471. カップラーメン ◎
料理写真挿入(2021/8/22)
イシルにジョーカーを託されたアスとヨーコとラプラスは、ラプラスが腹が減ったということで、オズの案内で食堂へと行ってしまったようで、ドアの外が静かになった。
「なんか、お腹すきましたよね」
おかしいな、ワンダーランドでがっつりトルコライス食べたはずなのに。
「そりゃ昨日の夜から食ってないからな」
「ん?ランも食べたよね、トルコライス」
「『夢の中』でだろ」
「?」
はてな顔のサクラに、イシルがランの言葉に補足する。
「生身ではありませんからね。夢の中で夢を食べても お腹は満たされませんよ」
ああ、そういうことか。
絵に描いた餅では腹は膨れない。
そりゃ何食べたって糖質は関係ないってわけだ。
そんなことならもっと色々食べておけばよかった。
「何か食べに行きますか?」
「そうだな」
イシルとランが 食堂へ行こうと動き出す。
が、腹が減ったと言い出したサクラが止まったままだ。
「サクラさん?」
「どうしたんだ?サクラ」
サクラが真っ先に食堂に走り出しそうなものなのに、イシルとランが怪訝な顔をする。
「どこか具合でも?」
「いえ、そうじゃないんですけど……」
「「?」」
なんだか歯切れが悪い。
何か言いにくいことか?
「なんだよ、ハッキリ言えよ」
「うん、あの、、」
サクラが顔を赤くする。
「せ///せっかくだから、もうちょっと三人でいたいかなー、なんて、、」
「「!!?」」
イシルとランがフリーズしたのを 呆れられたととったサクラは、言い訳のように捲し立てた。
「ほら、食堂にはアスもヨーコ様もラプラスもいるでしょ?勿論、皆でわいわい食べるのは好きだし、オズにお礼だって言いたい。でも、今は――」
にしゃり、サクラが笑う。
「三人だけでいたい///かな」
たはは、と 照れながら。
サクラが、空腹よりも自分達を優先するなんて!!
「っ///(愛しすぎる!!)」←イシル、撃沈。
「ぐっ///(可愛いじゃねーか)」←ラン、陥落。
「じゃあ、もう少し、ここにいましょうか。どうやって夢の国に入ったか、聞かせてもらえますか?」
「はいっ!あ……」
「今度はなんだよ、サクラ」
まだ何かあるのかと、ランがサクラにたずねた。
「私、良いもの持ってたんだ。ちょっと待ってて下さい、リュック持ってきますから」
そう言って、サクラはぱたぱたと 隣の自分の部屋に駆け込んだ。
「「?」」
◇◆◇◆◇
「キャンプの時はね、必ず持ってくるの」
サクラがリュックから取り出し、ソファーの前のテーブルにソレを取り出して置いた。
「何ですか、これは」
「カップラーメンです」
「ラーメン?これがか?」
イシルもランも不思議そうにカップ麺を手に取り、角度をかえて眺めている。
「お湯をいれるだけで出来るから、歩いている途中小腹がすいたら食べれるかなって、持ってきました。キャンプで料理を失敗した時とか、ひっくり返しちゃった時なんかも、これがあれば大丈夫。お湯が沸かせない時でも水で(15分←警視庁災害対策部推奨)食べられます。備えあれば憂いなし。キャンプの時は店が近くにないから必ず持ってくるんですよ~」
「この絵のラーメンが、こん中に入ってんの?」
フタにプリントされたカップ麺の写真を見て ランが尋ねた。
「うん。あくまでイメージだけど」
ちょっぴり見映えよく盛ってる感ありです。
「こっちが醤油、こっちがシーフード」
「オレ、シーフード!」
「僕は醤油で」
選べるようにと二個ずつ買ってきたカップ麺。
魚介好きランはシーフードで、イシルは醤油。サクラも醤油。
サクラがカップ麺の周りのフィルムをぴりりと剥がすのを見て、イシルとランが真似をして剥がした。
「フタは全部取らないで点線のあるここまで」
サクラがフタに描かれた折り目線までフタを開けるのを見て、ふむふむ、と、イシルが感心する。
「誰でもわかるような親切な配慮ですね。サイドに文字と絵も描いてありますね。容器からお湯がこぼれる絵と手、火傷に注意しろと?」
「その通りです」
「ではこの文字の羅列は説明、ですか?」
「そうですね。商品名からうたい文句に始まり、原材料名、添加物、内容量、賞味期限、保存方法、原産国名、製造者・販売者・輸入者、調理方法および使用上の注意が表示されてるんです。勿論、アレルギーや糖質なんかもすぐわかります」
「……親切すぎだろ」
「私の世界ではそれが普通なの。中の線のところまでお湯を入れて、フタを閉めて三分で出来上がり」
「このカチカチが?三分で?」
「そう」
サクラはカップ麺に、内側の線まで魔法でお湯を注ぎ、はがしたフィルムについていたシールで、カップの口を止めた。
「なんて機能的な……」
イシルも感心しながら真似をして、フタをシールで止める。
「あ、オレ、ソレ捨てちゃった」
「大丈夫。こうすれば、、」
サクラはランの、シールのないカップ麺のフタの口を、割っていない割り箸を横にして、洗濯ばさみのように挟み込んで止めた。
「開かないでしょ?」
プラスチック原料を削減するため、札止めシール廃止になるし。
「先程糖質も表示されてると言ってましたね。ラーメンは糖質高いみたいですが、これは大丈夫なんですか?」
イシルの質問に サクラがニヤリと笑う。
「イシルさん、ココ見てください」
サクラが指差す場所には「50%」の文字。
「これ、普通のカップ麺より糖質が50%オフ、つまり、半分なんです!!」
謎肉人気の某カップ麺 PR○は、同社ラーメンと比べて美味しさそのまま糖質半分!
炭水化物35.4g中 糖質15.3g、食物繊維20.1gとなってます。
シーフードの方は炭水化物38.4g中 糖質18.2g、食物繊維20.2g
圧倒的に食物繊維多し!
食パン10枚切り一枚の糖質が17.8 g
それとかわらないって、凄すぎデショ!?
時代に生かされてます。
ありがとう!日○食品さん!!
サクラはピッ、とフタを取ると、割り箸を割ってラーメンをかき混ぜる。
スープの素がお湯に溶け込んで馴染み、ふわんと香りが立った。
これこれ、この匂い!
「サクラ、まだ一分くらいしかたってないぞ」
「私、ラーメンはバリカタが好きなの」
この製品はすぐに柔らかくなる。
柔らかいのは後半楽しめば良い。
「オレも」
ランもフタを取りかき混ぜ、イシルは 今度は割り箸に感動しながら同様にカップ麺をかき混ぜた。
「……サクラ」
麺をすすろうとしたところで、またしてもランに声をかけられる。
「シーフードなのに、何でオレのにエビが入ってないの?」
ランがサクラのカップ麺をチラリと見る。
「えっ?」
「サクラの『醤油』には入ってるよね?エビ」
本当だ。
あまり気にしたことなかったけど、シーフードにはエビがない。
何故ないのだろう。エビを入れると味のバランスが悪いのだろうか?
「カニ(カマ)とイカが入ってるじゃない」
昔のシーフードには貝柱も入っていたよね?
これは糖質オフだから?
「イカ……」
ランがカップラーメンを見つめる。
(タコのように見えるイカ、、小さい)
飼い猫が食べ終わった器を見つめてるような、何とも言えない顔で。
「私の、あげるから」
サクラはエビを2つ、ランのカップ麺の中に入れる。
すると、イシルも隣からヒョイヒョイっ、と、ランのラーメンの中にエビを入れた。
「サ///サンキュー」
「肉もお食べなさい」
イシルが、肉もランに入れてあげる。
来てくれて、ありがとう、と。
なんだかんだ言って、ラブラブじゃね?この二人。
「ラン、頑張ったからね」
サクラも、肉のお裾分けして、三人でほっこり雰囲気。
そんなこんなしてたら結局三分。
バリカタは諦めた。
「「いただきます!!」」
″はふっ、ずずっ″
サクラとイシルとランは 三人顔を付き合わせて、勢いよく カップ麺をすする。
この感覚!
生麺とは違う、揚げ麺の何とも言えないチープさがたまらない!
カップ麺独特の麺の喉ごしと味!
″ず、、ずずっ、、″
スープもすする。
しょっぱ旨!
エビと謎肉から出たなぞエキスが スープに香りづけしていて、香ばしく、肉肉しい味。
美味しさそのまま、糖質50%オフ!
言われなければわかりませんよ?
強いて言うなら、面が少し細いのか?
容量も5g少ないらしいけど、まったくわからん!
しかも、コンビニで買えるのがいいね!
何故か7のつくコンビニでしか見かけないけど、シーフードは置いてない店が多いけど、うちの近所の″7″にはあった。
「なんだ、この肉、味が濃いな、何肉だ?」
「謎肉だよ」
「謎……」
「企業秘密。開発者の努力の結晶だから」
「謎肉……クセになるな。醤油もうめぇ」
いつの間にかランとイシルがとりかえっこして、お互いのスープを味見している。
「シーフードも良いですね、この白いスープ。この吸盤はタコではなくイカなんですね。小さいのに、後味をスープに感じます。それと、これはキャベツの甘み、、具材は日持ちするよう乾燥させてあったんですね。加えてふわふわ卵、どうやってこんなに?……全てがうま味を取り出して混ぜ合わせたみたいで、舌が求めてしまう」
ほうっ、と、イシルがため息をついた。
当たりですよ、イシルさん。
ラーメンスープはコラーゲンやら、ポーク調味料、チキン調味料、豚脂、香辛料、あさり調味料、野菜調味油、紅しょうが、などなどのうま味を粉末にして素敵配合でブレンドしてあるんですから。
「サクラさんがグルメなのがわかる気がします。サクラさんのいる世界は、こんなにも食の追求に貪欲な、多彩な食文化の国なんですね」
僕もまだまだですね、と、遠い目をするイシルさん。
いやいや、イシルさん、あんた何になる気ですか?
どうやって夢の中に入ったか、何があったか三人で話ながらカップ麺をすすり←(残り一個はランが食べた)
スープも残さず飲み干して、お腹があったかくなると 眠くなるのは当然の事。
体はつかれていないけれども脳が疲れてるのか、サクラがうつらうつらと船をこぎだした。
ランもふわぁ、と あくびをする。
イシルが″少し休みましょう″と サクラの背を押し、サクラをベッドに連れて行き、靴を脱がせ、布団をめくってサクラを寝かせた。
「オイ、コラ、イシル、何やってんだ」
「え?」
サクラが眠くて思考低下中なのを良いことに、イシルも一緒にベッド→INと、靴を脱ぎ、布団をめくって入ろうとしたところでランに止められる。
「何って、僕ももう一眠り」
至極当然と、布団に入り、さあ寝ましょうと サクラを引き寄せた。
「お前、向こうでもずっと寝てただろうが!オレが寝る!」
「君はソファーで寝なさい」
「イ、ヤ、だ」
ラン、乱入。
きゅっ、とサクラを、抱え込む。
「むぎゅ、、狭いよ、ラン、猫になってよ~」
眠くてサクラはちょっぴり不機嫌。
「イ、ヤ。ずっと猫だったんだぞ」
「むにゃ、わかった、わかったから、靴、脱いで」
サクラはもうなんでもいいらしい(←眠い)
ランが布団に入ったまま器用に足だけで靴を脱ぎ、ベッドの外に、ポイ、ポイっ。
ダブルベッドにサクラを挟んできゅうっ、と、ひとつになる。
しばらくわちゃわちゃもめていたが、それはやがて、安らかな寝息へとかわり、幸せな空間へと誘われた。
誰にも邪魔されない、三人の世界へ――




