましょう」


二人は目を合わせて、ふふふ、と笑った。


″何にしますか?″

″何が食べたいですか?″

″簡単なもので″

″パンとスープで十分″

″卵焼きますか?″


そんなふうに話しながら 家まで歩いていて、ふと イシルは思い出した。


如月の『雪』の香りに気をとられて ″おかえりなさいのキス″ を し損ねたことに。

最大のチャンスだったのに……


(如月め……)


顔の見えないライバルに 勝手にやられたイシルさんでありました。





◇◆◇◆◇





サクラがイシルと共に家に帰ると 飼い猫が料理をしていた。


「お帰り!サクラ」


もとい、珍しくランが料理をしていた。


「ランが、、料理を、、」


「腹減っただろ?もう出来るから座ってろよ」


テーブルには既にパンとサラダとミルクが置かれ、食卓の準備が整っていた。


サクラを座らせ、イシルはランの所へ。


「何を焼いてるんですか?」


「ハム」


ランはグリルでハムを炙っていた。


パンにハムを挟んで食べようってことだね?

食卓に出ているパンは チーズを入れて焼かれた丸パン。

これにハムをはさめばハムチーズ!

ナイスチョイス、ラン。

簡単だけど ベストなマッチング。


ランが料理?とか思ったけど、ハム、焼いただけだし、、

あ、失礼、サラダもあったね。


「では僕がもう一品作りましょう」


イシルは保冷庫から おひたし用に茹でてあったほうれん草と卵を取り出すと、ランの隣に立って フライパンを振るった。

パラリ、塩味。

ほうれん草と卵のスクランブルエッグだ。


ほうれん草はダシや醤油に浸されていても、胡麻和えになっていてもかまわない。

和風の下味がついていて かえって美味しいくらいです。


今回のイシルさんみたいにシンプルな味つけが好きなら、ほうれん草は冷凍された、すぐに使えるものもありますからね!





「「いただきます」」


ランが焼いてくれハムは お中元やお歳暮なんかでもらうようなロースハムだった。


しかし、なんていうか、、


でかっ!そして、ぶ厚い!!

高級ハムですよ?

いいんですか、こんなに分厚く切っちゃって!

厚さ何センチ?3センチ?


これはもう、ハムではなくステーキです。


ランはチーズの丸パンにナイフで切り込みを入れると、惜しげもなく それをまるっとパンにはさみこみ、かぷり。


″はむっ、ふかっ、ぷつん、、″


見ているサクラにまでハムの弾力が伝わりそうなかぶりつき。

サクラはベジファースト、サラダを食べながらそれを見つめる。


イシルも同じように丸パンに切れ込みをいれると ハムステーキをそこにはさんで、かぷり。


″あむっ、ぷつっ、、もくっ、、″


異世界では普通ですか?

これは高級ハムではないんですか?

お正月に小さく切って家族みんなでちょっとずつ、

もしくはスライスして、一人二枚と決められる、そんな存在ではないんですか?


サクラはサラダのミックスビーンズをちまちまつまみながら、高級ハムステーキサンドにかぶりつく二人を見つめる。


「サクラさんのも切りましょうか?」


「え?あ、はい」


見つめていたらイシルが気を利かせて サクラのチーズパンにも

ハムを はさめるように 横に切り込みを入れてくれた。


サクラはランやイシルさんに習って、バターもマヨネーズも何もぬらずに、ただハムをそこにはさみ込む。


″あぐっ、はむっ″


ひとくち。


かぶりつくと パンから香ばしい焼けたチーズの香りと塩気を感じた。


″ぐっ、ぷちん″


分厚いハムを噛むと、ハムの弾力が 歯を押し返してくる。

それをぐっん、と 噛み込むと ぶりんっ と歯応え良く千切れ、口の中に入り込んだ。

その存在感たるや!!


ぶりん、ぶりん、と、噛むごとに口のなかに弾ける肉の旨みがゴロゴロと広がる。

ハムにしたことによる身のしまりと旨みの凝縮、炙った熱によってそれが膨張し、内側からじんわり滲み出てきていて、表面はカリッと、中はしっとり、じゅわっとジューシーに。

肉の繊維の隙間の隅々まで旨みエキスがめぐっている。


その繊維を歯で断ち切ることにより、肉汁の道水路が解放され、そこから旨みが口の中へ だくだくと流れ出してくる。

かぶりついた断面はキレイなピンク色。

二層にわかれた旨み脂部分はほんのりさくら色。


″もりっ、もぐん、じゅわっ、、″


「んふっ///」


美味しい!

パンとハムだけ、他に何もないのが逆にいい!


パンにハムの旨みをじんわりうつし、パンの香りがそれを包み込む。

ハムの塩気とパンのチーズの塩気。

シンプルだからこそ、ダイレクトに素材の良さがサクラの舌に伝達される。


贅沢シンプルハムステーキチーズパンサンド最高!

朝から最高のご馳走です!


「シアワセ///」


「だろ?」


ランはサクラの笑顔に満足し、イシルをチラリと見る。


「美味しい。ありがとう、ラン、僕もシアワセ///です」


二人の言葉に ランも幸せそうに笑った。




































挿絵(By みてみん)


ロースハムステーキ


からの、チーズパンの贅沢ハムサンド。

チーズの丸パンは糖質12.6g(7のつくコンビニ)


つけあわせはホウレン草(冷凍)のスクランブルエッグ



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] イシルさんの思い遣りが温かい。すごくそれを感じる一場面でした。 家に帰るまでの会話も、クスッとしつつ(如月さん笑)二人が嬉しいのがとても響きます。 ランもちゃんと・・・なんて豪華なハムのサ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ