483. ハーフリング村 (パンディーの夢の架け橋)
「ローラー滑り台は動力のないコンベアみたいなもので、乗ってる人の重みによって一つずつのローラーがすべり、回転して前に進むの」
「ちょっと待って、サクラ、今スケッチブック持ってくるから」
「筆記用具必要でしたらこれを」
イシルが亜空間ボックスから筆記用具を取り出し、パンディーに渡した。
パンディーはありがとう、と、イシルから受け取ると、サクラの説明を熱心に聞き、サラサラと絵を描いていく。
「こんな感じ?サクラ。ローラーの中心部に芯を入れて浮かせ、回転するように作り、芯の両はしを枠で挟んで組んでいくのかな?」
「多分、そうかな。ローラー自体はもっと細いよ。そして、みっちり」
「ふんふん」
「私も ローラー滑り台すべったことはあっても、構造まではよく知らなくて」
「でも、イメージは伝わったよ。ありがとうサクラ」
パンディーは描いた図をながめながら考えをめぐらしてゆく。
「滑るとき 手を挟んだり、服が巻き込まれないような工夫が必要だね。そうすると、、ローラー自体も軽くないといけないのか、、軽くて丈夫なもの、、木製だと無理かなぁ~材質は何だったかわかる?」
子供の頃はアルミだったかな。
最近は騒音軽減とオシリのためにシリコンゴムでコーティングされてるのも見かける。
アルミで通じるのかな?
「アルミだったり、それをゴムで薄くコーティングしてあったり」
「やっぱり軽いんだ」
通じたようだ。
「全てではなくても、木を中心に、丈夫でなくてはいけないところは金属にしてみては?木製にこだわりがあるなら、パンディーさえ良ければ、僕が補強の魔法をかけますよ?」
「本当に!?僕、金属加工は上手くないから、ローラーは細い青竹を考えてたんだ。あれなら中が空洞で軽いし、踏んでも割れないからさ。強化してくれるなら使えるかも。ありがとう、イシルさん!」
「ただ、一人で作るには大変ですね。作業もですが、材料調達も」
「うん……」
イシルは改まってパンディーに提案する。
「パンディー、これは、村長に話をあげた方がいいと思います」
「えっ?」
イシルの言葉にパンディーが戸惑った。
「いや、でも、、」
「これは君の夢ですから、自分一人の手で造り上げたいというのであれば、それでも構わないのですけれど」
「ううん、僕の夢は、子供達がその滑り台で遊んでくれることだよ。そうじゃなくて、、僕の夢に皆を巻き込むなんて、そんな大それたこと、、」
パンディーの声が小さくなる。
「僕はこの村の出身じゃないし、、」
ゴニョゴニョ、消え入るような声。
その背に 怒ったような声が飛んできた。
「アホなこと抜かすな、パン」
やって来たギランが ゴイン、と パンディーの頭を小突いた。
「お前は俺の息子やないか」
「ギラン……」
「ギランやのうて、父ちゃんと呼べや言うとるやろ」
「うん、、父ちゃん///」
ギランが小突いたパンディーの頭を撫でる。
「お前はこの村の子や。俺の自慢の息子や」
ああ、ほっこり。
「ほな、話を摘めまひょか~」
そんなほっこり雰囲気を一気にオズが破壊し、ギランとパンディー、イシルを交えて、『パンディー夢の架け橋計画 ローラー大作戦』を進めていった。
資金面、人材なんかの話になると、サクラがいてもしょうがない。
伝えることは伝えたし、、
「ちょっと、運動してきますね」
サクラは食べた糖分を分解すべく、パンディーのアスレチックランドを巡ることにした。
「オレも」
ランもサクラについて 一緒に運動。
「サクラ、そっちがわに乗れよ」
「……イヤだ」
「何で?これ、一人じゃ遊べないだろ?」
サクラはツン、と、ソレをスルー。
え?何かって?
ランがサクラを誘ったのはシーソー。
それは軸を挟んで両側に座り、ぎっこん、ばっこん。
上下に跳び跳ねる遊具です。
何故嫌がったか。
だって、天秤ですよ?
重い方が下に、軽い方が上に上がるんです。当たり前だけど。
ランの身長体重なんて知らないけれど、サクラの方が重い可能性は十分にある。
そんなの目でみちゃったら、、
現実を叩きつけられたら、、
体重知られていても立ち直れない _| ̄|○
(シーソーなんて、絶対やらない!!)
なけなしの乙女の心を折らないでおくれ。ラン。
サクラはジャングルジムへと向かい、懐かしさを感じながらよじ登る。
木製のジャングルジムは 木の香りがして優しい。
手を痛めたりとげが刺さったりしないよう、なめらかに、でも細かく切り込みが入れられて、滑らないように仕上げられていた。
パンディーの 遊ぶ子供達への配慮が見て取れた。
ジャングルジムはそのま見張り台の小屋に繋がり、うんてい梯子やクモの巣のようなネット、滑り台にターザンロープと繋がる 複合遊具になっている。
「ちょっと高さがあるだけでも随分遠くまで見えるな」
牧場は元々広くて見晴らしが良いのだが、見張り台からは更に牧場の奥まで見渡せて、爽快感がある。
風がさわさわと心地いい。
「そうだね。ローラー滑り台ができたら、もっと凄い景色が見られるんだね」
サクラは見張り台から繋がる滑り台をすべって降りる。
″つるるる~っ″
滑り台の滑り部分は 百日紅の木のようにツルツルで、短いけれど結構なスピードが出た。
でも、最後のスロープを長めにとってあり、すんなり止まることができた。
着地点には芝のようなものが植えられており、転んでもクッションのかわりをしてくれる。
(パンディー、、愛があふれてるね)
こんなふうに工夫が凝らされた遊び場、是非とも多くの子供達に遊んで欲しいものだ。
サクラはもう一度見張り台に登る。
今度はジャングルジムからではなく、木の壁をよじ登って。
木の壁は 少し傾斜をつくり、ロッククライミングのように、ポコポコと凹凸があって、登れるように造られていた。
サクラは壁を登りきって、ランはどこかと探せば、ランは はん登り棒からうんていでこちらにやってくるところだった。
(うお///カッコいいな、ラン)
腕に力が入り、きゅっと筋肉がしまり、手首から腕、肩へのラインがたまりません。
(眼福♪眼福♪)
心に栄養、ゴチソウサマデス。
因みにサクラはうんてい出来ません。
うんていの梯子の下は ロープで組んだクモの巣ネットがある。
クモの巣ネットで遊べるだけでなく、もしうんてい棒から落ちても あのクモの巣ネットが受け止めてくれるんだね。
「サクラ、コレやろうぜ」
ランはサクラのところまでやってくると、サクラをターザンロープに誘った。
「ラン、先に行っていいよ」←見たい
「何言ってんだよ、一緒にやるんだよ」
一緒に?
ターザンロープを??
どうやって???
ランはターザンロープを持つと、サクラを自分の前に立たせて、二人いっぺんにロープの輪をくぐり、ロープを尻に引っ掻けた。
「なっ///」
サクラはランの膝の上に乗っかる形となる。
「ちょっと、二人は無理デショ!?ロープ、キレる!」
「大丈夫、大丈夫」
てか、この格好が大丈ばない。
オシリに、、硬いモノが当たってる!?
「いや、ラン///私一人で乗れるから、、」
サクラが立とうとするのを ぐいっとランが引き戻し、再びサクラはランの膝の上に、ペタンとしりもちをついた。
″ぐりっ″
(ひっ///)
「あ、ゴメン、サクラ、当たっちゃった?」
それ、聞く!?
「いや、あの、その、、」
「痛かったよね?」
いや、君の方が痛いだろう!ラン、今、結構強くぐりっと踏み敷いたよ!!
「亜空間ボックスに閉まっとくから」
「え!仕舞えるの!?」
大事なモノを!?
「コレだろ」
ランが左手をひょいっとサクラに見えるように差し出した。
それは、ランが骨董市で買った 卵肌婦人の″魔戻りの剣″だった
「へ?短剣?」
サクラの間の抜けた声に ランがクスリと笑う。
「なんだと思った?」
「いや、、別に……」
「ふーん」
「///」
ああ、勘違い。
くそう、恥ずかしいな、もう。
「良かった」
「?」
「オレをちゃんと男として見てくれてたんだな、サクラは」
わかってんじゃんか!当たったのがなんだと思ってたか!!
「だから///違うって!!」
ランは言い繕うサクラの耳に口を寄せて、ぼそりと一言。
″オレのはもっとデカいよ″
そして、タンっ、と、スタートステップを踏み出した。
「うわっ!!」
ぐんっ、と 体が宙に投げ出される。
(安全ベルト、してねぇぇ!!)
″しゅるるるる~っ″
ターザンロープが二人分の勢いをもって、加速する。
(ひいいっ、ロープ軋んでるっ!!重量オーバーだっちゅーのっ!)
「あはは、やっぱ二人の方がスリルあんなぁ~」
ロープがキレるスリルですかぁ!?
ランはサクラを膝の上に、風を受けてご機嫌なご様子。
(ヒイイイィ!!)
この、、
「セクハラ大魔王おぉぉぉ――――!!!」
◇◆◇◆◇
「わああぁー!!!」
「あははははは」
サクラの叫びとランの笑い声が牧場に響く。
「えらい楽しそうやな」
「あの二人はいつもああですよ」
「せやな」
打ち合わせをしながらのイシルとオズの会話。
牧場主のギランもそこに加わった。
「子供の笑い声がするんは、やっぱりええなぁ」
いや、サクラもランも良いオトナですよ、ギランさん。
パンディーは楽しそうなサクラとランの様子をチラチラ見ている。
「なんや、パンも遊びたいんか」
「えっ?いや僕は、、」
遠慮するパンディーに、ギランが優しい言葉をかけた。
「ええから、お前も行ってこい。久しぶりやろ」
「でも、これは僕の夢の事だし……」
「かまへん、かまへん、わてらはパンディーの夢に乗っからせてもらうんや、手伝いは惜しまんて。パンディーはエエもん造ること考えてくれたらええんや。楽しいもん造るためにも遊んで来ぃや」
「うん、ありがとう、オズ」
オズの後押しにパンディーが立ち上がり、サクラたちの元へと走る。
むにむに走る後ろ姿がかわいらしい。
イシルも立ち上がり、その後を――
「ちょちょちょちょ、イシルの旦さんどこ行きはるんで?」
「え?僕も遊びに――」
イシルの言葉が終わらないうちに、ガシリとオズがイシルの上着の裾を掴む。
「待ってぇや、これから村長んとこに話し持ってくのに もっと詰めんと、人員やら材料費やら、クリアせなあかんことは山積みや!」
「それは自分達でやってくださいよ」
「そんな冷たいこと言わんと、助けて~、同盟村の発展のためやでー!?非力なわてらだけでは建築は無理やし、ドワーフやオーガの村にもオタスケマン頼みたいんや~、旦さん旦さんイシルの旦さん!姐さんの喜ぶ顔見たいでっしゃろ?姐さんの笑顔が一番でっしゃろ?なぁなぁ、愛妻家の イシルの旦さん!!!」
「うっ///」
サクラの名前を出されたら手伝うしかない。
「……わかりましたよ、さっさとまとめましょう」
オズはパンディーには優しかったがイシルは逃がしてくれなかった。
(パンディーと遊ぶサクラさんを眺めたかったのに……)←両方大好き




