478. 偶然ではなく必然で ◎
料理写真挿入(2021/9/1)
サクラやイシルよりも遅く起きたランは、宿で出された食事をかきこむと、それじゃ足りないだろと、宿の奥さんがオマケで作ってくれたサンドイッチにかぶりつきながら 骨董市へ赴いた。
(オマケなのに、旨すぎ)
野菜キライ と 言ってあったので、中に挟まっているのは肉の塊り。
とろっと煮込まれた肉が ふわふわの蒸したパンに挟まっている。
そこに、さらに甘いタレがかかって、、
(今日の煮込みは豚肉だな♪)
夜はこの豚の煮込み肉がメインだろうが、ランはひと足先に その味を堪能する。
むっちり、もっちり、とろ~り。
パンにタレが染み込んで、くしゅりとうまい。
軽いふわふわしたパンは、サクラが作った温泉まんじゅうに似ているから、いってみれば″豚の角煮まんじゅう″だ。
豚肉と醤油はオーガの村から仕入れたのだろう。
村同士の交流が盛んになると、こうして色んな料理が生まれるんだなと感心した。
ランは中央広場までは行かずに、その手前にある古道具を出している店の並びを物色してまわる。
三日目ともなると、あらかたモノが売れてしまってるかと思われるが、そこは商売人。
結構いいものをとってあったりするのだ。
客を引ける商品がなくっちゃあお話にならないからね。
初日には見なかったものも、最終日には出揃う。
今日で売りつくす勢いだ。
「ナンタラ王国の魔法具『牛若丸』だよ!この笛を吹けば、どんな敵をもヒラリとかわす!」
ナンタラ王国ってどこだよ
「こっちは カンタラ族の槍『弁慶』だ!これ一本で1000本分の威力のある剣だ!」
カンタラ族、そんな一族聞いたことねーぞ?
1000本分の威力って、オーガやドワーフ、巨人族でもない限り 反動で使い手の体がぶっ壊れっから。
一般人にそんなもん売りつけるんじゃねぇ!
最終日も突っ込みどころ満載の客引きだ。
ランのお目当ては短剣。
ランは店先のかごにがさっと入れてある、均一商品を物色する。
経験上、目利きの網をすり抜けて、こんなところにたまに掘り出し物があったりするから。
「兄ちゃん、冒険者かい?男前なんやから、もっと見映えのする、、これなんかどうや?」
ランの無防備な様子に、店主がゴテゴテの装飾の入った剣を勧めてきた。
みるからに量産されている代物の、グリップだけを豪華な細工にかえたもの。
握りは金のドラゴンの彫り物で、柄頭はそのドラゴンが水晶を握っている。
ガードはドラゴンの翼を模していた。
冒険者初心者なら惹かれるものは多いだろう。
「いや、短剣を探してんだ」
「短剣か、それやったら、こっちの、、」
「金、ないよ」
「あー、とりあえず品が欲しいんか、好きに見ていって~、、あっ!旦さん、これ見たってや~」
店主はランが金がないとわかると、すぐに別の客を引きはじめた。
とりあえず品。
冒険者が必要な道具を持ち金の中でつくろって揃えることを差し、これにつきあうと店側は値引きしろと迫られることが多い。
時間も取られるし、身入りも少ない。
ランは煩わしさから解放され、じっくりカゴの中を探った。
一番重要なのは 手にしっくり馴染むこと。
普段使いするなら使い心地が良いのが一番。
刃はオイルストーンで研げばいいし、魔法付与して強化もできる。
ぐらつきくらいならランにだって直せる。
折角ドワーフ村にいるんだから、モルガンにたのんでもいいか。
ランは ナイフを手にとっては中を見て、傷みすぎてないかをチェックし、くるくると手の中でナイフを弄び、握り心地を確かめていく。
(おっ、これいいな)
ランが何本目かに取ったナイフ。
握った感触に何故か覚えがあった。
鞘やグリップに巻かれた革はボロボロで、まるで遺跡から発掘でもされたかのように古ぼけていた。
抜いてみると、刃は鈍く曇ってはいるが、刃こぼれはない。
「おい、これにする」
「ああ、はいはい、均一のヤツやな」
店主は上客を捕まえてそちらにかまけ、ランのナイフを良く見もせずに、代金を受けとった。
おおきに~ と、一応笑顔をくれて、また 熱心に金持ちそうな男を口説きに入った。
ランの手に握られたナイフは、ランの手に渡ったとたん、グリップに巻かれていた革が朽ち果てるようにボロボロと崩れ去った。
革の内側から現れたのは、見覚えのある、シンプルだが品のいい持ち手だった。
もう一度鞘から抜いてみると、どういうわけか 刃もスッキリと輝いている。
(……やっぱり)
それは、ワンダーランドで ランが卵肌婦人からもらった『魔戻りの短剣』だった。
(サンキュー、卵肌婦人。やっぱ、イイ女だな、あんた)
モルガンに良い鞘を作ってもらおう。
革製品なら専門の職人がいる ベルガモットの町まで行っても良いかな。
◇◆◇◆◇
サクラは激しく落ち込みながら ハーフリングの骨董市でにぎわう村を ランと待ち合わせの中央広場に向かって歩いていた。
ペンダントをイシルがみつけてくれたこと、再び前髪を切って、ミサンガのように編み、、ペンダントのチェーンのかわりにサクラの首にかけてくれたこと。
それが嬉しくて――
(気を許してしまった……)
我に返ったときには 時既に遅く、あの、これはと 言い訳するも、『大丈夫です、まだ恋人未満ですよね?わかってます』と 言われてしまった。
恋人未満と恋人以上の境目って何ですか、イシルさん、
まだって何ですか?
この先もこんな攻撃が続くんですか!?身が持ちませんよー!!!
サクラの心の叫びも虚しく、隣を歩くイシルはうきうきと見た目にも上機嫌で、麗しの笑顔をふりまきながら、女性どころか男性をも立ち止まらせ、見惚れさせている。
天然の魅了スキル大放出!!
「サクラさん、あのメレスベスの像、玄関にどうですか?かわいい♪」
イシルが指すのは 二頭のメレスベスが跳ねあがり、ハート型に形作る大きな像。
石膏ではなく、水のような青いクリスタルで作られている。
渦巻き模様が綺麗な作品だ。
メレスベスは、愛の言葉という意味の、イルカのような魔物で、アスのボート場にいるが、普通は海に住む、縁起物の魔物。
だけどイシルさん、殴り跳ばしてましたよね?メレスベス。
「……邪魔じゃないですか?」
「玄関、せまくなっちゃうかぁ~」
う~ん、と イシルがアゴに手をあてて思案ポーズ。
ぐはっ///かわいい。
「玄関じゃないなら庭ですかね~、、あっ、あのカップ、ペアものですね、合わせると模様がひとつになります。ふふっ、買って帰りましょうか?」
「……ランが泣きます」
となりにくっつけるとハート型になる 二つの模様入りカップ。
うきうきイシルさん、見ていて大変かわいいですが、心は複雑です。
恋愛未満でこの状態なら、恋人同士になってしまったらイシルさんはどうなっちゃうんだ?
「サクラさん、どんな傷をも治す薬ですって」
イシルに言われて目を向けると、店のおっちゃんが 一匹のガマを前に 口上をのべていた。
「このガマは 薬にすべく 干されてひからびていたガマや。それがあら不思議、昨日急に息をふきかえし、『ミ、、ミズ、、』と 喋りおった!水の中にドボンと入れたらたちまちスイスイ泳ぎだす。捕まえようとその水に手を入れたら、、なんと、なんと手にできた切り傷が治りよったんや~~~」
″ゲコッ″
いや、喋れてないし、ガマ。
でも、、もしかして、、ケロッグさん?体に戻ったの!?
「その奇跡のガマの水で 薬草を煮詰め、練ったのがこの薬″ケロポン″や、あさ、数に限りがあるで~、買うてってや~」
「買った!」
「オレも!」
「オレにも三つくれ!」
「こっちは四つだ!」
ケロッグさん、大事にされているようで何よりです。
「サクラさん、あれ、、」
「ん?」
良く見ると、客の中に、薬を三個買い求めているランがいた。
満喫してるね!骨董市。
ランは薬を買うと、サクラとイシルに気づき、寄ってきた。
「ラン、買ったんだ」
「だって、ケロッグ印だぜ?」
ランも、ケロッグさんを思い出したようだ。
ワンダーランドでサクラに王子コスを提供してくれた カエルのケロッグさん。
「ナイフは?買えたの?」
「おう!」
ランがサクラにナイフを見せる。
「これ!あの時の――」
サクラはランが買ったという短剣を見て驚いた。
卵肌婦人からランが奪った、、いや、もらったナイフ。
イシルにも理由を話すと、イシルも″素敵な贈り物ですね″と、感慨深げだった。
「さあ、何食べましょうか、僕がご馳走します」
「……なんか浮かれてんな、イシル」
「旅は、楽しいですね♪」
三人揃ったし、話しはお昼を食べながらということに。
やっぱりこのソースの匂いには抗えない、、そうなると、お好み焼き?
「って、ラン、何食べてるんですか?」
「何って――」
サクラとイシルがランの手元を見る。
ランの手には器が握られ、その中に入っていたのは――
「「卵???」」
「ああ。あそこの煮込み牛の店のな」
ランが先の屋台の店を指差した。
「ランが肉じゃなく、、」
「卵だけ??」
しかも、煮る前のゆでたまごだよね?ソレ。
真っ白で、つるん。ぷるん。と美味しそうな白身。
「約束、思い出したから」
「「???」」
「卵肌婦人と約束したからな。『事が終わったら、きっちり喰ってやる』って」
喰ってやるって、、そういうこと???




