473. ランの頼み事 ★
挿絵挿入(2021/8/25)
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サクラはイシルの部屋を出て、火照る顔をおさえながら 隣の自分の客室へと向かう。
別にトイレ行きたかった訳じゃなく、もとの姿に戻るまで逃げたかっただけだから。
(えっと、鍵は、、)
サクラは部屋の前で 鍵を探してポッケを探った。
そんなサクラをじっと見つめる者がいる。
″フフフ、待っていたわよ″
悪口によって撃退された夢魔ジャスミンが、
居場所を悟られぬよう別空間に潜み、サクラが帰ってくるのをじっと待ち続けていた。
それが今、夢世界の空間から顔を出し、サクラの背後に迫っている。
″あの味が忘れられないのよ、サクラ。あの『クッキー』の味が″
ワンダーランドで、サクラの味覚を通して味わった初体験。
さっくりとした味わいと、香る素朴な風味。
ホロホロとほどけ、舌の上に残るクッキーの食感……
サクラがいれば 世界中の料理が味わえる。
是非ともサクラを手に入れたい。
″ふふふ、一気に夢の空間に引きずり込めば、誰も追ってなんかか来れないわ。悪口を言われる前にサクラの声帯を封じて声を奪えば怖いものなし――″
サクラがジャスミンに気づく様子はない。
″サクラ一人なら何て事ない!″
隣の部屋のエルフが気づいて駆けつける前に終わらせようと、ジャスミンは両手を構え、サクラを捕まえにかかった。
″私のものになりなさい!サクラ!!″
ジャスミンが鎌を振り上げ、背後からサクラに襲いかかる――
「うわっ!」
小さなサクラの体は 背後から伸びてきた手に簡単に抱えられ、ひょいっと宙に浮いた。
「誰っ!?」
驚いたサクラが、何事かと相手を見る――
「子ブタちゃん、ちっちゃ~い♪」
「アス!?」
いつ来たのか、サクラはアスの片手でひょいっと抱えあげられ、頬ずりされた。
「ん~///相変わらず柔らかいのね、オイシソウ♪」
片手でサクラを抱え がっちりホールド。
「むに、、離して、、アス」
「いーやっ♪もう、こんなサイズ、拐ってくれって言ってるようなもんじゃない、不用心ね」
イヤと言いながらも、アスはサクラをすぐに解放してくれた。
いや、ほら、このままだとイシルが飛び出してきちゃうからね。
「ん?アス、ソレ何?」
解放されたサクラはアスが手に持っているモノに目を向けた。
アスはサクラを捕まえた反対側、右の手に植物の鉢をもっている。
アスの持つ植物は 花の部分が袋のように垂れ下がり、ウツボカズラのようにみえるけど……
「これ?ネペンテスプラントよ。アタシのバラ園に巣食う害虫を捕獲してくれるの」
まんまウツボカズラだった。
何で今持ってるんだろう?
「それより子ブタちゃん、夕飯食べるでしょ?呼びに来たのよ。食堂にみんな集まってるから、イシルも呼んで食事にしましょう」
「体がもとにもどってからで良い?」
「じゃあアタシ、イシルの部屋にいるから、支度ができたら来て頂戴」
「うん」
サクラは″10分くらい″と言って 部屋へと入って行った。
あの時――
ジャスミンがサクラを捕まえにかかったあの瞬間――
″ばっくんっっ″
ジャスミンは何かに飲み込まれた。
(何?コレ)
そこは狭い空間の中だった。
上を見上げると、ネズミ返しのような逆斜面であることから、壺型の何かだ。
這い上がろうにもつるつると壁面が滑って登れないし、腰から下は粘液に浸かり捕えられ、飛び上がることも出来ない。
おまけにこの粘液、甘い香りがして思考が鈍る。
力もうまく入らない。
″ふふふ、アタシの花園を荒らすのはどんな悪魔かと思えば、ただの虫けらじゃない、身のほど知らずね″
「誰!?」
その者は 男のような、女のような不思議な声音で話しかけてきた。
ジャスミンの半分は、誰も手出し出来ない夢の空間にあり、無敵の筈だった。
それをも凌駕する力を持つ者が サクラの近くにいたというのか?
″どう?ネペンテスプラントの湯加減は″
ネペンテスプラント!?
食虫植物だ。
このままではジャスミンの体は溶けて消えてしまう。
「助けて!」
″あら、助かりたいの?″
「ここから出して!消えたくない!!」
″どうしようかしらね~″
体が、溶ける……
消えてなくなるのはイヤ!
「何でもします!助けて!!消えちゃう!」
″アタシに忠誠を誓う?″
「誓う、誓いますから、お願い!」
くすくすと嗤う強者の声。
″そうねぇ、、花に擬態するの得意そうね。カマキリは害虫駆除にも使えるかしら?″
「あなた様の為に、邪魔物は排除します!だから、お願い!お願いします!!!」
悲痛なジャスミンの命乞いの声。
″くすくす、いいわ、その悲鳴、素敵よ~″
声の主の許しが出ると、ジャスミンのいる壺がえづき、、
『ぐふっ、、げふっ、、』
ネペンテスプラントが、『ぺっ』と、ジャスミンを吐き出した。
「きゃっ、、」
ネペンテスプラントから吐き出され、地に倒れ伏したたジャスミンの目に、人の足が見えた。
その足を上にたどり、顔をあげ、声の主を見上げる。
「!?」
ジャスミンを見下ろす主の眼差しは ゾクゾクするほど冷たく、圧倒的な強さを秘めていた。
ジャスミンの体が、本能が告げている。
逆らってはいけないと。
大悪魔に違いない。
それにしても、何て美しい支配者だろう――
「ご主人様……」
美しき支配者は、ジャスミンの顎を掴むと、親指に力を入れてくっ、とひねり、ジャスミンに横を向かせた。
そして、無防備な首筋に唇を落とし、薔薇の刻印を刻む。
「あう///っ、、」
チクリとした痛みの後に、快楽の波が押し寄せ、ジャスミンはその衝撃に翻弄され、声を漏らす。
「あふっ///」
口づけによって刻まれた薔薇の刻印は、甘美な痺れをジャスミンの首から全身に送り込み、虜にしていった。
″アタシの為に尽くしなさい″
色欲を司る大悪魔。
褒美のような束縛に、ジャスミンの体が喜びをおぼえる。
「仰せのままに///お館様」
ジャスミンは主、アスの前に膝をつき、忠誠を誓った。
「うふ♪もうけ」
ランからアスへの頼み事。
それは ワンダーランドで取り逃がした夢魔の事。
きっとサクラを狙ってくるだろう、と。
ランの頼みをきいたアスは、ランに恩も売れたし、良い拾い物をしたと ほくほく顔。
「さて、イシルにも恩を売りに行こっと♪」
パチン、と 指を鳴らし、ジャスミンを館へ送り込んだアスは、イシルの部屋へと入っていった。
↑サクラを狙うジャスミンとジャスミンを狙うネペンテスプラント




